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ビーストギア  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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第二章 第5話「再会」

『ビーストギア』


第二章 第5話「再会」


「作戦中止!」


 東の声が、銃声の中を鋭く走った。


「全員撤退! 負傷者を最優先! 囮役もすぐに退避させて!」


「了解!」


 返事と同時に、警察官たちが動き出す。


 負傷した仲間に肩を貸す者。


 囮役の女性を守りながら後退する者。


 そして――もう二度と、自分の足では歩けなくなった仲間を運ぶ者。


 東の視線が、一瞬だけそこへ吸い寄せられた。


『じゃあ、生きて帰りましょう』


 ほんの少し前まで、彼女はそう言っていた。


 生きて帰る。


 当たり前のことのように。


 笑って。


「東さん!」


「――分かってる!」


 東は無理やり視線を引き剥がした。


 今は悲しむ時間ではない。


 目の前には、まだ――モズキャッチャーがいる。


「撃って! 近づけさせないで!」


 特殊銃が次々と火を噴く。


 乾いた銃声が夜の街に重なり、弾丸が異形の身体へ突き刺さる。


 モズキャッチャーの身体が揺れた。


 一歩、後退する。


 効いている。


 通常の拳銃とは明らかに違う。


 だが――。


「倒れない……!」


 シロアリ型の怪人には通用した。


 複数人で集中射撃すれば、仕留めることもできた。


 しかし、こいつは違う。


 弾丸を受ければ怯む。


 動きも止まる。


 それでも、倒れない。


「撃ちながら下がって! 一人で止めようとしないで!」


 撃つ。


 止める。


 下がる。


 別の者が撃つ。


 また下がる。


 警察官たちは互いに援護しながら、少しずつモズキャッチャーとの距離を取っていく。


 白目博士の特殊銃がなければ、とっくに追いつかれていただろう。


 だが、これも永遠には続かない。


 弾には限りがある。


 そして何より――相手が、この程度で諦めるとは思えない。


「東さん! 早く!」


「先に行って!」


「でも!」


「いいから! 負傷者を連れて離れて!」


「東さんも一緒に!」


「…………」


 その時。


 モズキャッチャーの顔が、ゆっくりと動いた。


 囮役の女性ではない。


 撤退していく警察官でもない。


 その視線は――まっすぐ東へ向けられていた。


「……え?」


 ぞくりと。


 背筋を冷たいものが走る。


 思い出す。


 最初の遭遇。


 自分は、あの異形を見た。


 その後、殺され始めた女性たち。


 黒いロングヘア。


 白いトップス。


 赤いスカート。


 自分と同じ特徴を持った女性たち。


 あの時は、正確に自分を見分けられていなかった。


 だから、似た人間を片っ端から狙っていた。


 だが――。


「……私を覚えた?」


 答えるように、モズキャッチャーが踏み出した。


 東へ向かって。


「東さん!」


「先に行って!」


 東は叫んだ。


「こいつの狙いは私!」


「だったら、なおさら一緒に――」


「私が一緒にいたら、こいつもついてくる!」


「……!」


「負傷者を連れて逃げて!」


「でも、一人じゃ!」


「大丈夫!」


 自分でも分かる。


 ひどい嘘だ。


 大丈夫なわけがない。


 特殊銃ですら、こいつを倒せなかった。


 ついさっき。


 仲間が一人、殺された。


 それでも。


 これ以上、誰かを巻き込むわけにはいかない。


 東は銃を握り直した。


「早く!」


 仲間たちが迷う。


 その間にも、モズキャッチャーは近づいてくる。


「……必ず戻ってください!」


「分かってる!」


 警察官たちが撤退を再開する。


 東は、その背中から引き離すように反対方向へ走った。


「こっちよ!」


 振り返りざまに撃つ。


 命中。


 モズキャッチャーの上体が揺れる。


「あなたが欲しいのは私でしょ!」


 挑発するように叫び、再び走る。


 モズキャッチャーは――迷わなかった。


 東を追う。


「……やっぱりね」


 怖くないはずがない。


 それでも東は走った。


 これでいい。


 少なくとも。


 仲間たちからは引き離せる。


     ◇


 則人は走っていた。


 先ほどまで遠くに聞こえていた銃声が、今でははっきりと耳に届く。


 近い。


 もう、すぐそこだ。


「……!」


 角を曲がった瞬間。


 複数の人影が目に飛び込んできた。


「警察……?」


 警察官たちだ。


 だが、様子がおかしい。


 こちらへ向かってくる。


 負傷した人間に肩を貸している者。


 血を流している者。


 女性を守るように囲んでいる者。


 そして――。


「…………」


 則人の足が、一瞬だけ止まった。


 運ばれている女性。


 力なく垂れた腕。


 揺れても、何の反応もない身体。


 嫌でも分かってしまった。


「君!」


 警察官の一人が則人に気づく。


「何してる! ここから離れろ!」


「向こうで何があったんですか!?」


「いいから逃げろ! ここは危険だ!」


 その時。


 パンッ――!


