閑話 公表(二)――誰の責任か
閑話 公表(二)――誰の責任か
「認めなかっただけです」
シラメ博士の言葉が落ちると、会議室を重い沈黙が覆った。
大型モニターには、これまで現場から提出されてきた報告書と、実際の戦闘映像が並んでいる。怪人は存在していた。その事実は一度ではなく、繰り返し報告されている。
それでも否定され、認められず、信じてもらえなかった。
もはや誰かの記憶や主張だけの話ではない。残された記録そのものが、それを証明していた。
やがて、上層部の一人が口を開く。
「……だが、過去の判断については、当時の状況も考慮する必要がある」
東が顔を上げた。
「そうですね。では、当時の判断について確認しましょうか」
予想外の返答だったのか、相手の表情が僅かに動いた。
◇
東が端末を操作すると、大型モニターへ新たな資料が表示された。
特別殲滅部隊。
怪人への対処を目的として投入され、全滅した部隊だった。
「この件です」
その名前が出ただけで、会議室の空気が変わった。
「当時、我々にはすでに怪人との実戦経験がありました。怪人の能力に関する情報、シロアリとの戦闘データもあり、シラメ博士による対怪人装備の開発も進んでいました」
東は関連資料を順に表示していく。
「ですが、特別殲滅部隊へ我々の情報を提供することは認められなかった。技術についても同じです」
「待て。まるで、それが全滅の原因だったかのような言い方ではないか」
「原因のすべてだとは言っていません。ですが、無関係だったとも思っていません」
◇
モニターへ当時の戦闘記録が映し出された。
特別殲滅部隊の攻撃を受けながら、それでも動き続けるシロアリ。
「特別殲滅部隊の装備は、シロアリに対して十分な効果を発揮できていません」
続いて表示されたのは、CASHが同じシロアリと交戦した際の記録だった。
「対して、我々の装備ならシロアリへ対抗できています」
「だからといって、装備を提供していれば結果が変わったと――」
「全員を救えたとは断定していません」
東は相手の言葉を遮った。
「ただ、結果を変えられる可能性はあったはずです」
「武器だけじゃないよ」
シラメ博士が口を挟んだ。
「防具も違うし、そもそも経験が違う。こっちは実際に怪人と戦ったデータを使って装備を作ってるんだよ。どういう攻撃を受けるのか、どのくらいの衝撃に耐えなきゃいけないのか。それを考えて作ってる」
「それでも、実戦で通用した保証はないだろう」
「こっちは先に実戦で使ってたよ?」
シラメ博士が不思議そうに首を傾げる。
「だからデータがあったんじゃない」
反論が止まった。
◇
シラメ博士は戦闘映像を少し巻き戻した。
「それに、向こうはシロアリを倒せなかっただけじゃないよね」
画面の中で戦闘は市街地へ広がり、住宅や道路、周辺施設には激しい破壊の跡が残されている。
「抑え込むこともできなくて、一般の人たちまで巻き込まれてる」
さらに映像を止めた。
「それと、これ」
損壊した住宅の壁面に、大きな破壊痕が残っている。
「この痕、怪人の攻撃と合わないよ」
「何?」
「少なくとも、確認されている怪人側の攻撃だけじゃ説明できない」
別の記録へ切り替える。
道路、住宅、壁面。複数の場所に、同じような痕跡が残されていた。
「でも、特別殲滅部隊に持たせた武器なら説明できるよね」
誰も答えなかった。
◇
「博士」
東が静かに口を開く。
「個々の犠牲者について、死因まで断定することはできません」
「分かってるよ」
「ですが、住宅などに残された破壊痕の一部が怪人側の攻撃特性と一致しない以上、一般人の被害すべてを怪人によるものと断定することもできません」
「そういうこと」
シラメ博士はモニターを指した。
「怪人を倒すために作った武器で、怪人は倒せなかった。それなのに、怪人じゃ説明できない破壊痕は住宅に残ってる。それ、成功した兵器って言えるの?」
「博士、言い方を」
「でも間違ってないでしょ?」
東は否定しなかった。
◇
