第13話「狩り場を変えろ!」
第13話「狩り場を変えろ!」
ギュイィィィン!
耳をつんざくような駆動音が、砕けた道路に響き渡った。
コヨーテライダーの脚部が唸りを上げ、その隣ではアナグマドリルが両腕のドリルを激しく回転させている。
二体の怪人は、互いに少し距離を取ったまま、キッドとサクラの動きをうかがっていた。
「サクラ、そっちは任せた!」
「分かった! キッドも気をつけて!」
短く声を掛け合い、二人が同時に地面を蹴る。
先に動いたのはコヨーテライダーだった。
脚部の駆動音が一段と高くなり、巨体が猛烈な勢いでキッドへ迫る。
しかし、今度のキッドは慌てなかった。
ロードランナーメモリーによって変化した脚を小刻みに動かし、相手が間合いへ入る寸前、身体を真横へ滑らせる。
コヨーテライダーの肩が目の前を通り過ぎた。
「もらった!」
すれ違いざまに拳を突き出す。
ところが、コヨーテライダーは上体を捻って攻撃をかわすと、そのまま反撃の届かない位置まで走り抜けてしまった。
「ちっ、やっぱり簡単には当たらねえか!」
キッドは急停止して振り返った。
以前なら、ここで相手の背中を追いかけていただろう。
だが、それでは駄目だ。
直線的な速度では、今もコヨーテライダーの方が上だった。
キッドは追いかけず、相手が戻ってくるのを待つ。
コヨーテライダーもすぐには突進してこなかった。
キッドが右へ動くと、相手も身体を傾ける。
左へ踏み込めば、今度は反対側へ進路を修正する。
「……お前も学習するってわけか」
キッドは小さく笑った。
ロードランナーの急停止や小回りを使えば、相手の突進をかわすことはできる。
だが、同じフェイントばかりでは、いつか読まれる。
実際、コヨーテライダーはすでにキッドの足運びを警戒し始めていた。
「だったら、もう少し工夫しねえとな!」
キッドは構えを低くし、相手へ向かって踏み込んだ。
右へ一歩。
すぐに左へ二歩。
コヨーテライダーが動きを合わせた瞬間、急停止して逆方向へ切り返す。
今度は相手がわずかに遅れた。
「そこだ!」
キッドはその隙を逃さず、コヨーテライダーの側面へ回り込もうとした。
だが、踏み出した足の下から、不気味な音が聞こえた。
ミシッ。
「……ん?」
次の瞬間、アスファルトが崩れ落ちた。
「うおっ!?」
足元に大きな穴が開き、踏み込もうとした足が宙を踏む。
地面が沈んでいく。
地下からアナグマドリルが掘り進み、キッドの逃げ道を崩していたのだ。
「しまっ……!」
身体が大きく傾いた。
ロードランナーの脚は素早く動ける。
しかし、足場そのものがなくなれば、どうすることもできない。
そして、その隙を狙ったかのようにコヨーテライダーが加速した。
ギュイィィン!
一直線に迫ってくる巨体。
キッドは咄嗟に身体を捻ろうとしたが、踏ん張るべき地面がない。
「くそっ!」
「キッド、上!」
サクラの声が響いた。
直後、背中に翼を広げたサクラが横から飛び込み、キッドの腕を掴んだ。
「うわっ!」
身体が引き上げられる。
そのすぐ下をコヨーテライダーが駆け抜け、崩れた路面の縁を蹴り飛ばした。
砕けたアスファルトが次々と穴へ落ちていく。
「危なかった……!」
「ぼさっとしないで!」
「してねえよ! 足場が崩れたんだ!」
「だから気をつけてって言ったでしょ!」
サクラはキッドを無事な路面へ降ろすと、すぐに翼を広げ直した。
その背後から、地面を突き破ってアナグマドリルが飛び出してくる。
ガガガガッ!
