閑話 二つの配信・後編
閑話 二つの配信・後編
翌日。
紀人は再び、自室のパソコンの前に座っていた。
昨日見たのは、T寺でのサクラの戦い。今日は、自分がフレイムピジョンと戦ったT駅側の配信だ。
「……見るの嫌だな」
自分の戦闘を見返すことには慣れている。問題はそこではない。
昨日のコメント欄では、防犯カメラやドライブレコーダー、過去の事件映像まで掘り返され、それまで「特撮」として楽しまれていた配信と現実の出来事が重なり始めていた。
そして今日はT駅。
すでに遠方から撮影された動画が大量に見つかっている。
「……増えすぎだろ」
コメント数は普段とは桁が違った。
紀人は少し躊躇してから、再生ボタンを押した。
◇
『きた』
『キッド側』
『いきなり飛び蹴りw』
『登場の仕方雑すぎる』
『キッドらしい』
「うるさいな」
画面では、キッドの飛び蹴りが白い怪人へ直撃している。
『こいつ昨日の白いやつと同じじゃね?』
『俺も思った』
『二体いるの?』
『待って、炎でかくね?』
『昨日のやつと全然違う』
『こっち火力おかしいだろ』
『前の火事で映ってた白いやつって、むしろこっちじゃね?』
『じゃあ昨日の何だったんだよ』
『偽物?』
『同じ見た目の別個体とか?』
「まあ、そこは分かんないよな……」
ミラーカメレオンの存在を知らなければ、答えにはたどり着けない。
◇
ほどなくして、配信とは別の映像が貼られ始めた。
『これ昨日言ってたホテル動画』
『遠っ』
『望遠か』
『でも炎は分かる』
高層階の窓越しに撮影された映像。
T駅周辺は遠く、人物など影にしか見えない。それでも巨大な炎と、空中を高速で動く二つの影は確認できた。
『白いの飛んでる』
『もう一個キッドじゃね?』
『配信と時間合わせてみ』
『今上昇した』
『ホテル動画も上がった』
『急降下』
『こっちも』
『……同じじゃん』
さらにオフィスビルや高層住宅から撮影された映像が続く。
地上は規制できても、建物より高い場所で行われた空中戦までは隠せなかった。
『全部仕込みだろ』
『こんなの現実にいるわけない』
『じゃあホテルの客も会社員も全員仕込み?』
『ニュースでT駅周辺の火災やってるぞ』
『本物の火事に合わせてるだけだろ』
『リアルタイムで?』
『……』
昨日までなら続いていた反論が、そこで途切れた。
◇
白い怪人が上空へ逃れ、キッドも鬼闇魔で追う。
『鬼闇魔きた』
『空ならこれだよな』
『トンボ強い』
『急停止できるのずるい』
『飛行性能だけならキッドの方が上じゃね?』
「そこは俺も思った」
だが、炎で進路を塞がれ、その隙間へ入ろうとすればオリーブ弾が飛んでくる。
『追いついてるのに殴れない』
『炎で道塞がれてる』
『隙間は小さい弾で潰してる』
『これ相性悪いな』
そしてキッドが、炎へ正面から突っ込んだ。
『おい』
『待て待て』
『炎に入ったぞ』
『攻略法:根性』
『それ攻略じゃねえw』
「俺だって分かってるよ……」
一撃は入ったものの、自分も炎をまともに受けて弾き飛ばされる。
『ほら!』
『だから言っただろ!』
『本人聞こえてねえよw』
◇
その時、画面の外からメモリーが飛んできた。
『また来た』
『メモリー投げてくるやつ』
『誰なんだよ』
姿の見えない誰かの声が響く。
「頭に入れて、吠えろ!」
『?????』
『頭?』
『吠えろ?』
メモリーをHEADへ装着すると、キッドの頭部がワニ型へ変化した。
『ワニwww』
『何でワニ』
『ワニって吠えるの?』
「俺もそう思ったよ」
◇
キッドが吠えた。
窓ガラスが震え、看板やシャッターまで細かく揺れる。
地上にいる者たちも顔をしかめ、白い怪人の飛行軌道が明らかに乱れた。
『何した?』
『急に飛び方おかしくなった』
『ワニの声で?』
少しして、一つの書き込みが現れる。
『待て、これ低周波じゃね?』
「低周波?」
『ワニって低い音出すぞ』
『でも何で鳥に効くんだよ』
『鳩ってインフラサウンド使うって説なかった?』
『インフラ何?』
『超低周波』
『鳩が方向を知る手掛かりに使うって研究ある』
『昔コンコルドの衝撃波で伝書鳩が方向狂ったって話もあったはず』
『じゃあワニの低周波で方向感覚狂わせてる?』
紀人は画面を見つめた。
「……そういうことだったの?」
戦っていた本人が、一番驚いていた。
『鳩は低周波だけで飛んでるわけじゃないぞ』
『磁気とか太陽とかも使う』
『でもこの怪人は鳩の能力への依存が強いとか?』
『実際飛び方崩れてるし』
