↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーストギア  作者: 時根脱才 
セミスピーカー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/29

第2話「いいねよろしく!」


第2話「いいねよろしく!」

時根脱才 作

「……キッド」

 問われるまま、紀人はそう答えていた。

 口にしてから、自分でも妙なことを言ったと思う。

 昔から呼ばれてきたあだ名が、考えるより先に口をついただけだった。

「…………」

 セミの怪人が黙る。

 紀人も黙った。

 さっきまで悲鳴と轟音に満ちていた住宅街に、なんとも言えない沈黙が落ちる。

「……いや、待て」

 気まずさをごまかすように頭を掻こうとして、紀人の手が止まった。

 指先に返ってきたのは、髪でも皮膚でもない、硬い感触。

 そこでようやく、数秒前に車の窓へ映った自分の姿を思い出す。

 黒を基調とした、いかにもヒーローらしい身体。

 そこまではいい。

 問題は――首から上だった。

 紀人は恐る恐る横を向いた。

 路肩に停まる車。その窓ガラスの中で、一羽のワシがこちらを見返している。

「いやいやいやいや! なんで俺、こんなことになってんだよ!」

 思わず頭を抱えた。

 抱えたところで、ワシなのは変わらない。

 むしろ両手で触れてしまったせいで、夢でも幻でもないという事実だけが、嫌というほどはっきりした。

 セミの怪人まで、どう反応すべきか分からないようにこちらを見ている。

「だから見るなって!」

「……お前、本当に何者だ」

「俺が聞きてえよ!」

 例の小包。

 中に入っていた奇妙なベルトと、一枚の手紙。

 ――ピンチになったらベルトを腰に巻き、『配信開始』と合図しろ。

 書かれていた通りにした。

 ベルトを巻いた。

 指を鳴らした。

 そして――この姿になった。

 このベルトが何なのか。

 なぜ自分が変身できたのか。

 どうして頭だけがワシなのか。

 何ひとつ分からない。

 だが、一つだけ確かなことがあった。

 紀人は拳を握る。

 身体の奥から、今まで感じたことのない力が湧き上がってくる。

 脚は軽い。

 拳にも力がある。

 そして目の前には、人を襲った怪人がいる。

「……まあ、考えても分かんねえか」

 分からないことなら、後で考えればいい。

 今やるべきことは、もっと単純だった。

 紀人は腰を落とし、拳を構える。

「先にこいつをぶっ飛ばす!」

 そのまま戦いへ踏み出そうとした――その瞬間。

「――いいねよろしく!」

 威勢のいい声が、住宅街に響いた。

「…………」

 紀人の足が止まった。

 セミの怪人も止まった。

「……は?」

 今。

 俺は何を言った?