「くっ!」
サクラは身体を捻ってドリルをかわし、そのまま相手の側面へ回り込んだ。
「はあっ!」
右拳がアナグマドリルの肩口を叩く。
拳に装着された蜂型アタッチメントの針が、装甲の隙間へ突き刺さった。
「グアッ!」
アナグマドリルが腕を振り回す。
だが、サクラはすでに翼を使って距離を取っていた。
着地したサクラの脚部から、低い駆動音が響いている。
戦闘開始から蓄積を続けているコンデンサーのエネルギーだ。
装着された脚部アタッチメントには、時間をかけてエネルギーが蓄えられている。
ただし、チャージが十分になったからといって、すぐに蹴りを放てるわけではない。
相手には巨大なドリルが二本もある。
せっかく蓄えた力を腕で受け止められては、決定打にはならない。
サクラは脚部の状態を一瞬確認すると、再びアナグマドリルへ向き直った。
一方、キッドも敵の狙いに気づいていた。
コヨーテライダーは、むやみに突っ込んでこない。
左右へ動きながら、キッドをひび割れた路面へ追い込もうとしている。
その先には、アナグマドリルが掘った穴がいくつも口を開けていた。
「……なるほどな」
キッドは足元を見て、ようやく理解した。
コヨーテライダーが逃げ道を限定し、アナグマドリルがその地面を掘り崩す。
逆に、アナグマドリルが足場を壊せば、コヨーテライダーがすかさず突進してくる。
二体は、互いの能力を補い合いながら戦っていたのだ。
「サクラ! こいつら、連携してやがるぞ!」
「分かってる!」
「分かってるなら、何とかしてくれ!」
「今考えてる!」
「俺もだよ!」
キッドは叫び返しながら、コヨーテライダーの突進を間一髪でかわした。
しかし、着地した先でも、アスファルトが不気味な音を立て始めている。
ひび割れが広がる。
その向こうには、さらに大きな陥没があった。
このままでは、いずれ逃げる場所がなくなる。
キッドは歯を食いしばり、足元の亀裂を飛び越えた。
走りながら、周囲を見渡す。
道路はすでに穴だらけだった。
コヨーテライダーはその穴を避けるように走り、キッドだけを崩れやすい場所へ追い込んでいる。
まるで、あらかじめ用意された狩り場だ。
「……いつまでも、お前らの都合に付き合ってられるか!」
キッドは方向を変えた。
アナグマドリルが掘り崩した一帯を抜け、まだ大きな穴のない道路へ向かって走り出す。
コヨーテライダーが追ってくる。
その駆動音を背後に聞きながら、キッドは小さく笑った。
「……よし。今度はこっちが、お前を誘導してやる!」
狩り場を変える。
それが、キッドの選んだ反撃の第一歩だった。
◇
「東隊長! 前方に異形を確認! シロアリです!」
一般隊員からの報告が響いた。
偽装搬送中の救急車へ通じる道路。
その奥から、白い異形の集団が姿を現していた。
一体、また一体。
建物の陰から次々と現れ、救急車を目指して走り始める。
「やっぱり来たわね!」
東はすぐにモニターへ視線を向けた。
キッドとサクラは、すでに救急車から離れた場所で二体の怪人と戦っている。
こちらまでシロアリの突破を許せば、二人が戦っている間に車両を襲われてしまう。
「北山さん、ニシさん! 正面の迎撃をお願い! 川出は側面から回り込む個体を警戒して。南浦は射線を確認しながら援護!」
『了解!』
北山が真っ先に駆け出した。
先頭のシロアリ怪人が腕を振り上げる。
北山は半身になって攻撃をかわすと、籠手に守られた拳を相手の胴体へ叩き込んだ。
「はあっ!」
鈍い衝撃音が響いた。
シロアリがよろめいたところへ、続けて蹴りが入る。
相手が倒れるより早く、その横を別の一体がすり抜けようとした。
「おっと、そっちは通行止めだ!」
ニシが大きく腕を広げて立ちはだかる。
飛びかかってきたシロアリを正面から受け止め、そのまま身体を抱え込んだ。
「よっ……と!」
腰を落とし、相手の勢いを利用して投げる。
ドンッ!
