↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーストギア  作者: 時根脱才 
アリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

第七話 邪魔をするな

第三章

第七話 邪魔をするな


 キッドと怪人は、ほとんど同時に地面を蹴った。


 先に拳を伸ばしたのは怪人だった。


 キッドは半身になって突きをかわし、そのまま懐へ潜り込む。脇腹を狙って拳を打ち込むが、怪人は肘で受け止め、間髪を入れずに膝を跳ね上げてきた。


「っ!」


 キッドは身体を引き、ぎりぎりで避ける。


 わずかに距離が開いた。だが、それも一瞬だった。


 次の瞬間には、二人とも再び前へ出ている。


 さっきまでとは少し違う。


 キッドはもう、目の前の相手を正体不明の怪人として見ていなかった。


 本人がどれだけ否定しようと、サクラだと分かっている。


 何年も同じ道場で組手をしてきた相手だ。


 好む間合いも、踏み込む時の癖も、追い込まれるほど前へ出たがるところも知っている。


 そして、それは向こうも同じだった。


 キッドが踏み込めば、怪人は身体をわずかにずらして拳を外す。


 それを読んだキッドが蹴りへ切り替えると、今度は腕を上げて受け止められた。


 怪人はそのまま前へ出る。


 キッドは、それを待っていた。


「そこ!」


 突きを流し、身体を入れ替える。


 背後へ回ろうとした瞬間、怪人の足が鋭く後方へ跳ね上がった。


「うおっ!」


 キッドは慌てて顔を引く。


 鼻先すれすれを蹴りが通過した。


 怪人が振り返る。


「読んでいるのは、お前だけじゃない」


「……だよな」


 キッドは思わず笑った。


「昔からそうだった」


「私はサクラじゃない」


「はいはい」


「その返事をやめろ!」


 怒鳴ると同時に、怪人が踏み込んでくる。


「ほら、それ!」


「何がだ!」


「その怒り方!」


「うるさい!」


 拳が飛ぶ。


 キッドがかわし、すぐに蹴りを返す。


 怪人は腕で受け、その勢いを殺しながら次の攻撃へ移る。


 互いに、次の一手を知っている。


 だからこそ、そのさらに先を読もうとする。


 簡単には当たらない。


 それでも、二人の動きにはどこか楽しげな勢いがあった。


     ◇


『互角……か?』


 通信越しに南浦が呟いた。


「今のところは、そう見えるわね」


 東は戦場から目を離さなかった。


『それにしても』


 川出の声が入る。


『あの怪人、翼があるのに全然使わないですね』


「あくまで空手で勝負するつもりなんでしょう」


 北山が答えた。


『怪人のこだわりに付き合う必要があるのか?』


 南浦が返す。


「付き合えとは言ってません。ただ、今のところ向こうは約束を破ってない」


 北山は双眼鏡越しに二人を見続ける。


 怪人が攻めればキッドがかわし、キッドが間合いを詰めれば怪人が先回りする。


 どちらも、相手の癖を知っているような戦い方だった。


 そして北山は、またキッドの動きに目を止めた。


 受け方。


 踏み込み。


 拳を出す直前の身体の使い方。


 見れば見るほど、胸の奥に引っかかるものが増えていく。


『北山?』


 東の声がした。


「はい」


『何か気になるの?』


「……まだ、何とも言えません」


 そう答えたものの、北山の視線はキッドから離れなかった。


     ◇


 怪人の拳がキッドの肩を捉えた。


「ぐっ!」


 身体が傾く。


 すぐに追撃の突きが飛んでくる。


 キッドはそれを腕で外へ流し、空いた胴へ蹴りを返した。


「っ……!」


 今度は怪人が後退する。


 二人はほぼ同時に距離を取り、荒くなった呼吸を整えた。


「……やっぱさ」


 キッドが笑う。


