第1話「配信開始」
第1話「配信開始」
時根脱才 作
昼下がりの住宅街に、突然、悲鳴が響いた。
「うわあああっ!」
一人の男が道路へ投げ出される。握っていた金属バットが手を離れ、乾いた音を立てながらアスファルトの上を転がっていった。
「なんなんだよ、こいつら!」
逃げ惑う人々を追い回しているのは、人間ほどの大きさをした白い異形だった。
蟻に似た頭部。白一色の身体。
一匹や二匹ではない。
ざっと見渡しただけでも、二十匹近くいる。
「来るな!」
別の男が道端で拾った棒を振り上げ、迫ってきた一匹の頭へ力任せに叩きつけた。
まともに入った。
鈍い音が響く。
だが――怪物は、わずかに首を傾けただけだった。
「……効いてない?」
「ギギッ!」
怪物の腕が横薙ぎに振るわれた。
「うわっ!」
たったそれだけで、男の身体が道路脇まで吹き飛ばされる。
「逃げろ!」
「早く!」
「誰か警察呼んで!」
悲鳴と怒号が飛び交う。
誰もが我先にと逃げ惑う中、それでも怪物に立ち向かう者はいた。
身体つきのいい男が一匹へ組みつき、その顔面へ何度も拳を叩き込む。怯んだところへ蹴りを浴びせ、それでも倒れない相手へ、最後は全体重を乗せた拳を振り抜いた。
「倒れろ!」
ようやく、白い怪物が地面へ崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
男は大きく肩を上下させた。
拳を握った腕が震えている。
たった一匹。
たった一匹倒しただけで、もう限界だった。
その男へ、新たな怪物が二匹、三匹と近づいてくる。
「嘘だろ……」
男の顔から血の気が引いた。
逃げようにも、もう脚に力が入らない。
怪物の一匹が腕を振り上げる。
そのときだった。
「伏せろ!」
「えっ!?」
男が反射的に頭を下げる。
直後、その頭上を一人の少年の脚が鋭く薙いだ。
「ギッ!?」
蹴りが怪物の顔面を捉える。
一撃だった。
白い身体が地面へ沈む。
少年は着地の勢いを殺さず、二匹目の懐へ滑り込んだ。腰を落とし、最短距離から拳を突き込む。
「ギッ!」
二匹目も、一発。
横から三匹目が襲いかかる。
少年はその腕を紙一重でかわすと、身体を返した勢いのまま回し蹴りを叩き込んだ。
「ギャッ!」
三匹目が吹き飛ぶ。
「き、君……」
男は礼を言おうとして――言葉を失った。
自分は、たった一匹を倒すために何発殴った?
何発蹴った?
全力を振り絞って、死に物狂いで、ようやく一匹だった。
なのに。
「ギギッ!」
「邪魔!」
拳、一発。
「ギッ!」
蹴り、一発。
自分が命懸けで戦った怪物たちを、目の前の少年は次々と沈めていく。
息ひとつ乱さず――とまではいかない。
それでも、明らかに違う。
同じ人間とは思えないほどに。
「……ひっ」
男の喉から、小さな声が漏れた。
倒れた白い怪物を見る。
そして、少年を見る。
どちらが恐ろしいのか。
一瞬、分からなくなった。
「ば、化け物……」
「ん?」
少年が振り返る。
「大丈夫ですか?」
「ひっ!」
男はその顔を見るなり背を向けた。
「え?」
「う、うわああああっ!」
白い怪物からも、少年からも逃げるように走り去っていく。
「……なんなんだ?」
少年――内田紀人は、訳も分からずその背中を見送った。
十七歳の高校生。
紀人にしてみれば、襲われている人を助けただけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ギギギッ!」
「っと!」
背後から迫った腕をかわす。
考えている暇はなかった。
逃げていく人々。
倒れた自転車。
道路の上を転がったままの金属バット。
そして、住宅街を我が物顔で荒らす、人間ほどの大きさをした白い怪物たち。
「……どう考えても、普通じゃないよな」
その光景を前にして、ふと昨日届いた小包のことが頭をよぎった。
中に入っていたのは、見覚えのないベルトと一枚の手紙。
指定された時間。
指定された場所。
そして――。
――ピンチになったらベルトを腰に巻き、『配信開始』と合図しろ。
書かれていたのは、それだけだった。
「……あの手紙は、このことか?」
答えを考える間もなく、怪物が飛びかかってくる。
紀人はまだベルトへ手を伸ばさなかった。
まだ戦える。
目の前で誰かが襲われているなら、今は考えるより身体を動かす方が早い。
「来い!」
真正面から迫った一匹の攻撃をかわし、その懐へ拳を叩き込む。
横から二匹目。
肘を打ち込んで止める。
背後から迫る気配に反応して身体を返し、振り向きざまに回し蹴りを放った。
「ギャッ!」
怪物たちが、次々と地面へ転がっていく。
普通の人間なら、一匹を倒すだけで体力を使い果たしかねない相手だ。
それでも紀人は、鍛え上げた身体と、格闘技で培ってきた技術を武器に戦い続けた。
だが、いくら一匹一匹を圧倒できても、数までは消えてくれない。
二十匹近くを相手にすれば、さすがに楽ではなかった。
額から汗が流れる。
呼吸も少しずつ荒くなっていく。
「ったく……多いんだよ!」
正面から突っ込んできた一匹を寸前でかわし、勢いを利用して地面へ叩きつける。
残った最後の一匹が、紀人めがけて大きく腕を振り上げた。
「これで、最後!」
紀人は逃げなかった。
逆に一歩、深く踏み込む。
怪物の腕が振り下ろされるより早く、その拳が顔面を捉えた。
「ギッ――!」
白い身体が地面へ倒れる。
「はぁ……はぁ……」
ようやく終わった。
紀人が息を整えながら拳を下ろした、そのときだった。
「……ん?」
しゅううう……。
奇妙な音が聞こえた。
足元を見る。
倒れていた怪物たちの身体が、萎み始めていた。
「なんだ?」
人間ほどあった身体が、見る間に小さくなっていく。
白い異形は形を失い、縮み続け――。
最後に残ったものを見て、紀人は眉を寄せた。
「……白蟻?」
そこにいたのは、本物と変わらないほど小さな白蟻だった。
紀人は思わずしゃがみ込む。
あれほどの怪物が、これになった?