シロアリの背中が地面へ叩きつけられた。
「一丁上がり!」
「ニシさん、後ろ!」
北山の声が響いた。
振り返ったニシの目の前へ、新たなシロアリが迫っている。
しかし、怪人の腕が届く直前、その身体を鋭い一突きが捉えた。
「油断しないで!」
東だった。
レイピアを引き戻し、すぐに次の相手へ向き直る。
細身の剣は、力任せに装甲を叩くための武器ではない。
相手の動きを読み、隙間を見極めて突く。
東はシロアリの攻撃を半歩でかわし、懐へ踏み込むと、素早くレイピアを突き出した。
「はっ!」
怪人が倒れる。
だが、その向こうには、まだ何体ものシロアリがいた。
『東、右からも来るぞ』
南浦の低い声が通信へ割り込む。
続いて銃声。
側面から駆け込んできたシロアリが肩の装甲を撃ち抜かれ、大きくよろめく。
『川出、そっちへ一体抜けた』
『見えてます!』
川出が建物の陰から飛び出した。
小型銃を構えたまま素早く走り、救急車の脇へ回り込もうとしていたシロアリの進路を塞ぐ。
「残念。そっちは駄目です!」
銃声が二度響く。
怯んだ相手が腕を振り回してきたところで、川出は身を低くし、銃身の先に備えられた短い刃で近接攻撃を仕掛けた。
シロアリが後退する。
川出は深追いせず、すぐに車両の周囲を確認した。
「東隊長、側面は抑えました! でも、まだ増えています!」
「分かったわ! 一般隊員は車両から離れないで。ここを抜かせないことが最優先よ!」
東はレイピアを構え直した。
敵の数が多い。
北山とニシが正面を抑え、南浦と川出が援護していても、次々に突破を試みるシロアリを完全には止めきれない。
しかも、相手は一方向から押し寄せてくるだけではなかった。
こちらの防衛線を避け、建物の間から車両へ近づこうとする個体もいる。
東は周辺の隊員へ指示を飛ばしながら、自分も再び前へ出た。
そのときだった。
「……え?」
救急車へ向かおうとしていた数体のシロアリが、突然足を止めた。
道路の端から、薄い煙が広がり始めたのだ。
風に流された煙は、白い怪人たちの間へ入り込み、互いの姿を見えにくくしていく。
先頭の一体が進路を見失い、近くの仲間へぶつかった。
さらに別の一体が、煙の薄い方へ向かって走り出す。
「煙幕……?」
東が視線を向けた。
建物の陰から、二つの小さな影が姿を現した。
「……アガト! ユキ!」
二体のネズミ型怪人だった。
アガトが短く鳴き声を上げると、ユキが周囲を見渡し、シロアリの動きを確かめる。
すぐに二体は左右へ分かれ、既存の散布機能を使って別々の位置から煙幕を広げ始めた。
シロアリたちは煙の濃い場所を避けようとするが、進んだ先にも煙が流れてくる。
そのため、救急車へ向かっていた集団が大きくばらけた。
「……助かった!」
北山が叫び、目の前の一体へ踏み込んだ。
ニシも煙幕から飛び出してきたシロアリを捕まえ、そのまま地面へ押さえ込む。
東はアガトとユキへ声をかけた。
「二人とも、ありがとう! 救急車へ近づこうとするシロアリの注意をそらしてくれる?」
アガトが「はい」と短く声を出す。
ただし、そのすぐ後にユキが鳴き声を上げた。
アガトはそちらへ顔を向け、二体は互いに動きを確認してから、再び走り出す。
ユキはCASHの隊員たちの位置を確かめながら、味方の視界を不用意に塞がない方向へ煙幕を広げた。
アガトはその反対側へ回り込み、シロアリの注意を引く。
敵を倒すためではない。
救急車へ向かおうとする集団を引きつけ、CASHが迎撃する時間を作っているのだ。
「……本当に助かるわね」
東は小さく呟いた。
二体はCASHの隊員ではない。
それでも、何を守ろうとしているかは理解してくれているらしい。
「北山さん、ニシさん! 今のうちに防衛線を立て直しましょう!」
『了解!』
北山が応じる。
ニシも大きく頷き、再びシロアリの集団へ向き直った。
遠くからは、キッドたちの戦闘音が響いている。
東は一瞬だけそちらへ視線を向けた。
二人の様子が気にならないわけではない。
だが、こちらもまだ戦闘の真っ最中だった。
シロアリは煙幕に進路を乱されながらも、次々に救急車への接近を試みている。
「……あっちは二人に任せるしかないわね」
東はレイピアを握り直した。
今は、ここを守らなければならない。
◇
ギュイィィィン!
