第二話 もう一人
第二話 もう一人
午後九時十二分。
コンビニを出た女は、買ったばかりの飲み物をバッグにしまいながら歩いていた。
その姿を、店の入口に設置された防犯カメラが映している。
同じころ。
そこから離れた場所。
閉ざされた施設の前に、同じ顔の女が立っていた。
監視カメラを見上げる。
そして、笑った。
次の瞬間。
女は入口へ向かって歩き出した。
◇
「止まってください!」
警備員の声が響いた。
女は止まらない。
「ここは関係者以外立入禁止です!」
警備員が前へ出る。
それでも女は、まっすぐ歩いてくる。
「聞こえてますか!」
警備員が腕を伸ばした。
その瞬間。
女の身体が、わずかに沈んだ。
「え――」
次に警備員が見たときには、女はすぐ目の前にいた。
速い。
警備員が反応するより先に、その身体が弾き飛ばされる。
壁へ叩きつけられ、そのまま床へ崩れ落ちた。
別の警備員が駆けつける。
「何をしてる!」
女が振り返った。
その顔は、どう見ても普通の人間だった。
だが、その動きは普通ではない。
二人目の警備員が取り押さえようとする。
女は伸びてきた腕をかわし、身体をひねった。
警備員の身体が宙を舞う。
床へ叩きつけられた。
女は何事もなかったように、その横を通り過ぎていった。
◇
翌朝。
「また同じだ」
川出は資料を見ながら呟いた。
CASHの室内には、第二の事件について集められた情報が並んでいる。
北山が腕を組んだ。
「犯人は?」
「映像から身元は割れてます」
「本人は?」
「事件の時間、コンビニにいたそうです」
川出が答える。
「店員の証言あり。防犯カメラあり。スマホ決済の記録もあり」
「つまり」
東が言った。
「また、同じ人間が同じ時間に二か所」
「そういうことです」
川出は椅子にもたれた。
「一回なら、まあ何かの間違いって言えますけどね」
「二回続いたら?」
北山が聞く。
「さすがに気味悪いですよ」
川出は資料を指で叩いた。
「しかも今回は、犯人側の動きが普通じゃない」
「警備員二人を一瞬で?」
「はい」
北山が黙る。
東はしばらく資料を見ていた。
「怪人だと決めつけるにはまだ早い」
「分かってますよ」
川出が答える。
「でも、普通の事件として片づけるには無理が出てきた」
そのとき、別の隊員が入ってきた。
「東さん」
「何?」
「例の捜索中の五人ですが、今のところ新しい情報はありません」
東の表情が少しだけ硬くなる。
「そう」
「引き続き当たります」
「お願い」
隊員が出ていく。
川出が小さく息を吐いた。
「こっちも止まってないんですよね」
「止められないでしょう」
東が答える。
「一人は見つかった。でも、残りはまだ分からない」
北山も頷いた。
「新しい事件が出たからって、前の件を忘れるわけにはいかない」
川出はもう一度、目の前の資料へ視線を戻した。
「忙しいなあ、ほんと」
「今さら?」
東が言う。
「それ、昨日も言われましたよ」
◇
第二の事件現場。
「……また来たのか」
刑事が露骨に嫌そうな顔をした。
川出は軽く手を上げる。
「どうも」
「どうも、じゃない」
「こっちだって好きで怒られに来てるわけじゃないんですけどね」
「なら帰れ」
「それはちょっと」
刑事がため息をついた。
「今度は何だ。怪人か? 幽霊か? 分身でも出たっていうのか?」
「まだ何も言ってませんって」
「顔に書いてある」
川出は苦笑した。
「で、犯人の女、やっぱり別の場所にいたんですよね?」
刑事の表情が変わる。
「捜査情報だ」
「ですよね」
「分かってるなら聞くな」
「でも気になるじゃないですか」
「こっちはお前らに付き合ってる暇はない」
刑事はそう言って立ち去った。
川出の隣にいた隊員が、小声で言う。
「嫌われてますね」
「だから今さらだって」
川出は周囲を見回した。
警察が駄目なら、自分たちで調べるしかない。
近隣の店。
施設周辺の目撃者。
公開されている映像。
一つずつ当たっていく。
第一事件の男。
第二事件の女。
二人について調べても、特に接点は見つからなかった。
職場も違う。
住んでいる場所も離れている。
年齢も違う。
共通するのは、ただ一つ。
事件現場にいた。
そして同じ時間に、別の場所にもいた。
川出は足を止めた。
「……逆か?」
「何がです?」
隊員が聞く。
川出は少し考えてから言った。
「この二人が犯人なんじゃない」
「え?」
「誰かが、この二人になってるんじゃないか?」
隊員が黙る。
「変装ってことですか?」
「そこまでは分からない」
川出は首を振った。
「でも、本人が二人いるって考えるよりは……」
そこまで言って、自分でも苦笑した。
「いや、どっちも十分おかしいか」
だが、その考えは頭から離れなかった。
◇
午後。
パンさんの店の扉が開いた。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
