閑話③ 同じメモリー、違う怪人
閑話③ 同じメモリー、違う怪人
『次、絶対やばいことになる』
その予想は、数秒もしないうちに現実になった。
『ふざけんな……!』
キッドが地面を蹴る。
一気に距離を詰めると、黒い影へカンガルーの力を乗せた拳を叩き込んだ。
『行った!』
『完全にブチ切れてる』
『黒いの押されたぞ』
『キッド強っ』
黒い影が腕で受ける。
だが、キッドは止まらない。
ノミの脚力で一気に横へ回り込み、拳を放つ。かわされた先へヒクイドリの一撃を重ね、さらにカンガルーの突き。
『怒ってるキッド強くない?』
『でも、なんか雑じゃね?』
『分かる』
『サクラ(仮)と戦ってた時と全然違う』
『強いけど、相手見てない感じする』
その時、離れた場所から声が飛んだ。
『キッド! 怒りに身を任せるな!』
『謎ヒーロー来た』
『また保護者やってる』
『言ってることは正しい』
『キッド聞いてねえぞ』
『今は、こいつをぶっ飛ばす!』
『やっぱ聞いてない』
キッドはさらに攻める。
黒い影は何度か攻撃を受け流した末、大きく距離を取った。
『なるほど』
『このままじゃ、少し分が悪いか』
『黒いの認めた』
『キッド押してるじゃん』
黒い影が腰へ手を伸ばす。
『じゃあ、こっちも対等に戦おうか』
その手に握られたものを見て、コメント欄の流れが変わった。
『え』
『待って』
『それメモリー!?』
『黒い方も持ってるの!?』
『キッド専用じゃなかったのか?』
黒い影がメモリーを自らの装置へ差し込む。
蓋が閉じた。
次の瞬間、その姿が大きく変わった。
背中から広がる巨大な翼。
猛禽類を思わせる頭部。
腕と脚には鋭い鉤爪。
先ほどまで人型だった黒い影が、ワシを思わせる鳥型の怪人へと変貌していく。
『……え?』
『鳥になった』
『ワシ?』
キッドの声も重なった。
『……ワシ?』
『やっぱワシだ』
『同じメモリー使ってるよな?』
『でも変わり方が全然違わない?』
『キッドは動物の能力を装備してる感じなのに』
『黒い方、普通に鳥型怪人になったぞ』
『同じメモリーなのに何で?』
『装置が違う?』
『使ってる奴が違うから?』
『そもそも黒いの人間なの?』
同じように見えるメモリー。
それなのに、現れた姿はまるで違う。
視聴者たちの間に、新たな疑問が一気に広がっていった。
◇
『そのメモリー……』
キッドの声が低くなる。
『お前が盗んだのか』
『盗んだ?』
『何の話?』
『キッドのメモリー盗まれてたの?』
『ワシ持ってたってこと?』
『じゃあ黒い奴が持ってるの、キッドのやつ?』
黒い怪人が首を傾げる。
『何の話だ?』
『とぼけんな!』
『知らないな』
『絶対怪しい』
『いや、本当に知らない可能性もあるだろ』
『同じワシのメモリーが複数あるとか』
『そもそも誰が作ってんだよ、メモリー』
『そこから分かってないんだよな』
キッドが飛び込む。
だが。
『遅い』
黒いワシ怪人が、一気に上空へ舞い上がった。
『速っ!』
『飛んだ』
『完全に空中戦タイプだ』
キッドもノミの力で跳躍する。
届かない。
黒い怪人は空中で軌道を変え、キッドの背後へ回り込む。
鉤爪。
キッドの身体が地面へ叩き落とされた。
『うわっ』
『空中だと黒い方が強い』
『キッド追えてないぞ』
そこで。
『……鬼ヤンマは?』
『あ』
『そうじゃん』
『キッド鬼ヤンマ持ってたよな?』
『前に飛んでたじゃん』
『使えよ!』
視聴者が次々と書き込む。
だが、キッドは再びノミの力で跳んだ。
『いや何でまた跳ぶんだよ』
『鬼ヤンマ!』
『思い出せ!』
謎のヒーローも叫ぶ。
『相手に合わせろ!』
『分かってる!』
『分かってない!』
『メモリーを使え!』
『うるせぇ!』
『…………』
『視聴者と謎ヒーローが同じこと言ってる』
『笑えないぞこれ』
『マジで冷静じゃない』
『サクラ(仮)と戦ってた時と別人だろ』