コヨーテライダーの脚部が、再び甲高い音を響かせた。
キッドは振り返り、相手が追ってきていることを確かめる。
背後には、穴だらけになった道路。
そして前方には、まだ大きく崩されていない路面が続いていた。
「よし……ここなら!」
キッドは足を止め、構え直した。
コヨーテライダーが一瞬、速度を落とす。
どうやら、キッドの動きを警戒しているらしい。
「……何だよ。今度は来ねえのか?」
キッドが挑発するように一歩踏み出した。
すると、コヨーテライダーも姿勢を低くする。
ギュイィン!
加速。
キッドは相手の進路を読み、右へ踏み込んだ。
コヨーテライダーもその動きに反応し、途中で進路を修正する。
「おっと!」
キッドは急停止して反対方向へ切り返した。
しかし、コヨーテライダーも以前ほど簡単には振り切られない。
大きく曲がる代わりに速度を落として距離を保ち、キッドが踏み込む瞬間を狙ってくる。
「……やるじゃねえか」
キッドは思わず呟いた。
ロードランナーの脚は、直線の速度でコヨーテライダーに勝つためのものではない。
だが、急停止と小回りではこちらに分がある。
その強みを相手も理解し始めている以上、同じ動きを繰り返すだけでは決着がつかない。
キッドが拳を突き出すと、コヨーテライダーはその間合いの外へ逃れた。
続けて背後へ回り込もうとする。
「させるか!」
キッドは軸足を中心に身体を回し、相手の正面を取り直した。
空手の足運びに、ロードランナーの機動力を組み合わせる。
相手が左右へ動くたびに、身体の向きをわずかに変える。
一瞬でも背中を見せれば突進される。
逆に、こちらから追いかければ速度で振り切られる。
キッドは小さく息を吐いた。
必要なのは、速さではない。
一度捕まえることだ。
「……よし」
キッドはコヨーテライダーから視線を外さないまま、ベルトの頭部スロットへ手を伸ばした。
相手が少し距離を取った。
その短い隙に、頭部のメモリーを引き抜く。
そして、別のメモリーを差し込んだ。
カチッ!
頭部の装甲が変化する。
顔の前方から長い鼻が伸び、左右には象を思わせる大きな耳の意匠が現れた。
ゾウのメモリー。
「……こいつなら!」
キッドは新しく現れた鼻を動かした。
思った方向へしなり、伸びる。
拳では届かなかった間合いまで、攻撃を伸ばせる。
しかも、鼻はただ叩くだけのものではない。
相手を掴むこともできる。
コヨーテライダーが身構えた。
突然変化したキッドの頭部を警戒しているらしい。
「どうした? 来いよ!」
キッドは両腕を軽く広げた。
コヨーテライダーが一歩踏み出す。
キッドは右へ動き、すぐに足を止めた。
相手は追ってこない。
先ほどまでのフェイントを警戒しているのだ。
「……そうかい」
キッドは構えを変えた。
今度は大きく動かない。
身体を低くし、両足を路面へしっかり据える。
そして、真正面から相手を見据えた。
「だったら、今度は逃げねえ!」
その瞬間、コヨーテライダーが地面を蹴った。
ギュイィィィン!
これまでで最も鋭い加速。
一直線に距離が詰まる。
キッドは動かなかった。
五歩。
三歩。
相手の脚部が唸る。
拳が届く間合いへ入った、その瞬間。
「今だ!」
キッドは身体を半歩だけ横へずらし、同時にゾウの鼻を伸ばした。
しなやかな鼻が、すれ違おうとしたコヨーテライダーの胴体へ巻きつく。
「グォッ!?」
コヨーテライダーが驚いたように身体を捻った。
だが、すでに突進の勢いがついている。
キッドは鼻を巻きつけたまま、相手の進行方向へ身体を回した。
ロードランナーの足が地面を捉え、踏み込みに合わせて腰が回る。
真正面から速度を受け止めるのではない。
走っていく力を、横へ逸らす。
「おおおおっ!」
キッドは身体ごと大きく回転し、巻きつけた鼻を引いた。
コヨーテライダーの足が地面を離れる。
勢いを失った身体が横へ振られ、そのまま路面へ叩きつけられた。
ドガァッ!