「何だ」


「お前と組手するのが、一番楽しいわ」


「…………」


 怪人の口元が、ほんの僅かに緩んだ。


 キッドは見逃さない。


「あ、笑った」


「笑ってない」


「いや、笑っただろ」


「笑ってない」


「絶対笑ったって」


「私はサクラじゃない」


「そこに戻るの?」


「違うものは違う」


「はいはい」


「だから、その返事をやめろ!」


 怪人が踏み込む。


 鋭い突きをキッドがかわし、その横腹へ拳を返す。


 だが、怪人も読んでいた。


 腕で拳を挟み込み、そのまま身体ごと押し返してくる。


「ほら、やっぱサクラじゃん!」


「違う!」


「そんな怒り方する奴、他に知らねえよ!」


「うるさい!」


 気づけば、二人とも笑っていた。


 姿は違う。


 道着も着ていない。


 道場でもない。


 それでも、拳を交えれば昔と同じだった。


 相手の一手を読み、その裏をかき、さらにその先を読もうとする。


 何度も繰り返してきた組手の感覚だけは、何も変わっていなかった。


     ◇


 キッドが突きを放つ。


 怪人が外へ流し、そのまま前へ出る。


 そこへキッドが膝を合わせた。


「っ!」


 怪人は寸前で身体を捻る。


「危なっ」


「惜しかったな」


「今の当たってたら終わってたぞ」


「当たらなかった」


「言うなあ」


 キッドは楽しそうに構え直した。


 ふと、その視線が怪人の姿をなぞる。


 蟻を思わせる頭部。


 蜂のような腕。


 蝶の翼。


 見慣れた道着姿とは、あまりにも違う。


 キッドの笑みが少しだけ消えた。


「……お前さ」


「何だ」


「なんでそんなことになってんだよ」


 怪人の動きが、僅かに止まった。


「何があった?」


「…………」


「どこに行ってたんだよ」


 返事はない。


「サクラ」


「違う」


「そこじゃねえよ」


 怪人は構えを深くした。


「今は戦え」


「話す気なしかよ」


「勝負の途中だ」


 キッドは数秒だけ相手を見つめた。


 それ以上問い詰めても、今は答えない。


 そう判断したのか、再び拳を上げる。


「分かったよ」


「…………」


「だったら、勝ってから聞く」


 怪人も構え直した。


「勝てたらな」


「その言い方、あとで後悔すんなよ」


「お前こそ」


 また、二人の口元に笑みが戻った。


     ◇


 そこからの攻防は、さらに激しくなった。


 キッドが一発入れれば、怪人もすぐに返す。


 怪人が踏み込みを読めば、キッドはわざとその癖を利用して次の攻撃へつなげる。


 長年の組手で、互いの癖は嫌というほど知っている。


 だから一手先では足りない。


 相手が読んでくることまで読んで、さらにその先へ行かなければならない。


「そこ!」


「分かってる!」


「なら避けろよ!」


「言われなくても!」


 怪人の蹴りが迫る。


 キッドは上体を逸らし、そのまま軸足を払おうとした。


 怪人が跳ぶ。


 着地した瞬間、迷わず前へ出る。


「だからそれ知ってるって!」


 キッドが笑いながら受け止める。


「知っているなら止めろ!」


「今止めてるだろ!」


 身体を押し合いながら、また二人が笑った。


     ◇


「……この二人」


 北山が思わず声を漏らした。


『どうしたの?』


 東が聞く。


「やっぱり、初めて戦ってるようには見えません」


『怪人とキッドが?』


「はい。相手の攻撃を知ってるだけじゃない。癖を読まれることまで分かった上で戦ってる」


 北山は眉を寄せる。


「昔から何度も組手してきた相手みたいに」


 東はすぐには答えなかった。


「今は観察を続けて」


『分かりました』


 北山は再び双眼鏡を覗いた。


     ◇


 何度目かの攻防が終わった。


