↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーストギア  作者: 時根脱才 
バイクコヨーテ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/119

第8話 一発



第8話 一発


 サクラの足元で、また地面が鳴った。


 ゴ……。


 今度は聞き間違いではない。


 靴底から直接伝わってくる、鈍く重い振動。車両の走行音とも、離れた場所で続いているコヨーテライダーとの戦闘とも違う。


 もっと下だ。


「東さん、下!」


『え?』


「地面の下にいる!」


 サクラが叫んだ直後、杉山を乗せた車の前方で細い亀裂が走った。


 一本。


 それが瞬く間に枝分かれし、黒い線となって道路を這う。


「車列止めて!」


 東の声が無線へ飛ぶ。


 ブレーキ音が重なった。


 だが、間に合わない。


 アスファルトが沈む。


 杉山の車が大きく傾き、周囲の警護車両も急停止する。後続の一台が逃れようとハンドルを切った瞬間、その下でも舗装が割れた。


「下がれ!」


「道路が落ちるぞ!」


 警察官たちの声。


 直後、地面が抜けた。


 轟音とともに道路が崩れ、杉山の車と警護車両の一部が、土砂ごと巨大な陥没の中へ落ちていく。


 巻き上がった土埃が視界を塞いだ。


 悲鳴と怒号。


 無線にも声が殺到する。


『車両落下!』

『周囲を下げろ!』

『救助班、こっちへ!』


 サクラは陥没へ駆け寄りかけて、足を止めた。


 まだ終わっていない。


 土埃の向こう。


 崩れた道路のさらに奥から、何かを削る音が続いている。


 ゴリ……ゴリ……。


 近づいてくる。


「……いる」


 サクラが身構えた。


 土砂の一角が盛り上がった。


 次の瞬間、巨大なドリルが地面を突き破る。


「怪人!」


 警察官の叫び。


 崩れた地面の中から、重い身体がゆっくりと姿を現した。


 白と黒に分かれた獣の頭部。


 ずんぐりとした頑丈そうな体格。


 黄色と黒の装甲は、工事現場で使われる大型の掘削機械を思わせる。


 そして両腕には、それぞれ巨大なドリル。


 二体目。


 ずっと探していた怪人が、地面の下から出てきた。


 怪人は周囲の警察官には目も向けない。


 その視線は、陥没へ落ちた車両へ向いていた。


 歩き出す。


「させない!」


 サクラの身体が、考えるより早く動いた。


 怪人と陥没の間へ飛び込む。


 右腕のドリルが唸りを上げて振り下ろされた。


 サクラは横へ滑るように避ける。


 ドリルが地面へ突き刺さり、残っていた舗装が大きく砕けた。


 その腕の内側へ潜る。


 右拳を突き出した。


 毒針が装甲の隙間へ入る。


 すぐ離れる。


 怪人が振り向きざまに左腕を薙ぐ。


 サクラは身体を反らしてかわした。


『サクラ! 二体目を杉山さんへ近づけないで!』


 東の声が聞こえる。


 返事をする余裕はなかった。


 次のドリルが迫る。


 サクラは一歩引き、回転する先端をぎりぎりで外す。そのまま横から踏み込み、もう一度毒針を打ち込んだ。


 怪人の身体がわずかに揺れる。


 だが止まらない。


「重いな……!」


 まともに受ければ、こちらが押し潰される。


 なら受けない。


 サクラは距離を取った。


 脚部アタッチメントは、もう撃てる。


 一発だけ。


 外せない。


     ◇


 アナグマを思わせる怪人が両腕を前へ構えた。


 回転する二本のドリルが、胴体の前を塞ぐ。


 サクラの視線が一瞬だけ自分の右脚へ落ちる。


 そして怪人を見る。


 正面は無理だ。


 あれを蹴れば、胴体へ届く前にドリルへ食われる。


 サクラが右脚を少し引いた。


 それだけで怪人の腕が動く。


 ドリルが身体の中心へ寄った。


「……やっぱり」


 見られている。


 こちらの脚を警戒している。


 サクラは小さく口元を歪めた。


「じゃあ、見てればいいよ」


 一気に踏み込む。


 腰を回す。


 右脚を上げた。


 怪人が反応する。


