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ビーストギア  作者: 時根脱才 
アリア編

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第十一話 戦いのあと

第三章 第十一話 戦いのあと


 戦いは終わった。


 少なくとも、目の前の戦闘は。


 白蟻の群れは倒した。黒い怪人も去った。キッドも、いつの間にか姿を消している。


 けれど東には、とても「終わった」とは思えなかった。


 解決したものより、分からなくなったものの方が、ずっと多い。


「……いないですね」


 川出が辺りを見回した。


「さっきの羽の怪人も、もう一人の……何て呼べばいいんだろ。ヒーローみたいな人も」


「ヒーロー、ねえ」


 南浦が鼻を鳴らす。


「俺には怪人にしか見えなかったけどな」


「でも、キッドを助けてましたよ」


「だから味方だって?」


「そこまでは言ってません」


「二人とも、その話はあと」


 東が会話を切った。


「まず周囲を確認して。白蟻が残っていないか、負傷者はいないか。装備の確認も忘れないで」


「了解」


 川出が動き出し、北山もそれに続く。


 ニシは大きく息を吐くと、身体を覆っていたパワードスーツを解除した。


「……うおっ」


 途端に身体が傾く。


「ニシさん?」


 川出が振り返った。


「大丈夫、大丈夫。急に身体が重くなっただけだ」


「無理しないでくださいよ」


「してねえって」


 そう言いながら、ニシは肩を回す。


「やっぱ、楽できる道具じゃねえな、これ」


「当たり前でしょう」


 東が呆れたように言った。


「博士からも言われてたじゃない。身体への負担が大きいって」


「分かってるよ」


「それと、事件が終わったら必ず検査」


「…………」


 ニシの動きが止まる。


「何?」


「……やっぱ行かなきゃダメか?」


「ダメ」


 即答だった。


「いや、ほら。俺、元気だし」


「さっきふらついてたでしょう」


「あれは急に身体が重くなったからだって」


「だから検査するの」


 ニシは露骨に嫌そうな顔をした。


「俺、検査とか注射とか嫌いなんだよな……」


 川出が目を丸くする。


「レスラーなのに注射怖いんですか?」


「それはレスラーと関係ねえだろ!」


「痛いの慣れてそうなのに」


「殴られるのと注射は別なんだよ!」


「どっちも痛いじゃないですか」


「種類が違う!」


 東は額に手を当てた。


「とにかく行くわよ」


「……はいはい」


「返事」


「了解……」


 さっきまで白蟻を投げ飛ばしていた男とは思えないほど、ニシの声は小さかった。


     ◇


 一通りの確認が終わった頃。


「東さん」


 南浦が呼び止めた。


 その声を聞いただけで、東には何の話か察しがついた。


「何?」


「話がある」


 二人は川出たちから少し離れた。


 南浦は周囲を一度確認してから、東を真っすぐに見る。


「さっきの、見ただろ」


「ええ」


「あいつだ。キッド」


 東は黙って続きを待った。


「あいつ、怪人になりかけてた」


「そう見えたわね」


「見えた、じゃないだろ」


 南浦の声が強くなる。


「頭も、腕も、脚も変わってた。もう少しで完全にあっち側だった」


「南浦」


「今は味方かもしれない」


 南浦は止まらなかった。


「今は俺たちと同じ敵を倒してる。それは分かってる。でも、次も戻ってこられる保証なんかないだろ」


 東は反論しなかった。


「次にああなった時、完全に怪人になったらどうする」


「…………」


「だったら、そうなる前に倒した方がいいんじゃないか」


 東が南浦を見る。


「本気で言ってるの?」


「本気だ」


 迷いのない返事だった。


 東は小さく息を吐く。


「……確かに、その危険があることは私も分かってるわ」


「だったら――」


「でも」


 東は静かに遮った。


「今、怪人に対抗できるのは、実質彼しかいないの」


「俺たちがいる」


「今日戦って、あなたも分かったでしょう?」


 南浦が黙る。


「白蟻とは戦えた。みんな、訓練の時よりずっと動けてたと思う」


「…………」


「でも、あれを私たちだけで倒せた?」


 東は、黒い怪人が消えていった空へ目を向けた。


「あの羽の怪人だってそう。キッドと本気で戦える相手よ」


「だからって……」


「私たちは戦えるようになった。でも、まだ彼の代わりにはなれないわ」


 南浦が奥歯を噛んだ。


 東の言っていることが間違っていないことくらい、南浦自身が一番よく分かっている。


 白蟻には武器が通じた。


