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ビーストギア  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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第7話「空を掴む」

『ビーストギア』


第二章


第7話「空を掴む」


 モズキャッチャーが迫る。


 速い。


 避けろ。


 頭では分かっている。


 だが――身体が動かない。


「くそ……!」


 KIDは歯を食いしばった。


 視界いっぱいに、モズキャッチャーの異形が広がる。


 もう、間に合わない。


「三番!」


「――っ!?」


 突然、声が飛んだ。


 ほぼ同時に、何かがKIDめがけて投げ込まれる。


「何だ!?」


 反射的に手を伸ばす。


 掴んだ。


 掌の中に収まったものを見て、目を見開く。


「これ……!」


 メモリー。


 しかも、見たことのないものだった。


「三番って……!」


 説明などない。


 だが、意味は分かる。


「ここか!」


 KIDは迷わずメモリーを三番スロットへ装填した。


 直後。


 ビーストギアが反応する。


「うおっ!?」


 背部で何かが展開した。


 二対の羽。


 昆虫を思わせる細長い羽が、大きく開く。


「なんだこれ!?」


 驚いている暇はない。


 モズキャッチャーは、もう目前まで迫っていた。


「うわっ!」


 次の瞬間。


 背中の羽が激しく震える。


 ――ギュンッ!


「うおおおおおっ!?」


 身体が、真上へ射出された。


 モズキャッチャーの一撃が、KIDの足元を空振りする。


「と、飛んだ!?」


 自分のことなのに。


 KID自身が、誰よりも驚いていた。


「っていうか、止まれ! 止まれって!」


 ぐんぐん高度が上がる。


 慌てて身体を起こした、その時だった。


「――お?」


 上昇が止まる。


 落ちない。


 空中に浮いている。


「…………」


 恐る恐る、身体を右へ傾ける。


 羽が反応した。


 右へ移動する。


「おお……!」


 今度は左。


 動く。


 さらに身体を起こせば上昇。


 力を緩めれば速度が落ちる。


 自分の意思に、羽が応えている。


「これ……」


 KIDの目が輝いた。


「曲がれる!」


 ノミのメモリーとは、まるで違う。


 あれは地面を蹴った瞬間に、ほとんど軌道が決まってしまう。


 だが、これは違う。


 右へ。


 左へ。


 上へ。


 下へ。


 空中にいながら、自分の意思で進む方向を選べる。


「これなら……!」


 風を裂く音。


「っ!」


 振り向く。


 モズキャッチャーが迫っていた。


「来い!」


 真正面から突っ込んでくる。


 衝突する直前――KIDは横へ滑った。


 空振り。


「よし!」


 すぐに旋回する。


 今度はKIDが追う側だ。


「逃がすか!」


 モズキャッチャーが上昇する。


 追う。


 右。


 左。


 相手が急旋回する。


「うおっ!」


 一瞬遅れた。


 それでも。


 追いつける。


「さっきとは違うぞ!」


 羽を震わせ、さらに加速する。


 距離が縮まる。


「そこ!」


 拳。


 直撃。


 モズキャッチャーの身体が空中で揺れた。


「もう一発!」


 追撃の蹴り。


 モズキャッチャーは身をひねってかわし、そのまま急降下する。


「あっ、待て!」


 KIDも追った。


 一気に地面が近づいてくる。


「うわ、ちょっと速――!」


 慌てて身体を起こす。


 羽が即座に応えた。


 地面すれすれで軌道を変え、再び上昇。


「危なっ!」


 そのままモズキャッチャーを追う。


 教会の屋根を越え。


 建物の脇へ。


 モズキャッチャーが死角へ逃げ込む。


「そっちか!」


 KIDも曲がる。


 建物の角を抜けた先。


 すぐ目の前。


「もらった!」


 拳が突き刺さる。


 モズキャッチャーの身体が吹き飛んだ。


 だが。


 すぐに体勢を戻し、再び空へ逃れる。


「まだ倒れないか……!」


 追おうとした、その時。


 KIDの視線が地上へ落ちた。


「…………」


 少し離れた場所。


 一人の戦士が立っている。


 さっきメモリーを投げてきた人物。


 以前にも現れた。


 正体不明の――謎の戦士。


「おい!」


 KIDは空中から叫んだ。


「こんなのあるなら、最初から出せよ!」


 謎の戦士が答える。


「こっちにも都合がある!」


「またそれかよ!」


 モズキャッチャーの攻撃をかわす。


「都合、都合って――」


 旋回。


 追撃をかわしながら。


「一体なんだよ!」


「今は戦いに集中しろ!」


「それは分かってるよ!」


 モズキャッチャーが迫る。


「くっ!」


 腕で受ける。


 空中で身体が弾かれた。


 すぐに羽を動かし、姿勢を立て直す。


「でも……!」


 反撃の拳。


 命中。


 モズキャッチャーが後退する。


 追う。


「飛べるようにはなったけど!」


 蹴り。


 腕で受けられる。


「こいつ、やっぱり硬い!」


 戦える。


 今なら空中でも。


 モズキャッチャーの動きについていける。


 攻撃をかわし、追いかけ、こちらから仕掛けることもできる。


 だが。


 決め手がない。


 拳を当てても。


 蹴りを叩き込んでも。


 モズキャッチャーは倒れない。


「これじゃ……!」


 KIDは一度、地上へ降りた。


 着地。


「倒しきれない……!」


 上空を旋回するモズキャッチャー。


 その時。


「使え!」


「また!?」


 謎の戦士が、もう一つ何かを投げてきた。


 KIDが受け取る。


 またしてもメモリー。


「今度は何だよ!」


「脚だ!」


「脚?」


 手元を見る。


「…………」


 ヒクイドリ。


「これを使えってことか!」


 モズキャッチャーが急降下に入った。


「分かったよ!」


 KIDはヒクイドリのメモリーを使用する。


 ギアが反応。


 脚部を覆う装甲の形状が変わっていく。


「お……?」


 さらに。


 足元に、鋭い爪を思わせる機構が展開した。


「爪……?」


 モズキャッチャーが迫る。


 KIDは無意識に腰を落とした。


 低く。


 さらに低く。


 重心を沈める。


「…………」


 これまでの蹴りとは違う。


 高く蹴り上げるのではない。


 低い姿勢から一気に踏み込み。


 強靱な脚と爪を。


 そのまま武器にする。


「来い!」


 モズキャッチャーが突っ込んでくる。


 KIDは動かない。


 まだ。


 もう少し。


 ギリギリまで引きつける。


「――今!」


 地面を強く踏み込んだ。


 低い姿勢から身体を押し出し。


 鋭い蹴りを放つ。


 爪を備えた脚が。


 モズキャッチャーの胴を捉えた。


 ――ドンッ!