 二人とも、さすがに息が上がっている。


 キッドは肩を回しながら笑った。


「まだいける?」


「誰に聞いている」


「サクラに」


「私はサクラじゃない!」


「元気じゃん」


「……お前、本当に腹が立つな」


「知ってる」


 怪人の口元がまた緩んだ。


 今度はキッドも何も言わない。


 二人は構える。


 勝負そのものを楽しんでいる。


 それでも、そろそろ決めるつもりなのは同じだった。


「そろそろ決めるか」


 キッドが言う。


「望むところだ」


 二人の間に距離ができる。


 互いに相手の足を見る。


 肩を見る。


 重心を見る。


 先に動けば読まれる。


 そして、そのことすら相手も分かっている。


 それでも、勝つためには前へ出るしかない。


 キッドが踏み込んだ。


 怪人も同時に地面を蹴る。


 その瞬間だった。


 建物の影で、白い何かが動いた。


「……?」


 キッドの視線が僅かに逸れる。


 一体。


 さらに一体。


 その奥からも。


 白蟻型の怪人たちが、次々と姿を現した。


「なんだよ……」


 二人の間へ、そして周囲へ。


 白蟻たちが広がっていく。


『増援!』


 川出の声が通信に響いた。


『複数……まだ出てきます!』


『だから言っただろ!』


 南浦が叫ぶ。


『やっぱり罠じゃねえか!』


 東の表情が変わった。


「全員、準備して」


     ◇


 キッドは白蟻たちへ向き直った。


「なんだよ、こいつら」


 白蟻たちの視線は、明らかにキッドへ向いている。


 じりじりと包囲が狭まっていく。


 その時だった。


「……ふざけるな」


「え?」


 聞こえた声に、キッドが怪人を見る。


 怪人はキッドではなく、白蟻たちを睨んでいた。


 さっきまで浮かんでいた笑みは、完全に消えている。


「誰が来いと言った」


 白蟻は止まらない。


 一体が地面を蹴り、キッドへ飛びかかった。


 拳が届くより早く、怪人が横から割って入る。


「はっ!」


 鋭い突きが、白蟻の胴へ叩き込まれた。


 その身体が横へ吹き飛ぶ。


「おい……」


 怪人はそのまま白蟻たちへ向き直った。


「私は、こんな勝負を望んでない!」


 別の白蟻が襲いかかる。


 怪人はその攻撃をかわし、鋭い回し蹴りを叩き込んだ。


「一対一だと言ったはずだ!」


 白蟻が倒れる。


 それでも、次が来る。


「……なるほど」


 キッドも飛び込んできた一体を殴り飛ばした。


 怪人が振り返る。


「何だ」


「いや」


 キッドは白蟻の群れへ向き直り、構えを取った。


「お前も知らなかったんだなって」


「…………」


「じゃあ、一旦休戦な」


「言われなくても分かっている」


「こいつら片づけたら続きだからな」


「当然だ」


「逃げんなよ、サクラ」


「私はサクラじゃない!」


「今それいる!?」


     ◇


『東さん!』


 川出の声が飛んだ。


『あの怪人まで白蟻と戦ってます!』


「見えてるわ」


 東は素早く戦況を確認する。


 一対一の約束は、もう完全に崩れていた。


「全員、予定通り動いて。白蟻をキッドたちから引き離して」


『待ってました』


 南浦の声が変わる。


『了解!』


     ◇


 一発の銃声が響いた。


 キッドへ飛びかかろうとしていた白蟻の身体が、大きく弾かれる。


「!?」


 キッドが振り返った。


「なんだ?」


 続けて、もう一発。


 別の白蟻が倒れる。


 高所には、一人の男が狙撃ライフルを構えていた。


「誰だ、あいつ……」


 考える暇もなく、別方向から川出が走り込んでくる。


 白蟻へ射撃。


 距離を詰められると、そのまま銃身の刃で攻撃を受け流し、身体を捻って切り払った。


「そっち行ったぞ!」


