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ビーストギア  作者: 時根脱才 
フレイムピジョン編

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閑話 二つの配信・前編



閑話 二つの配信・前編


 事件が終わった、その日の夜。


 紀人は自室でパソコンを開いていた。


 画面に表示されているのは、今日の配信。ただし、自分が戦ったT駅側ではなく、サクラたちが戦っていたT寺側の映像だった。


「こっちはほとんど見てないからな……」


 同じ作戦に参加していたとはいえ、紀人はずっとT駅側にいた。


 無線で状況の一部は聞いていたものの、サクラが実際にどう戦ったのかまでは見ていない。


 再生ボタンを押す。


 コメント欄は、開始直後からいつもの調子で騒がしかった。


     ◇


『サクラきた』


『今日はこっちか』


『キッドいないの?』


『別行動っぽい』


『ベルト持ってるぞ』


『え?』


『変身する?』


 画面の中で、サクラがベルトを腰へ巻いた。


 紀人も少しだけ身を乗り出す。


「そういえば、変身するところ見るの初めてか」


 そして――。


「コラボ開始」


「えっ?」


 紀人が声を上げた直後、コメント欄も一気に加速した。


『コラボ開始!?』


『そっち!?』


『配信開始じゃないのかw』


『キッドに合わせてる?』


『コラボなのにキッドいないぞ』


『細かいことはいいんだよ』


 光がサクラを包み、その姿が変わっていく。


 紀人は思わず画面を見つめた。


「……コラボ開始なんだ」


 そんなことは聞いていなかった。


     ◇


 変身を終えたサクラが戦闘へ入る。


『やっぱサクラかわいいな』


『戦闘始まるぞ』


『戦いながら見ればいい』


『あのマスク外してほしい』


『ヴェネチアンマスクな』


『絶対美人』


『顔出しまだ?』


『俺キッドよりサクラ推すわ』


「おい」


 紀人が思わず画面へ突っ込む。


『キッドよりこっちメインでよくない?』


「よくない!」


 誰にも聞こえていないのに、反射的に言い返してしまった。


『サクラ単独チャンネル欲しい』


『キッドいらなくね?』


『それは言いすぎw』


『二人ともいるからいいんだろ』


「……何見に来てんだよ」


 紀人は呆れながらも、少し笑った。


 いつものコメント欄だった。


     ◇


 サクラが右腕を構える。


 拳を打ち込みながら、毒を流し込んでいく。


『はい毒』


『いつもの』


『やっぱこの戦い方だよな』


『前の共闘でもこれだった』


『殴るたび毒入れるの普通にえぐい』


『サクラらしくて好き』


『かわいいのに戦法が容赦ない』


『顔見えてないけどな』


『だからマスク外して』


『まだ言ってんのか』


 紀人にとっても見慣れた戦い方だった。


 前回は実際に隣で共闘している。拳を当てるたびに毒を流し込み、少しずつ相手の動きを鈍らせていく。


 そこに驚きはない。


 むしろ気になったのは、脚部に装着された見慣れないアタッチメントだった。


     ◇


『脚のあれ何?』


『前なかったよな』


『新装備?』


 アタッチメントは戦闘が始まってからも低い駆動音を響かせ続けている。


「これが言ってたやつか」


 存在については聞いていたが、実際に使っているところを見るのは初めてだ。


『ずっと音鳴ってない?』


『チャージしてる?』


『コンデンサーみたいなもん?』


『戦いながら溜めてるのか』


『毒で弱らせる間に脚をチャージ』


『最後キック?』


「早いな……」


 説明など一度も入っていない。それでもコメント欄は、すでにかなり正解へ近づいていた。


     ◇


 サクラが毒を打ち込み、北山たちCASHが援護する。


 白い怪人も炎を放って応戦していた。


 その最中、一つのコメントが流れる。


『なあ、この白いやつ』


『何?』


『前の火事で映ってたやつに似てない?』


 紀人の目が止まった。


『またそれかよ』


『どの火事?』


『前に怪人がいたんじゃないかって騒がれてたやつ』


『火事の映像に白いのが映り込んでたってやつ?』


『それ』


『あれただの映り込みだろ』


『画質悪すぎて何も分からんかったやつじゃん』


