第二章 第6話「跳ぶ者、飛ぶ者」
『ビーストギア』
第二章 第6話「跳ぶ者、飛ぶ者」
「今度は、俺の番だ」
一拍。
KIDはモズキャッチャーへ向けて構えた。
「いいね、よろしく!」
その言葉が終わるより早く。
モズキャッチャーが動いた。
速い。
地面を蹴った次の瞬間には、すでにKIDの間合いへ踏み込んでいる。
鋭い腕が横薙ぎに振るわれた。
「っ!」
KIDは半歩、身体をずらす。
凶悪な一撃が鼻先をかすめて通り過ぎる。
生身だった時とは違う。
見える。
反応できる。
そして――反撃できる。
「はっ!」
懐へ潜り込み、拳を叩き込む。
鈍い衝撃。
モズキャッチャーの身体が揺れた。
間髪入れずに踏み込む。
「せいっ!」
蹴りが胴を捉えた。
モズキャッチャーの身体が大きく弾かれ、地面を滑っていく。
「…………!」
少し離れた場所で、東は息を呑んだ。
さっきとは、まるで違う。
自分たちは何人もの警察官で戦った。
特殊銃まで投入した。
それでも、倒せなかった。
仲間まで殺された。
なのに。
目の前の存在は、たった一人で。
あの怪人と戦っている。
「これが……」
動画で見たことはある。
怪人と戦う、正体不明の戦士。
けれど。
画面越しに見るのと。
実際に目の前で見るのとでは、まるで違った。
異形の怪物と、人ならざる姿の戦士。
互いの攻撃が交錯するたび、空気が震える。
東の視線がKIDの背中へ吸い寄せられる。
モズキャッチャーが再び襲いかかった。
拳。
KIDが受け流す。
蹴り。
かわす。
「そこ!」
空いた顔面へ拳を叩き込む。
モズキャッチャーがよろめいた。
「効いてる……」
東には分かった。
特殊銃を受けた時とも違う。
明らかにダメージを受けている。
だが。
KIDも無傷ではない。
モズキャッチャーの腕が、KIDの身体をかすめる。
「ぐっ!」
それだけで身体が大きく揺れた。
KIDは素早く距離を取る。
「くそっ……やっぱ強いな」
戦える。
今なら。
生身とは違う。
真正面から、こいつと戦える。
だが――勝てることと、戦えることは同じではない。
モズキャッチャーもKIDを見つめている。
先ほどまでとは明らかに様子が違った。
警察官たちを相手にしていた時の余裕。
遊ぶような動き。
それが消えている。
「……やっと、こっち見たな」
KIDが構え直す。
モズキャッチャーも理解したのだろう。
目の前にいるのは。
獲物ではない。
自分と戦える相手だと。
「だったら――」
KIDが地面を蹴る。
「そのまま俺だけ見てろ!」
一気に踏み込んだ。
拳。
モズキャッチャーが受ける。
続けて蹴り。
これはかわされた。
すぐさま反撃が飛んでくる。
「っ!」
腕で受け流す。
勢いを殺さず、そのまま身体を回転させた。
「せいやっ!」
回し蹴り。
直撃。
モズキャッチャーの身体が吹き飛び、地面を転がった。
「やった……!」
東が思わず声を上げる。
「まだだ!」
KIDが叫んだ。
次の瞬間。
モズキャッチャーが起き上がる。
「やっぱ頑丈だな……」
KIDが息を整える。
その時。
視界の端に人影が入った。
「…………」
東だ。
「って、まだいたのかよ!」
「え?」
「逃げろ!」
「何言ってるの! あなた一人を残して逃げられるわけないでしょ!」
「いや、だから!」
モズキャッチャーが襲いかかる。
「っ!」
KIDが迎撃。
拳と腕が激突する。
「今それ言ってる場合じゃないだろ!」
「だから私も――」
東が特殊銃を構える。
引き金へ指をかけ。
止まった。
「…………」
撃てない。
弾がない。
それに気づいたKIDが叫ぶ。
「弾、もうないんだろ!」
「……!」
「ここにいたって危ないだけだ!」
「でも!」
「またあいつが、あんたを狙ったらどうすんだよ!」