「情報も技術も渡さない。怪人との実戦経験も十分ではない。その状態で投入した結果、部隊は全滅し、一般の方にも犠牲者が出た」
東は声を荒らげることなく、確認された事実だけを積み重ねていく。
「全滅を必ず防げたとは言いません。しかし、我々の情報や技術を提供した上で起きた全滅ではありません。提供する機会そのものを遮断した上で起きた全滅です」
次に表示されたのは、事件後に出された公式発表だった。
「そして、この事件を皆さんは何と発表しましたか?」
答える者はいない。
「銃乱射テロです」
会議室の空気が、さらに重くなる。
「怪人の存在を伏せる以上、一般の方が何によって亡くなったのか説明しなければならない。特別殲滅部隊がなぜ全滅したのかについても同じです」
東は先ほど映し出された住宅の破壊痕へ視線を向けた。
「それだけではありません。特別殲滅部隊側の攻撃が一般人の被害に関与した可能性まで表に出る」
そして、上層部へ向き直る。
「だから、銃乱射テロとして発表するしかなかったんですか?」
「……」
「怪人の存在だけではなく、特別殲滅部隊が何をしたのかについても、公表できなかったんじゃないですか?」
答えは返ってこなかった。
その沈黙が何を意味するのか、東は追及しなかった。
◇
「私は、あの時点で怪人の存在を公表するべきだったのか、その判断だけを今ここで責めるつもりはありません」
東はそこで一度言葉を切った。
「私が聞きたいのは、そのあとです」
モニターが切り替わった。
◇
今度は、消防隊が消火活動を続ける火災現場が映し出された。
「この事件です。我々が、この火災をいつ知ったか覚えていますか?」
答える者はいない。
「鎮火寸前です。しかも、警察内部から連絡を受けたわけではありません。テレビやネットに出ていた情報から知りました」
「当初は通常の火災として――」
「だから問題なんです」
東は相手の言葉を遮った。
「通常の火災なのか、怪人が関与しているのか。それを判断するための情報すら、こちらには回されなかった。怪人に対処するための部隊が、怪人の関与する可能性がある事件を、警察内部からではなくテレビで知ったんです」
モニターへ視線を戻す。
「我々が把握した時には、すでに鎮火寸前だった。それで、どうやって怪人事件に対応しろと言うんですか?」
誰も答えない。
「この火災では、逃げ遅れた老人が一人亡くなっています。もっと早く情報が届いていれば、その方を必ず助けられたとは言いません。ですが、我々がもっと早く動けた可能性はあった」
結果が変わったと断定することはできない。
だが、その可能性を検証する機会さえ与えられていなかった。
◇
「その次です」
映像が切り替わり、公園が映し出された。
「この事件についても、正式な情報共有を受けて出動したわけではありません。我々が独自に調べ、追跡して、ようやくたどり着いた事件です」
「それは――」
「そして、この事件では一人殉職しています」
相手の言葉が止まった。
「もし我々が独自に調べていなかったら、いつこの事件を知らせていただけたんでしょうね」
問いかけに答える声はなかった。
◇
東は三つの資料をモニターへ並べた。
「最初は、こちらの情報と技術を遮断した。その結果、特別殲滅部隊は全滅し、一般の方にも犠牲者が出た」
次の資料を示す。
「その次の火災では、怪人が関与している可能性を判断するための情報すらこちらへ来なかった。私たちが知った時には鎮火寸前で、逃げ遅れた方が亡くなっていた」
そして三つ目。
「その次も情報は来なかった。こちらが独自に調べて事件へたどり着き、そこで今度は殉職者が出た」
東は上層部を見回した。
「一体、何のために私たちを作ったんですか?」
誰も答えない。
「怪人に対抗するための部隊ですよね。なのに、技術は使わせない。情報も渡さない。怪人が関与している可能性のある事件が起きても知らせない」
「東君、言葉が過ぎるぞ」
「では、どこが間違っているのか教えてください」
また、沈黙だけが返ってきた。
◇
東は、銃乱射テロとして発表された事件の資料へ目を戻した。
「一つ、確認してもいいですか」
