第十話 怪人の敵
第三章 第十話 怪人の敵
「ふざけんな……!」
キッドは地面を蹴った。
黒い影との距離が、一瞬で消える。
カンガルーの力を乗せた拳が真正面から振り抜かれた。
黒い影は腕を上げて受け止める。
激しい衝撃が走り、その足元の地面がわずかに沈んだ。
「……へえ」
「笑ってんじゃねえ!」
キッドは間を置かない。
ノミの力で一気に横へ回り込み、拳から蹴りへつなぐ。
黒い影は一つずつ受け流しながら後退した。
「キッド!」
背後から声が飛ぶ。
謎のヒーローだ。
「怒りに身を任せるな!」
キッドは振り返らなかった。
「今は、こいつをぶっ飛ばす!」
「相手を見ろ! そんな戦い方じゃ――」
「黙ってろ!」
その声を振り切るように、キッドはさらに踏み込む。
黒い影が薄く笑った。
「随分怒ってるな」
「誰のせいだ!」
「俺は事実を言っただけだ」
「もう一回言ってみろ!」
拳を振るう。
黒い影がかわす。
その先へ、ヒクイドリの頭部を振り抜いた。
「っ!」
今度は黒い影が大きく身体を引く。
キッドは逃がさない。
ノミの脚で瞬時に距離を詰め、カンガルーの力を乗せた突きを叩き込んだ。
黒い影は両腕で受けたものの、今度は勢いを殺し切れない。
数メートル後方まで押し戻された。
「…………」
「どうした!」
キッドが拳を構える。
「さっきまでの余裕は!」
黒い影は受けた腕を一度見下ろした。
そして、楽しそうに笑う。
「なるほど」
「何だよ」
「このままじゃ、少し分が悪いか」
「だったら逃げろよ」
「いや」
黒い影は腰のあたりへ手を伸ばした。
「せっかくだ」
取り出したのは、小さな一本の物体。
キッドの表情が変わった。
「……それ」
見覚えがある。
「メモリー?」
「じゃあ」
黒い影が、自らの装置へメモリーを差し込む。
「こっちも対等に戦おうか」
「お前も、それ使えんのかよ……!」
黒い影は答えない。
装置の蓋を閉じた。
その瞬間、身体が大きく変化する。
「……!」
もともと禍々しかった輪郭が、さらに異形へと変貌していく。
背中から大きく広がる翼。
猛禽類を思わせる頭部。
腕と脚には鋭い鉤爪。
黒い影が翼を広げた瞬間、キッドは息を呑んだ。
「……ワシ?」
◇
一瞬。
キッドの頭に、あの日の記憶が蘇った。
いつの間にか消えていたメモリー。
探しても見つからなかった。
ワシ。
「…………」
黒い影が首を傾げる。
「どうした?」
「そのメモリー」
「?」
キッドの声が低くなった。
「お前が盗んだのか」
「何の話だ?」
「とぼけんな!」
キッドが地面を蹴る。
だが、拳が届くより早く、黒い影は上空へ舞い上がった。
「え?」
「遅い」
声が上から降ってくる。
次の瞬間。
急降下。
鋭い鉤爪がキッドへ迫った。
「っ!」
寸前で身体をかわす。
地面へ爪が食い込み、砕けた破片が飛び散った。
「待て!」
キッドもノミの力で跳躍する。
だが、黒い影はさらに高度を上げた。
「くそっ!」
キッドが着地する。
その直後。
背後から強烈な衝撃が襲った。
「ぐあっ!」
身体が前へ弾き飛ばされる。
受け身を取り、すぐさま起き上がった時には、黒い影はすでに再び上空へ戻っていた。
「さっきまでの威勢はどうした?」
「黙れ!」
キッドが跳ぶ。
拳を伸ばす。
届かない。
黒い影は空中で自在に軌道を変え、キッドの側面へ回り込んだ。
鉤爪が迫る。
「っ!」
腕で受ける。
衝撃で、キッドは再び地面へ叩き落とされた。
