第八話 それぞれの力
第三章 第八話 それぞれの力
白蟻の群れが、一斉に押し寄せてきた。
「来た!」
キッドは最前列の一体へ踏み込み、拳を叩き込んだ。倒れかけた身体を蹴りで押し返し、その後ろから迫っていた二体もまとめて巻き込む。
だが、それで流れが止まることはない。
右から一体、左から二体。さらに背後からも足音が迫ってくる。
「多すぎだろ!」
「右!」
怪人の声に反応し、キッドは振り向きもせず右拳を振った。
白蟻の顔面を正確に捉える。
「助かった!」
「借り一つだ」
「勝負中に数えんなよ!」
「勝負はまだ終わっていない!」
「分かってるって!」
今度はキッドが、怪人の背後へ回り込んだ白蟻を蹴り飛ばした。
「ほら、一個返した!」
「勝手に数えるな!」
「先に数えたのお前だろ!」
言い合いながらも、二人は自然に互いの死角を埋めていた。
ついさっきまで本気で殴り合っていた相手とは思えないほど、動きが噛み合っている。互いの癖を知り尽くしているからこそ、同じ方向を向けば、次に何をしようとしているのかも分かるのだ。
◇
「北山、左!」
「はい!」
東の声に応じ、北山が身体を沈めた。
迫ってきた白蟻の攻撃をかわし、その脇腹へ突きを打ち込む。拳が命中した瞬間、小手の機構が作動した。
白蟻の身体が大きく横へ流れる。
「ニシさん!」
「任せろ!」
そこへニシが入り、白蟻の腰を掴んだ。
「おらあっ!」
そのまま持ち上げ、別の一体へ叩きつける。
『川出、二歩右!』
「了解!」
川出がすぐさま移動する。
直後、銃声が響いた。
さっきまで川出がいた場所を弾丸が抜け、その先にいた白蟻へ命中する。
「ナイス!」
『喋ってないで次!』
「はいはい!」
『その返事、東さん怒りますよ』
南浦の声に、東が即座に返した。
「聞こえてるわよ」
『……聞こえてたか』
連携はまだ完璧ではない。
それでも、訓練の頃とは明らかに違っていた。一人が動けば、次の一人が空いた場所を埋める。誰かの攻撃が通らなければ、別の誰かが生まれた隙を拾う。
一人で勝とうとはしていない。
それぞれの得意な動きをつなぎ、白蟻の群れを少しずつ切り崩していく。
◇
「くそっ!」
キッドは二体をまとめて蹴り飛ばした。
着地したところへ、さらに三体が迫る。
一体を殴り、二体目を蹴る。三体目の腕が横から伸びてきたところを、上体を反らしてかわした。
だが、その間に最初に倒した一体が立ち上がる。
「終わんねえ!」
「だったら、さっさと使え!」
怪人が叫んだ。
「何を!」
「持ってるんだろ!」
「……あ」
キッドはようやくベルトへ手を伸ばした。
「そうだった」
「忘れてたのか!」
「忘れてたわけじゃないって!」
一つ目のメモリーを取り出し、脚側へセットする。
「ノミ!」
続けて、もう一つ。
今度は頭部側へ。
「ヒクイドリ!」
変化したキッドの姿を見て、怪人が一瞬だけ黙った。
「…………」
「何?」
「足は分かる」
「うん」
「頭は?」
「格好いいだろ」
「…………」
怪人は本気で呆れたようにキッドを見た。
「こんな時に、まだそんなことを考えてるのか」
「大事だろ」
「格好いいとか、そういう問題じゃないだろう!」
「いいから見てろって!」
白蟻が迫る。
キッドが地面を蹴った。
さっきまでとは速度が違う。
「おらっ!」
ノミの力を宿した脚が、白蟻を蹴り飛ばす。その勢いを殺さないまま二体目へ向かい、さらに三体目へ。
白蟻の群れの間を縫うように駆け抜けながら、次々と蹴りを叩き込んでいく。
「どうよ!」
「よそ見するな!」
「またそれ!?」
正面から白蟻が飛び込んできた。
キッドは頭部を振り抜く。
ヒクイドリの力を乗せた一撃がまともに入り、白蟻が後方へ吹き飛んだ。
「ほら、格好いいだろ!」
「だからそういう問題じゃない!」
◇
それでも、白蟻は減り切らなかった。
一体を蹴り飛ばした直後、左右から二体が迫る。
