吠えろ
吠えろ
フレイムピジョンが翼を大きく傾けたかと思うと、次の瞬間には一気に高度を上げていった。
「またか!」
キッドも鬼闇魔の力で急上昇し、逃げる白い影を追う。
さらに高度を上げたフレイムピジョンが、突然翼を返した。
急降下。
キッドも即座に身体の向きを変え、その後を追った。
空と建物、道路が視界の中で激しく入れ替わり、地面が一気に迫ってくる。
フレイムピジョンは地上すれすれで翼を広げると、落下の勢いを殺すことなく水平飛行へ移った。
キッドも遅れない。
「それで振り切れると思うな!」
急上昇にも急降下にもついていける。
旋回半径は、こちらの方が小さい。
空中での急停止も、そこからの再加速も可能だ。
飛行性能そのものなら、鬼闇魔の方が上だった。
実際、白い背中との距離は少しずつ縮まっていく。
あと少し。
拳が届く。
そう思った瞬間、フレイムピジョンが振り返った。
「来る!」
頭上の炎が膨れ上がり、正面から放たれる。
道路すれすれを飛んでいたキッドは横へ滑るようにかわした。
炎はそのまま後方へ抜け、建物へ直撃する。
背後で新たな火の手が上がった。
「また……!」
振り返っている暇はない。
キッドは再び距離を詰める。
今度はフレイムピジョンの右手が動いた。
オリーブの実を模した小さな弾丸が、一直線に飛んでくる。
「うわっ!」
急停止。
弾丸が鼻先を横切った。
すぐに再加速したものの、その時にはフレイムピジョンとの距離が再び開いている。
「くそっ!」
◇
『西側、また着火!』
『消火班、急げ!』
『シロアリ二体、そっちへ行ったぞ!』
無線から地上の声が次々に飛び込んでくる。
キッドは追跡を続けながら、一瞬だけ眼下へ視線を落とした。
消防隊が放水している。
その近くでは、アガトとユキが身体の散布機構から白い霧を噴き出し、火元から火元へ走り回っていた。
さらに周囲では、CASHがシロアリ怪人を食い止めている。
誰も手を止めていない。
それでも、火災箇所は増えていた。
上空から炎が落ちるたび、消したそばから別の場所が燃え始める。
「早く何とかしないと……」
キッドが顔を上げる。
フレイムピジョンの頭上には、すでに次の炎が集まり始めていた。
◇
再び高度が上がる。
フレイムピジョンが右へ大きく旋回すると、キッドはその内側へ滑り込んだ。
距離を削る。
あと数メートル。
そこで炎が来た。
キッドは空中で急停止し、炎が目の前を抜けた瞬間、真下へ落ちるようにかわす。
そこへオリーブ弾。
今度は横へ。
再び加速する。
また炎。
「これじゃ、ずっと同じだ!」
飛行能力では負けていない。
どれだけ上下左右へ振られても、鬼闇魔ならついていける。
それでも最後の数メートルだけが埋まらなかった。
炎で進路を塞がれ、その隙間を抜けようとすればオリーブ弾が飛んでくる。
かわすことはできる。
追いつくこともできる。
だが、拳を振るうための一瞬だけは与えてもらえない。
◇
フレイムピジョンが、また翼を畳んだ。
「また下か!」
白い身体が急降下する。
キッドも迷わず後を追った。
ビルの間を抜け、道路へ向かって高度を落としていく。
地上が近づくにつれ、CASH隊員や消防車の姿まではっきり見えてきた。
フレイムピジョンは地面すれすれで翼を広げ、急降下の勢いを水平飛行へ変える。
「逃がすか!」
キッドも同じ軌道へ入り、鬼闇魔の加速で一気に距離を削った。
今度こそ近い。
フレイムピジョンが振り返り、右手を上げる。
「またそれか!」
オリーブ弾。
キッドが身体を傾けてかわそうとした、その時だった。
別方向から、小さな何かが飛び込んできた。
「え?」
反射的に手を伸ばす。
掌へ収まったのは、一つのメモリーだった。
「また……!」
飛んできた方向へ目を向ける。
人影は見えない。
それでも、誰が投げたのかは察しがついた。
「またあの野郎か!」
これまでにも何度か、こうして戦いの最中にメモリーを投げてきた謎のヒーロー。
案の定、その方向から声が飛んできた。
「頭に入れろ!」
「頭!?」
