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ビーストギア  作者: 時根脱才 
バイクコヨーテ編

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第6話 もう一体いる

第6話 もう一体いる


 翌日も、杉山邸の警護は続いていた。


 前日は結局、何も起こらなかった。


 怪人は現れず、不審人物も見つからず、杉山も家族も無事なまま一日を終えた。それだけ見れば、警護する側にとっては理想的な結果だった。


 しかし杉山自身にとって、「何も起こらなかった」という事実は安心材料にはなっていなかった。


「外は本当に異常ないんだな?」


「ありません」


「昨日と同じだけ人を置いているのか?」


「必要な配置は維持しています」


「CASHもいるんだろうな」


「います」


 朝から似た質問が何度も繰り返されていた。


 榊原慎吾は、そのたびに一つずつ答える。


 昨日来なかったのなら今日かもしれない。昨日何もなかったからといって、今日も無事だという保証にはならない。


 杉山の中では、そういう考えになっているらしい。


 もっとも、前日のように「他地域の白蟻タイプ対応から人員を引き抜け」とまでは言わなかった。


 榊原に言っても認められないと理解したのだろう。


 今日も通常警察が敷地周辺と出入口を固め、家族にも警護をつけている。怪人が現れた場合に備え、CASHも必要な人数を配置していた。


 紀人も警察側で待機している。


 今日はサクラが登校する日なので、紀人が学校を休む番だった。


 とはいえ、杉山の部屋の前で立哨しているわけではない。紀人は正式なCASH隊員ではなく、あくまで警察への協力者だ。怪人が現れた時にキッドとしてすぐ動ける場所で待機し、それまでは表へ出ない。


