自分で決めたこと
自分で決めたこと
「捕まえた!」
キッドの拳がフレイムピジョンへ叩き込まれた。
白い身体が大きく揺れる。
フレイムピジョンは翼を広げ、すぐに距離を取ろうとした。だが、先ほどまでのような正確な軌道を描けない。
右へ逃げようとすれば身体が外へ流れ、高度を上げようとしても進路がずれる。
「逃がすか!」
キッドは鬼闇魔の機動力で一気に追いついた。
右拳を叩き込み、そのまま左へつなぐ。
ようやく持ち込めた近接戦だ。
フレイムピジョンが炎を放とうと腕を上げる。キッドは横から弾いて懐へ入り込み、腹部へ拳を突き立てた。
「今までの分――!」
白い身体が後方へ弾かれる。
それでもフレイムピジョンは翼を大きく羽ばたかせ、強引に高度を上げていった。
◇
キッドは追いながら、相手の飛び方に変化が出ていることに気づいた。
「……戻ってきてる?」
先ほどまで大きく乱れていた軌道が、少しずつ安定し始めている。
なぜワニの咆哮が効いているのかは分からない。それでも、効果が永遠に続くわけではないことだけは明らかだった。
完全に立て直されれば、また炎とオリーブ弾で距離を保たれる。
そうなれば、振り出しに戻る。
「だったら!」
キッドは大きく息を吸った。
「うおおおおおおっ!」
ワニ型の頭部から咆哮を放つ。
雄叫びとともに、耳では捉えきれない重い振動が周囲へ広がった。
地上の窓ガラスが一斉に細かく震える。
フレイムピジョンの身体が、再び大きく横へ流れた。
「今だ!」
キッドはLEGへメモリーを装着する。
「ヒクイドリ!」
脚部の形が変わった。
太く強靱な脚。
鋭い爪。
空中で姿勢を整え、軌道を乱したフレイムピジョンを正面に捉える。
「これで――終わらせる!」
◇
鬼闇魔の力で一気に加速した。
フレイムピジョンの頭上で炎が膨らみ、正面へ放たれる。
しかし、狙いがわずかにずれていた。
キッドは速度を落とさず、その横を駆け抜ける。
続いて飛んできたオリーブ弾も身体をひねってかわした。
フレイムピジョンは逃れようと翼を動かす。
思うように飛べない。
距離が縮まる。
キッドはさらに加速した。
「うおおおおおっ!」
空中で身体をひねる。
鬼闇魔の速度を乗せたヒクイドリの脚が、フレイムピジョンの身体へ叩き込まれた。
ドンッ――!
衝撃で白い身体が大きく弾かれる。
翼を広げ、どうにか体勢を戻そうとするものの間に合わない。
フレイムピジョンは、そのまま地上へ向かって落ちていった。
「まだだ!」
キッドも身体を下へ向ける。
◇
急降下。
ただ重力に任せて落ちるのではない。
鬼闇魔の力で、さらに速度を上乗せする。
先に落下していたフレイムピジョンが地上へ激突した。
轟音。
土煙が一気に舞い上がる。
その中心で、白い身体が動いた。
まだ起き上がろうとしている。
「これで――!」
キッドは止まらない。
落下の勢い。
鬼闇魔の加速。
ヒクイドリの脚力。
そのすべてを一撃へ乗せた。
「終わりだ!」
フレイムピジョンが顔を上げる。
その視界いっぱいに、上空から迫るキッドの姿が映った。
次の瞬間、ヒクイドリの脚が真正面から叩き込まれる。
ドンッ――!