キッドは身体を捻って一体目をかわすが、二体目までは間に合わない。
その時、頭上から影が落ちた。
「上だ!」
声に反応して、キッドが顔を上げる。
怪人が翼を広げ、上空から一気に急降下してきた。
そのまま白蟻の懐へ飛び込み、勢いを乗せた拳を叩き込む。
打撃と同時に、毒針が深く突き刺さった。
白蟻の身体が大きく震え、その場へ崩れ落ちる。
「……やっぱ飛べたのかよ!」
「今さら何を言ってる!」
怪人は翼を大きく動かして再び上昇する。
上空で次の標的を見定めると、一気に急降下。白蟻の攻撃を紙一重で外しながら拳を叩き込み、そのまま毒針を突き刺した。
白蟻の動きが止まる。
「それ使えたの!?」
「使える」
「何でさっき使わなかったんだよ!」
「手の内は隠しておくものだ」
「そういうもんなの!?」
「戦ってる場合に聞くことか!」
「戦ってるから聞いてんだよ!」
別の白蟻が飛びかかってくる。
キッドは即座に蹴り飛ばした。
◇
そこから、戦いの形が変わった。
地上ではキッドがノミの力で白蟻の間を駆け抜ける。
止まれば囲まれる。ならば止まらなければいい。
一体を蹴り飛ばし、その勢いのまま次へ。正面から来る相手には、ヒクイドリの一撃を叩き込む。
上空では怪人が翼を使い、戦場全体を見ながら次の標的を狙っていた。
一体がキッドの背後へ回る。
「後ろ!」
怪人が急降下する。
拳を叩き込み、その勢いのまま毒針を突き刺した。
「サンキュー!」
「借りだ!」
「また数えてる!」
怪人は翼を広げて上空へ離脱し、次の標的へ向かう。
今度はキッドが白蟻の態勢を崩した。
「そっち!」
「分かっている!」
上空から一気に降下した怪人が、拳と毒針で仕留める。
言葉を交わさなくても、互いが次にどこへ動くのか分かる。
敵として知り尽くした互いの癖が、今度はそのまま連携へ変わっていた。
◇
「……すごいな」
北山が思わず呟いた。
『怪人の方?』
川出が聞く。
「両方です」
キッドと怪人。
地上と空中。
離れているにもかかわらず、二人の動きはほとんどぶつからない。
怪人が降りる場所をキッドが自然に空け、キッドが動かした白蟻の先へ怪人が飛び込む。
ただ呼吸が合っているだけではない。
互いを知っている。
「…………」
北山の胸に残っていた違和感が、また少し大きくなった。
◇
「くそっ!」
キッドは三体目を蹴り飛ばした。
だが、着地点へさらに二体が迫る。
ノミの力で距離を取り、正面から来た一体へ頭部の一撃を叩き込む。
白蟻が吹き飛んだ。
それでも次が来る。
「まだかよ!」
数が多すぎる。
どれだけ速く動けても、すべてを捌き切るには手数が足りない。
「足だけじゃ追いつかねえ……!」
その瞬間だった。
「伏せろ!」
「え?」
聞き覚えのある声。
キッドは反射的に身体を沈めた。
その頭上を何かが通過し、背後に迫っていた白蟻を吹き飛ばす。
「……お前!」
そこにいたのは、以前もキッドの前に現れた謎のヒーローだった。
「何でここに!」
「説明はあとだ」
「みんなそれ言うな!」
「今は戦え」
「サクラと同じこと言ってる!」
「私はサクラじゃない!」
上空から声が飛んできた。
「そっちまで入ってくんな!」
謎のヒーローは、そんなやり取りには構わなかった。
手にしていたものを、キッドへ放り投げる。
「使え!」
「うわっ!」
キッドが慌てて受け取る。
メモリーだった。
そこに刻まれているのは――。
「カンガルー?」
「二番に入れろ」
「二番?」
「早くしろ!」
白蟻が迫ってくる。
「分かったよ!」
なぜカンガルーなのか。
なぜ二番なのか。
疑問はいくつもあったが、考えている時間はない。
キッドは指示通り、カンガルーのメモリーを二番へセットした。
直後、腕に力が集まる。
「……お?」
キッドは思わず自分の拳を見る。
「カンガルーなのに、こっち?」
「感心してる暇があるか!」
「分かってるって!」