 昨日と同じように何も起こらなければ、それが一番いい。


 東も、榊原も、紀人もそう思っていた。


 少なくとも、昼を少し過ぎるまでは。


     ◇


『――こちら東側。異常な――』


 無線が途中で途切れた。


 直後、遠くから何かが弾けるような音が響いた。


 東がすぐに顔を上げる。


「今のは?」


 返事の代わりに、別の無線が重なった。


『不審物が通過! いや、車両ではありません!』


『北側へ抜けました! 速すぎて確認できません!』


 川出が椅子を蹴るように立ち上がり、そのまま外へ出る。


 東も無線を取った。


「一般警察は無理に追跡しないでください。周辺住民の退避と交通規制を優先。進行方向だけ報告してください」


『了解!』


 榊原は杉山の部屋へ視線を向けた。


「屋内側の警護を厚くします」


「お願いします」


 東が返した、その時だった。


 低い唸りが聞こえてきた。


 最初は自動車のエンジン音かと思った。


 だが違う。


 音そのものより、その音が近づいてくる速度がおかしかった。


「来る!」


 外へ出ていた川出の声が飛ぶ。


 次の瞬間、道路の向こうを何かが横切った。


 速い。


 あまりにも速く、輪郭を追うだけで精一杯だった。


 それでも一瞬だけ、姿は見えた。


 細長い獣の頭部。


 コヨーテを思わせる鋭い顔。


 そして身体には、金属製の外装や車輪を連想させる機械部品が組み込まれている。


 怪人がバイクに乗っているのではない。


 怪人自身が、獣とバイクを混ぜ合わせたような姿をしていた。


「怪人!」


 警察官の声が上がった時には、もう姿はない。


 怪人は住宅街の向こうへ一気に消えていた。


「……通り過ぎただけか?」


 誰かがつぶやく。


 川出だけは道路の先から目を離さなかった。


「いや」


 短く答える。


「戻ってくると思う」


     ◇


 その予想は当たった。


 一度は住宅街の向こうへ消えた怪人が、数分もしないうちに別の通りから現れた。


 今度は先ほどより杉山邸に近い。


 それでも直接飛び込んでくるわけではなかった。


 高速で通過する。


 少し離れる。


 別の道路へ回る。


 再び近づく。


「ただ走り回ってるわけじゃないな」


 川出が怪人の軌道を目で追う。


「家を見てる」


 東もすぐに気づいた。


 怪人は無秩序に走っているのではない。


 警察車両の配置。


 警察官の位置。


 出入口。


 杉山邸へ入り込めそうな経路を探るように、何度も角度を変えて接近している。


「一般警察は杉山邸から距離を取ってください! 怪人は追わなくていい! 周辺住民の退避と封鎖を優先!」


 東の指示が飛ぶ。


 その直後だった。


 遠くへ離れかけていた怪人が、大きく進路を変えた。


 今度ははっきり分かる。


 杉山邸へ向かっている。


「来るぞ!」


 ニシが前へ出た。


 専用プロテクターに包まれた身体を低く構え、真正面から受け止める態勢を取る。


 怪人との距離が一気に縮まった。


「来い!」


 ニシが両腕を広げる。


 だが、ぶつかる直前。


 怪人は突然進路を変えた。


「なっ!」


 ニシのすぐ横を抜ける。


 そこへ北山が踏み込んだ。


 籠手に覆われた拳を振るう。


 しかし、その拳が届くより一瞬早く、怪人はさらに方向を変えた。


「速い!」


 北山が振り返った時には、すでにかなり先を走っている。


 離れた位置では、南浦がライフルを構えていた。


 照準は動いている。


 怪人を追っている。


 それでも引き金は引かなかった。


『射線が取れません。民家が近すぎます』


 無線から南浦の声が届く。


『今撃てば、外した時の危険が大きい。撃てる位置まで待ちます』


「それで構いません」


 東は迷わず答えた。


 怪人を倒すために、周囲の住民を危険にさらすわけにはいかない。


 その間にも、怪人は再び大きく回り込もうとしている。


 数人の隊員が反射的に追いかけようとした。


「追わないで!」


 東の声が飛んだ。


 川出もすぐに続く。


「こいつの速度に付き合ったら配置が崩れる!」


 怪人は速い。


 追う側が一人、また一人と杉山邸から離れれば、その分だけ警護に穴が空く。


「杉山の家から引き離すつもりかもしれない!」


「全員、守る場所を変えないでください!」


 東は怪人ではなく、杉山邸を見た。


 目的を間違えてはいけない。