「何だ」
「一度、銃乱射テロとして発表した。そのあと怪人事件を認めれば、当然、あの発表も疑われます」
上層部の何人かが僅かに表情を変える。
「だから、その後も怪人の存在を認められなかったんじゃないですか?」
「東君!」
怒声が飛んだ。
だが、東は引かなかった。
「違うのであれば、違うと言ってください」
声を荒らげた者も、今度は何も返さない。
◇
しばらくして、一人がようやく口を開いた。
「……当時の判断については、改めて調査する必要がある」
「今回までの情報共有経路についても精査が必要だ」
「誰がどの段階で――」
「もういいんじゃない?」
シラメ博士の声が、その話を断ち切った。
「博士?」
「調査します。精査します。確認します」
シラメ博士は指を一本ずつ立てた。
「その間、怪人は待ってくれるの?」
「何が言いたい」
「次が明日かもしれないし、今日の夜かもしれない。こっちは怪人の能力を調べて、戦闘データを見て、装備を直して、次にどう戦うか考えなきゃいけないんだよ」
「それと責任問題は別だ!」
「うん。だから、そっちでやって」
シラメ博士は椅子から立ち上がった。
「こんな馬鹿たちに付き合ってたら、被害が増えるだけだよ」
会議室の空気が凍りつく。
「何だと!」
東もさすがに眉を寄せた。
「博士、馬鹿は言い過ぎです。もう少し言い方があります」
「じゃあ、時間の無駄」
「それもあまり変わってません」
「でも間違ってないでしょ?」
東は小さく息を吐いた。
「……そこについては、今は何も言いません」
◇
「僕は戻るよ」
シラメ博士は扉へ向かった。
「今回のデータも見たいし、新しいメモリーも調べたい。次の怪人が出た時に『まだ責任者を調査中です』じゃ困るからね」
そのまま出ていくかと思われたが、扉の前で足を止める。
「それとさ」
振り返り、会議室に残る者たちを見回した。
「次も同じことをして、また情報を止めて、また誰かが死んだとして――次の被害者が、あなたたちだったらどうするの?」
誰も答えない。
「あなたたちの家族だったら?」
沈黙はさらに深くなった。
「その時も『調査します』『精査します』で納得できるのかな」
「博士、言葉が過ぎるぞ」
「そう?」
シラメ博士は表情を変えなかった。
「じゃあ、もっとはっきり言うね」
一拍置いて、告げる。
「僕は、あなたたちを助けないよ」
◇
「何だと?」
「僕が守りたいのは、怪人のことなんか何も知らないまま巻き込まれる人たちと、現場で命懸けで戦ってる人たちだから」
怒鳴ることもなく、シラメ博士は淡々と続けた。
「自分たちで情報を止めて、自分たちで危険を増やして、それで自分たちが巻き込まれた時だけ助けてって言われても、僕は知らない」
「博士、それはさすがに言い過ぎです」
東がたしなめる。
「うん。東が助けたいなら、東は助ければいいよ」
シラメ博士はあっさり答えた。
「でも僕は助けない。そのくらい、僕は今のあなたたちに腹が立ってるから」
返事を待つことなく扉を開け、そのまま会議室を出ていった。
◇
閉じた扉を見つめていた東は、小さく息を吐いた。
「……博士は言い過ぎですが、ここまで現場との信頼関係が悪化していることだけは、理解していただいた方がいいと思います」
上層部へ向き直ると、自分も椅子から立ち上がる。
「では、私も失礼します」
「待て! まだ話は終わっていないぞ!」
「責任の所在については、皆さんで続けてください。私は次の怪人事件に備えます」
「東君!」
「必要な説明はしました」
東は軽く頭を下げた。
「失礼します」
扉が閉まる。
残された者たちは、誰もすぐには口を開かなかった。
モニターには、全滅した特別殲滅部隊の記録、鎮火寸前まで情報が届かなかった火災、そして独自捜査の末に殉職者を出した公園での事件が並んでいる。
東とシラメ博士はもういない。
それでも、三つの事件が突きつけた問いだけは、会議室に残り続けていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