入ってきたのは東だった。
仕事中とは思えないほど、表情が柔らかい。
「今日のおすすめ、あります?」
「あるよ」
「ほんと?」
東の目が少し輝いた。
パンさんが皿を用意している間、紀人がその様子を見ていた。
「警察って、ずいぶん暇なんですね」
東が振り返る。
「休憩よ、休憩」
「昨日も来てませんでした?」
「休憩は毎日あるの」
「便利ですね」
「何、その言い方」
東は少しむっとしながらも、パンさんが運んできたスイーツを見ると、すぐに表情を変えた。
「これ?」
「今日から」
「いいじゃない」
嬉しそうにフォークを取る。
紀人は呆れたように見ていた。
パンさんは、そんな二人を見比べる。
最近、この二人はよく話している。
歳も離れている。
どういう知り合いなのか。
少し気にはなる。
だが、わざわざ聞くほどでもない。
「そうだ」
東が一口食べてから紀人を見る。
「昨日の話、覚えてる?」
「銀行強盗の?」
「そう。同じのがもう一件出た」
紀人の表情が変わった。
「また?」
「今度は施設への襲撃」
「犯人は?」
「映像にははっきり映ってる」
「で、その本人は?」
「別の場所」
紀人が黙る。
「今度はコンビニにいた。防犯カメラも決済記録も残ってる」
「……同じ人がまた二人」
「そう」
東はスイーツをもう一口食べる。
「それだけじゃない。襲撃した方は、警備員を簡単に倒してる」
「普通の人じゃない?」
「その可能性はある」
「怪人ですか」
「まだ決めてない」
東はすぐに答えた。
「怪人かもしれないし、違うかもしれない。そこを調べてるところ」
紀人は少し考え込んだ。
怪人。
その言葉を聞くたび、どうしてもサクラのことが浮かぶ。
少し沈黙が続いた。
やがて紀人が口を開いた。
「……サクラのことって、どうなってるんですか?」
東の手が止まった。
さっきまでスイーツを前にしていた表情が、少しだけ変わる。
「……そこが悩みどころなのよね」
「悩みどころ?」
「死亡確認はできてない」
紀人は黙って聞いている。
「でも、あの子が怪人になってたことは、こっちも確認してる。あなたと戦ったことも。そのあとヨミにやられたことも」
東はフォークを皿へ置いた。
「だからって、ご家族に『亡くなりました』とは言えない。確認してないんだから」
「じゃあ、行方不明?」
「それも違うのよ」
東は小さく息を吐いた。
「一度は見つけてるからね。何を、どこまで伝えるのか。そこはまだ整理できてない」
紀人は視線を落とした。
少ししてから、また聞く。
「東さんたちが探してる人って……まだ他にもいるんですか?」
東が紀人を見る。
「いる」
「何人?」
「こっちで、まだ確認が取れてない人間が五人」
紀人の表情が固まった。
「五人……」
「そう」
紀人は黙る。
サクラが怪人になった。
なら。
その五人も。
同じようになっている可能性がある。
東は紀人の顔を見て、少しだけ声を柔らかくした。
「まだそうだと決まったわけじゃない」
「でも、可能性はあるんですよね」
「ある」
紀人は拳を握った。
それ以上は何も言わなかった。
東も無理に言葉を重ねない。
少しして、東はまたフォークを取った。
「……これ、やっぱりおいしい」
急に戻ったその一言に、紀人が顔を上げる。
「切り替え早くないですか?」
「休憩中だから」
「さっきまで結構重い話してましたよね」
「それとこれは別」
パンさんは少し離れたところから二人を見ていた。
やっぱり、仲がいい。
ますます関係がよく分からなかった。
◇
夕方。
川出たちは、第二事件の現場から少し離れた場所で聞き込みを続けていた。
「変な人?」
「うん」
店主が首を傾げる。
「事件の前の日かな。この辺をずっと見てた人がいたよ」
「どんな人でした?」
「さあねえ。普通の人だったと思うけど」
「何してました?」
「店とか、人とか。あと……」
店主が少し考える。
「カメラを見てたな」
「カメラ?」
「防犯カメラ。あっちのやつ」
川出が視線を向ける。
建物の角に、小さな防犯カメラが取り付けられている。
「ずっと?」
「いや、ずっとってほどじゃない。でも、妙に気にしてる感じだった」
川出と隊員が顔を見合わせた。
「その人、顔覚えてます?」
「なんとなくなら」
「お願いします」
川出はメモを取りながら、胸の奥に嫌な感覚が広がるのを感じていた。
また何か起きる。
そんな気がした。
◇
夜。
人通りの少ない路地。
一人の人物が歩いていた。
街灯の明かりが届かない場所へ入る。
足を止める。
顔が、わずかに揺らいだ。
輪郭が崩れる。
目元が変わる。
口元が変わる。
数秒後。
再び街灯の下へ出てきたとき。
そこにいたのは、さっきまでとは別の人間だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