 自分たちの任務は、怪人を捕まえることではない。


 杉山を守ることだ。


     ◇


「来たのか!?」


 屋内では、杉山が完全に取り乱していた。


「怪人なんだな!? 本当に私を狙って来たんだな!」


「杉山さん」


 榊原が強い口調で遮る。


「窓から離れてください」


「キッドは!?」


「すでに連絡しています」


「CASHは何をしている! 昨日もっと人を増やしていれば――」


「今はその話をしている場合ではありません」


 榊原は警護員へ視線を送る。


「外から見えない位置へ。窓際には近づけないでください」


「本当に止められるんだろうな!」


「そのために警護しています」


 杉山はなおも外を気にしていたが、警護員に囲まれ、部屋の奥へ移動させられた。


 榊原自身は外へ出ようとはしない。


 戦闘能力のある東たちと並んで怪人へ向かっても、役には立たない。


 杉山を守る。


 屋内側の状況を把握する。


 外と情報をつなぐ。


 それが今の榊原の仕事だった。


     ◇


 紀人の端末が震えた。


『怪人出現。杉山邸へ接近中』


 待機していた紀人が立ち上がる。


「分かった」


 人目のない場所へ移動する。


 ベルトを腰に巻いた。


「配信開始」


 指を鳴らす。


 装甲が身体を包み、紀人はキッドへ姿を変えた。


 現場へ向かいながら、いつもの言葉を口にする。


「いいねよろしく」


 飛行カメラが現れ、紀人を追い始めた。


     ◇


「何だ、あいつ……!」


 現場へ着いた直後。


 紀人の目の前を怪人が横切った。


 視線を向けた時には、もう遠ざかっている。


 紀人もすぐに走り出した。


 だが数秒で分かった。


「速すぎる……!」


 紀人自身、普通の高校生とは比べものにならない身体能力を持っている。


 キッドへ変身すれば、さらに上がる。


 それでも追いつけない。


 ノミのメモリーを使う。


 脚部の能力が変化し、跳躍力が一気に増した。


 地面を蹴り、大きく跳ぶ。


 怪人の進路を先回りしようとする。


 しかし着地した時には、怪人はすでに別方向へ軌道を変えていた。


「くそっ!」


『内田君、追わないで!』


 東の声が通信から飛ぶ。


『相手の速度に合わせたら、こちらの配置まで崩れます!』


「でも、このままじゃ捕まえられない!」


『捕まえることが第一じゃありません!』


 紀人が足を止めた。


『杉山さんが目的なら、向こうからまた来ます!』


「……向こうから」


 紀人は杉山邸を見る。


 確かに怪人は逃走しているわけではない。


 何度離れても、また杉山邸へ近づいてくる。


 紀人の表情が変わった。


「そっか」


 怪人より速く走る必要などない。


「来る場所が決まってるなら、そこで待てばいいんだ」


 空手でも同じだ。


 速い相手を闇雲に追う必要はない。


 相手が攻撃に入る瞬間を読む。


 入ってくる場所へ先に身体を置けばいい。


     ◇


 川出が怪人の動きを追い続けていた。


「東側から二回入ってる。次も同じ道は使わない」


「北は?」


 東が聞く。


「警察車両が多い。あいつも見てるなら避けるはずだ」


 川出が周囲を見回す。


 怪人の速度そのものには追いつけない。


 だから動きを追うのではなく、選択肢を読む。


「西だ!」


 東は即座に動いた。


「北山さん、ニシさん、西側を絞ってください! 内田君、その内側へ!」


「了解!」


 ニシが道路の片側へ入る。


 北山が反対側へ回り込む。


 完全に道を塞ぐのではない。


 相手から見て、突破しやすそうな隙をあえて残す。


 その先に紀人が立った。


 低い唸りが聞こえる。


 どんどん近づいてくる。


「来る!」


 怪人が角を曲がった。


 西側。


 読みどおりだった。


 怪人は正面にいるニシを避ける。


 北山の間合いにも入らない。


 空いているところへ進路を取る。


 その先にいるのが紀人だった。


「今度は……」


 紀人は動かない。


 真正面から高速の怪人を受け止めれば、自分も吹き飛ばされる。


 ぎりぎりまで引きつける。


 怪人が迫る。


 一歩。


 もう一歩。


 直前で紀人が身体をずらした。


「逃がさない!」


 すれ違いざま、側面へ蹴りを叩き込む。


 直撃した。


 高速で走っていた怪人の身体が大きく崩れ、そのまま道路を転がった。


「入った!」


 紀人が地面を蹴る。