凄まじい音とともに、アスファルトが砕け散る。
「グォアッ!」
コヨーテライダーの脚部が空転し、甲高い駆動音を響かせた。
「捕まえたぜ!」
キッドは鼻を解き、相手から一歩離れた。
コヨーテライダーはまだ動いている。
片腕をついて上体を起こし、再び立ち上がろうとしていた。
だが、今なら間に合う。
「ここからが本番だ!」
キッドはベルトへ手を伸ばした。
四番スロット。
ロードランナーのメモリーを引き抜く。
脚部から軽快な感覚が消え、装甲が元の形へ戻ろうとする。
そこへ、次のメモリーを差し込んだ。
ノミ。
カチッ!
脚部が再び変化した。
大きく膝を曲げる。
地面を蹴る準備は、ほんの一瞬で整った。
「いっけえええっ!」
キッドが跳んだ。
ノミの跳躍力が解放され、身体が猛烈な勢いで上昇する。
地面がみるみる遠ざかっていく。
道路に倒れたコヨーテライダーが、小さく見えた。
キッドは上昇しながら身体を捻り、足元のスロットへ手を伸ばす。
「……次は!」
まだ身体は上へ向かっていた。
この勢いがあるうちに、次の準備をしなければならない。
ノミのメモリーを引き抜く。
その瞬間、脚部の装甲が変化を始めた。
「くっ!」
わずかに身体の重心がずれる。
地面に足がついていれば、踏ん張ることもできただろう。
しかし、今は空中だ。
足場など、どこにもない。
キッドは上体を捻り、両腕でバランスを取った。
落下が始まる。
地面が近づいてくる。
「……まだだ!」
キッドは慌てずに、次のメモリーを掴んだ。
ヒクイドリ。
四番スロットへ差し込む。
カチッ!
脚部の装甲が再び変化した。
今度は、強靭な脚力と鋭い爪を備えたヒクイドリの脚だ。
重心が変わり、脚の感覚が切り替わる。
キッドは空中で身体を伸ばし、眼下のコヨーテライダーへ狙いを定めた。
相手はすでに起き上がろうとしていた。
片膝をつき、上体を起こす。
だが、まだ立ち上がりきっていない。
「……逃がすかよ!」
キッドは脚を引きつけた。
落下の勢いが増していく。
コヨーテライダーが顔を上げた。
その視線の先に、空から迫るキッドの姿が映る。
「これで……終わりだあああっ!」
全身を伸ばし、ヒクイドリの脚力を乗せた蹴りを叩き込む。
ドゴォォォン!
凄まじい衝撃が路面へ走った。
コヨーテライダーの身体が大きく沈み込み、周囲のアスファルトが砕け散る。
土煙が一気に噴き上がった。
キッドは蹴りの反動で身体をひねり、少し離れた場所へ着地する。
「ぐっ……!」
片膝をついたまま、地面へ手をつく。
空中で二度も脚部のメモリーを切り替えたうえ、落下の勢いを乗せた一撃だ。
着地の衝撃も小さくはなかった。
「……はあっ、はあっ……!」
荒い呼吸を整えながら、キッドは顔を上げた。
土煙がゆっくりと薄れていく。
その向こうには、倒れたコヨーテライダーの姿があった。
脚部の駆動音は、完全に止まっている。
先ほどまで何度も起き上がってきた相手だったが、今度は腕を動かす様子すらない。
キッドはしばらくその姿を見つめていた。
そして、ようやく拳を握る。
「……よし!」
もう追いかける必要はない。
コヨーテライダーとの戦いは、ここで決着がついた。
◇
同じ頃、サクラもアナグマドリルを相手に最後の攻防へ入っていた。
「はあっ!」
右拳がアナグマドリルの装甲を叩いた。
蜂型アタッチメントの針が隙間へ入り込み、毒を送り込む。
「グアッ!」
アナグマドリルが苦しげに声を上げた。
すでに何度も攻撃を受けている。
最初の頃はほとんど動じなかったものの、今は少しずつ反応が遅れていた。
それでも、両腕のドリルは依然として強力だ。
サクラが一歩踏み込むと、相手は回転するドリルを振り下ろしてくる。
「くっ!」
サクラは翼を使って後方へ跳び、間一髪でかわした。
ガガガガッ!