「…………!」
東が言葉を失う。
「こいつは俺が止める!」
「あなた一人で――」
「大丈夫!」
その一言に。
東の表情が変わった。
「……大丈夫って」
「え?」
「簡単に言わないで」
「…………」
ついさっき。
自分も同じことを言った。
仲間たちに。
『大丈夫』
本当は。
大丈夫なわけがなかった。
だからこそ。
今、その言葉がひどく重く聞こえる。
「……絶対、死なないでよ」
「…………」
「助けてもらった人間を置いて逃げるんだから」
KIDは一瞬だけ黙った。
そして。
モズキャッチャーから目を離さないまま答えた。
「分かった」
「…………」
「死なない」
「……約束だからね」
「ああ!」
東が走り出す。
戦場から離れていく。
その足音が遠ざかるのを確認し。
KIDは息を吐いた。
「よし……」
これで。
東を巻き込まずに戦える。
改めてモズキャッチャーへ向き直る。
「これで遠慮なく――」
言葉が止まった。
いない。
「……え?」
さっきまで目の前にいたはずのモズキャッチャーが。
消えている。
その時。
上から。
空気を切り裂く音がした。
「――っ!」
顔を上げる。
モズキャッチャーが、上空から一直線に襲いかかってくる。
「うおっ!」
KIDが横へ飛んだ。
直後。
さっきまで立っていた場所へ、モズキャッチャーが突っ込む。
激しい衝撃。
地面が砕けた。
「危なっ……!」
KIDがすぐに立ち上がる。
反撃しようと構えた。
だが。
「なっ……!」
もう遅い。
モズキャッチャーは再び上空へ舞い上がっていた。
「飛べるのかよ……!」
上空を旋回。
次の瞬間。
再び急降下。
「くっ!」
KIDがかわす。
すれ違いざまに拳を振るう。
届かない。
モズキャッチャーはそのまま上昇し、再び距離を取った。
「おい!」
KIDが見上げる。
「降りてこいよ!」
返事などない。
「……だよな」
当たり前だ。
地上ではKIDに押されていた。
なら。
わざわざ地上で戦う必要などない。
「頭いいじゃん……!」
風切り音。
また来る。
今度は正面ではない。
斜め後ろ。
「っ!」
気づく。
遅い。
鋭い腕が背中をかすめる。
「ぐっ!」
KIDの身体が前へ転がった。
すぐに起き上がる。
振り返る。
だが。
もういない。
モズキャッチャーは再び空へ逃れている。
「これ、面倒くさいな……!」
KIDは上空を睨んだ。
相手は好きな時に攻撃できる。
こちらは降りてきた瞬間を狙うしかない。
「だったら……」
来る。
モズキャッチャーが急降下する。
「今度こそ!」
KIDが構えた。
引きつける。
まだ。
まだ。
「ここ!」
拳を放つ。
その瞬間。
モズキャッチャーが軌道を変えた。
「なっ!?」
横。
視界から消える。
直後。
「ぐあっ!」
強烈な一撃。
KIDの身体が吹き飛ばされた。
地面を転がる。
「くそっ……!」
すぐに立ち上がる。
上空を見た。
「空をどうにかしないと……」
飛んでいる。
自由に。
「……飛ぶ?」
その言葉で。
KIDの動きが止まった。
「そうだ!」
ある。
自分にも。
「ワシのメモリー!」
あれなら。
「そうだよ! あれ使えば――!」
手持ちのメモリーを探す。
「えっと……」
一つ。
「これじゃない」
もう一つ。
「違う」
さらに探す。
「…………」
ない。
「……あれ?」
もう一度確認する。
ない。
「ない……?」
その瞬間。
上空から風を切る音。
「っ!」
KIDが横へ飛んだ。
モズキャッチャーが地面すれすれを通過する。
「ちょ、待て!」
起き上がり。
もう一度探す。
「ワシ……ワシ……!」
ない。
どこにもない。
「ちょっと待て!」
思わず声が出た。
「ワシのメモリー、どこいった!?」
いつまで持っていた?