「キッド!」
謎のヒーローが叫ぶ。
「相手に合わせろ!」
「分かってる!」
「分かってない!」
黒い影が再び急降下する。
キッドは真正面から迎え撃った。
「メモリーを使え!」
「うるせぇ!」
拳を振るう。
だが、空を切る。
「今持っている力だけで戦う必要はない!」
「黙ってろって言ってんだろ!」
「キッド!」
「こいつだけは!」
キッドの拳が強く握られる。
「俺がぶっ飛ばす!」
◇
「……動きが変だ」
北山が呟いた。
東が横を見る。
「キッド?」
「はい」
北山は戦いから目を離さない。
「さっきまでとは全然違う」
強い。
速い。
拳の威力も落ちていない。
それでも。
「相手を見てない」
川出も眉を寄せた。
「怒ってるんですかね」
「見れば分かるだろ」
南浦が吐き捨てる。
「だから言ったんだ。あいつだって、いつ何するか分からねえって」
「南浦」
東の声が少し強くなる。
「今は、その話をしてる場合じゃないわ」
「……分かってるよ」
そう答えながらも、南浦はキッドから視線を外さなかった。
◇
黒い影の鉤爪が、キッドの肩をかすめた。
「っ!」
キッドが反撃する。
拳。
かわされる。
「遅いな」
「黙れ!」
「ワシの力が欲しかったんじゃないのか?」
「……っ!」
キッドの表情がさらに歪んだ。
「返せ!」
「何を?」
「俺のメモリーだ!」
「知らないな」
「ふざけんな!」
怒りのまま踏み込む。
ノミの脚が地面を蹴り、カンガルーの拳が振り抜かれる。
黒い影はかわす。
続けてヒクイドリの一撃。
それも当たらない。
それでもキッドは止まらなかった。
「返せ!」
「だから知らないと言っている」
「だったら何で持ってんだよ!」
拳。
蹴り。
さらに拳。
攻撃を重ねるたび、キッドの呼吸が荒くなっていく。
その時だった。
「……?」
川出が目を細める。
「東さん」
「何?」
「キッドの姿……」
東も気づいた。
「…………」
頭部。
ヒクイドリを思わせる形が、さっきまでとは違っていた。
装甲の意匠ではない。
まるで、生き物そのものへ変わっていくように見える。
腕も。
カンガルーを思わせる特徴が、異様なほど強くなっている。
脚も細く歪み、ノミの姿へ近づき始めていた。
「おい……」
ニシが言葉を失う。
「何だ、あれ」
謎のヒーローの表情が変わった。
「いけない」
キッドの身体を見て、声を荒らげる。
「メモリーに飲まれる!」
◇
だが、その言葉はキッドへ届いていなかった。
「返せえっ!」
黒い影へ飛びかかる。
「……はは」
相手が笑った。
「何がおかしい!」
「鏡でも見たらどうだ?」
「何?」
「随分、醜くなったな」
「黙れ!」
キッドの拳が振り抜かれる。
黒い影は軽々とかわした。
異形化は、さらに進んでいく。
ヒクイドリ。
カンガルー。
ノミ。
三つの生物の特徴が、キッドという一つの身体から際限なく溢れ出していく。
「止まれ、キッド!」
謎のヒーローが叫んだ。
「それ以上は危険だ!」
「うるせぇ!」
キッドの目には、もう黒い影しか映っていない。
ヒーローだった姿は、完全に別のものへ変わろうとしていた。
その境界を越える。
まさに、その直前。
「サクラがお前のそんな姿を望んでるか!」
北山の声が戦場に響いた。
◇
キッドの拳が止まった。
「…………」
北山自身も、言った直後に息を呑んでいた。
「……え?」
なぜ。
自分は今、あの怪人をサクラと呼んだ?