◇
ワシ怪人の鉤爪が、キッドの肩をかすめる。
キッドは怒りのまま拳を振るう。
当たらない。
『返せ!』
『だから知らないと言っている』
『だったら何で持ってんだよ!』
『完全に頭に血上ってる』
『黒いのの話聞いてないじゃん』
『まあ黒いのも信用できないけど』
そして。
最初に異変へ気づいたのは、一人の視聴者だった。
『待って』
『何?』
『キッドの頭、あんな形だった?』
『……ん?』
ヒクイドリを思わせる頭部。
だが、さっきまでとは違う。
装甲の意匠だったはずのものが、まるで生き物そのものへ近づくように変わり始めている。
『腕もでかくなってない?』
『脚も変』
『何これ』
『新形態?』
『パワーアップ?』
戦いが続く。
それと同時に、変化も止まらない。
腕にはカンガルーの特徴が強く現れ、脚はノミを思わせる異形へと変わっていく。
『いや』
『これパワーアップじゃなくない?』
『キッド、怪人っぽくなってない?』
『……待て』
『さっきの黒い奴と似てない?』
『え?』
『黒い方もメモリー入れたら動物そのものみたいになっただろ』
『キッドもそうなってきてる』
『じゃあ同じじゃん』
『何が違うんだよ』
ついさっきまで。
キッドと黒い怪人は、違う存在に見えていた。
同じメモリーを使っていても、片方はヒーローで、片方は怪人。
そう思っていた。
けれど。
画面の中のキッドは、少しずつその境界を失っていく。
『いけない!』
謎のヒーローの声が響いた。
『メモリーに飲まれる!』
『メモリーに飲まれる!?』
『何それ』
『初耳なんだけど』
『メモリー危険なの?』
『使いすぎると怪人になるってこと?』
『いや、怒ってるのが関係あるんじゃない?』
『じゃあ黒い方は最初から飲まれてるの?』
『装置の違いじゃね?』
『分からん』
『待って』
『じゃあサクラ(仮)は?』
その一言で、コメントの流れがまた変わった。
『気づいたら怪人になってたって言ってたよな』
『人間が怪人になること自体はあり得る?』
『じゃあ今までの怪人も元人間なんじゃ……』
『まだ決めつけるな』
『でも今、キッドが目の前で怪人になってるぞ』
『これ笑えないやつだ』
◇
『随分、醜くなったな』
黒いワシ怪人が笑う。
『煽るな!』
『今それ言うな!』
『こいつ性格悪すぎだろ』
『黙れ!』
キッドが飛びかかる。
異形化は、さらに進んだ。
ヒクイドリの頭。
カンガルーの腕。
ノミの脚。
いつものヒーローらしい輪郭が、急速に崩れていく。
『やばい』
『もう怪人じゃん』
『止めろ!』
『謎ヒーロー何とかして!』
『止まれ、キッド!』
その声すら届かない。
あと少し。
完全に別の何かになろうとした、その時。
『サクラがお前のそんな姿を望んでるか!』
『!?!?!?』
『今』
『サクラって言った!?』
『誰!?』
『あの空手の人!』
『RPGパーティーの格闘家だ!』
『なんでサクラの名前知ってるの!?』
『サクラ(仮)本当にサクラだったの?』
『キッドだけじゃなくこの人も知ってる?』
『待って』
『キッド』
『サクラ(仮)』
『空手の隊員』
『全員空手じゃん』
『元同門説マジだった?』
『同じ道場とか?』
コメントが一気に流れる。
だが、画面の中のキッドは止まっていた。
『……効いた?』
『キッド止まったぞ』
異形になっていた腕から、少しずつ変化が引いていく。
脚も。
頭も。
徐々に元の姿を取り戻していった。
『戻ってる!』
『サクラの名前で戻った』
『何なんだこの関係』
『サクラ(仮)重要人物すぎる』
『あの空手の人マジで何者なんだよ』
◇
元の姿へ戻ったキッドを見て、黒いワシ怪人が鼻で笑った。
『結局、お前だって怪人じゃねえか』
『…………』
『違う』
キッドが攻撃をかわす。
『俺は怪人じゃねえ』
身体を入れ替え、拳を返す。
『俺は――』