 二本のドリルが同時に身体の前へ集まった。


 だが、サクラは蹴らなかった。


 途中で脚を戻し、その勢いのまま身体を横へ滑らせる。


「そっちじゃない!」


 空いた脇腹へ右拳。


 毒針が入る。


 怪人が怒ったように腕を振る。


 サクラはすでに離れていた。


 追ってくる。


 重量のある身体が地面を踏むたび、ひび割れた舗装が小さく鳴る。


 ドリルが来る。


 避ける。


 肩口へ一発。


 離れる。


 振り向いたところへ入り直し、腕の付け根へもう一発。


 怪人は力任せにサクラを捕らえようとするが、攻撃はわずかに届かない。


 一方のサクラも、まだ蹴らない。


 右脚を引く。


 ドリルが防御へ動く。


 そこで拳。


 また右脚を見せる。


 今度も怪人は胴を守る。


 蹴らずに離れる。


 同じことを何度か繰り返した。


 怪人の意識が、次第にサクラの脚へ吸い寄せられていく。


 サクラが少し踏み込むだけで、腕が動く。


 その反応が、先ほどより早い。


 サクラは息を整えた。


 ――そこ。


 今度は深く踏み込む。


 怪人が防御しようとする。


 サクラはさらに一歩入った。


 蹴りが来る前に潰そうとしたのか、怪人が両腕のドリルを前へ突き出す。


 回転音が一気に近づいた。


 サクラは逃げない。


 ぎりぎりまで待つ。


「サクラ!」


 近くのCASH隊員が叫ぶ。


 ドリルが顔面へ届く、その直前。


 サクラが身体を沈めた。


 二本のドリルが頭上を通り過ぎる。


 怪人の両腕が伸び切った。


 胴体が開く。


「――そこ!」


 右脚が跳ね上がった。


 狙いは胴の中心。


 怪人も間に合わない――はずだった。


 だが、片方の腕が強引に戻ってくる。


 伸び切った腕を無理やり引き寄せ、ドリルごと胴体の前へ差し込んだ。


 サクラの蹴りが直撃する。


 一瞬、音が消えたように感じた。


 次いで、耳を打つような衝撃音。


 怪人の巨体が横へ弾けた。


 同時に、受けに入った片腕がドリルごと吹き飛ぶ。


 回転したまま宙を舞い、道路へ激突した。


 金属質の音を立てながら何度も転がり、やがてドリルの回転が止まる。


「……!」


 サクラも着地と同時に数歩下がった。


 自分が狙ったのは胴体だった。


 そこへ入っていれば、終わっていた。


 怪人は片腕を犠牲にして、一撃を逃れた。


 土埃の向こうで巨体が揺れる。


 片膝をついた。


 それでも倒れない。


 残った腕を地面へつき、ゆっくり立ち上がる。


「防いだか……」


 サクラが吐き捨てる。


 もう一度はない。


 そのことだけは、自分が一番よく分かっていた。


     ◇


 怪人が残ったドリルを振り上げた。


 サクラは構え直す。


 今度は仕留めようとはしなかった。


 ドリルが来る。


 横へ抜ける。


 腕の付け根へ毒針。


 離れる。


 怪人が追う。


 距離を保つ。


 踏み込んできたところへ、また一発。


「もう蹴れないんだろ!」


 近くで援護していたCASH隊員が声を飛ばす。


「うん!」


「なら無茶するな!」


「分かってる!」


 片腕を失った怪人が、陥没した車両へ向きを変える。


 サクラが即座に前へ回り込んだ。


「そっちは駄目!」


 残ったドリルが振り下ろされる。


 サクラは後ろへ跳ぶ。


 先端が目の前で道路へ突き刺さった。


 すぐ懐へ入る。


 毒針。


 離れる。


 怪人が苛立ったように吠えた。


 また進もうとする。


 サクラが塞ぐ。


 一発。


 離れる。


 もう一発。


 決して派手ではない。


 だが、同じことを繰り返すたびに怪人の動きが少しずつ重くなっていく。


 踏み込みが鈍る。


 ドリルを持ち上げるのが遅れる。


 振り抜いた後、戻すまでの間が長くなる。


 毒が回っている。


 サクラの呼吸も荒くなっていたが、焦る必要はなくなっていた。


 決める技はもうない。


 なら、決め急がなければいい。


 逃がさず、近づけず、削る。


 時間を使う。


 怪人にとって、その時間が重くなる。


     ◇