 今なら追撃できる。


 倒れている。


 もう一撃入れれば、このまま戦いを終わらせられるかもしれない。


 拳を引く。


 その瞬間だった。


 頭の中に、サクラの姿が浮かんだ。


 ――もし。


 もし、こいつも。


 元は人間だったら。


 拳が止まった。


 ほんの一瞬。


 本当に、それだけの躊躇だった。


 だが、戦いの中では長すぎた。


 倒れていた怪人が身体を跳ね起こす。


「紀人!」


 北山の声。


「しまっ――!」


 怪人が一気に加速した。


 紀人も反射的に追おうとする。


『追わないで!』


 東の声が飛ぶ。


『杉山さんの警護が優先です!』


 紀人の足が止まる。


 怪人は住宅街を抜け、そのまま遠ざかっていく。


 川出も追跡を試みたが、数秒で速度差を判断した。


「無理だ。今からじゃ追いつけない」


 南浦も銃口を下げる。


 民間人がいる市街地へ向かって、無理な狙撃はできない。


 やがて怪人の姿は、完全に見えなくなった。


     ◇


「逃げたのか!?」


 杉山は報告を聞いた途端、声を荒らげた。


「侵入は阻止しました」


 榊原が答える。


「あなたもご家族も無事です」


「そんなことを聞いているんじゃない! 倒したのかと聞いている!」


「撃破はできていません」


「だったらまた来るじゃないか!」


「その可能性はあります」


 榊原は否定しなかった。


 安心させるためだけの言葉を使うつもりはない。


「警護は継続します。今日の戦闘結果を踏まえて、配置も見直します」


 杉山は青ざめたまま椅子へ腰を落とした。


 しばらく何も言わなかった。


 やがて、低い声で尋ねる。


「……国会は」


「はい?」


「本当に、私は国会へ行かなければならないのか」


 榊原は少しだけ黙った。


 杉山の気持ちは分かる。


 これだけ警察官を置いた自宅へ、怪人は実際に突っ込んできた。


 家の中にいても狙われる。


 なら、外へ出たらどうなる。


「予定は変わっていません」


「だが今日、実際に怪人が――」


「だからこそ、その日までに警護計画を見直します」


 杉山はそれ以上何も言わなかった。


     ◇


 戦闘後。


 CASH側では、飛行カメラや周辺の記録に残った映像を使い、怪人の動きを確認していた。


 画面の中を、獣型の怪人が高速で駆け抜けていく。


「コヨーテ系かな」


 シラメ博士が映像を止める。


 細長い獣の顔。


 身体に組み込まれた、バイクを思わせる機械部品。


「コヨーテにバイク……コヨーテライダーってところかな」


「そのままだな」


 紀人が言った。


「分かりやすくていいでしょ。識別できれば名前なんてそれで十分だよ」


「俺の名前は安直って言われたのに……」


「何の話?」


「何でもない」


 紀人は口を閉じる。


 東は二人のやり取りには構わず、別の場面で映像を止めた。


「内田君」


「はい」


 声の調子で、紀人にも何を聞かれるのか分かった。


「最後、追撃できる場面で止まりましたね」


「……はい」


「理由を聞かせてもらえますか」


 怒っているわけではない。


 だからこそ紀人も誤魔化せなかった。


「もし、あいつも元は人間だったらって思ったんです」


 室内が静かになった。


「サクラみたいに、人間だった奴を怪人へ改造してるなら……そのまま俺が倒していいのかって」


 東は黙って紀人の言葉を聞いている。


 その隣で、シラメが少しだけ首を傾げた。


「それはないよ」


 紀人が顔を上げる。


「……え?」


「今回のコヨーテライダーが、サクラみたいな人間改造型ってこと。それはない」


「なんでそこまで言い切れるんだよ」


「向こうも、もうギアシステムを持ってるから」


 シラメの返答は早かった。


「ヨミを見たでしょ。向こうにもギアがあって、メモリーを使って能力を切り替えられる」


「それは分かってるけど」


「だったら、人間をわざわざ一種類の怪人へ固定する意味がないんだよ」


 シラメは紀人の方へ端末を向けた。


「速さが必要なら、それに向いたメモリーを使う。飛ぶ必要があれば飛行系。違う環境なら、また別の能力に替える。ギアっていうのは、それができるから便利なんだ」


「……うん」


「それなのに人間そのものをコヨーテ型の怪人に作り替えたら、その身体でできることに縛られる。せっかくメモリーを交換していろんな状況へ対応できるのに、自分から汎用性を捨てることになる」