「いいね……よろしく?」

 自分でもう一度口に出してみる。

 やはり意味が分からない。

 そもそも、どうしてそんな言葉が口から出たのかすら分からなかった。

 怪人が怪訝そうに首を傾げる。

「お前に言ったんじゃねえよ!」

「では誰に言った!」

「知らねえよ!」

「自分で言ったのだろう!」

「勝手に出たんだよ!」

「意味が分からん!」

「俺だって分かんねえ!」

 妙な言い争いになった。

 そのとき。

 まるで今の一言を待っていたかのように、上空から微かな駆動音が近づいてきた。

 小型の飛行機械が一機。

 紀人たちの頭上で静止すると、機体前部のレンズを二人へ向けた。

 だが、紀人がその存在を認識するより先に――身体が動いた。

「おらぁっ!」

 地面を蹴る。

 次の瞬間には、怪人の顔が目の前にあった。

「速っ……!」

 驚いたのは紀人自身だった。

 軽く踏み込んだだけのつもりだった。

 それなのに、まるで背中から思い切り弾き飛ばされたように、一気に間合いが消えた。

 ならば、この勢いを殺す理由はない。

 腰を捻り、そのまま拳を叩き込む。

「ぐっ!」

 確かな手応え。

 怪人の身体が大きく後退した。

「おお……!」

 紀人は思わず自分の拳を見る。

「すげえ!」

「貴様!」

 セミの怪人が殴りかかってくる。

 第1撃を受ける前の自分なら、全神経を集中させてようやく避けられた攻撃だ。

 今は違う。

 見える。

 肩の動き。

 拳が通る軌道。

 次に相手がどこへ踏み込むのかまで、身体が先に理解していた。

 紀人は拳の下へ身体を沈め、そのまま懐へ滑り込む。

 腹へ一発。

 身体を返して蹴りを重ねる。

 怪人がよろめいたところへ、さらに一歩。

 追撃の拳が顔面を捉えた。

「ぐあっ!」

 やはり違う。

 力だけではない。

 速さ。

 反応。

 身体の切れ。

 これまで鍛えてきた技そのものを、この姿が何倍にも増幅している。

「よく分かんねえけど――強くなってんなら、いい!」

「調子に乗るな!」

 怪人の全身に埋め込まれたスピーカーが震えた。

 ぞくり、と背筋に嫌な感覚が走る。

 直後。

 ミィィィィィィィン――!!

「ぐあっ!」

 音が、塊になって襲ってきた。

 空気そのものに殴られたような衝撃に、紀人の身体が弾き飛ばされる。

 どうにか足から着地した。

 だが、逃げ切れてはいない。

 追いすがるような轟音が、頭蓋の内側まで揺さぶってくる。

「っ……うるっせえぇぇぇぇ!」

 反射的に両耳を塞ぐ。

 それでも止まらない。

 耳を塞いでいるはずなのに、身体の芯まで震えている。

 周囲の窓ガラスが細かく鳴り、足元のアスファルトからさえ振動が這い上がってくるようだった。

「耳塞いでも……ダメかよ!」

 変身して、身体能力は上がった。

 だが紀人の戦い方は、あくまで拳と蹴りだ。

 攻撃するには、まず相手へ近づかなければならない。

 そして近づけば、あの音に押し返される。

「だったら――正面から行かなきゃいい!」

 紀人は音圧から逃れるように横へ走った。

 そのまま大きく弧を描き、怪人の側面へ回り込む。

 だが、相手も身体ごとこちらを追ってきた。

 再びスピーカーが震える。

「くそっ!」

 音が放たれる寸前、紀人は地面を蹴った。

 空中で身体を捻って射線から逃れ、そのまま着地しようとした――そのとき。

 視界の端に、妙なものが映った。

「……ん?」

 何かが浮いている。

 先ほどの小型飛行機械だった。

 一定の距離を保ったまま、ずっとこちらへレンズを向けている。

 紀人が右へ動けば、右へ。

 試しに左へ動く。

 やはり、ついてくる。

「おい……」

 嫌な予感がした。

「なんで俺のこと撮ってんだよ!」

 当然、返事はない。

「お前の仲間か!?」

「知らん!」

「じゃあなんなんだよ!」

「俺に聞くな!」

「さっきから分かんねえことばっかりだな!」

 ほんの一瞬。

 意識が怪人から逸れた。

 戦いでは、その一瞬で充分だった。

 ミィィィィィィィン――!!