先ほどを上回る衝撃が地面を走った。
土煙が大きく膨らみ、二人の姿を飲み込む。
◇
キッドは反動を使って後方へ跳んだ。
着地すると同時に構え直し、煙の向こうを警戒する。
まだ勝ったとは決めつけない。
少しずつ土煙が薄くなっていく。
その向こうに、フレイムピジョンが倒れていた。
翼は動かない。
頭上で燃え続けていた炎も消えている。
『紀人君! 対象は?』
東の声が無線から飛んだ。
キッドはすぐには答えず、しばらく様子を確認する。
「……動きません」
周囲では、CASHが残ったシロアリ怪人を制圧していた。
銃声が続く。
最後の一体が地面へ倒れた。
『シロアリ、制圧!』
『対象も沈黙!』
ようやく戦場から銃声が消えた。
フレイムピジョンから新しい炎が放たれなくなったことで、地上の状況も変わり始める。
消防隊の放水。
アガトとユキの散布。
これまで消しても消しても増えていた火元が、一つずつ確実に減っていった。
◇
そこへ一台のCASH車両が入ってきた。
停車すると同時にドアが開き、サクラと北山が降りてくる。
サクラは周囲を見回した。
倒れているフレイムピジョン。
立っているキッド。
無事なCASH隊員たち。
煙はまだあちこちから上がっているが、戦闘の音はもう聞こえない。
「……終わったんですね」
張り詰めていたものが抜けたように、サクラがゆっくり息を吐く。
「よかった……」
北山も倒れたフレイムピジョンへ目を向けた。
「間に合わなかったか」
そう言いながらも、その表情に悔しさはない。
戦いが終わり、仲間たちが無事だった。
それを確認できただけで十分だった。
◇
CASH隊員たちが周囲の安全確認を進める。
シロアリ怪人の残存なし。
フレイムピジョンも動かない。
規制区域への新たな侵入も確認されていない。
火災はまだ残っているものの、消火活動は着実に進んでいた。
戦いは終わった。
キッドは、その場にいる面々を見回す。
東。
シラメ博士。
南浦。
ニシ。
北山。
サクラ。
そして、共に戦ったCASHの隊員たち。
以前なら、このまま誰にも見られない場所まで移動していただろう。
そこで変身を解除し、何事もなかったように内田紀人へ戻る。
今日も、それはできる。
だが、紀人は動かなかった。
もう決めていた。
その場で変身を解除する。
身体を光が包んだ。
「え?」
近くにいた隊員が声を漏らす。
装甲が光の中へ溶けるように消えていき、やがて変身が完全に解除された。
そこに立っていたのは、CASHの面々にとって見知った少年――内田紀人だった。
◇
一瞬だけ、周囲が静かになった。
紀人は集まる視線を受け、少し居心地悪そうに立っている。
東が近づいてきた。
「紀人君」
「はい」
東は紀人を見たあと、周囲のCASH隊員たちへ目を向ける。
「……それでよかったの?」
何を聞かれているのかは、すぐに分かった。
正体を見せたこと。
普通の高校生として暮らしたい。
だから、できる限りキッドであることは隠していたかった。
その気持ちがなくなったわけではない。
「はい」
紀人は頷いた。
「自分で決めたことなんで」
東は何も言わず、続きを待った。
「これから何が起きるか分からないし……ずっと隠したまま戦うのは、もう無理だと思ったんです」
前回の事件が頭をよぎる。
サクラは特殊事件の協力者として、要請があればすぐに動けた。
一方、自分は学校を抜ける理由すら簡単には作れなかった。
結局、二人とも間に合わず、犠牲者が出た。
自分がもっと早く動けていれば助けられたのかは分からない。
だからといって、自分の側で減らせる遅れまで残しておく理由にはならなかった。
「もう、間に合わなかったことで犠牲者が出るのは嫌なんです」
紀人は一度言葉を切る。
「普通の高校生でいたいっていう気持ちは、今もあります。でも、そのために動くのが遅くなる可能性を残したままにするのは……違うかなって」
世間へ正体を公表するつもりはない。
学校でキッドだと名乗るつもりもない。
ただ、一緒に戦う人たちにまで隠し続ける必要はない。