 同じ頃、国会前のもう一方ではコヨーテライダーとの戦闘が続いていた。


 先ほどの混乱から立て直した盾部隊が防衛線を組み直し、CASHがその内側を固めている。


 救急車は絶えず出入りし、警察官たちは搬送路を確保しながら市民を遠ざけていた。


 怪人だけを見ていればいい戦場ではない。


 その中を、コヨーテライダーが駆ける。


 道路の端。


 車両の隙間。


 防衛線の薄いところを探しながら、一瞬ごとに位置を変える。


 そこへキッドが到着した。


 目に入るものが多すぎた。


 大きく崩れた道路。


 何台もの救急車。


 規制線の向こうで座り込んでいる人々。


 警察官に囲まれて搬送される負傷者。


 そして、そのすぐ近くで走り続けるコヨーテライダー。


 別方向へ視線を向ければ、サクラが片腕になった見知らぬ怪人と戦っている。


「……何だよ、これ」


『キッド!』


 東の声で、意識が戻った。


『コヨーテライダーをお願いします!』


「分かった!」


 キッドが走り出した。


 コヨーテライダーもこちらへ気づく。


 身体を沈め、一気に加速。


 真正面から突っ込んでくる。


 キッドは追わない。


 腰を落として待つ。


 距離が縮まる。


 あと数歩。


 コヨーテライダーが直前で進路を変えようとした。


 キッドも同時に踏み込む。


 横蹴りが側面へ入った。


 怪人の身体が流れる。


 その先には北山。


 拳が来る。


 コヨーテライダーは身体を捻って避け、さらに外側へ抜けようとする。


 だが、今度はニシがいる。


「抜かせるか!」


 進路を塞がれ、また方向を変える。


 そこへキッドが先回りした。


 拳を振るう。


 かわされる。


 続けて蹴り。


 こちらは当たった。


 コヨーテライダーが数歩分距離を取る。


 キッドは追わない。


 その場で構える。


 以前なら、速い背中を見れば追っていた。


 今は違う。


「来いよ」


 目的が杉山なら、逃げ続けることはできない。


 またこちらへ入ってくる。


 なら、その瞬間だけを狙えばいい。


 コヨーテライダーが低く身体を沈めた。


 加速。


 川出の声が無線へ飛ぶ。


『右へ回る!』


 盾部隊が寄る。


 コヨーテライダーが角度を変える。


 そこへニシ。


 さらに向きを変える。


 その先へキッド。


 打撃が入る。


 一度。


 次はかわされる。


 さらに一度。


 決定打ではない。


 それでも、杉山へ近づこうとするたびに戻される。


 高速で走れても、その速度を自由には使わせてもらえない。


 戦いそのものは、確実にキッドたちが押していた。


     ◇


 サクラの前で、アナグマの怪人が一度大きくよろめいた。


 毒が効いている。


「そろそろ……」


 サクラが間合いを詰めようとした。


 だが怪人は、サクラではなく地面を見た。


 残ったドリルを下へ向ける。


「……逃げる気?」


 ドリルが回り始めた。


「待て!」


 サクラが飛び込む。


 毒針を肩口へ打ち込む。


 怪人の身体が揺れる。


 それでも掘削をやめない。


 ドリルが地面へ潜り、舗装を砕く。


 一気に土砂が噴き上がった。


 足元が崩れる。


 サクラは踏み込もうとして、止まらざるを得なかった。


「くっ……!」


 怪人の身体が少しずつ地面の中へ沈んでいく。


 さらに毒針を入れようにも、距離が離れる。


 もう一撃で引きずり出す手段もない。


「待てって!」


 叫んでも怪人は止まらない。


 土砂が跳ね上がる。


 視界が塞がれる。


 そして、土埃が薄れた時には怪人の姿はなかった。


 残ったのは大きく掘り返された穴。


 そして少し離れた道路に、吹き飛ばされた片腕とドリル。


 サクラは穴の縁まで近づき、暗い地下を睨んだ。


 音は遠ざかっている。


 追える場所ではない。


「……逃げた」


 息を吐く。


 悔しさはある。


 だが、飛び込むわけにもいかなかった。


     ◇


 その頃。


 コヨーテライダーも、突然動きを変えた。


 キッドへ向かってこない。


