閑話 公表(一)――認めなかったもの
閑話 公表(一)――認めなかったもの
「……説明が必要だな」
低い声が、重苦しい空気に包まれた会議室へ響いた。
壁際の大型モニターには、複数の映像が並んでいる。
T駅上空を飛び交う二つの影と、街中へ放たれる巨大な炎。その下では、武装した隊員たちが怪人と交戦している。
別の画面には、T寺で白い怪人と戦う一人の女性。
さらに、消防隊のすぐそばで消火活動を行う二体の異形まで映っていた。
そのほとんどが、すでにインターネット上へ流出している。
東はモニターを一度見てから、発言した男へ視線を戻した。
「何についてでしょうか」
「全部だ」
返答は即座だった。
◇
モニターの一つが拡大される。
T駅上空で、白い怪人を追うキッド。
「まず、この者だ」
上層部の一人が画面を指した。
「現場に外部の協力者がいることは聞いている。だが、我々が把握しているのはその程度だ」
東の眉が僅かに動いた。
「その程度、ですか?」
「何だ」
「彼が怪人との戦闘に参加していることも、これまで何度も報告しているはずですが」
「……何?」
東は机の上に置かれた端末へ目を向けた。
「確認していただけますか」
何人かが端末を操作し、過去の記録を遡り始める。
やがて、一人の手が止まった。
「……あるな」
別の者も同じ記録へたどり着く。
「こちらにもある」
東は何も言わず、全員の確認が終わるのを待った。
◇
「では、この者は何者なんだ?」
「協力者です」
「それは分かっている。人間なのか、怪人なのか。なぜあのような力を持っている。どこに所属している」
「人間です」
何人かが顔を上げた。
「人間?」
「はい」
「正体も知っているのか?」
「知っています」
「それは報告されていないぞ」
「個人情報ですから」
東は迷うことなく答えた。
「彼は未成年です。学生としての生活もありますし、正式な隊員ではありません。本人の意思で怪人事件へ協力してくれている立場です」
「だから正体を伏せたと?」
「活動内容については報告しています。ただ、本名や住所、学校など、個人を特定できる情報まで共有する必要はないと判断しました」
「組織上層にもか?」
「怪人と戦うために、彼の学校名まで必要でしょうか」
「そういう問題ではない!」
「では、どういう問題でしょうか」
東の声は終始変わらなかった。
感情的になっているのは、問い詰めている側だった。
◇
「彼は重要な戦力だ」
「その通りです」
「ならば、なおさら素性を把握する必要がある」
「重要な戦力だからこそ、協力関係を壊すべきではありません」
東はモニターへ視線を移した。
画面の中では、キッドが炎の中へ飛び込んでいる。
「彼は職務として戦っているわけではありません。こちらから命令を受けているわけでもない。それでも怪人が現れるたびに危険な現場へ来て、命を懸けて協力してくれています」
そこで初めて、東の声に僅かな強さが加わった。
「現状、強力な怪人の討伐は、彼らの協力なしでは成り立ちません」
「彼ら?」
◇
その言葉に合わせるように、映像が切り替わる。
T寺。
一人の女性がベルトを腰へ巻いた。
「コラボ開始」
光が身体を包み、その姿が変わる。
毒針を使った格闘戦。
脚部に装着されたアタッチメント。
そして、白い怪人を仕留めた強烈な蹴り。
「……この女性か?」
「はい」
「この者も協力者なのか?」
「そうです」
「正体を知っている?」
「知っています」
「年齢は?」
「こちらも未成年です」
再び、会議室に沈黙が落ちた。
◇
「この者については報告しているのか?」
「もちろんです」
「そんな報告は――」
「あります」
東は相手が言い終える前に答えた。
「以前の怪人事件での戦闘、その後の協力についても、すべて報告しています。確認してください」
また端末を操作する音が続く。
過去の報告を遡り、該当する記録を探していく。
やがて、一人の手が止まった。
「……あった」
別の者も記録を見つける。
「こちらにもある」
報告書が大型モニターへ表示された。
日時。
場所。
出現した怪人。
協力者。
戦闘内容。
必要な事実は、そこに記録されていた。
◇
「では、なぜ我々は――」
「知らなかったんですか?」
東が静かに聞き返した。
「何?」
「こちらは報告しています」
大型モニターへ、過去の報告書が次々に並べられていく。
「怪人の存在も、キッドの協力も、彼女の戦闘も、現場で確認した能力も、その都度報告してきました」
「しかし、怪人などというものを――」
「否定したのは、そちらですよね」
言葉が止まった。
◇
東は、報告書に残された処理記録へ目を向けた。
「現場の誤認」
次の資料。
「証拠不十分」
さらに別の記録。
「既存の事件として処理可能」
もう一つ。
「信憑性に欠ける」
一つずつ読み上げてから、東は上層部へ視線を戻した。
「報告がなかったわけではありません。そのたびに、あり得ないと否定した」
誰も答えない。
「怪人という存在を認めず、現場からの報告を信じなかった」
声を荒らげる必要はなかった。
机の上にも、モニターの中にも、その言葉を裏づける記録が残っている。
◇
「当時の情報だけで、怪人などという非現実的な存在を認めろというのか!」
一人が声を上げた。
東はすぐには否定しなかった。
「最初の一件なら、分かります」
予想していなかった返答だったのか、相手が言葉を止める。
「一度目なら疑うのは当然でしょう。二度目でも慎重になる。それも理解できます」
東はモニターへ目を向けた。
そこには、過去の事件が時系列で並んでいる。
「ですが――何件ありました?」
答える者はいない。