「…………!」


 今までとは違った。


 モズキャッチャーの身体が、弾丸のように吹き飛ぶ。


 地面へ叩きつけられ。


 さらに何度も転がっていった。


「うお……」


 KIDは自分の脚を見る。


「すっげ……」


 モズキャッチャーが起き上がる。


 だが。


 明らかに動きが鈍い。


 効いている。


 今までの攻撃とは違う。


「これなら……!」


 KIDが構え直す。


「いける!」


 その直後。


 モズキャッチャーが地面を蹴った。


 上空へ。


「あ!」


 逃げる。


 自分が優位に立てる場所。


 空へ。


 だが。


「もう――」


 KIDの背中で二対の羽が開く。


「そこは、お前だけの場所じゃない!」


 一気に飛び上がった。


 追う。


 モズキャッチャーが振り返る。


 さらに高度を上げる。


 KIDも上へ。


 右へ逃げる。


 右へ。


 左。


 左へ。


「逃がすか!」


 急旋回。


 追従。


 もう。


 振り切られない。


 さっきまでノミの跳躍では絶対にできなかった動き。


 飛んで。


 曲がって。


 追い続ける。


「よし……!」


 KIDはさらに高度を上げた。


 モズキャッチャーよりも。


 さらに上へ。


「取った!」


 位置が逆転した。


 さっきまで、自分は地上からあいつを見上げていた。


 今は。


 自分が見下ろしている。


「…………」


 KIDは自分の脚を見る。


 ヒクイドリ。


 低く沈み込んだ姿勢から放った蹴り。


 その脚力。


 その爪。


 そして。


 背中に広がるオニヤンマの羽。


「だったら……!」


 空中で身体を反転させる。


 眼下。


 モズキャッチャー。


「これを――」


 羽が激しく震えた。


「一緒に使えば!」


 一気に急降下。


 加速。


 さらに加速する。


 風圧が装甲を叩く。


 モズキャッチャーも気づいた。


 顔を上げる。


 KIDが一直線に迫ってくる。


「いくぞ!」


 脚を引く。


 ヒクイドリの爪が大きく展開する。


 モズキャッチャーも腕を構えた。


 迎え撃つつもりだ。


 KIDは止まらない。


 オニヤンマの飛行速度。


 ヒクイドリの強靱な脚。


 そして、爪。


 すべてを。


 一撃に乗せる。


「これで――!」


 距離。


 ゼロ。


「終わりだあああっ!」


 蹴りが。


 モズキャッチャーへ直撃した。


 ――轟音。


 異形の身体が、一直線に地上へ叩き落とされる。


 KIDは寸前で軌道を変えた。


 地面すれすれで減速。


 着地する。


「はぁ……はぁ……!」


 荒い息を吐きながら、顔を上げた。


「…………」


 モズキャッチャーは動かない。


 やがて。


 その身体が、ゆっくりと崩れ始める。


「…………」


 KIDはしばらく、その光景を見つめていた。


 そして。


「……勝った」


 ようやく。


 肩から力が抜ける。


「勝ったぁ……!」


 その場へ座り込みそうになって。


「っと!」


 何とか踏みとどまった。


「痛てて……」


 身体中が痛い。


 何度も地面へ叩き落とされたのだ。


 無理もない。


「…………」


 そこで。


 KIDは地上に立つ謎の戦士へ目を向けた。


「そうだ!」


 近づいていく。


「おい!」


「…………」


「さっきのメモリー!」


 KIDは新たに手に入れた二つを見る。


「助かった。ありがとう」


「…………」


「でも!」


 すぐに指を突きつけた。


「話は別だからな!」


「何の話だ」


「都合だよ!」


「…………」


「こっちにも都合がある、こっちにも都合があるって!」


 一歩詰め寄る。


「都合、都合って一体なんだよ!」


「…………」


 謎の戦士は答えない。


「おい!」


 さらに近づこうとして。


「……あ」


 KIDが止まった。


「?」


「そうだ」


 手持ちのメモリーを確認する。


 一つずつ。


 やはり。


 ない。


「ワシのメモリー」


「…………」


「なくなってる」


 謎の戦士が。


