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ビーストギア  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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19/25

間話「狙うべきもの」

『ビーストギア』


間話「狙うべきもの」


 夜。


 南浦は一人、机に向かっていた。


「…………」


 机の上には、何枚もの紙。


 地図。


 写真。


 手書きのメモ。


 警察に提出した証言の控え。


 そして、妻の写真。


「…………」


 南浦は一本のペンを持ち、地図へ印をつける。


 妻がさらわれた場所。


 怪人を見た場所。


 その周辺。


 目撃情報が出そうな場所。


 自分なりに、何度も、何度も線を引いてきた。


「…………」


 だが、何も見つからない。


「くそ……」


 ペンを置く。


 椅子へ深く座り、目を閉じる。


 思い出す。


     ◇


 あの日。


 目の前にいた。


 あれは、人間ではなかった。


 異様な姿。


 異様な力。


 そして。


 妻を、自分の目の前から連れ去った。


「待て!」


 追った。


 叫んだ。


 手を伸ばした。


 でも、届かなかった。


     ◇


「…………」


 南浦が目を開ける。


 机の上。


 妻の写真。


「待ってろ」


 低く呟く。


「必ず見つける」


 その目に迷いはない。


 怪人がいるかどうか。


 そんなことを疑ったことはない。


 自分は見た。


 この目で、妻がさらわれるところを。


 だから、南浦が今考えているのは、ただ一つ。


 ――どうやって殺すか。


「…………」


 南浦は立ち上がる。


 部屋の隅。


 ライフルケース。


 ゆっくりと開く。


「…………」


 手に取る。


 構える。


 標的はいない。


 それでも、身体は自然に射撃姿勢へ入る。


「距離が取れれば……」


 独り言。


「頭」


「心臓」


「目」


「関節」


「…………」


 狙う場所はある。


 人間なら。


 動物なら。


 生物なら。


 だが。


「あいつに……」


 南浦は銃口を下げる。


「普通の弾が通るのか……?」


 分からない。


 怪人を撃ったことはない。


 撃てる距離まで近づいたこともない。


 どれほど硬いのか。


 どこが急所なのか。


 そもそも、弾丸というものがあいつらに通用するのか。


「…………」


 腕はある。


 狙える。


 当てられる。


 でも、相手を見つけられなければ意味がない。


 見つけても、倒せなければ意味がない。


「撃てるだけじゃ……」


 ライフルを見る。


「何の意味もねえ」


 南浦が、ゆっくりとケースへ戻す。


 その時。


 ――ピンポーン。


「…………」


 南浦の動きが止まった。


 こんな時間に。


「誰だ」


 玄関へ向かう。


     ◇


 扉を開ける。


「…………」


 そこに立っていたのは、見覚えのある女性だった。


「あんた……」


「久しぶり」


 東。


「警察が何の用だ」


「少し話がある」


「…………」


「入っていい?」


 南浦は少し迷った。


 だが、扉を開ける。


「入れ」


「ありがとう」


     ◇


 部屋へ入った東は、すぐに気づいた。


「…………」


 机。


 資料。


 地図。


 写真。


「ずっと調べてたの?」


「警察が調べてくれないからな」


「…………」


 東は何も言い返さない。


 南浦が椅子へ座る。


「あんたは違ったけど」


「え?」


「あんただけだった」


「何が?」


「俺の話を」


 南浦が東を見る。


「最初から笑わなかったのは」


「…………」


「他は全員」


 鼻で笑う。


「見間違いだ」


「錯乱してたんじゃないか」


「人間を怪物に見間違えたんじゃないか」


「そんな話ばっかりだった」


「…………」


「でも」


 南浦は東を見る。


「あんたは聞いた」


「…………」


「信じてるとは言わなかった」


「でも、笑わなかった」


 東が少しだけ目を伏せる。


「……そうね」


「それで?」


 南浦が聞く。


「今日は何だ」


「今さら、やっぱり気のせいでしたって言いに来たのか?」


「違う」


 東が南浦を見る。


「あなたが見たもの」


「…………」


「あれは」


 一拍。


「実在する」


「…………」


 南浦は、すぐには反応しなかった。


 ただ、東を見ている。


「……今さらかよ」


「そう言われても仕方ない」