「同じような異形が何度も現れ、映像も残った。同じ協力者が繰り返し戦い、我々もそのたびに報告した。それでも毎回、あり得ないという結論で処理された」
一件、二件、三件。
画面が切り替わるたびに報告書が増えていく。
最初は疑うことができた。
二度目も、偶然や誤認を考えることはできた。
だが、それを何度繰り返せば、疑うこと自体を見直すべきだったのか。
その問いに答える者はいなかった。
◇
シラメ博士が椅子にもたれたまま口を開いた。
「しかも、映像までネットに散々出てましたしね」
上層部の一人が博士を睨む。
「ネットの話をしているんじゃない!」
「分かってますよ。報告書もある。現場映像もある。ネットにも映像がある。それでも信じなかったって話です」
「博士」
東が一応止める。
「何?」
「少し言い方を」
「でも間違ってないでしょ?」
東は否定しなかった。
◇
上層部の一人が、しばらく過去の報告書を見つめていた。
「……我々が信用しなかったと言いたいのか?」
「そこまでは言っていません」
東はそう答えてから、少しだけ間を置いた。
「ただ、報告を信じなかったことまで、現場が説明しなかったことにされるのは困ります」
反論は返ってこなかった。
◇
「今後、公表するとなれば」
別の人物が話題を変えた。
「この二人についても説明を求められる」
「存在と協力関係については、必要になるでしょう」
「正体は?」
「公表しません」
即答だった。
「東君」
「二人とも未成年です。本人たちには学生としての生活があり、それを捨ててこちらの都合だけで怪人事件へ人生を差し出してもらうつもりはありません」
「だが、重要な戦力だ」
「だからこそです」
◇
東は相手を真っ直ぐ見た。
「本名を出せ、学校を出せ、必要なら世間にも説明しろ。それを協力の条件にするのであれば、本人たちには断る権利があります」
「そこまで極端な話をしているわけでは――」
「では、今後も極端な話にしないでください」
上層部が黙った。
「現状、怪人の討伐、特に強力な個体の撃破には彼らの協力が必要です。もし個人情報の開示を強いたことで協力関係が失われ、その後の事件で被害が拡大した場合――」
東は一度言葉を切る。
「その判断をした方に、責任を取っていただくことになります」
それは脅しではない。
現状の戦力を考えれば、単なる事実だった。
今度は誰も返さなかった。
◇
「……分かった」
しばらくして、一人が言った。
「少なくとも現時点で、正体の公表を求めるつもりはない」
「ありがとうございます」
「だが、まだある」
モニターの映像が変わる。
T駅の火災現場。
消防隊の近くで、二体の怪人が動いている。
「この二体は?」
アガトとユキだった。
「存在は把握していました」
「では、なぜ報告がない?」
「こちらも判断を決めかねていたからです」
「何を?」
「敵なのか、味方なのかを」
◇
東は画面を見る。
「人間へ積極的な敵意を示していないことは分かっていました。しかし、それだけで人間側の協力者として扱うわけにはいきません」
「では今回は?」
「二人とも、自分たちの意思で消火活動に入りました」
映像の中で、アガトとユキが散布機構を使っている。
白い霧が炎を包み、火勢を弱めていく。
当初は警戒していた消防隊員たちも、途中から二人と連携して動いていた。
「人間を襲わず、むしろ守るために動いた。今回の行動で、人間側へ協力する意思があることは確認できたと考えています」
「だから?」
「今回の報告で、正式に上げる予定でした」
シラメ博士が横から付け加える。
「事件が終わって、まだ数時間ですからね」
◇
「つまり、この二体については今回初めて判断できたと?」
「はい」
「他にも、人間へ協力する怪人がいる可能性は?」
「否定できません」
会議室がざわついた。
怪人は存在する。
しかも、怪人だからといって、すべてが人間の敵とは限らない。
これまで認めようとしなかった存在について、さらに新しい事実が突きつけられたことになる。
◇
「待て」
一人が額を押さえた。
「整理させてくれ」
資料とモニターを交互に確認してから、東を見る。
「キッドという協力者がいる。もう一人、サクラという協力者もいる。二人とも未成年で、個人情報は保護しているが、活動そのものは以前から報告済み」
「はい」
「怪人の存在についても?」
「何度も報告しています」
「そして今回、人間へ協力する怪人まで確認された」
「その認識で合っています」
男はしばらく黙った。
◇
「では……我々が知らなかったことは、一体どこまである?」
東は相手を見た。
「ですから、知らなかったわけではありません」
机の上には、過去の報告書が並んでいる。
「ここにあります」
誰も動かなかった。
「こちらは報告してきました。それを、そのたびに否定し、認めず、信じなかった」
東は資料へ目を落としたあと、もう一度相手を見る。
「それを今になって、現場から説明されていなかったことにされるのは困ります」
会議室は静まり返った。
◇
大型モニターには、これまでネット上で「特撮」と呼ばれてきた戦いの映像。
机の上には、その一つ一つについて現場から提出されていた報告書。
映像も記録も、ずっと存在していた。
しばらくして、シラメ博士が静かに口を開いた。
「知らなかったんじゃないですよ」
東が博士を見る。
だが、今度は止めなかった。
「認めなかっただけです」
誰も反論しなかった。
その沈黙の中で、ようやく次に向き合わなければならない問題が見え始めていた。
何を公表するのか、その前に。
これまで何を否定し続け、その判断によって何が起きたのか。
次に問われるのは、その責任だった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