巨大なドリルが路面を削り、破片が飛び散る。
そのままアナグマドリルが追ってきた。
「まだそんなに動けるの!?」
サクラは横へ飛び退き、反撃の拳を放つ。
だが、今度は相手の腕に弾かれた。
「っ!」
衝撃で身体が傾く。
そこへ、もう片方のドリルが迫った。
サクラは翼を大きく広げ、どうにか上空へ逃れた。
ドリルが足元を通り過ぎる。
「……危なかった!」
サクラは空中で体勢を立て直した。
これまでに何度も毒針を当て、相手の動きを鈍らせている。
しかし、完全に動けなくなったわけではない。
正面から蹴りを放てば、またドリルで防がれる可能性があった。
以前の戦いでは、それでも片腕を吹き飛ばすことができた。
だが、その腕はすでに元通りになっている。
また腕だけを破壊しても、同じことの繰り返しになるかもしれない。
「……今度は、絶対に本体へ当てる!」
サクラは脚部へ視線を落とした。
コンデンサーの駆動音が、先ほどまでとは違っている。
作戦開始から蓄え続けたエネルギーは、すでに十分な量に達していた。
あとは、確実に当てるだけ。
しかし、その一度を失敗すれば、すぐにやり直すことはできない。
サクラは深く息を吸い込んだ。
アナグマドリルが両腕のドリルを構える。
サクラも翼を広げ直した。
「……行くよ!」
地面を蹴る。
サクラは真正面からアナグマドリルへ突っ込んだ。
相手が右腕を振り上げる。
サクラは直前で身体を沈め、その下を抜けた。
続いて左腕のドリルが迫る。
「はっ!」
翼を広げて身体を浮かせ、攻撃の軌道から逃れた。
そのまま相手の肩口へ右拳を叩き込む。
ガンッ!
蜂型アタッチメントの針が装甲へ突き刺さった。
「グアアッ!」
アナグマドリルが怒りに任せて腕を振り回す。
サクラはすぐに距離を取る。
相手は追ってきた。
ドリルを振り下ろす。
サクラがかわす。
もう一度。
さらにもう一度。
攻撃を受けるたびに、アナグマドリルの動きがわずかに鈍くなっていく。
サクラはそれを見逃さなかった。
「……そこ!」
今度は上空へ跳ぶ。
アナグマドリルが顔を上げ、両腕のドリルを高く構えた。
サクラは翼を広げ、相手の頭上で一瞬だけ速度を落とした。
真正面から降りてくると思わせる。
そして、アナグマドリルが両腕を上へ突き出した瞬間、身体を捻ってその側面へ回り込んだ。
「……もらった!」
相手の両腕は、まだ頭上にある。
胴体が大きく空いた。
サクラは翼を畳み、全身を回転させながら脚を振り抜いた。
「はあああああっ!」
脚部コンデンサーが高い音を響かせる。
蓄積されていたエネルギーが、蹴りの命中と同時に解放された。
ガキィィィン!
凄まじい衝撃。
アナグマドリルの装甲へ蹴りが食い込み、蓄積されたエネルギーが一気に流れ込む。
「グアアアアアッ!」
アナグマドリルの巨体が大きく浮き上がった。
両腕のドリルが左右へ弾かれ、身体が後方へ吹き飛ばされる。
ドガァァン!