 紀人は少し考えた。


 それでも、一つ引っかかる。


「じゃあ、サクラはどうなんだよ」


「サクラはギアシステムが完成する前に改造されたんだと思う」


 シラメはすぐに答えた。


「少なくともボクはそう考えてる。サクラが改造された時期と、ヨミがギアを使って出てきた時期を考えたら、その順番が一番自然」


「じゃあサクラは、古いやり方だったってこと?」


「言い方は悪いけど、方式としてはそう」


 ギアがまだなかった。


 だから人間そのものへ能力を持たせた。


 しかし、その後ギアシステムが完成した。


 メモリーを入れ替えれば、一人の使用者が複数の能力へ適応できる。


 固定された怪人体を作る必要性は、そこで大きく下がった。


 紀人は、それでももう一つ考えた。


「でもさ」


「何?」


「サクラより前に改造された奴が、まだ残ってた可能性は?」


 シラメは、今度こそ迷う様子もなく首を振った。


「ないよ」


「そこまで言える?」


「言える」


 即答だった。


「もしサクラ以前に作った固定型の怪人が戦力として残ってたなら、もっと前に使われてる」


「温存してたとか」


「何のために?」


 シラメはすぐに問い返した。


「今まで何度も怪人を投入してる。その時は使わずに、もっと便利なギアシステムが完成して、ヨミまで出てきた後になって、わざわざ旧式の怪人体を初めて出す?」


 紀人は黙った。


「順番が逆なんだよ」


 シラメは続ける。


「使える旧型が残ってたなら、ヨミが出る前にとっくに投入されてる。逆に今から新しく戦力を用意するなら、ギアを使った方が合理的」


「……じゃあ」


「うん」


 シラメははっきり言った。


「今回のコヨーテライダーを、『元人間かもしれない』なんて理由で躊躇する必要はないよ」


 紀人はすぐには返事をしなかった。


 サクラが人間だったと知ってから、紀人の中で「怪人」という存在そのものが曖昧になっていた。


 目の前にいる怪人も元は人間かもしれない。


 これまで倒した怪人もそうだったのかもしれない。


 気づかないうちに、その可能性をすべての怪人へ広げていた。


 怪人を倒すことそのものが怖くなったわけではない。


 誰かを助けるためなら、戦える。


 ただ、最後の一撃を入れていい相手なのかが分からなくなっていた。


「迷ったこと自体を責めているわけではありません」


 東が言った。


 紀人が顔を上げる。


「でも、その一瞬で相手が逃げたのも事実です」


「……はい」


「次から、分からないことがあるなら戦闘になる前に共有してください。一人で抱えたまま、戦いの最中に答えを出そうとしないこと」


「分かりました」


 紀人は頷いた。


 胸に残っていた迷いが、すべて消えたわけではない。


 それでも少なくとも、「出てくる怪人は全部、元人間かもしれない」という漠然とした恐れには、シラメが技術的な答えを与えてくれた。


     ◇


「それより」


 シラメが再び画面へ向き直る。


「もっと大きい問題があるよ」


 表示されたのは、今日のコヨーテライダーの映像と、第2の被害者についてまとめた資料だった。


「今日見た限り、このコヨーテライダーの一番分かりやすい特徴は速度」


 映像が進む。


 高速で走る。


 警備の配置を見ながら進路を変える。


 何度も違う角度から杉山邸への接近を試みる。


「追跡とか突破とか、そういう方向に強いタイプだと思う」


 川出が腕を組んだ。


「それがどうした?」


「第2の被害者」


 シラメが資料を切り替える。


「あの人は道路陥没へ巻き込まれた。でも、転落だけで死亡したわけじゃない。落ちた後に、別の攻撃を受けたと考えないと説明がつかない」


 東が頷く。


「検視でも、転落直後にはまだ生存していた可能性が高いと出ています」


「うん」


 シラメは今日の映像と資料を交互に見た。


「今日取れたデータと、第2の事件を合わせて考えると、一体で全部説明するのは無理」


 紀人が顔を上げる。


「じゃあ……」


「もう一体いる」


 シラメは今回は濁さなかった。


「コヨーテライダーとは別の怪人が、第2の事件に関わってる」


 室内の空気が変わった。


 東が確認する。


「二体目の存在自体は、もう確定と考えていいんですね」


「うん。そこはいいと思う」


 川出が資料へ目を落とす。


「じゃあ、道路を陥没させたのが二体目か」


「それはまだ分からない」


 シラメがすぐに止めた。


「違うのか?」


「違うとも言ってないよ。分からないんだ」


 シラメは道路陥没時の資料を示した。


「二体目の能力で道路そのものを落とした可能性はある。でも、何か別の原因で起きた陥没を利用して、そこへ落ちた相手を二体目が襲った可能性もある」


「つまり、二体目の能力はまだ特定できない」


 東が整理する。


「そう」


「道路陥没との因果関係も不明」


「うん」


 紀人が口を挟む。


「コヨーテライダーと、その二体目が仲間かどうかも?」


「それも分からない」


 シラメが頷いた。


「別々に動いて、たまたま同じ三人を狙ってる可能性もある」


「逆に、最初から二体で役割を分けている可能性もある」


 東が続けた。


 川出が小さく息を吐く。