どこで使った?
落とした?
いや。
「今考えてる場合じゃない!」
モズキャッチャーが上空で旋回している。
次が来る。
「ワシは後!」
今あるもので何とかするしかない。
手持ちのメモリーを見る。
「飛べなくても……」
そして。
一つのメモリーで手が止まった。
「…………」
ノミ。
KIDが上空を見る。
高い。
だが。
これなら。
「飛べないなら――」
ノミのメモリーを脚部へセットする。
「跳べばいい!」
モズキャッチャーが急降下を始める。
「来い!」
腰を落とす。
脚へ力を込める。
そして――。
地面を蹴った。
ドンッ!
「うおおおっ!」
凄まじい跳躍。
KIDの身体が一気に上空へ跳ね上がる。
モズキャッチャーの動きが。
わずかに乱れた。
予想していなかった。
地上にいた相手が。
一瞬で。
自分と同じ高さまで飛び込んでくるとは。
「届いた!」
KIDが空中で身体をひねる。
「せいやっ!」
蹴り。
直撃。
モズキャッチャーの身体が空中で大きく弾かれた。
「よし!」
KIDはそのまま落下。
着地。
すぐに上空を見上げる。
「いける!」
モズキャッチャーが空中で体勢を立て直している。
「飛べなくても!」
再び脚へ力を込める。
「そこまで行ければ同じだ!」
跳ぶ。
一直線に。
モズキャッチャーへ。
「もらった!」
蹴りを放つ。
だが。
「――え?」
いない。
モズキャッチャーが横へ動いた。
空中で。
KIDの攻撃軌道から外れる。
「ちょ――!」
曲がれない。
KIDは跳んだ勢いのまま上昇していく。
「まずっ……!」
背後。
モズキャッチャーが回り込んでいる。
「――っ!」
強烈な一撃。
「ぐああっ!」
KIDの身体が地上へ叩き落とされた。
激突。
「がっ……!」
背中から地面へ落ちる。
一瞬。
呼吸が止まった。
「っ……は……!」
無理やり息を吸う。
「何だよ……今の……!」
上を見る。
モズキャッチャーは空中にいる。
自由に。
動いている。
「もう一回……!」
KIDが立ち上がった。
跳ぶ。
今度は拳。
だが。
かわされる。
「くそっ!」
また空中で無防備になる。
背後へ回り込まれる。
「っ!」
KIDが身体をひねった。
直撃だけは避ける。
それでも腕が当たる。
「ぐっ!」
軌道が崩れた。
どうにか着地するが、片膝をつく。
「まだ!」
すぐに立ち上がる。
跳ぶ。
かわされる。
落ちる。
また跳ぶ。
今度はフェイントを入れる。
それでも。
モズキャッチャーは空中で自由に方向を変える。
「なんでだよ!」
着地。
息が荒い。
「高さは足りてるのに……!」
跳躍力そのものは問題ない。
モズキャッチャーのいる場所まで届いている。
速さだってある。
なのに。
当たらない。
「…………」
KIDは上空を見た。
モズキャッチャーが右へ。
左へ。
自由自在に動いている。
そこで。
ようやく気づいた。
「……違う」
ノミのメモリーが弱いわけではない。
問題はそこじゃない。
「俺は……」
KIDは自分の脚を見る。
「跳んでるだけだ」
地面を蹴る。
高く。
速く。
それはできる。
だが。
一度地面から離れてしまえば。
その後は、ほとんど軌道を変えられない。
一方。
あいつは。
「飛んでる……」
空中で加速できる。
減速できる。
曲がれる。
好きな方向へ動ける。
「全然違うじゃん……!」
モズキャッチャーが急降下する。
「っ!」
KIDがかわす。
だが。
完全には避けきれない。
「ぐっ!」
肩へ一撃。
身体が地面を転がる。
「くそ……!」
立ち上がる。
上空を睨む。
「ワシがあれば……!」
だが。
ない。
なぜなくなったのか。
今は分からない。
考えている時間もない。
◇
東は走っていた。
だが。
その足は。
少しずつ遅くなっていた。
「…………」