確かめようと指先を伸ばしかけた――その瞬間。
ミィィィィィィィン――!!
「うわっ!」
凄まじい音が住宅街を震わせた。
紀人は咄嗟に両耳を塞ぐ。
窓ガラスが一斉に鳴り、電柱に止まっていた鳥たちが驚いて空へ飛び立っていく。
「なんだよ、今度は!」
顔を上げる。
道路の向こうから、一体の異形が歩いてきていた。
蝉を思わせる怪人。
その身体には、いくつものスピーカーのような器官が組み込まれている。
さっきまでの白蟻たちとは違う。
姿を見ただけで分かった。
こいつは――別格だ。
怪人は紀人の姿を認めると、ぴたりと足を止めた。
「お前……」
「ん?」
声から、それまでの余裕が消えた。
驚いている。
いや。
これは――。
「……殺したはず……」
紀人は眉をひそめた。
「……何言ってんだ、お前?」
「なぜ生きている!」
怪人が声を張り上げた瞬間、空気が爆ぜた。
「ぐあっ!」
見えない衝撃に身体をさらわれ、紀人は道路へ叩きつけられた。そのまま勢いを殺せず、アスファルトの上を転がっていく。
「くっ……!」
ただの大声じゃない。
声そのものが衝撃となって、身体へ叩きつけられている。
「貴様は確かに――!」
「うるせえ!」
紀人は耳を押さえながら立ち上がった。
「さっきから何の話だよ!」
「なぜ覚えていない!」
「知らねえよ!」
怪人が声を荒らげるたび、頭蓋の内側まで揺さぶられる。
何を言っているのかは分からない。
だが、攻撃の仕組みなら単純だ。
喋るたびに来る。
だったら――喋らせなければいい。
紀人は地面を蹴った。
一気に間合いを詰め、その顔面へ拳を放つ。
だが。
「なっ……!」
拳が止まった。
怪人の片手に、真正面から受け止められている。
「白蟻どもを倒した程度で、調子に乗るな!」
次の瞬間、怪人の拳が紀人の腹へ突き刺さった。
「がはっ!」
身体が宙に浮いた。
遅れて激痛が走り、背中から道路へ叩きつけられる。
「くそ……」
強い。
さっきまでの連中とは、まるで違う。
紀人は痛む腹を押さえながら、なんとか上体を起こした。
怪人がゆっくりと近づいてくる。
一歩。
また一歩。
その姿を見上げたとき、昨日の手紙に書かれていた言葉が、もう一度脳裏をよぎった。
――ピンチになったらベルトを腰に巻き、『配信開始』と合図しろ。
「……これ以上のピンチって、ないよな」
紀人は、正体不明のベルトを手にした。
これが何なのか。
誰が送ってきたのか。
なぜ自分が、こんな場所へ呼び出されたのか。
本当に使っていいものなのか。
何一つ分からない。
「……本当に、これを使えばいいんだよな」
怪人はもう目の前まで迫っている。
迷っている時間はなかった。
「……やるしかないか」
紀人はベルトを腰へ巻いた。
カチッ。
固定される。
怪人が迫る。
紀人は大きく息を吸った。
「――配信開始!」
指を鳴らす。
パチン。
その瞬間――ベルトが起動した。
「うおっ!?」
光が噴き上がり、紀人の全身を包み込む。
身体の奥を、何かが一気に駆け抜けた。
「なんだよ、これ……!」
熱い。
いや、熱とは違う。
自分の身体なのに、今まで一度も感じたことのない力が、内側から溢れ出してくる。
やがて――。
光が弾けた。
「…………」
紀人は、ゆっくりと自分の身体を見下ろした。
制服が消えている。
代わりに全身を包んでいるのは、黒を基調とした、どう見てもヒーローとしか思えない姿だった。
「お、おお……」
一瞬だけ、声が弾んだ。
すごい。
これはちょっと――いや、かなり格好いい。
だが。
「……ん?」
何かがおかしい。
妙な違和感がある。
紀人は路肩に停まっていた車へ駆け寄り、窓ガラスを覗き込んだ。
「…………え?」
身体はヒーローだった。
黒を基調とした、戦うための姿。
そこはいい。
問題は――頭だった。
ワシ。
ヒーローらしく意匠化されたマスクではない。
どう見ても、ほとんどワシそのものに近い頭が、黒いヒーローの身体の上に乗っている。
「なんだこれぇぇぇぇぇっ!?」
紀人の絶叫が住宅街に響き渡った。
セミの怪人まで動きを止めている。
「…………」
「見るなよ!」
「…………」
「お前まで困った顔すんな!」
怪人はしばらく黙っていた。
目の前の異様な姿を、どう処理していいのか分からないようだった。
やがて、我に返る。
「……誰だ」
「は?」
「誰だ、お前は!!」
「え? 俺?」
紀人は自分を指差した。
聞かれて。
考えるより先に、口から答えが出た。
「……キッド」
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています




