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ビーストギア  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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第4話「早贄」

ビーストギア


第二章


第4話「早贄」


「……また、この事件か」


 則人は朝食の手を止めた。


 パンさんの店。


 いつもの席。


 いつもの朝。


 けれど、テレビから流れてくるニュースだけは、いつも通りではなかった。


『都内で相次いで発生している女性連続殺人事件について、警察は同一犯による犯行の可能性が高いとみて捜査を続けています』


 画面が切り替わる。


 規制線。


 鉄塔。


 街灯。


 そして、教会。


『被害者はいずれも、通常では考えにくい高所や構造物に突き刺された状態で発見されており――』


「…………」


 則人は箸を止めた。


「なんで、わざわざそんなところに……」


「気味の悪い事件だな」


 パンさんもテレビへ目を向ける。


「モズの早贄みたいだ」


「……モズ?」


 則人が振り返った。


「早贄って何?」


「知らないか?」


「知らない」


「モズって鳥がいるだろ。捕まえた獲物を、木の枝とか尖ったものに突き刺して残す習性があるんだよ」


「…………」


 則人の表情が変わった。


「突き刺す?」


「ああ。虫とかカエルとかな」


 則人は、もう一度テレビを見る。


 鉄塔。


 ポール。


 十字架。


 そこへ、まるで飾られるように残された被害者たち。


「……モズ」


 小さく呟く。


 頭の中で、一つの言葉が別の言葉とつながった。


 怪人。


 人間ではない存在。


 そんなものが本当にいることを、則人は知っている。


「パンさん」


「ん?」


「モズって、獲物を刺す場所は決まってるの?」


「いや。そこまで決まってるわけじゃないと思うぞ」


 パンさんは少し考えた。


「枝とか有刺鉄線とか。獲物を引っかけたり、刺したりできるところならな」


「そっか……」


 則人は考える。


 もし。


 この事件が人間の仕業ではなく。


 モズの特徴を持った怪人の仕業だとしたら。


 次も、同じような場所を狙うのではないか。


「……これ」


「ん?」


「怪人だったりして」


「何か言ったか?」


「何でもない!」


 則人は慌てて食事へ戻った。


 けれど。


 もう事件のことは、頭から離れなかった。


     ◇


「あ、やっぱりダメだったか」


「…………」


 東の眉がぴくりと動いた。


「今、何て言った?」


「やっぱりダメだったか」


「二回言わなくていい!」


 白目博士は不思議そうに東を見る。


「東さんが聞いたんじゃない」


「そういう問題じゃないの!」


 研究室。


 机の上には、前回東が使用した特殊銃が置かれていた。


「普通の拳銃は、ほとんど効かなかった」


「うん」


「これだけは効いた」


「うん」


「でも、倒せなかった。怯ませただけ」


「だから、やっぱりダメだったか」


「軽い!」


「でも、効いたんでしょ?」


「効いたけど!」


「じゃあ成功だよ」


 白目博士は平然としている。


「最初から倒せるなんて言ってないし」


「…………」


 東は額を押さえた。


「もういい。それより――」


 机の上の銃を見る。


「同じもの、用意できる?」


「何丁?」


「次の作戦に参加する全員分」


「できるよ」


「即答なんだ……」


「必要なんでしょ?」


「必要」


 東は頷いた。


「前回、通常拳銃がほとんど意味を持たなかった。次も同じ装備で行くわけにはいかない」


「うん」


「これなら、少なくとも怪人を怯ませられる」


「うん」


「だから、全員分欲しい」


「分かった」


 白目博士は部屋の奥へ向かう。


「ちょっと待って」


「なに?」


「本当に人数分あるの?」


「あるよ」


「……いつ作ったの?」


「前から」


「前から?」


「銃の方は、もうだいたい形になってたから」


 東の目が細くなる。


「だったら最初から出してよ」


「だって、本当に怪人に効くか分からなかったし」


「それを私に持たせたの?」


「実戦データは必要だから」


「やっぱり私で実験したんじゃない!」


「似てるけど、ちょっと違う」


「同じよ!」


 白目博士は気にした様子もなく、ケースを並べていく。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 必要な人数分。


「これで足りる?」


「……足りる」


「じゃあ持ってって」


「ありがとう」


「あ、でも」


 白目博士の声が変わった。


 ほんの少しだけ。


 いつもの軽さが消える。


「近づかれたら逃げてね」


「近づかれたら?」


「うん」


 白目博士は、自分の腕を軽く叩いた。


「銃はだいたい形になってる。でも、こっちはまだ」


「こっち?」


「近接戦闘用のギア」


 東が黙る。


「前回、怪人と殴り合った人がいたんでしょ?」


「いた」


「もうやらせないで」


「…………」


「上手いとか下手とかじゃないんだよ」


 白目博士は言った。


「人間と怪人じゃ、身体そのものが違いすぎる」


 東の脳裏に、前回の戦闘が蘇る。


 何度も正確な打撃を叩き込んだ女性警察官。


 それでも、モズキャッチャーにはほとんど通用しなかった。


「分かってる」


「近づかれたら逃げる」


「分かった」


「本当に?」


「全員に言っておく」


「ならいいよ」


 白目博士は、またいつもの調子へ戻った。


「死なれたら困るし」


「……そういうこと、最初から普通に言えるじゃない」


「僕、普通に言ったよ?」


「もういい」


 東はケースを持ち上げた。


     ◇


 則人は店を出たあとも、事件について考えていた。


「モズの早贄……」


 スマートフォンで、報道されている範囲の情報を調べる。


 もちろん。


 警察の捜査資料など見られるはずもない。


 分かるのは、ニュースや記事に出ている程度の情報だけ。


 それでも。


 遺体が発見された場所には、ある程度の共通点があった。


「鉄塔……」


 画面を送る。


「街灯……」


 さらに。


「教会……」


 どこにも。


 獲物を突き刺せそうなものがある。


「もし、本当にモズの怪人なら……」


 則人は地図を開いた。


 似たような場所。


 鉄塔。


 高いポール。


 十字架のある教会。


「こういうところに来るのかな……」


 ただの推測だ。


 何の確証もない。


 それでも。


 怪人が実在することだけは知っている。


「警察に……」


 そこまで考えて。


 則人は止まった。


「怪人が出るかもしれません、って?」


 自分で言ってみる。


「……信じてもらえないよな」


 則人はスマートフォンの地図を見る。


 少し迷ってから。


 一つの場所を選んだ。


 教会。


「見るだけなら……」


 怪人がいると決まったわけではない。


 何もなければ。


 そのまま帰ればいい。


 そう自分に言い聞かせて。


 則人は歩き出した。


     ◇


「今回は、これを全員に携行してもらいます」


 東は並んだ警察官たちを見渡した。


 白目博士から受け取った特殊銃。


 ケースが一人ずつに渡されていく。


「前回の接触で、通常拳銃は怪人にほとんど通用しないことが確認されました」


 東は続ける。


「この銃は、私が実際に使用しています。少なくとも、あの怪人を怯ませることはできた」


「なら、今回は数がありますね」


「だからといって、勝てるとは思わないで」


 東が即座に返す。


「前回は、相手が逃げただけ。倒したわけじゃない」


 全員の顔を見る。


「それから、もう一つ」


 東の視線が。


 前回モズキャッチャーと直接戦った女性警察官へ向いた。


「近接戦闘は禁止」


「…………」


「聞いてる?」


「聞いてますよ」


「前回みたいなのはなし」


「分かってます」


「白目博士からも言われた。人間の身体で怪人と殴り合うのは無理だって」


 女性警察官は、少しだけ黙った。


 そして。


「……それは、私が一番よく分かってます」


 拳を握る。


「全然、効かなかったですから」


 東は彼女を見る。


「今回は銃がある」


「はい」


「接近されたら、撃ちながら下がる」


「了解」


「絶対に一人で戦わない」


「分かってますって」


 女性警察官は苦笑した。


 東も、それ以上は言わなかった。


「囮役は?」


「準備できています」


 別室から。


 一人の女性が姿を現した。


 黒いストレートのロングヘア。


 白いトップス。


 赤いスカート。


「…………」


 東の表情が、一瞬だけ固くなる。


 かつての自分。


 そして。


 殺された女性たちと同じ姿。


「怖くないですか?」


 東が尋ねる。


「怖いですよ」