道路へ叩きつけられた衝撃で、周囲のアスファルトが砕け散った。
サクラは翼を広げて落下速度を抑え、少し離れた場所へ着地した。
「……はあっ、はあっ……!」
肩で息をしながら、相手の様子を確認する。
アナグマドリルは倒れたまま動かない。
両腕のドリルも回転を止めていた。
サクラは一歩だけ近づき、再び相手の動きを確かめた。
起き上がってくる様子はない。
「……やった……!」
小さく呟く。
もう一度、脚部へ目を向けた。
コンデンサーは静かになっている。
長い時間をかけて蓄えたエネルギーは、今の一撃ですべて使い切った。
もう一度同じ攻撃を放とうとしても、すぐには不可能だ。
しかし、それだけの価値はあった。
以前は腕を一本吹き飛ばしても逃げられた相手。
そのアナグマドリルを、今度は完全に戦闘不能へ追い込んだのだ。
サクラは拳を握り、ようやく笑みを浮かべた。
「……よしっ!」
◇
「サクラ!」
少し離れた場所から、キッドの声が響いた。
顔を上げると、ゾウの頭部とヒクイドリの脚を備えたキッドが走ってくるところだった。
「キッド! そっちは?」
「終わった! コヨーテは倒した!」
「こっちも! アナグマを倒したよ!」
二人は互いの無事を確かめ、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「……はあ、疲れた」
キッドが大きく息を吐く。
「本当にね……」
サクラも深く頷いた。
先ほどまで道路を縦横無尽に駆け回っていたコヨーテライダー。
そして、地面を掘り崩しながら襲ってきたアナグマドリル。
二体はそれぞれ離れた場所に倒れ、どちらも動く様子を見せない。
もう、追いかける必要はなかった。
「……今度こそ、終わったな」
キッドが呟く。
サクラは静かに頷いた。
「うん……」
だが、耳を澄ませば、遠くからはまだ銃声や戦闘音が響いてくる。
CASHがシロアリ怪人の集団と戦っているのだ。
「……東さんたち、大丈夫かな」
サクラが少し心配そうに呟いた。
キッドはそちらへ顔を向けた。
白い煙が遠くに見える。
何が起きているのか、ここからでは詳しく分からない。
ただ、CASHの隊員たちがまだ戦っていることだけは確かだった。
「……こっちが終わったなら、手伝いに行かねえとな」
「そうだね。でも、少しだけ……」
サクラはそこで言葉を切り、脚部へ視線を落とした。
コンデンサーの蓄積は空になっている。
疲労もある。
できれば、ほんの少しだけ呼吸を整えたかった。
「……休ませて」
「俺もだよ……」
キッドが苦笑する。
ゾウの鼻を少し動かしながら、再び倒れた二体へ視線を向けた。
ようやく勝った。
ここまで苦戦するとは思わなかったが、二人で協力したからこそ勝てたのだ。
キッドは小さく拳を握った。
「……よし」
サクラもその隣で頷く。
そして、二人がCASHのいる方向へ顔を向けようとした、そのときだった。
カツン。
乾いた足音が響いた。
「……ん?」
キッドが顔を上げる。
音がしたのは、CASHのいる方向ではない。
砕けたアスファルトの向こう。
先ほどまで戦っていた道路の端からだった。
カツン、カツン。
ゆっくりと近づいてくる足音。
キッドは反射的に拳を構えた。
「……誰だ?」
サクラも翼を広げ、身構える。
崩れた路面の向こうから、一人の人物が姿を現した。
急いでいる様子はない。
こちらを警戒している様子もない。
ただ、倒れた二体の怪人を見ながら、ゆっくりと歩いてくる。
その姿を見た瞬間、キッドの表情が変わった。
「……お前……!」
サクラが隣で息を呑む。
見覚えがあった。
以前、キッドたちの前に現れた、もう一人のビーストギアの使用者。
その人物が、今、目の前にいる。
「……ヨミ!」
キッドがその名を口にした。
ヨミは答えず、まず倒れているコヨーテライダーへ視線を向けた。
次に、アナグマドリルを見る。
そして最後に、キッドとサクラへ顔を向けた。
遠くでは、まだCASHとシロアリ怪人の戦闘が続いている。
東たちがこちらへ駆けつける気配はなかった。
キッドは拳を握り直した。
サクラも翼を大きく広げる。
だが、その脚部コンデンサーには、先ほどまで蓄積されていたエネルギーはもう残っていない。
二体の強敵を倒した直後。
ようやく終わったと思った戦場に、新たな影が落ちる。
ヨミが、二人の前へ立ちはだかった。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