『窓も揺れてるから何か出てるのは確定だろ』
「……結構危ない技なんじゃないか、これ」
『本人絶対意味分かってないだろ』
『言われたから吠えただけ』
『キッドだからな』
「何で分かるんだよ!」
『これ他の動物にも使えそう』
『感覚妨害系のHEADか』
『当たりメモリーでは?』
「俺より先に使い道考えるなよ……」
◇
戦闘は終盤へ入る。
『ヒクイドリきた』
『鬼闇魔で飛ぶ』
『ワニで感覚狂わせる』
『ヒクイドリで蹴る』
『役割分担きれい』
キッドが空中で蹴りを叩き込み、白い怪人を地上へ弾き落とす。
さらに自分も急降下した。
『追うの!?』
『落下速度まで乗せる気か』
『えぐい』
地上へ激突した白い怪人へ、ヒクイドリの脚が叩き込まれる。
『うおおおおお!』
『決まった!』
『これは終わっただろ』
紀人は少しだけ苦笑した。
いつものコメント欄――そう思いかけた時だった。
◇
『これ』
遠くの高層ビルから撮影された動画が貼られた。
画質は荒い。それでも、一つの影が地上へ落ち、もう一つがその後を追って急降下する様子は見える。
衝撃。
『……今の』
『配信と同じじゃん』
すぐに別角度の映像も貼られた。
落下、追撃、衝撃。
すべて同じタイミングだった。
『時間も一致』
『これも仕込み?』
『……』
ついさっきまでの歓声が、急に消えていく。
◇
さらに地上を撮影した映像。
『待って、怪人まだいるぞ』
『消防の近く』
『敵?』
映っていたのはアガトとユキだった。
『何か撒いてる』
『火消えてない?』
『消火してる?』
『怪人が消防と一緒に?』
『敵だけじゃないってこと?』
『何なんだよこれ』
昨日までなら「設定が増えた」と笑われていただろう。
今は違った。
◇
やがて、誰かが過去の配信と現実の事件を時系列で並べ始めた。
『まとめた』
『キッドの配信日とニュースになった事件の日』
『場所も入れた』
『一致多すぎ』
『偶然で済ませる数じゃない』
否定する書き込みは残っている。
だが、その勢いはもう弱かった。
『これが全部本物だとしたらさ』
少し間が空く。
『キッドいなかったら、どうなってたんだ?』
紀人の目が止まった。
『今回の白いやつ止めたのキッドだろ』
『武装した人たちも戦ってたけど、本体はほぼキッドが相手してる』
『サクラも別の場所で戦ってた』
『じゃああいつらいなかったら?』
『火事もっと広がってたんじゃね』
『前の事件も?』
『今まで全部?』
これまでキッドは、特撮の主人公として見られていた。
強い、格好いい、たまに無茶をする。新しいメモリーが出れば、視聴者が好き勝手に能力を考察する。
だが、もし本当に現実で戦っていたのだとしたら、その意味はまるで違ってくる。
『俺ら今まで笑って見てたけど』
『これ普通に命懸けじゃん』
紀人は何も言えなかった。
◇
さらに、一つの書き込みが流れた。
『もしこれ全部本物なら』
『俺たち、人が死んでる事件を特撮だと思って笑ってたってこと?』
紀人の手が止まった。
しばらくして、別の疑問が続く。
『前の銃乱射事件、本当に銃乱射だったのか?』
『キッドが同じ場所で戦ってたなら何と戦ってた?』
『なんで何も発表されてない?』
『警察は知ってるの?』
『配信にいつもいる武装した人たち何者?』
『前の動画にもいたよな』
『警察の特殊部隊?』
『だったら何で何も発表されてないんだよ』
今までなら、すべて「設定考察」で済んでいた。
だが、本物なら話は違う。
答えを持っている誰かが、現実にいる。
『誰か説明しろよ』
その一言を最後に、紀人はしばらく動けなかった。
◇
配信だけなら、まだ誤魔化せたのかもしれない。
だが、今回は違う。
ホテルや高層ビルから撮影された映像。
実際に報道されたT駅周辺の火災。
複数の固定カメラ。
そして、掘り返された過去の事件。
それぞれ別々だったものが、今になって一本につながろうとしている。
「……もう無理だろ、これ」
何を、とは言わなかった。
言う必要もなかった。
◇
同じ頃。
ある会議室の大型モニターにも、紀人が見ていたものと同じ映像が並んでいた。
T駅上空を飛ぶ二つの影。
巨大な炎。
サクラの戦闘。
キッドの配信。
過去の事件映像。
そして、消防隊とともに火を消す二体の怪人。
画面を見つめる者たちの間に、重い沈黙が落ちる。
やがて、その中の一人が低い声で言った。
「……説明が必要だな」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