 女性は素直に答えた。


「でも、また誰かが殺されるよりは」


「…………」


 東は頷いた。


「必ず守ります」


     ◇


 夜。


 教会。


 大きな十字架が、暗い空へ伸びている。


 その周囲に、東たちは配置についていた。


 囮役の女性が一人で歩く。


『各員、状況は?』


『異常なし』


『こちらも異常ありません』


『問題なし』


 東は特殊銃を握る。


「…………」


『東さん』


「何?」


 通信機から。


 前回モズキャッチャーと戦った女性警察官の声がする。


『緊張してます?』


「してるわよ」


『珍しい』


「私を何だと思ってるの?」


『怖いもの知らず』


「あとで覚えてなさい」


『生きて帰ったら』


「縁起でもないこと言わないで」


 少しの沈黙。


『じゃあ、生きて帰りましょう』


「当然」


 東は周囲を見る。


 そして。


 音がした。


 カサ。


 カサカサ。


「…………」


 東の表情が変わる。


『何か聞こえました』


『こちらも確認』


「全員警戒」


 東が囮役を見る。


「囮を下げて」


『了解』


 物音が増える。


 一つではない。


 複数。


 暗がりから。


 何かが姿を現した。


「……違う」


 東が呟く。


 モズキャッチャーではない。


 シロアリを思わせる異形。


 一体。


 さらに。


 二体。


 三体。


「複数いる!」


「囮を安全圏へ!」


 東が銃を構える。


「全員、射撃準備!」


 シロアリ型の怪人たちが動く。


「撃て!」


 特殊銃が一斉に火を噴いた。


 轟音。


 弾丸を受け。


 一体のシロアリ型怪人が身体を大きく揺らす。


「効いてる!」


「続けて!」


 二発。


 三発。


 怪人が倒れた。


「……倒した?」


「次!」


 東は止めない。


 集中射撃。


 二体目。


 倒れる。


 三体目。


 さらに射撃。


 倒れる。


「いける……!」


 誰かが言った。


 前回とは違う。


 白目博士の武器は、この怪人たちには明確に通用している。


 人間でも。


 武器さえあれば。


 怪人と戦える。


 そんな感覚が、その場にいる者たちの中に生まれ始める。


 だが。


 東だけは銃を下ろさなかった。


「まだよ」


「東さん?」


「あいつがいない」


 前回の怪人。


 自分を狙っていた存在。


「モズキャッチャーが、まだ来てない」


     ◇


 則人は教会へ向かって歩いていた。


「もう少し先か……」


 スマートフォンの地図を見る。


 まだ、教会そのものは見えない。


 周囲にも、特に異常はない。


「やっぱり、考えすぎだったかな」


 そう思った。


 その時。


 ――パンッ。


「…………?」


 則人が足を止めた。


 今。


 何か。


 聞こえた。


 少し間を置いて。


 パンッ。


 パンッ。


 今度は一発ではない。


「……銃声?」


 則人の表情が変わる。


 方向は。


 自分が向かっていた先。


「まさか……」


 則人は歩くのをやめた。


 走り出した。


     ◇


「来る!」


 女性警察官が叫んだ。


 東が顔を上げる。


「どこ!?」


「上!」


 教会。


 その大きな十字架。


 月明かりを背に。


 一つの影が立っていた。


「…………!」


 東の顔が強張る。


 知っている。


 前回。


 自分を狙って現れた怪人。


「モズキャッチャー……」


 怪人は。


 十字架の上から、警察官たちを見下ろしている。


 その視線が。


 ゆっくりと。


 囮役の女性へ向けられた。


「全員構えて!」


 特殊銃が一斉に向けられる。


「来る!」


 モズキャッチャーが。


 十字架から飛び降りた。


 着地。


 同時に。


「撃て!」


 銃声が重なる。


 特殊銃の弾丸が、次々とモズキャッチャーへ命中する。


 身体が揺れる。


 足が止まる。


「効いてる!」


「撃ち続けて!」


 さらに。


 銃撃。


 モズキャッチャーが腕で身体を庇う。


 前回とは違う。


 一丁ではない。


 複数の特殊銃による集中射撃。


「押せてる!」


 警察官の一人が声を上げる。


 確かに。


 モズキャッチャーは前へ進めない。


「このまま――」


 東が言いかけた。