けれど、その疑問を考えるより先に。
キッドの脳裏へ、一つの光景が蘇る。
『だから、一緒に来いよ』
差し出した自分の手。
そこへ伸ばされかけた、サクラの手。
「…………」
キッドが自分の手を見る。
異形になりかけた腕。
「……俺」
握り締めていた拳から、少しずつ力が抜けていった。
荒かった呼吸も落ち着いていく。
カンガルーのように膨れ上がっていた腕が戻る。
ノミの特徴が強く現れていた脚も。
ヒクイドリのように変貌しかけていた頭部も。
少しずつ、元の形を取り戻していった。
「……戻った」
謎のヒーローが小さく呟いた。
黒い影は、その様子を眺めながら鼻で笑う。
「何だ」
翼を広げた。
「結局、お前だって怪人じゃねえか」
キッドが顔を上げる。
「違う」
黒い影が急降下する。
鉤爪。
今度のキッドは、その動きをしっかり見ていた。
紙一重でかわす。
「俺は怪人じゃねえ」
身体を入れ替え、拳を返した。
黒い影が受ける。
「俺は――」
カンガルーの力を乗せた突きが、相手を大きく押し返す。
「お前ら怪人の敵だ!」
◇
黒い影が翼を広げ、再び上空へ舞い上がった。
キッドは追おうとして――止まる。
「…………」
空を見る。
相手を見る。
そして、自分のベルトへ視線を落とした。
「飛ぶんだよな……」
黒い影が上空から見下ろす。
「来ないのか?」
「行くよ」
キッドはメモリーへ手を伸ばした。
「そっちが飛ぶなら」
取り出したのは、鬼ヤンマのメモリー。
「こっちも飛べばいいだけだろ」
メモリーをセットする。
「……行くぞ!」
キッドの身体が地面を離れた。
黒い影の動きが、一瞬止まる。
「へえ」
「捕まえた!」
空中で拳がぶつかった。
黒い影が翼を使って横へ逃げる。
キッドも鬼ヤンマの力で追いすがる。
さっきまでとは違う。
今度は、一方だけが自由に空を使える戦いではない。
黒い影が急降下する。
キッドも追う。
地面すれすれで相手が旋回すれば、キッドもその軌道へ食らいつく。
「しつこいな」
「逃げてる奴に言われたくない!」
二つの影が空中で交差する。
鉤爪。
かわす。
拳。
黒い影の脇腹を捉えた。
「っ!」
相手の高度が落ちる。
「まだだ!」
キッドが追撃する。
黒い影が腕で受け止めた。
さっきまで一方的だった空中戦は、完全に姿を変えていた。
◇
「……そうだ」
謎のヒーローが小さく呟く。
「それでいい」
北山は空中のキッドを見上げていた。
「…………」
さっき、自分は何を言ったのか。
なぜ、あんな言葉が口から出たのか。
答えは出ない。
ただ、キッドの戦い方が戻った。
それだけは分かった。
◇
空中で、キッドと黒い影が再びぶつかる。
今度は互角だった。
いや。
少しずつ、キッドが押し返し始めている。
鬼ヤンマの力で相手の軌道へ合わせる。
ノミの力で瞬間的に間合いを変える。
懐へ入る。
カンガルーの突き。
「ぐっ!」
黒い影が大きく弾かれた。
「どうした!」
キッドが追う。
「さっきまでの余裕は!」
「……調子に乗るな」
黒い影が翼を広げる。
だが。
一瞬、その動きが止まった。
「……ちっ」
「?」
キッドも動きを止める。
「どうした?」
黒い影が自分の身体へ視線を落とした。
「……時間切れか」
「時間切れ?」
キッドが眉を寄せる。
「何の話だ」
「今日はここまでだ」
「は?」
黒い影が翼を大きく広げた。
「待て!」
「また会おう」
「逃げんな!」
キッドが追う。
しかし、黒い影は一気に距離を広げていった。
「おい!」
「待てって!」
返事はない。
やがて、その姿は視界から完全に消えた。
◇
「……くそ」
キッドは地面へ降りる。
拳を握ったまま、黒い影が消えた方向を睨みつけた。
ワシのメモリー。
そして、時間切れ。
何者なのか。
どうしてワシのメモリーを持っていたのか。
聞きたいことは、何一つ聞けていない。
だが。
「…………!」
キッドは、はっとした。
「サクラ!」
振り返り、さっき吹き飛ばされた場所へ走る。
「サクラ!」
しかし。
途中で足が止まった。
「……え?」
そこには、誰もいない。
「…………」
確かに、さっきまでここに倒れていた。
「サクラ?」
瓦礫の向こうを見る。
建物の影へ目を向ける。
どこにもいない。
「おい!」
返事もない。
「……何で」
その時。
キッドは、もう一つの違和感に気づいた。
「…………」
謎のヒーロー。
戦いの最中、何度も自分へ声をかけてきた男。
さっきまで確かにいたはずなのに。
「……あいつも?」
姿がない。
キッドは周囲を見回した。
黒い影は逃げた。
それは見ていた。
だが。
サクラと、謎のヒーローは違う。
いつ消えた?
どこへ行った?
誰が連れていった?
何一つ分からない。
ただ。
さっきまで確かにこの場所にいた二人だけが。
いつの間にか、戦場から姿を消していた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