遠くから戦闘音が聞こえる。
激しい。
さっきよりも。
明らかに。
東の足が止まった。
『こいつは俺が止める!』
あの戦士の言葉が頭に残っている。
「死なないって……」
約束した。
けれど。
そんな保証はどこにもない。
そして。
もう一人。
「あの少年……」
則人。
あの時の少年。
生きていた。
再会できた。
それなのに。
また途中で別れてしまった。
本当に逃げ切れたのか。
「…………」
東が振り返る。
遠くから。
また大きな音が響いた。
「……大丈夫なの?」
一歩。
元来た方向へ足が動く。
だが。
止まった。
戻って。
何ができる。
銃は弾切れ。
自分が戻れば。
またモズキャッチャーに狙われるかもしれない。
「…………」
分かっている。
戻るべきではない。
それでも。
東は。
戦いの続く方向から目を離せなかった。
◇
「はぁ……はぁ……!」
KIDの呼吸が荒い。
身体のあちこちが痛む。
上空では。
モズキャッチャーが旋回している。
「完全に……」
KIDが睨む。
「読まれてるな……」
最初の一発。
あれだけは通用した。
ノミの跳躍を知らなかったからだ。
だが。
もう同じ手は通じない。
こちらが跳ぶ。
相手がかわす。
空中で無防備になったところを狙われる。
単純な話だ。
そして。
その単純な差を埋める方法がない。
「…………」
それでも。
他に手はなかった。
ワシのメモリーはない。
地上で待っていても。
相手は自分の好きな角度から攻撃してくる。
「だったら……」
KIDが腰を落とした。
「やるしかないだろ!」
モズキャッチャーが上空を旋回する。
脚へ力を込める。
KIDが地面を蹴った。
ドンッ!
一気に上昇する。
「今度こそ!」
モズキャッチャーへ向かう。
距離が縮まる。
蹴りを放つ。
その瞬間。
モズキャッチャーが横へ動いた。
「しまっ――!」
空振り。
KIDは止まれない。
軌道も変えられない。
そして。
モズキャッチャーは。
それを待っていた。
「――っ!」
背後。
振り向く。
遅い。
強烈な一撃が。
KIDの背中へ直撃した。
「ぐああああっ!」
地上へ。
叩き落とされる。
激突。
「――がっ!」
地面を転がる。
一度。
二度。
三度。
ようやく止まった。
「…………」
動かない。
上空から。
モズキャッチャーがKIDを見下ろしている。
数秒。
静寂。
「…………」
KIDの指が動いた。
「……まだ」
地面へ手をつく。
腕が震える。
「まだ……」
身体を起こす。
膝を立てる。
「終わって……ない……!」
ふらつきながら。
立ち上がる。
それでも。
構えた。
「来いよ……!」
上空。
モズキャッチャーが旋回をやめる。
「…………」
KIDが見上げた。
モズキャッチャーの身体が。
まっすぐ。
こちらへ向く。
「……来る」
次の瞬間。
急降下。
速い。
「っ!」
KIDが脚へ力を込める。
ノミで跳ぶか。
横へかわすか。
迎撃するか。
だが。
身体が。
思うように動かない。
「くそ……!」
モズキャッチャーが迫る。
十メートル。
さらに。
五メートル。
「動け……!」
KIDが歯を食いしばる。
「動けよ……!」
もう。
目の前。
「――っ!」
モズキャッチャーの一撃が。
KIDへ迫った。
――つづく
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※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。
物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。
本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