 再び銃声。


 則人が顔を上げた。


 まだ聞こえる。


 つまり。


 まだ誰かが残っている。


「……誰か、まだ向こうにいるんですか?」


「君! 待て!」


 答えを聞くより早く、則人は走り出していた。


「そっちへ行くな!」


 背後から制止する声が飛ぶ。


 それでも。


 則人は止まらなかった。


 銃声のする方へ。


 全速力で駆けていく。


     ◇


「……最悪」


 走りながら残弾を確認し、東は顔をしかめた。


 少ない。


 予備も、もうほとんどない。


 背後から迫る気配。


 振り返る。


「っ!」


 撃つ。


 命中。


 モズキャッチャーの動きが止まる。


 その隙に走る。


 だが。


 数秒もしないうちに、また背後から気配が迫ってくる。


 速い。


 少しずつ。


 確実に距離を詰められている。


「こんなところで……!」


 死ねない。


 死ぬわけにはいかない。


 さっき。


 一人、死んだ。


 もう。


 これ以上は――。


「――あっ!」


 不意に。


 聞き覚えのない声がした。


「何!?」


 東が振り向く。


 こちらへ向かって、一人の少年が走ってくる。


 こんな場所に。


 どうして――。


「…………!」


 東の目が見開かれた。


 知っている。


 あの顔を。


 忘れるはずがない。


「あの時の……!」


 則人も東を見つけた。


「……あ!」


 足が止まりそうになる。


 あの人だ。


 あの日。


 自分が逃がした女性。


 その後どうなったのか。


 ずっと分からなかった。


「生きてた……」


 思わず、言葉が漏れた。


 よかった。


 ほんの一瞬だけ。


 心の底から、そう思った。


 だが。


「来ちゃダメ!」


 東の叫びが飛ぶ。


「え?」


「逃げて!」


 東が銃を構えた。


「ここに来ちゃダメ! 早く逃げなさい!」


 則人の視線が、その向こうへ移る。


 異形の姿。


「……怪人」


「分かってるなら逃げて!」


 モズキャッチャーの顔が、則人へ向いた。


「危ない!」


 東が叫ぶ。


 次の瞬間。


 モズキャッチャーが地面を蹴った。


 一気に距離を潰す。


「逃げ――!」


 東の声より早く。


 異形の腕が、則人の頭部を薙ぎ払った。


 ――はずだった。


「え?」


 則人の身体が沈む。


 ほんの紙一重。


 凶悪な一撃が、その頭上を通過した。


 避けた。


 偶然ではない。


 則人は低く沈んだ姿勢から、そのまま懐へ踏み込む。


「はっ!」


 拳を打ち込む。


 胴。


 確かに捉えた。


「っ……硬っ!」


 返ってきた感触に顔をしかめる。


 岩。


 いや、それ以上かもしれない。


 人間を殴った時とは、まるで違う。


「やっぱり生身じゃ……!」


 モズキャッチャーが腕を返す。


 則人は後ろへ跳ぶ。


 避ける。


 さらに追撃。


「っ!」


 身体をひねる。


 またかわす。


「……何?」


 東は銃を構えたまま、目の前の光景を理解できずにいた。


 この少年。


 何をしている?