 けれど、あの黒い怪人を前にした時、自分たちは決定打を持っていなかった。


「……だったら」


「何?」


「次にあいつが怪人になりそうになった時は、俺が撃つ」


 東の表情が変わる。


「南浦」


「誰かがやらなきゃならないなら、俺がやる」


「…………」


「今度も誰かの一言で戻ってくるなんて、俺は期待しない」


 東はしばらく南浦を見ていた。


「そうならないようにするのが先よ」


「それでも、なったら?」


 東は答えなかった。


 南浦も、それ以上は聞かなかった。


     ◇


「東さん」


 今度は北山だった。


「今日は人気ね、私」


「すみません」


「いいわよ。何?」


 北山は少し言いにくそうにしてから、口を開く。


「キッドのことです」


 東の目がわずかに細くなった。


「キッド?」


「はい。ずっと気になってました」


「何が?」


「あの動きです」


 東は黙って続きを促す。


「踏み込みも、受け方も、拳を出す時の身体の使い方も……自分の知ってる人間によく似てるんです」


「…………」


「最初は偶然だと思ってました。でも、あの怪人との戦いを見て、余計に気になった」


「どうして?」


「お互いの癖を知りすぎてたからです」


 北山は東の顔を見た。


「東さん。何か知ってるんじゃないですか?」


「…………」


「説明してもらえませんか」


「そうねえ」


 東は少し考えるような素振りを見せたあと、柔らかく微笑んだ。


「今、私から話せることはないわ」


「知らない、とは言わないんですね」


「北山も随分勘がいいのね」


「はぐらかさないでください」


「じゃあ」


 今度は東が問い返す。


「私からも一ついい?」


「……はい」


「どうして、あの怪人をサクラだと思ったの?」


「…………」


 北山が黙った。


 脳裏に、自分の叫び声が蘇る。


『サクラがお前のそんな姿を望んでるか!』


 なぜ、あんな言葉が出たのか。


 今考えても分からない。


「……分かりません」


「分からない?」


「はい。自分でも、なんであんなことを言ったのか」


「…………」


「ただ……そんな気がしたんです」


「そう」


「東さん」


「何?」


「今度はそっちが、はぐらかす番ですか」


 東は少しだけ笑った。


「お互い様じゃない?」


「……そうですね」


 二人とも、それ以上は聞かなかった。


     ◇


 数日後。


 パンさんの店のドアベルが鳴った。


「いらっしゃ――お」


 カウンターの向こうで、パンさんが顔を上げる。


「こんにちは」


 入ってきた東を見て、パンさんが少し驚いた。


「珍しい客だな」


「たまにはいいでしょう?」


「もちろん。適当に座ってくれ」


「東さん、こっちです」


 奥の席から紀人が手を上げた。


 東はそちらへ向かい、向かいの椅子へ腰を下ろす。


「それで?」


「何がです?」


「あなたが呼んだんでしょう」


「あ、そうだった」


「忘れないでよ」


 紀人は少し姿勢を正した。


「聞きたいことがあるんです」


「どうぞ」


「この前のことです」


 東の表情がほんの少し変わった。


「北山さんまでいたし、東さんも武器持ってたし、他にも変な装備した人たちいたじゃないですか」


「変な装備って……」


「だって変だったし」


「作った人が聞いたら怒るわよ」


「誰が作ったんです?」


「それは内緒」


「もう始まった!」


 東が笑った。


「で、何が聞きたいの?」


「だから、あれ何だったんですか?」


「怪人に対抗するための部隊よ」


「警察の?」


「そこから先は、今は内緒」


「また!」


 紀人がテーブルへ突っ伏しかける。


「大人には色々あるの」


「便利ですね、それ」


「便利よ」


 不満そうな顔をしたものの、紀人もそれ以上は追及しなかった。


「じゃあ、もう一個」


「何?」


 少しだけ表情が変わる。


「この前戦ってた怪人」


 東は黙って聞いている。


「蝶の羽が生えてた」


「ええ」


「あいつ、どこに行ったか知りませんか?」


「知らないわ」


「本当に?」


「私たちが確認した時には、もういなかった」


「……やっぱり」


 紀人が視線を落とす。


「誰かが連れていったとか」


「そこまでは分からないわ」


「…………」


 頭に、もう一人の姿が浮かぶ。


 自分を何度も助けた、正体不明のヒーロー。


 あいつも気づけば消えていた。


「あいつも……」


「え?」


「いや、何でもないです」


 東が少し気になったような顔をしたが、紀人は話を続けた。


「あと、黒いやつ」


「ええ」


「あいつが使ってたメモリー」