 ほんのわずかに間を置いた。


「そうか」


「…………」


 KIDが顔を上げる。


「お前……」


 謎の戦士を見つめる。


「知ってるのか?」


「…………」


 返事はない。


「おい」


「…………」


「なんか知ってるだろ」


 沈黙。


「また黙るのかよ……!」


 KIDが一歩踏み出した。


 だが。


 謎の戦士は背を向ける。


「あっ、おい!」


 そのまま歩き去ろうとする。


「待てって!」


 追おうとして。


「いっ……!」


 身体に痛みが走った。


「くそ……!」


 一瞬。


 視線を落とす。


 もう一度顔を上げた時には。


「…………」


 姿がない。


「またいなくなった……」


 KIDが深いため息を吐く。


「何なんだよ、あいつ……」


 新しい二つのメモリーを見る。


 助けられた。


 それだけは間違いない。


 だが。


 何者なのか。


 どうしてビーストギアについて知っているのか。


 なぜメモリーを持っているのか。


 そして。


 なぜ三番スロットのことまで知っていたのか。


「…………」


 分からないことは。


 減るどころか。


 増える一方だった。


     ◇


「……静かになった?」


 東が顔を上げた。


 先ほどまで響いていた戦闘音が。


 止まっている。


「…………」


 終わった?


 それとも――。


「…………」


 嫌な考えが頭をよぎる。


『死なない』


 あの戦士は。


 確かにそう言った。


「…………」


 東は元来た道を見る。


 迷ったのは。


 ほんの数秒だった。


「……もう」


 身体が先に動く。


「約束したんだからね……!」


 走る。


 戦場へ。


 あの戦士が無事なのか。


 確かめるために。


 そして。


 もう一人。


 則人。


 あの少年も。


 本当に無事に逃げられたのか。


 それも確かめたかった。


 走る。


 教会が見えてくる。


 壊れた地面。


 戦闘の痕跡。


「…………!」


 そして。


 見つけた。


「いた……」


 あの戦士。


 立っている。


 生きている。


「…………」


 東の身体から、わずかに力が抜けた。


「よかった……」


 声をかけようとした。


 その時だった。


     ◇


「はぁ……」


 KIDは周囲を見回した。


 誰もいない。


 謎の戦士も消えた。


「さすがに……疲れた」


 身体中が痛い。


「帰ったら絶対怒られるな、これ……」


 ぼそりと呟く。


 そして。


「……解除」


 ビーストギアが反応する。


 身体を覆っていた装甲が。


 少しずつ消えていく。


     ◇


「……え?」


 東の足が止まった。


 目の前で。


 謎の戦士の姿が変わっていく。


「…………」


 装甲が消える。


 その内側から。


 一人の人間が現れる。


「…………え?」


 東は瞬きすら忘れた。


 そこに立っていたのは。


 見覚えのある。


 少年。


「…………」


 則人だった。


「……あなた?」


 声が漏れた。


     ◇


「え?」


 則人が振り返る。


「…………」


 東。


「…………」


 顔が固まった。


 東も。


 その場から動かない。


「…………」


 二人の視線がぶつかる。


 東は則人を見る。


 ついさっきまでKIDが立っていた場所を見る。


 そして。


 もう一度。


 則人を見る。


「…………」


 長い。


 長い沈黙。


 東が一歩。


 則人へ近づいた。


「…………」


 則人が半歩。


 後ろへ下がる。


「えっと……」


「…………」


「あの……」


「…………」


 何も思いつかない。


 ごまかしようがない。


 東は。


 まっすぐに則人を見つめた。


「……説明して」


――つづく


――――――――――


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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