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ビーストギア  作者: 時根脱才 
バイクコヨーテ編

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第3話 次は私だ



第3話 次は私だ


 二人目の死亡から一夜が明けても、道路陥没の原因は分かっていなかった。


 現場では崩れた舗装だけでなく、その下の地盤や地下設備まで含めた調査が続いている。単純な老朽化による事故なのか、人為的に地盤へ何かされたのか、それとも怪人が関与しているのか。今のところ、どの可能性も完全には捨てられていない。


 CASHにも、現場から上がった情報は随時共有されていた。


 以前のように、事件が起きてから何時間も経ってようやく断片的な情報が届くことはない。通常の捜査本部とCASHがそれぞれの担当範囲で調べ、その中に怪人へつながりそうな情報があればすぐに回す。


 少なくとも、情報共有の仕組みそのものは変わり始めていた。


 その日の午前中、新たな報告が届いた。


「……致命傷?」


 東は端末の画面を見ながら、思わず聞き返した。


 送られてきたのは、昨日の道路陥没で死亡した二人目の警察上層部についての検視報告だった。


 川出も席を立ち、シラメ博士が表示した資料を横から覗き込む。


「転落した時の傷じゃないんですか?」


「それだけじゃ説明できないみたいだね」


 シラメ博士はいつもの調子で話し始めたものの、その声には普段ほどの軽さがなかった。


 車は大きな穴へ転落している。


 車体そのものも激しく損傷し、遺体には当然、落下や衝突によるものと考えられる複数の外傷が残っていた。


 問題は、それらに混じっていた一つの傷だった。


「車体に身体をぶつけたものでもないし、車が潰れたことで負ったものとも考えにくい。少なくとも、検視した側はそう見てる」


 北山が腕を組む。


「何でつけられた傷なんだ?」


「そこまでは分からないよ。今のところ、形だけで凶器を断定できる状態じゃない」


 東は報告書を読み進め、途中で視線を止めた。


「死亡に直接つながった可能性が高い……」


「うん。それと、もう一つ」


 シラメ博士が画面を切り替える。


「転落した直後には、まだ生きていた可能性があるみたい」


 川出が顔を上げた。


 ニシも表情を変える。


「じゃあ、穴に落ちて、それで死んだんじゃなくて……」


「落ちた後に、何者かから致命傷を受けた可能性がある」


 東が静かに言った。


 部屋の空気が変わった。


 昨日までは、大規模な道路陥没へ偶然巻き込まれた可能性が残っていた。


 不自然な事故ではある。


 時期も悪すぎる。


 それでも、事故である可能性そのものを捨てることはできなかった。


 だが、転落では説明できない致命傷があるとなれば話は違う。


「もし本当に転落後の傷なら」


 東は考えながら言葉を続けた。


「道路を崩したこと自体が、標的を殺すための手段だった可能性があります」


「車ごと落としたってことか」


 ニシの声が低くなる。


「逃げられなくしてから、とどめを刺すために」


「そこまでは断定できません。ただ、その可能性も捜査に入れるべきです」


 シラメ博士も頷いた。


「事故を起こすことが目的じゃなくて、相手を穴の中に落とすことが目的だったとしたら、一応は筋が通る」


 一人目は、自宅で家族や使用人とともに殺された。


 二人目は、道路陥没事故に見せかけるような形で命を奪われた可能性がある。


 手段はまったく違う。


 それでも、二人とも偶然死んだのではない可能性が高くなった。


「川出」


 東が呼ぶ。


「昨日、尾行していた隊員から、怪しいものを見たという話は本当に出ていないんですね?」


「もう一度確認しました。怪人らしいものも、不審な車両も見ていません。道路が崩れる直前にも、目立った異変はなしです」


「地下については?」


「そちらは現場側で調査中です。地盤や地下構造は、専門に任せた方がいいでしょう」


「そうですね」


 川出はもう一度検視結果へ目を落とした。


 昨日、何度も考えた。


 もっと強く止めていれば。


 自分が直接ついていれば。


 外出そのものをさせなければ。


 だが、今はそれを繰り返している場合ではない。


 二人目の死が事故ではなかったのなら、次に考えるべきことは一つしかない。


 三人のうち、まだ生きている人間がいる。


 その時、部署の電話が鳴った。


          ◇


「……本人から?」


 連絡の内容を聞いた東は、少し意外そうに聞き返した。


 三人目の警察上層部側からだった。


 秘書を通した連絡ではあるものの、要件は明確だった。


 CASHと至急、直接話がしたい。


 できるだけ早く。


 二人目が死亡した以上、こちらからも警護を申し出る必要があると考えていた矢先だった。


「昨日とは随分違うね」


 シラメ博士が言った。


 二人目は、最後までCASHからの警護を拒否した。


 家族への警護すら嫌がった。


 三人目は、自分からCASHへ連絡を取ってきた。


「二人続けて亡くなったんですから、怖くなるのは当然です」


 東はそう答えた。


 理屈では、その通りだった。


