閑話 公表(三)――使うのではなく
閑話 公表(三)――使うのではなく
「おかえりなさい」
戻ってきた東とシラメ博士に気づき、川出が顔を上げた。北山たちも手を止め、二人を見る。
「どうでした?」
「喧嘩売ってきた」
シラメ博士が即答した。
「おいおい。大丈夫なのかよ、それ」
ニシが顔をしかめる。
「大丈夫でしょ。こっちには優秀なリーダーがいるから」
シラメ博士が東を見ると、全員の視線もそちらへ集まった。
「……すみません」
「何がです?」
「私も喧嘩を売ってきてしまいました」
「二人ともかよ!」
◇
「もう少し穏便に話すべきだったかもしれません」
東は少し気まずそうだったが、川出の反応は意外に軽かった。
「でも、言うことは言ったんですよね?」
「はい」
「なら、いいんじゃないですか。それより、次から情報はちゃんと回ってくるんですか?」
「……そこまでは決まっていません」
「じゃあ、まだ駄目ですね」
ニシも頷いた。
「俺もそっちの方が気になる。上を怒らせたとかはどうでもいい。次に怪人が出た時、ちゃんと俺たちに話が来るのか?」
「現時点では、何とも言えません」
「なら、今まで通り備えるしかないですね」
北山が言った。
「向こうの都合で怪人が待ってくれるわけじゃありませんから」
「そういうこと」
シラメ博士が満足そうに頷く。
「だから僕、帰ってきた」
「博士はもう少し反省してください」
「何を?」
「……やっぱりいいです」
◇
「まあ、全員が駄目だったわけじゃないけどね」
シラメ博士が付け加えた。
「中には、ちゃんと話を聞いて、自分たちにも問題があったって分かってそうな人もいたよ」
少し考えてから言う。
「ああいう人が僕たちの上に立ってくれればよかったのにね」
東が苦笑した。
「人事は私たちでは決められませんから」
「残念だね」
彼らの関心は、上層部との面子の争いにはなかった。次の怪人が現れた時、自分たちが動けるのか。それだけだった。
◇
一方、二人が去った会議室では、重い沈黙が続いていた。
「……どうする?」
「まずCASHとの関係を何とかしろ。このままではまずい」
「今回の会議は、怪人の存在を公表した後、あの部隊を今まで以上に組織的に動かすためのものでもあった。それがどうだ。協力体制を強めるどころか、完全に逆になっている」
「過去の件は調査委員会に回せばいい」
別の者が言った。
「責任の所在はそこで確認する。今優先すべきは、今後の怪人対策だ」
「……過去の死人は戻らん。今いる戦力をどう使うかの方が重要だ」
「その言い方はやめろ」
すぐに声が飛んだ。
だが、別の人物がさらに強く机を叩いた。
「いい加減にしろ。今まで何の話を聞いていたんだ」
◇
会議室が静まる。
「特別殲滅部隊が全滅し、一般人にも犠牲者が出た。その後の火災でも人が亡くなり、公園の事件では殉職者まで出ている。その話をした直後に、最初に考えることが『どうCASHを管理するか』なのか?」
「感情論で組織は動かせん」
「感情論ではない。失敗した原因を直さず、また同じことをしようとしていると言っている」
男は一度、閉じた扉を見る。
「東君たちの態度が正しかったとは言わん。シラメ博士の発言など、到底褒められたものではない。だが、あそこまで言わせた原因がすべて向こうにあると思っているなら、それこそ問題だ」
◇
「なら、協力者の二人だけでもこちらで直接管理できないのか」
「二人とも未成年だぞ」
「だからこそ、保護という形で――」
「言葉を変えれば許されると思うな」
即座に遮られた。
「本人たちは職員でも隊員でもない。自主的な協力者だ。無理に囲い込めば、二人だけでなくCASHとの関係まで壊れる」
「だが、このまま一部隊だけに依存するのも危険だ」
その指摘には、誰も反論しなかった。
CASHが壊滅した場合。
同時に複数の怪人事件が発生した場合。
協力者の二人が動けない場合。
今の体制には、あまりにも余裕がない。
「なら、新しい殲滅部隊を作るべきだ」
議論は次の段階へ進んだ。
◇
「第二、第三の対怪人部隊を作る。それならCASHだけに依存せずに済む」
「必要性そのものには賛成する」
先ほどの男も否定しなかった。
「だが、何を持たせる?」
「通常火器が通用しないなら、もっと強力な兵器を開発する」
「さっき何を見ていた」
「何?」
「特別殲滅部隊だ。怪人には十分通用せず、その一方で住宅には怪人の攻撃では説明できない破壊痕まで残した」
「だから今度は、確実に通用する威力を――」
「それを市街地で使うのか?」
言葉が止まった。
◇
怪人は演習場に現れるわけではない。
住宅街、駅、公園、寺。これまでの事件は、いずれも人間の生活圏で起きている。
「怪人を倒せても、周囲の住民まで巻き込んだら意味がない」
「では威力を抑える」
「それで通じなければ、前回と同じだ」
怪人を確実に倒せる威力と、市街地で運用できる安全性。その両方を満たさなければならない。
そして、問題はそれだけではなかった。
「仮に作るとして、完成までどれだけかかる?」
◇
試作、試験、改良。
さらに、それを扱う隊員の訓練。