「入れて、吠えろ!」
「吠えろ!?」
何を言っているのか分からない。
そもそも、何の動物のメモリーなのかさえ分からなかった。
だが、考えている時間はない。
前方ではフレイムピジョンが再び上昇を始めている。
「もう、何なんだよ!」
キッドは追跡を続けながら、言われた通りメモリーをHEADへ装着した。
◇
装着した瞬間、キッドの頭部が大きく変化した。
「うわっ!?」
輪郭が組み替わり、口が前方へ伸びていく。
鋭い牙が並び、頭部全体が厚い鱗に覆われた獰猛な形へ変わった。
飛びながら自分の顔へ触れる。
「……ワニ?」
そこで初めて、渡されたメモリーの正体が分かった。
「ワニって――」
言い終える前に炎が迫る。
「うわっ!」
キッドは急旋回してかわした。
外れた炎が地上へ落ち、また一つ新しい火の手が上がる。
「くそっ!」
先ほどの声が、もう一度飛んできた。
「吠えろ!」
「分かったよ!」
キッドは空中でフレイムピジョンへ向き直った。
そこで、ふと動きが止まる。
「……ワニって吠えるのか!?」
返事はない。
代わりにフレイムピジョンの頭上で、次の炎が大きく膨らんだ。
「もういい! やればいいんだろ!」
キッドは大きく息を吸い込んだ。
◇
「うおおおおおおおっ!」
ワニ型の頭部から、力いっぱいの咆哮を放つ。
直後。
空気が震えた。
耳に聞こえる雄叫びとは別の何かが、重い圧力となって周囲へ広がっていく。
道路沿いの窓ガラスが一斉に細かく震え、看板やシャッターが低く唸った。
地上では、シロアリ怪人へ銃を向けていたCASH隊員が思わず顔をしかめる。
「うっ……何だ、これ?」
消防隊員の一人も腹の辺りを押さえた。
「何か……気持ち悪いな」
東も、震え続ける窓へ目を向ける。
「何、この振動……?」
原因を知る者はいない。
そして今は、確かめている余裕もなかった。
◇
最も大きな変化は、上空で起きていた。
「……え?」
キッドが目を見開く。
それまで正確な軌道を描き続けていたフレイムピジョンの身体が、不自然に横へ流れた。
翼は動いている。
飛べなくなったわけではない。
フレイムピジョンはすぐに姿勢を立て直し、上昇しようとする。
だが、思うような軌道を取れない。
わずかに進路がずれ、高度まで安定しなくなっている。
「何だ……?」
フレイムピジョンが炎を放った。
キッドは反射的に身構える。
ところが炎は、先ほどまでの正確さが嘘のように横へ逸れていった。
「外した……?」
続いてオリーブ弾。
それもキッドの位置からずれている。
大きくかわす必要さえなく、弾丸が横を抜けていった。
「もしかして……」
フレイムピジョンが距離を取ろうと翼を動かす。
しかし、その軌道も安定しない。
キッドはもう一度、大きく息を吸った。
「うおおおおっ!」
二度目の咆哮。
再び窓ガラスが震え、低い振動が街を包む。
フレイムピジョンの身体が、今度は大きく進路から外れた。
ここまで来れば、キッドにも分かる。
「……効いてる」
なぜ効くのかは分からない。
ワニがどうして吠えるのかも知らない。
自分が今、何を相手へ浴びせているのかさえ理解していない。
それでも、目の前で起きていることだけは間違いなかった。
「よく分かんないけど――」
キッドは空中で前傾姿勢を取った。
鬼闇魔の力を一気に加速へ回す。
「効いてる!」
◇
フレイムピジョンが逃げようとする。
だが、今までのように正確な軌道を取れない。
キッドはその乱れを逃さず、一気に距離を詰めた。
炎が放たれる。
狙いがずれる。
キッドはその横を抜ける。
続いてオリーブ弾。
それも外れた。
身体をわずかに傾けるだけでかわし、そのまま加速を続ける。
これまで何度挑んでも越えられなかった最後の数メートルが、急速に縮まっていった。
「今度こそ――!」
フレイムピジョンがこちらを向く。
だが、もう遅い。
キッドは拳を引いた。
「捕まえた!」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