カンガルーの突きが、黒い怪人を大きく押し返した。
『お前ら怪人の敵だ!』
『キッド!!!』
『戻った!』
『言い切った!』
『でもさっきの姿は何だったんだ』
『今はそれ考えてる場合じゃない』
『いや、あとで絶対考えろ』
黒いワシ怪人が再び上空へ舞い上がる。
今度は、キッドがすぐには追わなかった。
『お』
『止まった』
『考えてる?』
空を見る。
自分のベルトを見る。
そして。
『そっちが飛ぶなら』
一本のメモリーを取り出す。
『こっちも飛べばいいだけだろ』
『鬼ヤンマ!!!』
『やっと思い出したあああ!』
『俺らさっきから言ってたぞw』
『視聴者の声届いた?』
『届いてないだろw』
『冷静になるって大事だな』
鬼ヤンマの力が加わる。
キッドの身体が空へ上がった。
『飛んだ!』
『今度は追えてる!』
『ワシVS鬼ヤンマ』
『猛禽類VS昆虫』
『字面だけ見ると勝負になるのかこれ』
『鬼ヤンマ、飛行性能かなり高いぞ』
『急旋回強いから空中戦向き』
『また生物詳しい人いるw』
黒い怪人が旋回する。
キッドも追う。
急降下。
上昇。
方向転換。
今度は引き離されない。
『さっきと全然違う』
『普通についていってる』
『やっぱキッドが弱かったんじゃないんだ』
『怒りすぎて使えるメモリー使ってなかっただけか』
『メンタル大事すぎる』
◇
空中で何度も交差する。
少しずつ、キッドが押し返し始める。
『いける!』
『黒いの余裕なくなってきた』
『さっきまでと逆だ』
キッドの拳が入る。
黒いワシ怪人が大きく弾かれた。
そして。
『……ちっ』
『?』
黒い怪人の動きが止まる。
『……時間切れか』
『は?』
『時間切れ?』
『何の!?』
『ワシメモリーの時間?』
『変身時間?』
『黒い奴そのものに制限ある?』
『説明してくれ!』
だが、黒い怪人は何も説明しない。
『今日はここまでだ』
『は?』
『また会おう』
『逃げた!』
『待て!』
『時間切れの意味だけ言ってけ!』
『謎増やして帰るな!』
黒い怪人はそのまま距離を取り、やがて画面から姿を消した。
◇
『終わった……』
『今日長かった』
『情報量多すぎ』
『疲れた』
『見るだけで疲れる配信って何だよ』
キッドが地上へ降りる。
その時、一つのコメントが流れた。
『サクラ(仮)は?』
『あ』
『そうだ』
キッドも思い出したように振り返る。
『サクラ!』
走る。
だが。
『……え?』
『いない』
『待って』
『ここだよな?』
『さっきここに倒れてたよな?』
『誰か運んだ?』
『そんな映像あった?』
『ない』
さらに。
『あれ』
『何?』
『謎ヒーローもいなくね?』
『……本当だ』
『いつ消えた!?』
『サクラ(仮)と一緒?』
『謎ヒーローが連れてった?』
『証拠ないだろ』
『今日何個謎増えるんだよ』
◇
戦いが終わっても、コメント欄は止まらなかった。
『今日分かったことまとめるぞ』
『頼む』
『黒い奴もメモリーを使う』
『でもキッドと違って鳥型怪人になった』
『キッドも怒ると動物そのものみたいになって怪人化する』
『メモリーに飲まれるとかいう現象がある』
『サクラ(仮)は元人間っぽい』
『RPGパーティーの空手の人がサクラの名前知ってる』
『黒い奴には時間切れがある』
『サクラ(仮)と謎ヒーローが消えた』
『あと警察にRPGパーティーがいる』
『それだけ情報の種類違うだろw』
『いや大事だろ』
『で』
『結局さ』
『同じメモリー使ってるのに』
『キッドと黒い奴、何が違うんだ?』
『…………』
『情報増えたのに前より分からなくなった』
『倍くらい謎増えてる』
『倍で済んでる?』
そして。
最後に、一つのコメントが流れた。
『誰か一回、最初から説明してくれ』
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