 杉山のいる方向へも戻らない。


 身体を道路の先へ向ける。


「……?」


 キッドが構えたまま眉を寄せた。


 川出が先に気づく。


「退くぞ!」


 次の瞬間、コヨーテライダーが弾けるように加速した。


「待て!」


 キッドも走る。


 すぐに違いが分かった。


 戦っていた時の速度とは、意味が違う。


 あの時は杉山へ近づくために進路を選び、こちらの防衛線を避け、時には攻撃するために戻ってきた。


 今は何もない。


 ただ遠ざかる。


 それだけに全ての速度を使っている。


「速っ……!」


 距離が一気に開く。


 キッドも走る。


 縮まらない。


 コヨーテライダーが交差点を曲がる。


 ビルの間へ入る。


 キッドは反射的にメモリーへ手を伸ばしかけた。


 オニヤンマなら上へ出られる。


 だが顔を上げれば、左右には何棟ものビル。


 上空へ出たところで、建物の陰へ入られれば見えない。


 地上で次の角を曲がられたら、それだけで方向すら分からなくなる。


「上からじゃ……」


 使えない。


 なら地上。


 脚力を使うならヒクイドリ。


 だが純粋な走力で、この速度に追いつけるか。


 考えるまでもなかった。


 前方の背中は、すでに小さい。


 それでもキッドは追った。


 一つ目の角。


 曲がる。


 まだ遠くに見える。


「待て!」


 さらに走る。


 二つ目。


 曲がった先には――もういない。


 キッドは数歩進んで足を止めた。


 左右へ視線を走らせる。


 別の道。


 路地。


 ビルの間。


 エンジンのような音さえ、もう遠い。


「……くそっ!」


 拳を握る。


 戦えば押せた。


 なのに、逃げると決められた途端、届かない。


 さらに追えば、今度は自分が国会前の警護区域から離れすぎる。


 キッドはしばらく空になった道路を睨んでいたが、やがて振り返った。


     ◇


 怪人がいなくなっても、国会前は静かにはならなかった。


 サイレン。


 無線。


 救助を求める声。


 崩れた道路の周囲では、警察官が規制線を広げている。


 陥没へ落ちた車両の救助作業も続いていた。


 市民団体がいた一帯では、救急隊員がまだ忙しく動き回っている。


 戦いが終わったというより、戦う相手だけがいなくなったという方が近かった。


 サクラは、道路に残された片腕のそばに立っていた。


 巨大なドリルは、もう回っていない。


 少し離れた場所には、怪人が地下へ逃げた穴。


 そこへキッドが戻ってきた。


「逃げられた」


 サクラも短く返す。


「こっちも」


 キッドが地面に転がった腕を見る。


「……それ、お前が?」


「胴を狙ったんだけど、腕で防がれた」


「それで腕ごとかよ」


「でも仕留めてない」


 サクラは自分の右脚へ一度だけ視線を落とし、それ以上は何も言わなかった。


 東もやってくる。


 顔には疲労がにじんでいた。


「二体とも撤退ですね」


 川出も戻ってきた。


「コヨーテは、逃げると決めたら駄目だ。追いつけない」


 キッドが頷く。


「戦ってる間なら押せる。でも、逃げるだけになったら全然違う」


 サクラが地下へ続く穴を見る。


「こっちは地面の中。追いようがない」


 東は何も答えず、しばらく二つの方向を見た。


 一方は、コヨーテライダーが消えた市街地。


 一方は、アナグマの怪人が潜っていった地下。


 地上を高速で走る怪人。


 地面の下へ逃げる怪人。


 戦闘では押し返せた。


 だが、撤退に入られるとそれぞれ別の理由で追えない。


 しかも二体は今日、同じ場所へ現れた。


 同じ人間を狙った。


 それを偶然と呼ぶには、目の前に残ったものが多すぎた。


 吹き飛ばされた片腕。


 巨大な陥没。


 そして、二体がそれぞれ逃げた跡。


 遠くで、また救急車が走り出す。


 東はその音へ一瞬だけ目を向けた。


 怪人は去った。


 だが現場では、救助も、検証も、まだ何一つ終わっていなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。