 モズキャッチャーが踏み込む。


 則人も動く。


 正面から受けない。


 半歩。


 身体をずらす。


 最小限の動きで攻撃線から外れる。


 だが。


 それでも相手の方が速い。


「くっ!」


 避けきれない。


 則人は腕を上げた。


 直撃だけは避ける。


 次の瞬間。


 凄まじい衝撃が腕を突き抜けた。


「ぐっ……!」


 身体が宙へ浮く。


 数メートル先へ吹き飛ばされ、地面を転がった。


「危ない!」


 東が撃つ。


 特殊弾がモズキャッチャーへ命中。


 異形の動きが止まる。


「大丈夫!?」


「っ……大丈夫!」


 則人が地面へ手をつき。


 立ち上がった。


「大丈夫なわけないでしょ!」


 東は思わず叫んだ。


 だが。


 本当に立っている。


 しかも。


 再び構えた。


「…………」


 東は目を疑った。


 ついさっきまで。


 何人もの警察官で、この怪人と戦っていた。


 格闘技術を持つ人間ですら。


 まともに戦うことなどできなかった。


 なのに。


 目の前の少年は違う。


 勝てているわけではない。


 むしろ。


 圧倒的に怪人の方が強い。


 攻撃を当てても通用しない。


 一撃受けただけで吹き飛ばされる。


 それでも。


 攻撃が見えている。


 反応できている。


 避けている。


 そして。


 反撃までしている。


 十七歳の少年が。


 生身で。


「あなた……」


 東の口から。


 自然と疑問が漏れた。


「何者なの……?」


     ◇


「くそ……!」


 則人はモズキャッチャーから目を離さない。


 腕が痺れている。


 まともに受けたわけでもない。


 それなのに、この威力。


 動きは見える。


 ある程度なら反応もできる。


 戦えないわけじゃない。


 でも――。


 勝てない。


 生身では、こちらの攻撃が通らない。


 逆に、向こうの攻撃をまともにもらえば一発で終わる。


「…………」


 変身するしかない。


 だが。


 東がいる。


 目の前で変身するわけにはいかない。


「君!」


 東が叫ぶ。


「逃げるわよ!」


「え?」


「今のうちに!」


 東が特殊銃を撃つ。


 モズキャッチャーが怯んだ。


「走って!」


 東が駆け出す。


 則人も後を追う。


「早く!」


「分かってる!」


 二人で走る。


 背後からモズキャッチャーが追ってくる。


「あなた、何なの!?」


「何が!?」


「何であんな動きできるのよ!」


「空手やってるから!」


「空手でどうにかなる相手じゃないでしょ!」


「俺だってそう思ってるよ!」


 東が走りながら振り返る。


 発砲。


 モズキャッチャーが一瞬止まる。


「とにかく逃げる!」


「でも、あいつ――」


「いいから!」


 則人は走りながら考える。


 このままでは変身できない。


 何とか東と離れなければ。


 それに――。


 則人は背後を見る。


 さっきから。


 あの怪人の視線は。


「……あんただ」


「え?」


「さっきから、あいつ」


 則人は東を見る。


「俺じゃなくて、あんたを追ってる!」


「…………」


 東は答えなかった。


 否定できない。


「だったら!」


 則人が言う。


「あんたが逃げて!」


「は?」


「俺が止める!」


「何言ってるの!」


「少しくらいなら時間稼げる!」


「ダメ!」


「でも!」


「子供を残して逃げられるわけないでしょ!」


「子供じゃない!」


「十七歳は子供!」


「なんで年齢知ってんだよ!」


「今それどうでもいいでしょ!」


「じゃあ、あんたが逃げて!」


「嫌よ!」


「俺も嫌だよ!」


 二人とも譲らない。


 逃げながら。


 互いに互いを逃がそうとしている。


 その時。


 則人の目に、左右へ分かれる道が映った。


「……じゃあ!」


「何!?」


「分かれよう!」


「は!?」


「二人で同じ方向に逃げるから追われるんだ!」


「でも――」


「俺は左!」


 則人が分岐を指す。


「あんたは右!」


「待って!」


「どっちを追うか分かれば、もう一人は逃げられる!」


「そんな――」


「大丈夫!」


 東は則人を見る。


 その顔が。


 あの日と重なった。


 あの時も。


 この少年は。


 自分を逃がすために、その場へ残った。


 自分を先に行かせて。


 怪人の前に。


 一人で。


 だから。


 今度は。


「……ダメ」


「え?」


「あなたは逃げて」


「だから!」


「今度は私が――」


 東が振り返る。


 発砲。


 モズキャッチャーの足が止まる。


 東は則人を見た。


「あなたを守るから!」


「…………!」


 則人の足が、一瞬だけ止まりかけた。


 だが。


 モズキャッチャーは待ってくれない。


「だったら!」


 則人が叫ぶ。


「二人とも逃げればいい!」


 分岐が迫る。


「絶対逃げろよ!」


「それはこっちの台詞!」