白蟻が正面から迫った。
キッドは拳を握り、真正面から突きを放つ。
「せいやっ!」
拳が白蟻の胴を捉えた。
凄まじい衝撃音が響く。
「……え?」
白蟻の身体が後方へ大きく吹き飛び、そのまま後ろにいた二体まで巻き込んで地面を転がっていく。
誰よりも驚いたのは、キッド本人だった。
「カンガルーって……こんなパンチすんの?」
「後で調べろ」
「教えてくれないの!?」
「今は戦え!」
「はいはい!」
◇
キッドが再び白蟻へ向かう。
今度は違う。
ノミの脚で一気に距離を詰め、一体を蹴りで崩す。
次へ。
カンガルーの力を乗せた突きが白蟻を吹き飛ばす。
さらに一体には、ヒクイドリの一撃を叩き込んだ。
「これ、いいな!」
別方向から白蟻が迫る。
その頭上には、すでに怪人が回り込んでいた。
急降下。
拳が白蟻を捉え、同時に毒針が突き刺さる。
怪人はそのまま翼を広げ、再び上空へ抜けた。
「サンキュー!」
「借りだ!」
「だからまた数えてる!」
キッドは次の一体へ走る。
「左だ!」
「見えてる!」
地上を駆けるキッド。
上空から襲いかかる怪人。
二人の攻撃が次々とつながり、白蟻の群れを押し返していった。
◇
『また増えやがった』
南浦が、突然現れた謎のヒーローへ一瞬だけ照準を向ける。
「南浦」
東の声が入った。
『分かってる。撃ってねえだろ』
「今のところ、あの人も白蟻を攻撃してるわ。警戒はして。でも勝手に仕掛けないで」
『怪人みたいなのが何人増えりゃ気が済むんだよ』
「文句はあと」
『へいへい』
「返事」
『了解』
東は白蟻の攻撃をかわしながら、レイピアを滑り込ませる。
そこへ横から別の一体が迫った。
「北山!」
「はい!」
北山の蹴りが入る。
特殊機構が作動し、白蟻の身体が横へ流れた。
「ニシさん!」
「任せろ!」
ニシが掴み、そのまま投げ飛ばす。
「川出!」
「いきます!」
倒れた白蟻へ川出が射撃を加えた。
一人の攻撃が、次の一人へつながっていく。
東たちも、確実に戦場へ適応し始めていた。
◇
やがて、白蟻の数が減り始めた。
さっきまで途切れることなく押し寄せていた群れにも、ようやく隙間が見える。
「いける!」
川出が声を上げた。
「油断しないで!」
東がすぐに返す。
「あと何匹だ!」
ニシが周囲を見回した。
『今度は数えてんのか?』
「うるせえ、南浦!」
『前見ろ、前』
「分かって――うおっ!」
白蟻がニシへ飛びかかった。
その横から北山の蹴りが入る。
「危ないですよ」
「助かった!」
『だから油断しない!』
「はい!」
◇
最後の白蟻が、キッドへ突っ込んできた。
キッドはノミの力で一気に懐へ潜り込む。
拳を引く。
「これで!」
カンガルーの力を乗せた突きが、真正面から白蟻を捉えた。
その身体が大きく浮き上がる。
怪人は、すでに上空にいた。
翼を畳むようにして一気に急降下する。
拳を叩き込み、その勢いのまま毒針を突き刺した。
白蟻が地面へ落ちる。
動かない。
ようやく、辺りに静けさが戻った。
「……終わった?」
キッドが周囲を見回す。
「まだ警戒して」
東の声が飛んだ。
「東さん……」
聞きたいことは山ほどある。
北山のこと。
武器のこと。
東たちのこと。
そして、また現れた謎のヒーローのことも。
だが、その前に。
キッドは地面へ降りてきた怪人を見る。
怪人も、まっすぐキッドを見返していた。
「もう全部さらした」
「…………」
「今度は全力でいく」
キッドは少しだけ笑い、そのまま拳を構えた。
「いいよ」
「…………」
「受けてやる」
「後悔するなよ」
「そっちこそ」
怪人の翼が大きく広がる。
キッドも腰を落とした。
「行くぞ、サクラ!」
「私はサクラじゃない!」
キッドが地面を蹴る。
同時に、怪人の身体が空へ舞い上がった。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