「メモリー?」


「ワシみたいな姿になったやつです」


 紀人は少し身を乗り出す。


「俺が持ってたやつと、同じに見えたんですよ」


「同じ?」


「前になくなったやつ」


 東の表情がわずかに変わる。


「だから、あいつが盗んだのかと思ったんですけど……知らないって言ってたんですよね」


「信じるの?」


「信じてないです」


「即答ね」


「でも、本当に知らない可能性もあるし」


 紀人は腕を組んだ。


「分かんないんですよ」


「そう」


「それと」


「まだあるの?」


「ありますよ!」


「今日は質問が多いわね」


「あいつ、途中で『時間切れ』って言ったんです」


 今度は東の顔から笑みが消えた。


「時間切れ?」


「はい」


「何の?」


「だから、それを聞きたいんです!」


「私も知らないわよ」


「東さんなら何か知ってるかと思ったのに……」


「期待されても困るわ」


「役に立たないなあ」


「帰ろうかしら」


「冗談です!」


     ◇


 しばらくして、紀人はふっと黙り込んだ。


 自分の手を見る。


「……あと」


「何?」


「俺」


 言葉を探すように、少し間を置いた。


「怪人になりかけたんですよね」


 東はすぐには答えなかった。


「……そう見えたわ」


「ですよね」


 紀人は手を握り、それから開く。


「何なんだろ、あれ」


「…………」


「俺、怪人なんですかね」


「それは――」


「いや」


 紀人は自分で首を振った。


「今聞いても、分かんないですよね」


「ごめんなさい」


「謝らなくていいです」


 少しだけ笑う。


「こういうのに詳しい人、知ってるし」


「ちゃんと診てもらいなさいよ」


「分かってます」


 その時。


「おーい、紀人」


 カウンターからパンさんの声が飛んできた。


「何か食うか?」


「今はいらない!」


「そうか!」


 紀人は東へ向き直る。


「……じゃあ、今日はこのぐらいで」


「ええ」


「来てくれてありがとうございました」


「どういたしまして」


 東が席を立つ。


「また何かあったら連絡して」


「はい」


「ただし」


「?」


「無茶はしないこと」


「…………」


「返事」


「はいはい」


 東が少し目を細めた。


「その返事、誰かにもしてなかった?」


「気のせいです」


 東は小さく笑い、店を出ていった。


     ◇


 東を見送ったあと、紀人はしばらくその場に座っていた。


「パンさん」


「ん?」


「俺、部屋戻るわ」


「おう。今日はもう寝るのか?」


「まだ寝ないけど」


「そうか」


「おやすみ」


「まだ寝ないんじゃなかったのか?」


「挨拶!」


「はいはい」


 紀人は店の奥にある階段を上がった。


 自分の部屋へ入り、扉を閉める。


「…………」


 一人になると、またあの戦いが頭に浮かんできた。


 蝶の羽が生えた怪人。


 黒い怪人。


 ワシのメモリー。


『時間切れか』


 そして。


 自分自身の身体。


「……俺、怪人になりかけたんだよな」


 自分の手を見る。


 戦っているうちに、その手は人間とも、いつものキッドとも違うものへ変わっていった。


「怪人になるって……どういうことなんだ?」


 口にした瞬間。


 胸の奥に、嫌な疑問が生まれた。


 自分は人間だ。


 少なくとも、そう思っている。


 その自分が、怪人になりかけた。


 なら。


「……今までの奴らも」


 脳裏に浮かぶ。


 白蟻。


 これまで戦ってきた怪人たち。


 そして、蝶の羽を持つあの怪人。


「元は……人間だったのか?」


 答えはなかった。


 もし、そうだったら。


 自分は今まで何を倒してきた?


 これから現れる怪人を、今までと同じように殴れるのか?


「…………」


 考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。


 怪人とは何なのか。


 自分は何なのか。


 あの黒い奴は何者なのか。


 謎のヒーローは。


 そして。


 サクラは。


 紀人は、もう一度自分の手を見た。


 あの時。


 あと少しで触れるはずだった手。


 サクラは、確かに自分へ手を伸ばしてくれた。


 あと少しだった。


 紀人はゆっくりと、その手を握る。


「……次は」


 小さく息を吐いた。


「ちゃんと掴むからな」


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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