「だから、CASHの人たちには隠さなくていいと思ったんです」
東はしばらく紀人を見つめ、やがて小さく頷いた。
「そっか」
◇
「それなら、こっちにもメリットはあるよ」
シラメ博士が口を挟んだ。
「メリット?」
「今までも紀人君、東君、僕で協力はしてたけど、現場のみんなには秘密だったでしょ。これからは、もう少し踏み込んだことができるかもしれない」
「踏み込んだこと?」
「例えば、キッド用の追加装備」
紀人の目がわずかに大きくなる。
「俺の?」
「できれば、だけどね。まだ作れるって約束はしないよ」
先走りそうになった紀人へ釘を刺してから、シラメ博士は続けた。
「それに、怪人やメモリーの能力解析もある。最初から紀人君が使うことを前提にデータを集められるなら、次に怪人が出た時、今までより一段深いところまで対策できるかもしれない」
博士の視線が、紀人の持つ新しいメモリーへ向いた。
「そのメモリーも、あとで調べさせてね」
「これもですか?」
「むしろ、それが一番気になる」
「また勝手に飛んできたやつなんですけど」
「だから気になるんだよ」
紀人は手元のメモリーへ目を落とした。
何の説明もなく渡され、言われた通りに吠えたらフレイムピジョンに効いた。
自分でも何が起きたのか分かっていない。
「……まあ、それは俺も知りたいです」
◇
「いや」
そこでニシが口を開いた。
紀人が振り返る。
「そもそも、そんなに隠せてなかったぞ」
「……え?」
「生身でシロアリ倒せる高校生なんて、どっからどう考えてもおかしいだろ。キッド以外に誰がいるんだよ」
「いや、それは……」
紀人は周囲を見回した。
「そんなにバレてたんですか!?」
南浦が小さく肩をすくめる。
「まあ、疑ってた人間はそれなりにいただろうな」
「嘘でしょ……」
北山は呆れたように笑った。
「キッドの戦い方を見てれば、バレバレだけどな」
「……そんなに?」
「道場で何度お前の動きを見てると思ってるんだ。構えも間合いの取り方も、そう簡単には変わらないぞ」
紀人は返す言葉を失った。
自分では隠していたつもりでも、見る人間が見れば最初からかなり怪しかったらしい。
◇
ニシが腕を組んだ。
「まあ、どっちにしろ普通の高校生じゃないってことだ」
紀人はじっとニシを見る。
「……それ、ニシさんに言われると納得いかないんですけど」
「何でだよ?」
「シラメ博士から聞いてますよ。ニシさんの装備って、特殊機構ほとんど付いてないって」
ニシが一瞬黙った。
「それで怪人と殴り合ってる人に、普通じゃないって言われても」
「俺はいいんだよ!」
「何がいいんですか」
北山が吹き出した。
サクラも堪えきれず笑い、南浦までわずかに口元を緩める。
周囲の隊員たちからも笑いが漏れ、長く張り詰めていた空気がようやくほどけていった。
◇
東が紀人を見る。
「じゃあ、これからは連絡も少し楽になるかな」
「学校には、まだ言えないですけどね」
「それはそうね」
紀人も苦笑した。
普通の高校生としての生活をやめるつもりはない。
キッドとして戦うことをやめるつもりもない。
どちらかを捨てたわけではなかった。
ただ、一人で全部を隠そうとすることをやめただけだ。
そして、秘密を手放すことで失うものばかりでもないらしい。
今までより深くCASHと連携できる。
新しい装備や、次に現れる怪人への対策も考えられるかもしれない。
紀人は改めて周囲を見渡した。
CASHの面々。
倒れたフレイムピジョン。
消火活動を続ける消防隊。
その中を動き回るアガトとユキ。
まだ煙の残る街。
今回も、自分一人で勝ったわけではない。
誰かがシロアリを止め、誰かが火を消し、誰かが戦う場所を守ったからこそ、最後までフレイムピジョンと戦うことができた。
秘密が一つ減った。
代わりに、頼れるものが少し増えた。
そう考えると、肩に乗っていたものが、少しだけ軽くなった気がした。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