『でも似てない?』


 すぐに反発するコメントが増えた。


『現実の火事とこの動画結びつけるのやめろよ』


『人が被害に遭ってる事件だぞ』


『特撮と現実混同すんな』


『いや似てるって言ってるだけじゃん』


『白いだけだろ』


『頭の形も似てる』


『あんな荒い映像で何が分かるんだよ』


『こういうの不謹慎だろ』


 それまで軽かったコメント欄の空気が、少しだけ荒れ始める。


 現実の事件と配信を結びつけようとする者は、以前からいた。


 そのたびに偶然だ、こじつけだ、現実とフィクションを混同するなと言われ、いつの間にか話題から消えていった。


 今回も、そうなるはずだった。


     ◇


『比較画像置いとく』


 誰かが過去の火災映像と、今回の配信を並べた画像を貼った。


『仕事早すぎ』


『……似てるな』


『白い服』


『頭の上に何かある』


『右手にも何か持ってない?』


『前の映像にもあるように見える』


『いや画質荒すぎ』


『こじつけだろ』


『白い服+頭の上+右手の何かまで偶然?』


『ニュース映像参考にしてデザインしたんじゃね?』


『それなら説明つく』


『じゃあ何で今日このタイミングで出したんだよ』


『知らんよ』


 決定的な証拠はない。


 だからこそ、どちらも引かなかった。


     ◇


 そこへ、別の角度から疑問が投げ込まれた。


『でも同じやつだとしたら変じゃね?』


『何が?』


『前の火事、かなり燃えてただろ』


『そうだな』


『こいつの炎、そこまで強くなくない?』


『あ』


『俺も思った』


『この程度であんな火事になる?』


『時間かければ燃えるだろ』


『でも炎の上がり方、全然違わない?』


『じゃあ別物じゃん』


『でも見た目は似てるんだろ?』


『そもそも前の映り込みが怪人だって確定してない』


『だから現実と混ぜるなって』


 議論は一周して、また振り出しへ戻った。


「……惜しいところまで行ってるな」


 紀人は思わず呟いた。


 今なら真相を知っている。


 T寺にいたのは、本物ではない。


 姿を真似たミラーカメレオンだった。


 だから外見は似ている。


 そして炎は、本物ほど強くなかった。


 コメント欄では、それぞれが真相の一部だけを拾っている。


 だが、それを一つにつなぐ最後の答えだけがない。


     ◇


 やがて、脚部アタッチメントの駆動音が変わった。


『音変わった』


『溜まった?』


『来るぞ』


『絶対蹴る』


『サクラキック?』


『名前ださすぎるだろ』


 サクラが踏み込み、蹴りを白い怪人へ叩き込んだ。


『うおおおおお』


『一発!?』


『威力おかしい』


『やっぱチャージ全部乗せか』


『溜め時間長い代わりに一発が重いタイプ』


『毒で削ってチャージして蹴る』


『戦い方完成してるな』


 紀人も画面を見ながら感心する。


「こんな感じだったのか……」


 自分がT駅で待っていた間、こちらでも一つの戦いが終わっていた。


     ◇


 ここまでなら、まだいつもの配信だった。


 変身して、怪人と戦い、特殊な能力を使う。


 視聴者は好き勝手に考察し、くだらないことで盛り上がる。


 途中で現実の火災との関連を巡って荒れたものの、結局は決定的な証拠などない。


 今回も、そのまま終わるはずだった。


 ところが。


『これ見た?』


 リンクが貼られた。


『何?』


『今日のT寺の近く』


『防犯カメラ?』


『画質悪っ』


 紀人もリンク先を開いた。


 固定された映像だった。


 画面の隅には時刻が表示され、遠くにT寺周辺の建物が見える。その奥で白い何かが動き、時折、炎らしき光が瞬いていた。


『何も分からんw』


『白い点じゃん』


『いや時間見ろ』


『……配信と同じ?』


『同じ』


『場所もT寺だよな』


『近くの店の防犯カメラらしい』


 先ほどまでの議論とは意味が違った。


 過去の火災映像ではない。


 今日。


 今見ている配信と同じ時間、同じ場所だった。


     ◇


『宣伝じゃないの?』


『公式の仕込みだろ』


『ARG的なやつ?』


『ここまでやるの凝ってんな』


 まだ笑う者はいる。


 だが、すぐに別の映像が貼られた。


『こっちも』


『別の店のカメラ』


『角度違うな』


『時間同じ』