「見えてます!」


 さらに別方向から、一人の男が白蟻へ正面から踏み込む。


「せいっ!」


 突きが命中した瞬間、小手の特殊機構が作動した。


 白蟻の身体が大きく吹き飛ぶ。


 キッドの動きが止まりかけた。


「え?」


 顔。


 構え。


 あの空手。


 見間違えるはずがない。


「北山さん……?」


     ◇


 北山はキッドの声には気づかず、次の白蟻へ向かっていた。


 踏み込む。


 蹴りが命中すると同時にレガースの機構が作動し、白蟻が弾き飛ばされる。


 その横を、別の影が勢いよく駆け抜けた。


「どけえええっ!」


 ニシだった。


 白蟻へ真正面から突っ込み、その身体を掴み上げる。


「おらっ!」


 地面へ叩きつけた。


「次!」


『ニシ、前に出すぎないで!』


 東の声が飛ぶ。


「分かってる!」


『分かってる人の動きじゃないわ!』


「うるせえ!」


 東自身も現場へ入る。


 レイピアを構え、襲いかかる白蟻の攻撃を紙一重で外すと、そのまま鋭く踏み込んだ。


 刺突。


 白蟻がよろめく。


「川出!」


「了解!」


 側面へ回った川出の射撃が続く。


 そこへニシが入り、崩れた白蟻を掴んで投げ飛ばした。


 訓練の時とは違う。


 まだ完璧とは言えないが、互いの位置と射線を意識し、空いた場所へ次の一人が入っている。


 キッドは、突然現れた人間たちを見回した。


「東さんまで……?」


 どういうことだ。


 どうして北山がここにいる。


 なぜ東まで武器を持って怪人と戦っている。


 そもそも、彼らは何者なのか。


 疑問が一気に押し寄せる。


「前!」


 怪人の声が飛んだ。


「え?」


 振り向いた時には、白蟻が目前まで迫っていた。


「うおっ!」


 キッドは慌てて拳を返し、白蟻を殴り飛ばす。


「今よそ見するな!」


「分かってる!」


「なら戦え!」


「だからサクラみたいに言うなって――」


「私はサクラじゃない!」


「もういいよ!」


     ◇


 高所では、南浦が次々と照準を移していた。


 一体の白蟻を撃ち抜き、すぐに次の標的を探す。


 その視界へ、キッドが入った。


 照準の中央に、キッドの姿が収まる。


 南浦の指が止まった。


『南浦』


 東の声が飛ぶ。


「聞こえてる」


『今、どこを狙ってるの』


「…………」


『キッドは協力者だと伝えてあるでしょう』


 南浦は照準を外さない。


「人間の俺たちからしたら、あいつも他のバケモンと何が違う」


『南浦』


「いつ裏切るかも分からねえ」


 東の声が強くなった。


『今、あなたが狙う相手はキッドじゃないわ』


 数秒の沈黙。


 南浦が舌打ちする。


『白蟻をお願い』


「分かってるよ」


 照準が横へ動いた。


 白蟻を捉える。


 引き金を引く。


 銃声と同時に、その身体が弾かれた。


     ◇


「まだ来る!」


 川出が叫んだ。


 古びた建物の向こうから、さらに白蟻たちが姿を現す。


「何匹いやがる!」


 ニシが拳を構え直した。


『数えてる暇があるなら動いて!』


「分かってるって!」


 東の指示が飛ぶ。


 キッドも、新たな白蟻の群れへ向き直った。


 隣では、怪人が一度拳を握り直し、静かに腰を落とす。


「話はあとだな」


「当然だ」


「勝負も」


「終わっていない」


「だよな」


 二人の前へ、さらに白蟻が押し寄せる。


 その周囲では、東たちもそれぞれ武器を構えていた。


 ついさっきまで一対一だった戦場は、もう完全に姿を変えている。


「来るぞ!」


 キッドの声と同時に、白蟻の群れが一斉に襲いかかってきた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。