「半年か。一年か」
「試作品ならもっと早く――」
「その間、怪人は待ってくれるのか?」
再び沈黙が落ちた。
「新しい兵器が完成するまでに、何体現れる? 明日また現れないと、誰が保証する?」
誰にも答えられない。
「しかも完成したところで、本当に怪人に通用するか、どう確認する?」
試験場に怪人はいない。
「実戦で試すしかないなら、効かなかった時はどうする」
モニターには、全滅した特別殲滅部隊の記録が残っていた。
「また人間を送り込んで試すのか?」
その問いに答える者はいなかった。
◇
「なら、シラメ博士に作らせればいい」
「今の会議を聞いていたのか?」
「東を通せば――」
「だから、その考え方をやめろと言っている」
声に苛立ちが混じった。
「必要になったから、今度は技術だけ出せと命令するのか?」
「なら別の技術者を集める」
「怪人の戦闘データは?」
「共有させればいい」
「能力に関する知識は?」
「それも――」
「結局、CASHから取るのか?」
そこで、議論は行き詰まった。
◇
新しい技術者を集めることはできる。
だが、怪人との実戦データ、市街地での戦闘記録、能力分析、実際に攻撃を受けた装備の情報まで一から積み上げるには時間がかかる。
「第二の部隊は必要だ。それ自体には賛成する」
先ほどから異論を唱えていた男が言った。
「だが、CASHへの当てつけとして代用品を作るなら反対だ。必要なのは代用品ではなく、戦力の拡充だ」
「ではどうする」
「CASHの実戦経験と技術を共有してもらい、それを基に新しい部隊を育てる。装備も訓練体系も、一から作り直すんだ」
「結局、CASHが必要じゃないか」
「そういうことだ」
◇
皮肉な結論だった。
CASHへの依存を減らすためには、新しい戦力が必要になる。
しかし、その戦力を作るためにも、CASHが蓄積してきた技術と情報、実戦経験が欠かせない。新部隊が実戦投入できるようになるまでの怪人への対処も、結局はCASHに頼るしかなかった。
「……あの部隊の協力なしでは、始めることすらできないということか」
誰も否定しなかった。
「では、どうやってこちらの管理下へ戻す」
その言葉に、一人が深く息を吐いた。
「まだ分からないのか」
「何がだ」
「管理するんじゃない」
男ははっきりと言った。
「協力してもらうんだ」
◇
「CASHは組織の一部だ。だが、そこにいる人間も、技術も、協力者も、命令書一枚で同じように動くわけじゃない」
「では、向こうの言いなりになれと?」
「違う。こちらも必要なものを出し、向こうにも必要なものを出してもらう。相手の意見も聞く。それを協力と言うんだ」
これまでのように、上で判断してから必要な情報だけを下へ流す。そのやり方では、すでに何度も問題が起きている。
「まず情報共有を変えるべきだ」
別の人物が言った。
「怪人の関与が確定してからCASHへ回すのでは遅い」
「どの段階で?」
「可能性がある段階からだ。通常の事件なのか、怪人が関与しているのか。それを判断するためにも情報が必要になる」
「怪人ではなかった場合は?」
「それなら、それでいい」
「疑わしい案件を全部回していたら――」
「少なくとも、テレビより先に知らせろ」
その一言に、反論する者はいなかった。
◇
怪人関与の可能性がある事件は、疑いの段階からCASHへ共有する。
怪人事件かどうかの判断にもCASHを参加させ、対怪人技術や戦闘情報を一方的な判断で遮断しない。
さらに、第二、第三の対怪人戦力についても、CASHの知見を共有してもらいながら長期的に育成していく。
少しずつ、今後の方針が形になっていった。
もっとも、全員が反省したわけではない。
CASHとの関係を修復しなければ怪人への対抗手段そのものを失いかねない。その現実を突きつけられ、変えざるを得なくなった者もいる。
それでも、少なくとも今までと同じやり方を続けることだけはできなくなった。
◇
「では、今後の怪人対策については、この方向で――」
「待て」
話をまとめようとした声が止まる。
「まだ何かあるのか」
先ほどから何度も異論を唱えていた男は、大型モニターへ視線を向けた。
そこには、今も過去の公式発表が残されている。
――銃乱射テロ。
「これからの話だけ決めて終わるつもりか?」
「過去の件については調査委員会を――」
「違う」
男は首を振った。
「怪人の存在を公表するなら、これはもう避けて通れない」
特別殲滅部隊の全滅。
一般人の犠牲。
残された遺族。
事実とは異なる公式発表。
そして、その判断を下した者たち。
「調査委員会を作れば、それで終わる話じゃない」
会議室の空気が、再び重くなる。
「誰が、遺族に説明する」
答える者はいない。
「誰が、これまでの発表を訂正する」
沈黙が続く。
「そして――」
男はモニターから目を逸らさなかった。
「誰が謝罪する」
今度こそ、誰も別の議題へ逃げることはできなかった。
「次は、こっちを決めるぞ」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