「そっちだったら厄介だな。一体が派手に動いてる間に、もう一体が別方向から来る」


 東の表情が険しくなった。


「今日、私たちはコヨーテライダーへかなり意識を向けました」


 その言葉に、誰も返事をしなかった。


「もし、あの時もう一体が近くにいたら――」


 その先は、言わなくても分かる。


 コヨーテライダーの高速移動へ目を奪われ、CASHの人員がそちらへ集中した瞬間。


 別方向からもう一体が杉山へ近づいていたら。


「……かなりまずいな」


 紀人が言う。


「かなりね」


 シラメはあっさり認めた。


「一体を止めればいいと思ってた時より、ずっと面倒」


 東はしばらく黙り込み、二つの資料を見比べていた。


 そして、ふと何かを思い出したようにシラメへ顔を向ける。


「シラメ博士」


「ん?」


「CASHが発足する前に使っていた、旧型の対怪人特殊銃。あれはまだ残っていますか?」


 シラメが瞬きをした。


「あの旧型?」


「はい。モズキャッチャーの時に一般警察にも配備したものです」


「ああ……」


 シラメもすぐに思い出した。


 現在のCASH専用装備が作られる以前。


 一般の警察官でも怪人へ対抗できるよう設計された旧式の特殊銃があった。


 白蟻タイプのような比較的弱い怪人には有効だった。


 ただし、強力な怪人を相手にするには力不足で、モズキャッチャー本体へ集中射撃を浴びせても、動きを鈍らせたり傷を負わせたりする程度。決定打にはならなかった。


 それでも、通常の拳銃ではまともに対抗できない怪人へ攻撃できるという点では、大きな意味があった。


「全部は処分してないと思う」


 シラメが答える。


「倉庫に残ってるはず。でも長く使ってないから、数と状態は確認しないと分からないよ」


「お願いします」


「使うの?」


「使えるものがあるなら、一般警察へ再配備したいです」


 紀人が東を見る。


「普通の警察にも?」


「ええ」


 東は頷いた。


「今までは、怪人が出れば通常警察は避難誘導や封鎖に回り、戦闘はCASHへ任せる形でも対応できました」


 だが状況は変わった。


「二体いる」


 東は続ける。


「しかも二体目は、姿も能力も分からない。コヨーテライダーと連携している可能性まであります」


 一体へCASHが集中した瞬間、別の一体が現れる可能性がある。


 その時、すべての警察官が怪人に対して何もできない状態では困る。


「一般警察に怪人を倒してもらおうという話ではありません」


 東は言った。


「でも、逃げるしかない状態と、数秒でも時間を稼げる状態では違います。その数秒で、CASHが間に合うかもしれない」


「旧型なら、シロアリタイプ相手には普通の警察官でも使えてたからね」


 シラメが頷いた。


「今のCASH装備ほど強くはないけど、何もないよりはずっといい」


「在庫を確認してください。使えるものは整備をお願いしたいです」


「分かった」


 東はそこで、同席していた榊原へ向き直った。


「榊原さん」


「はい」


「在庫と状態が確認できたら、真壁さんに一般警察への再配備について正式な申請を上げてもらえませんか?」


 榊原は少し考えた後、頷いた。


「分かりました」


「お願いします」


「シラメ博士から、使える数と整備に必要な時間を出してもらえれば、配備先と必要数はこちらで整理します。その上で真壁さんへ上げましょう」


 榊原の役目は、現場で必要になったものを実際の制度や運用へ落とし込むこと。


 そして真壁は、そのために必要な予算や権限を上層部へ通す。


「保管装備を一般警察へ戻すなら、管理や貸与の手続きも必要です」


「そこもお願いします」


「ええ。できるだけ急がせます」


 紀人は三人のやり取りを聞いていた。


 以前なら、現場から怪人の情報が上がっていても、それ自体が認められないことがあった。


 今は違う。


 東が現場で必要な対策を考える。


 シラメが技術面を確認する。


 榊原が実際の運用へ落とし込む。


 真壁が上層部へ話を通す。


 すぐに完璧な組織へ変わったわけではない。


 それでも、怪人へ対抗するために警察全体が動こうとしている。


「できる準備は、全部しておきましょう」


 東が言った。


 誰も反対しなかった。


 今日現れた、高速で走るコヨーテライダー。


 まだ姿も能力も分からない二体目。


 二体が別々に動いているのか。


 一つの目的のために協力しているのか。


 道路陥没そのものが二体目の能力だったのか。


 何一つ分かっていない。


 だからこそ、一体だけを想定して待つわけにはいかない。


 そして次に杉山が、どうしても家の外へ出なければならない日は、すでに決まっていた。


 国会での弁論。


 そこでは自宅のように、守る場所を一か所へ絞ることもできない。


 移動もある。


 一般人もいる。


 どこから襲われるかも分からない。


 その日までに、できるだけ守りを厚くする必要がある。


 敵は、一体ではなかった。


 そして次は、一体だけを見ていればいい戦いにはならないかもしれなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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