 その瞬間。


 モズキャッチャーの姿が消えた。


「え?」


「散って!」


 遅い。


 一瞬で。


 距離を潰された。


「近い!」


 陣形が崩れる。


 銃は通用する。


 だが。


 当てられる距離にいる限りは。


「下がって!」


 東が叫ぶ。


「撃ちながら距離を取って!」


 モズキャッチャーの腕が振るわれる。


 一人の警察官が弾き飛ばされた。


「っ!」


「救護!」


 別の警察官へ。


 怪人が迫る。


 射線が重なり。


 撃てない。


「どいて!」


 女性警察官が飛び込んだ。


「ダメ!」


 東が叫ぶ。


「近接戦闘は――!」


「分かってます!」


 拳を放つ。


 モズキャッチャーが受ける。


「でも!」


 次の一撃。


「このままじゃ撃てないでしょ!」


 女性警察官は。


 勝つために前へ出たわけではなかった。


 仲間を逃がすため。


 射線を作るため。


 ほんの少し。


 時間を稼ぐため。


「下がって!」


 東が叫ぶ。


「もういい! 離れて!」


「今、下がります!」


 女性警察官が距離を取ろうとする。


 だが。


 モズキャッチャーの動きが変わった。


「――!」


 速い。


 前回とは違う。


 遊んでいない。


 女性警察官が反応する。


 かわす。


 一撃。


 二撃。


 避ける。


 拳を返す。


 命中。


 だが。


 効かない。


「っ……!」


 分かっている。


 自分の技術が足りないのではない。


 人間の身体では、届かない。


「離れて!」


 東が叫ぶ。


 女性警察官が後ろへ跳ぼうとした。


 その瞬間。


 モズキャッチャーが踏み込んだ。


「――っ!」


 強烈な一撃。


 女性警察官の身体が宙へ浮く。


 地面へ叩きつけられた。


「……っ」


「撃て!」


 東が叫ぶ。


 一斉射撃。


 モズキャッチャーが後退する。


「今!」


 東が倒れた女性警察官へ駆け寄る。


「大丈夫!?」


「…………」


「ねえ!」


 返事がない。


「しっかりして!」


 東が身体を抱き起こす。


「ねえ……!」


 呼吸。


 反応。


 確認する。


「…………」


 東の顔から。


 血の気が引いた。


「嘘……」


 周囲では、まだ戦闘が続いている。


 銃声。


 怒号。


 怪人の動く音。


 それでも。


 東には、一瞬。


 何も聞こえなくなった。


「……嘘でしょ」


 さっきまで。


 普通に話していた。


『じゃあ、生きて帰りましょう』


 そう言っていた。


 それなのに。


「…………」


 女性警察官は。


 もう。


 動かなかった。


     ◇


 銃声が、さらに大きくなった。


「……近い!」


 則人は走る。


 息が切れる。


 それでも止まらない。


「何が起きてるんだ……!」


 曲がり角を抜ける。


 まだ。


 現場そのものは見えない。


 だが。


 銃声は間違いなく、すぐ近くから聞こえている。


 則人はさらに速度を上げた。


     ◇


「東さん!」


 呼び声に。


 東が顔を上げる。


 モズキャッチャーが。


 再びこちらを見ている。


 東は、ゆっくりと女性警察官の身体を地面へ戻した。


 そして立ち上がる。


 特殊銃を握る。


「…………」


 その手が震えていた。


 恐怖なのか。


 怒りなのか。


 自分でも分からない。


 ただ。


 一つだけ。


 分かった。


 白目博士は言っていた。


 人間の身体では、怪人とは戦えない。


 その意味を。


 今。


 目の前で。


 思い知らされた。


「……まだ」


 東は銃を構える。


「終わってない」


 モズキャッチャーが東を見る。


 その向こうでは。


 負傷した仲間たちが、必死に体勢を立て直している。


 そして。


 少し離れた夜道を。


 一人の少年が。


 銃声を追って。


 この場所へ向かって走っていた。


――つづく


――――――――――


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「カクヨム」「小説家になろう」の両サイトに掲載しています。

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