 二人が左右へ分かれた。


 則人は左。


 東は右。


 モズキャッチャーが一瞬だけ立ち止まる。


「…………」


 走りながら。


 則人は振り返った。


 どっちだ。


 こっちへ来るか。


 それとも――。


 モズキャッチャーは。


 迷うことなく。


 東を追った。


「……!」


 やっぱり。


 狙いは、あの人だ。


「待ってろ!」


 則人は角を曲がる。


 建物の陰へ飛び込んだ。


 周囲を確認する。


 誰もいない。


 警察も。


 東も。


 ここからは見えない。


「…………」


 則人はビーストギアを取り出した。


 腰へ回し。


 ベルトを装着する。


 あの時は。


 逃がすことしかできなかった。


 自分が残って。


 彼女を逃がす。


 それしかできなかった。


 でも。


 今は違う。


「今度は……」


 則人は顔を上げる。


「助ける!」


 そして――。


「配信開始!」


     ◇


「はぁ……はぁ……!」


 東は走り続けていた。


 背後から。


 モズキャッチャーが迫る。


「っ!」


 振り向く。


 撃つ。


 命中。


 怯む。


 また走る。


 残弾を確認する。


「……嘘でしょ」


 ほとんど残っていない。


 それでも。


 走るしかない。


 さっきの少年は、反対方向へ逃げた。


 なら。


 これでいい。


「あの子は……」


 生きていた。


 あの時。


 自分を逃がすために。


 その場へ残った少年。


 その後。


 どうなったのか分からなかった。


 ずっと気になっていた。


「あの少年……生きてたんだ……」


 胸の奥に。


 小さな安堵が広がる。


 よかった。


 本当に。


 生きていた。


 だからこそ。


 今度は。


 私が守らなきゃ。


「絶対……逃げなさいよ……!」


 東が走る。


 だが。


 モズキャッチャーは速い。


「――!」


 突然。


 前方へ影が落ちた。


「っ!」


 東が急停止する。


 目の前に。


 モズキャッチャーがいた。


「……冗談でしょ」


 回り込まれた。


 逃げ道を塞がれている。


 東は銃を構えた。


「来ないで……!」


 モズキャッチャーが一歩近づく。


 東が撃つ。


 命中。


 身体が揺れる。


 だが。


 止まらない。


「もう一発……!」


 引き金を引く。


 銃声。


 命中。


 それでも。


 倒れない。


「…………」


 東がもう一度、引き金を引いた。


 カチッ。


「……あ」


 弾切れ。


 モズキャッチャーが。


 ゆっくりと近づいてくる。


 一歩。


 また一歩。


 東も後ろへ下がる。


 だが。


 すぐに背中が壁へ当たった。


「……ここまで?」


 逃げ道はない。


 モズキャッチャーが腕を上げる。


「…………!」


 東は目を逸らさなかった。


 怖い。


 それでも。


 最後まで。


 目を逸らしたくなかった。


 異形の腕が振り下ろされる。


 ――その直前。


 何かが。


 横から飛び込んだ。


 激突。


「――っ!」


 モズキャッチャーの身体が、大きく横へ弾かれた。


「……え?」


 東には。


 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。


 何かがいる。


 自分の前に。


 人影。


 いや。


 人間とは違う。


 だが。


 怪人とも違う。


 その存在は。


 東を庇うように。


 モズキャッチャーとの間へ立っていた。


「…………」


 東の目が大きく見開かれる。


 この姿。


 見覚えがある。


 直接見たことはない。


 だが。


 知っている。


 ネットに出回った動画。


 怪人と戦っていた。


 正体不明の戦士。


「……動画の……?」


 映像ではない。


 本物だ。


 今。


 目の前にいる。


「あなた……」


 ビーストギアKIDは振り返らない。


 モズキャッチャーだけを見ている。


 一方。


 モズキャッチャーも、すぐには襲いかからなかった。


 先ほどまでとは違う。


 警察官たちに向けていたものとは違う警戒。


 目の前の存在が。


 自分と戦える相手だと。


 本能で理解しているかのように。


 KIDが静かに構える。


 その背中を。


 東は見つめていた。


 動画の中でしか知らなかった。


 怪人と戦う謎の存在。


 それが今。


 自分を守るために。


 目の前に立っている。


 KIDが小さく口を開いた。


「今度は、俺の番だ」


 一拍。


 そして。


 モズキャッチャーへ向かって。


「いいね、よろしく!」


――つづく


――――――――――


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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