『煙の位置見て』


『配信と一致してない?』


 さらに別の投稿。


『ドラレコもあった』


『規制の外から?』


『遠いけど白いの映ってる』


『これ全部仕込み?』


『仕込みなら金かけすぎだろw』


 笑いの記号は残っている。


 ただ、その数は先ほどより明らかに減っていた。


     ◇


『待って』


 新しい書き込みが流れた。


『じゃあ前の火事の映り込みも、本当に怪人だったんじゃないの?』


 先ほどまで「現実と混同するな」と言われていた話が、再び浮かび上がる。


『いや、それは別だろ』


『何で?』


『今日のが本物って決まったわけじゃない』


『でも今日の防犯カメラに同じの映ってるぞ』


『仕込みかもしれない』


『別の店も?』


『ドラレコも?』


『……』


 紀人は黙って画面を見ていた。


 先ほどまでなら、誰かがすぐに茶化していたはずだった。


 今は、その一言が出てこない。


     ◇


『ちょっと待って』


『前の銃乱射事件の時も、キッドの動画と現場映像が一致してるって話なかった?』


 紀人の表情が変わった。


『あった』


『あれも現実と混同するなって叩かれて終わったやつ』


『過去ログ探す』


 しばらくすると、古い画像や動画が次々に貼られ始めた。


『当時のニュース』


『こっちキッドの動画』


『建物同じ』


『道路も同じ』


『時刻は?』


『ほぼ一致』


『……え?』


 勢いよく流れていたコメントが、わずかに鈍った。


     ◇


『偶然だろ』


『現実の事件に合わせて作ったんじゃね』


『ニュース映像から背景作れるだろ』


『じゃあ今日のは?』


『今日の事件にリアルタイムで?』


『防犯カメラ複数とドラレコまで?』


『……』


 少し間を置いて、一つの書き込みが流れた。


『なあ』


『これ、本当に今日そこで戦ってたんじゃないの?』


 紀人は画面を見つめた。


 もう笑えなかった。


 証拠と呼ぶには、どの映像も鮮明さが足りない。


 防犯カメラ。


 固定カメラ。


 ドライブレコーダー。


 どれも遠く、画質も悪い。


 サクラの顔が見えるわけでもなければ、怪人の細かな姿が確認できるわけでもない。


 それでも、時刻が合う。


 場所が合う。


 炎の位置が合う。


 白い影の動きまで、配信と重なっている。


 一つなら偶然と言えた。


 二つなら仕込みを疑えた。


 だが、互いに関係のない映像が増えるほど、その説明は苦しくなっていく。


『これ全部偶然?』


『さすがに多くない?』


『まだ本物って決めるのは早い』


『じゃあどう説明する?』


『……分からん』


 そして、一つのコメントが流れた。


『じゃあ俺たち、今まで何見てたんだ?』


 紀人は、その一文をしばらく見つめていた。


     ◇


 さらに下へスクロールする。


 新しい書き込みは、今も増え続けている。


『明日のキッド側も見る』


『T駅の方、もっと動画あるぞ』


『遠くのホテルから撮ったやつ』


『高層ビルから望遠で撮ってるのもある』


『空飛んでるの映ってる』


『二人いる』


『炎も見える』


『ニュースの火事と場所一致』


 紀人は椅子の背もたれへ身体を預けた。


「……マジかよ」


 T駅周辺は事前に規制されていた。


 戦闘区域の近くに一般人はいなかったはずだ。


 だが、空までは隠せない。


 あれだけ巨大な炎を上げ、建物より高い場所で飛び回れば、離れた高層階からでも見える。


 今までなら、配信を見終わった後も、次に流れてくる馬鹿なコメントを楽しみにしていた。


 今回は違った。


 紀人は画面を閉じなかった。


 今日まで「特撮」として笑われていたものと、現実の出来事との境目が、少しずつ崩れ始めている。


 次に見るのは、自分が戦ったT駅側の配信。


 そこには今日、最も目立つ戦いが映っている。


 紀人は画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。


「……これ、かなりまずいんじゃないか」


 その予感だけは、外れてくれそうになかった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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