「…………」


「でも」


 東が続ける。


「今は違う」


「何が」


「私たちも」


 一拍。


「あれを追う」


 南浦の目が変わった。


     ◇


「どういうことだ」


「警察の中に」


 東が言う。


「特殊な事件を専門に扱う部隊を作る」


「特殊な事件?」


「怪人」


「…………」


「それと、通常の捜査では扱えない事件」


「…………」


「正式には」


 東が続ける。


「怪人・特殊事件専門殲滅隊」


「長いな」


「私もそう思う」


「略すと?」


「怪特隊」


「…………」


「微妙な顔しないで」


「いや、普通だなと思って」


「普通でいいのよ!」


「…………」


 南浦は少しだけ口元を緩めた。


 だが、すぐに表情を戻す。


「警察が、怪人を認めたってことか」


「全部じゃない」


「……?」


「知ってるのは、ごく一部」


「相変わらずだな」


「組織ってそういうものなの」


「便利な言葉だ」


「私に言わないで」


「で」


 南浦が机の資料を指す。


「それと俺に何の関係がある」


 東は少しだけ姿勢を正した。


「スカウトに来た」


「…………」


「…………」


「誰を?」


「あなたを」


「…………」


 南浦が本気で聞き返す。


「俺を?」


「そう」


「警察官じゃないぞ」


「知ってる」


「だったら何で」


「あなたの腕」


「…………」


「ライフル」


 南浦の目が細くなる。


「調べたのか」


「必要だったから」


「気分のいい話じゃないな」


「ごめん」


「謝るくらいなら最初からするな」


「それは無理」


「…………」


 東が続ける。


「普通の警察官だけじゃ、どうにもならない相手だって分かった」


「…………」


「だから、警察官だけで固める気はない」


「外からも、必要な人間を集める」


「…………」


「その中に、あなたも入ってる」


 南浦は、しばらく東を見る。


「俺が何のためにあれを探してるか、分かって言ってるのか?」


「分かってる」


 即答だった。


「復讐でしょ」


「…………」


「奥さんをさらった怪人を見つけて」


 一拍。


「殺したい」


「…………」


 南浦の表情が、少しだけ変わる。


「だったら、警察が俺を入れるのか?」


「本来なら」


 東は少し考えて。


「たぶん、入れないと思う」


「じゃあ何で」


「あなたの腕が必要だから」


「…………」


 南浦が、わずかに笑う。


「随分正直だな」


「綺麗事言っても仕方ないから」


「…………」


 東が言う。


「私たちは、あなたを利用する」


 一拍。


「あなたも、私たちを利用すればいい」


「…………」


 南浦は、しばらく何も言わなかった。


「利害の一致ってやつか」


「そう」


「警察官が言う言葉じゃねえな」


「怪人相手にしてる時点で、普通のやり方だけじゃ無理なのよ」


「…………」


 南浦の視線が、机の地図へ落ちる。


     ◇


「あなた一人じゃ」


 東が続ける。


「怪人を探すにも限界がある」


「…………」


「現に」


 机の資料を見る。


「ここまで調べても、見つかってない」


「…………」


 南浦は否定しない。


「それに、普通の銃が効くかも分からない」


「…………」


「でも」


 東が言う。


「私たちには、怪人に対抗する武器を研究してる人間がいる」


 南浦が顔を上げる。


「武器?」


「詳しくは、入ってから」


「…………」


「そういうところは警察なんだな」


「当たり前でしょ」


「…………」


「それから」


 東は続ける。


「私たちも怪人を探す」


「…………」


「今までみたいに、存在しないものとして扱わない」


「…………」


「見つけるために、動く」


 南浦の目が、少しだけ鋭くなる。


「妻をさらった奴も?」


「…………」


 東の返事が、一瞬だけ遅れた。


 ほんの一瞬。


 南浦には分からない程度に。


 東の脳裏に、あの怪人の姿が浮かんだ。


 モズキャッチャー。


 KIDの蹴りを受け、地上へ叩き落とされ、崩れていったあの姿。


「…………」


 もし、あの怪人が。


 南浦の妻をさらった、まさにその個体だったのなら。


 この男が今も追い続けている相手は。


 もう、この世にはいない。


 東は、その可能性を知っている。


 だが、確証はない。


 そして今、それを口にすることはできなかった。


「……見つかる保証はできない」


 東は答えた。


「…………」


「でも、手掛かりがあれば追う」


「…………」


「あなたの奥さんの事件も」


 一拍。


「もう、存在しなかったことにはしない」


 南浦は、じっと東を見る。