「ぐああっ!」

 避ける間もなく音の直撃を受け、紀人は道路へ叩きつけられた。

 背中を打ち、そのまま二度、三度とアスファルトの上を転がる。

「くそ……!」

 片膝をつきながら顔を上げた。

 身体はまだ動く。

 戦える。

 問題は、どうやって攻撃を届かせるか。

「その程度か、キッド」

 怪人がゆっくりと距離を詰めてくる。

「……その名前で呼ぶな」

「自分で名乗ったのだろう!」

「そうだけど今はなんか腹立つ!」

 怪人の全身で、再びスピーカーが震え始める。

 まずい。

 紀人が身構えた、そのときだった。

「――これを使え!」

 聞き覚えのない声。

 同時に、何かが飛んできた。

「え?」

 紀人は反射的に手を伸ばす。

 掌へ収まったのは、小さな装置が二つ。

「なんだ、これ?」

 声のした方へ振り向く。

 一人の人物が立っていた。

 人間――に見えなくもない。

 だが、その姿はどう考えても普通ではなかった。

 紀人と同じような、ヒーローを思わせる装い。

 いや。

 少なくとも、首から上がほぼワシになっている自分よりは、はるかにヒーローらしい。

「……誰だ、お前?」

「説明は後だ」

「いや、待て」

 紀人はセミの怪人を見る。

 次に、謎の人物を見る。

 もう一度、怪人。

 もう一度、謎の人物。

 どう見ても、戦えそうなのは目の前の男も同じだった。

「お前、そんな格好してんなら、お前が戦えよ!」

「……こちらにも事情がある」

「どんな事情だよ!」

「それより、ベルトのカバーを開けろ」

「話聞けよ!」

「早くしろ!」

 ミィィィィィィィン――!!

「うおっ!」

 紀人は横っ飛びに音波をかわした。

 着地と同時に走り出し、腰のベルトへ手を伸ばす。

「カバーって……これか?」

 走りながら開いた。

 中には、横一列に四つの差し込み口が並んでいる。

 一番左だけ、すでに何かが収まっていた。

「それが今、お前が使っているメモリーだ。一番から抜け!」

「これだな!」

 怪人が間合いを詰めてくる。

 振り下ろされた腕を上体だけでかわし、すれ違いざまにベルトへ指をかけた。

 引き抜く。

「うおっ!?」

 一瞬、身体の感覚が揺らいだ。

「止まるな! 今渡したコブラを一番へ入れろ!」

「コブラ!? どっちだよ!」

「見れば分かる!」

「初めて見るんだから分かるか!」

 走りながら、二つのメモリーを見比べる。

 悠長に選んでいる暇などない。

 怪人の腕をかわしながら、それらしい意匠の方を一番へ押し込んだ。

 カチッ。

「入れたぞ!」

「次、四番にノミ!」

「四番!?」

「一番右だ!」

「それくらい分かる!」

 残ったメモリーを一番右へ持っていき――紀人の手が寸前で止まった。

「待て! なんで二、三飛ばして四なんだよ!」

「いいから入れろ!」

「説明しろよ!」

「今する必要があるか!」

「あるだろ!」

 怪人のスピーカーが震えた。

「うるっせえ!」

 音波に身体を揺さぶられながら、それでも紀人は四番へメモリーをねじ込んだ。

 カチッ。

「入れた!」

「最後だ! さっき一番から抜いたワシを二番へ!」

「最初から言え!」

「言っている!」

「今言ったんだろうが!」

「死ねぇぇぇぇ!」

 とうとうセミの怪人まで会話へ割り込むように飛び込んできた。

 紀人は紙一重でその腕をかわし、すれ違いざまに脇腹へ蹴りを叩き込む。

 怪人がよろめいた。

 今しかない。

 先ほど抜いたワシのメモリーを二番へ――。

「っ!」

 入らない。

 走りながらでは、わずかに位置がずれる。

「何をしている!」

「動きながらやってんだよ!」

 もう一度。

 迫ってくる怪人をぎりぎりまで引きつけ、横へ跳ぶ。

 着地。

 同時に、メモリーを押し込んだ。

 カチッ。

「入った!」

「カバーを閉じろ!」

「これでいいんだな!」

 紀人がベルトへ手を伸ばす。

 その瞬間、セミの怪人の全身に埋め込まれたスピーカーが、これまで以上に激しく震え始めた。

 ミィィィィィィィン――!!

 轟音が住宅街を呑み込む。

 空気が震える。

 足元が震える。

 身体の奥まで揺さぶられる。

「ぐっ……!」

 それでも、紀人はベルトから手を離さなかった。

 指をカバーへかける。

「うおおおおおっ!」

 力任せに閉じた。

 カチン。

 轟音の中。

 その小さな音だけが、不思議なほど鮮明に聞こえた。

 直後。

 ベルトから光が噴き上がる。

「なっ……!」

 眩い光が紀人の全身を呑み込んだ。

 セミの怪人が、攻撃することさえ忘れたように動きを止める。

 謎の人物だけが。

 その光景を、黙って見つめていた。

 そして――。

 光が、大きく弾けた。



本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。