 だが実際に会うと、その言葉だけでは片づけにくいものがあった。


          ◇


「私を守ってくれ」


 三人目の男は、東たちが警護について説明するより先にそう言った。


 ほとんど挨拶も終わっていない。


 東は一瞬だけ間を置いてから答えた。


「その件については、こちらからも警護をお願いする予定でした」


「今すぐだ」


 男は食い気味に言った。


「今日から二十四時間つけてくれ。家にもだ。私が移動する時は必ず同行させろ」


「必要な体制は組みます。ただし、人員には限りがありますから、通常警察との分担も――」


「足りないなら増やせ」


 最後まで聞こうとしない。


「人も装備も、必要なら追加しろ」


「簡単に増やせるものではありません」


「必要な金はいくらかかっても構わない」


 東の眉がわずかに動いた。


「CASHは民間の警備会社ではありません。個人のお金で警護人数を増やす組織でもありません」


「なら予算を通す!」


 男は机へ両手をついた。


「必要な予算なら通す。装備が必要なら申請しろ。人が足りないなら増員の話もする。何でもいい」


 声が震えている。


「とにかく、私を守れ」


 川出は少し離れたところから、その様子を見ていた。


 ただ横柄なのではない。


 怒っているわけでもない。


 恐れている。


 それも、漠然とした不安ではなかった。


 まるで、何かが来ることを知っている人間のように見えた。


「ご家族にも警護をつけます」


 東が言うと、男は即座に頷いた。


「当然だ。家族にも人をつけろ。家の周りも見張れ。入ってこられそうな場所は全部だ」


 二人目とは正反対だった。


 警護を嫌がるどころか、もっと増やせと要求している。


「一つ確認させてください」


 東が男の顔を見る。


「どうして、そこまでご自身が狙われると思っているんです?」


 男の動きが、ほんの一瞬だけ止まった。


「……何だと?」


「一人目、二人目と続いています。こちらも、あなたが次の標的になる可能性は高いと考えています」


「なら――」


「でも、あなたは『狙われるかもしれない』という話し方をしていません」


 東の声は穏やかだった。


「自分が狙われることが、もう決まっているように聞こえます」


「三人のうち二人が死んだんだぞ!」


 男が声を荒らげた。


「次が私だと考えるのが普通だろう!」


「もちろん、そう考えて警戒すること自体は当然です」


「なら、何を聞く必要がある!」


「三人に、記者会見以外の共通点はありませんか?」


 男の返事は早かった。


「ない」


 東が少し間を置く。


「一人目、二人目と、過去に同じ案件へ関わったことは?」


「ない」


「同じ判断をした、同じ人物と関わった、同じ部署や会議で何かを決めた――そういったものも?」


「知らん。ないと言っているだろう」


 川出は男の顔を見た。


 考える時間がほとんどない。


 三人とも警察上層部の人間だった。


 本当に何もないのなら、普通は一度くらい記憶を探ろうとするものだろう。


 だが男は、最初から答えを用意していたように否定した。


「本当に何もありませんか?」


 川出が口を挟む。


 男が鋭い目を向けた。


「何が言いたい?」


「もし二人が狙われた理由につながることを知っているなら、今のうちに話してもらった方がいい。それだけです」


「知らん!」


 また即答だった。


「私が知っているのは、あの記者会見に三人で出た。そのうち二人が死んだ。それだけだ!」


 川出はそれ以上聞かなかった。


 違和感はある。


 だが、それを調べるのはCASHの仕事ではない。


 三人が過去に何へ関わったのか、人間関係にどんな共通点があるのか。


 それは通常の捜査で調べるべきことだ。


 CASHの仕事は、怪人が現れた時にこの男を守ることだった。


「分かりました」


 東が話を戻した。


「警護は今日から始めます。ご家族についても通常警察と連携します。CASHは、怪人による襲撃があった場合にすぐ対応できる位置へ配置します」


「絶対に外すな」


「可能な範囲で常時警戒します」


「一人になる時間も作るな」


「トイレや浴室まで中へ同行することはできません。ですが、すぐに対応できる位置へ人員を置きます」


「……それでいい。とにかく離すな」


 二人目が警護を拒んだ時とは、まるで別の意味で話が通じなかった。


          ◇


 面談が終わると、川出はそのまま通常の捜査本部へ連絡を入れた。


「三人目について、少し気になることがあります」


 川出は余計な推測を混ぜず、実際にあったやり取りを伝えた。


 自分が次に狙われることを、ほとんど確定事項のように話していたこと。


 記者会見以外の共通点を尋ねても、考える間もなく否定したこと。


『何か隠していると思うか?』


「そこまでは言えません」


 川出は答えた。


「二人続けて死んでるんです。極端に怖がっているだけかもしれない。ただ、念のため三人の過去はそちらで洗ってもらいたいです」


『分かった。共通して関わった案件や経歴、人間関係はこっちで調べる』


「怪人に関係しそうな情報が出たら、すぐこちらにも回してください」


『そっちも頼む』


「了解です」


 通信を切る。


 怪しいからといって、CASHが何でも自分たちで調べる必要はない。