「…………」


「そうか」


 それだけ言った。


     ◇


 長い沈黙。


 やがて、南浦が口を開く。


「一つ、条件がある」


「何?」


「妻をさらった奴が見つかったら」


「…………」


 南浦の目が鋭くなる。


「俺に撃たせろ」


「…………」


 東は、すぐには答えなかった。


 また脳裏に、モズキャッチャーが浮かぶ。


 だが、それを表には出さない。


「それは」


 一拍。


「約束できない」


「…………」


 南浦の顔が険しくなる。


「だったら」


「でも」


 東が遮る。


「そいつを見つけるためなら協力する」


「…………」


「逮捕できるなら逮捕する」


「倒さないと止められないなら」


 一拍。


「倒す」


「…………」


「でも、復讐のためにあなたに殺させるとは約束できない」


「…………」


 南浦が東を見る。


「警察官だな」


「一応」


「一応かよ」


「……一応は余計だった」


「…………」


 南浦は少しだけ笑った。


 だが、その笑みはすぐに消える。


     ◇


「今まで」


 南浦が机の資料を見る。


「誰も、あいつらを探そうとしなかった」


「…………」


「存在しないって言われた」


「…………」


「何度話しても、まともに聞かれなかった」


 手が資料の上へ置かれる。


「それでも、俺は見た」


「…………」


「妻が、連れていかれるところを」


「…………」


「だから」


 一拍。


「諦める気なんか、最初からなかった」


「…………」


 東は黙って聞いている。


「でも」


 南浦が顔を上げる。


「あんたたちは、探すんだな」


「探す」


 東は迷わず答えた。


「本当に?」


「本当に」


「…………」


 南浦は、ゆっくりと立ち上がる。


「なら」


 一拍。


「入る」


 東の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


「決まりね」


「ああ」


「ただし」


「何だ」


「命令は聞いて」


「内容による」


「入隊前から問題児!?」


「民間人を入れたのはそっちだろ」


「それ言われると弱い……」


「…………」


 少しだけ、部屋の空気が軽くなる。


     ◇


 東が玄関へ向かう。


「じゃあ、詳しいことは改めて連絡する」


「分かった」


 扉へ手をかけたところで。


「東」


「何?」


「一つ聞く」


「?」


「普通のライフルじゃ」


 南浦が真っ直ぐ東を見る。


「怪人は殺せるのか?」


「…………」


 東が少し考える。


「相手による」


「…………」


「弱い個体なら、効く可能性はある」


「強い奴は?」


「難しい」


「…………」


「でも」


 東が続ける。


「普通じゃない銃なら」


 一拍。


「少なくとも、効く」


「…………」


 南浦の目が変わる。


「それ」


「何?」


「早く見せろ」


「入ってから」


「今見せろ」


「ダメ」


「何で」


「機密だから!」


「さっき俺を入れるって言っただろ」


「まだ正式に入ってない!」


「細かいな」


「そこ大事なの!」


「…………」


 南浦がため息をつく。


「分かった。正式に入ればいいんだな」


「そういうこと」


「…………」


「早く手続きしろ」


「急にやる気出しすぎ!」


「武器が見たい」


「目的そこ!?」


「半分」


「残り半分は?」


「怪人を探す」


「……そっちを先に言いなさいよ」


「どっちでも同じだろ」


「全然違う!」


     ◇


 やがて、東が帰った。


 扉が閉まる。


「…………」


 静かな部屋。


 南浦は、しばらくその場に立っていた。


 そして、机へ戻る。


 地図。


 資料。


 警察へ提出した、何度も、何度もまともに扱われなかった証言。


「…………」


 その横に、東から渡された最低限の資料を置く。


 怪人・特殊事件専門殲滅隊。


 怪特隊。


「…………」


 南浦は、その文字を見つめる。


 それから、妻の写真へ目を向けた。


「…………」


 写真の中。


 妻は、何も知らず笑っている。


 南浦は、ゆっくりとその写真を手に取った。


「待ってろ」


 一言。


「必ず」


 そして。


 ライフルケースを閉じる。


 ――ガチャン。


 その音が。


 静かな部屋に。


 長く響いた。


――つづく


――――――――――


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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