 人物関係や過去の案件を追うのは通常警察。


 怪人の行動や能力を分析し、襲撃へ備えるのはCASH。


 そして、どちらかに相手の担当領域へつながる情報が出れば共有する。


 以前なら簡単にはできなかった連携が、少しずつ形になっていた。


「で、川出はどう思う?」


 シラメ博士が椅子の背にもたれながら尋ねる。


「あの人、何か知ってると思う?」


「分かりません」


「またそれ?」


「分からないものを、分かったとは言えませんから」


 川出は少し考えてから続けた。


「ただ、怖がり方は気になります」


「どんなところ?」


「俺たちも、次に狙われる可能性は高いと思ってます。でも、俺たちは『可能性が高い』と思ってるだけです」


 川出は、男が座っていた場所へ目を向けた。


「あの人は違った」


「どう違ったの?」


「『来るかもしれないから守れ』じゃない」


 そこで一度言葉を切る。


「『来るから守れ』って感じでした」


 シラメ博士が黙る。


 東も否定しなかった。


「その違和感を調べるのは捜査本部です」


 東は話を整理するように言った。


「私たちは警護に集中しましょう。怪人が本当に三人目を狙っているなら、今度こそ守らないといけません」


          ◇


 その日を境に、三人目は外へ出なくなった。


 単に予定を減らした、という程度ではない。


 会議も会食も面会も、外出を伴うものはすべて断った。必要な打ち合わせは通信へ切り替え、署名が必要な書類は自宅まで運ばせる。


 警察とCASHは、本人だけでなく家族も含めて警護体制を組んだ。


 自宅周辺には通常の警察官を配置し、怪人襲撃に備えたCASHの人員もすぐ動ける位置へ置かれる。


 それでも、本人は安心しなかった。


「食事はこちらへ持ってきてくれ」


 家の中でさえ、ほとんど自室から出ようとしなかった。


 移動するのはトイレと浴室。


 それだけ。


 居間へ行くことも、家族と食卓を囲むことも拒んだ。


 食事は自室へ運ばせる。


 必要な書類も自室。


 家族に話があるなら、向こうから来てもらう。


 警護担当者が、


「屋内にも警戒要員を配置しています。ご自宅の中まで行動を制限する必要はないと思いますが」


 と説明しても、男は首を横に振るだけだった。


「必要がないなら、動かない」


「ですが――」


「ここにいる」


 取り合わなかった。


 窓の外を頻繁に確認する。


 廊下から少し大きな音が聞こえただけで扉へ顔を向ける。


 警護員が交代すると、新しく来た人間が本当に警察の者なのか確認する。


 寝る前には鍵を確かめる。


 夜中に目が覚めれば、また窓を見る。


 狙われるかもしれない人間というより、狙われることを知っている人間のようだった。


 その様子は警護記録としてCASHにも届いていた。


「……かなり徹底してるね」


 シラメ博士が報告書を眺めながら言った。


「外へ出ないのは分かるよ。二人目は外出したあと死んでるんだから。でも、家の中の居間にすら行きたくないっていうのは、相当だね」


「本人にしか分からない恐怖もあるでしょう」


 東はそう答えたものの、それだけで納得している顔ではなかった。


 川出は、三人目の予定表を確認していた。


 会議。


 式典。


 面会。


 会食。


 外出を伴う予定には、次々と中止、あるいは通信参加への変更が書き込まれている。


「……これだけ残ってますね」


 川出が一つの日付を指した。


 東とシラメ博士も画面を見る。


 国会。


 怪人問題について説明するための弁論予定。


「これはさすがに、自分が怖いから行きません、じゃ済まないね」


 シラメ博士が言う。


 東も頷いた。


「それまでの予定は動かせても、これは難しいでしょう」


 三人目は、それまでの間、一歩も外へ出ないつもりだった。


 だが、その日だけは違う。


 どれほど拒んでも。


 どれほど警護を増やしても。


 国会弁論の日が来れば、家から出なければならない。


          ◇


 その夜。


 三人目は自室の椅子に腰を下ろしたまま、閉じたカーテンを何度も見ていた。


 部屋の外には警護員がいる。


 階段にもいる。


 玄関にもいる。


 家の周囲にも警察が配置され、何かあればCASHへすぐ連絡が入る。


 それでも落ち着かなかった。


 机の上には今後の日程表が置かれている。


 ほとんどすべての予定には、中止や変更を示す書き込みがされていた。


 その中で、一つだけ残された日付。


 国会弁論。


 男はその文字を長い間見つめていた。


 やがて、紙を裏返す。


「……それまでは出ない」


 誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。


「絶対に外には出ない」


 廊下の向こうを警護員が歩いていく。


 一定の間隔で近づき、扉の前を通り過ぎ、また遠ざかっていく足音。


 それが聞こえなくなるまで、男は扉から目を離さなかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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