近づけない
近づけない
キッドの飛び蹴りをまともに受け、フレイムピジョンの白い身体が大きく弾かれた。
地面を滑りながらも翼を広げ、強引に踏みとどまる。その身体が起き上がるより早く、南浦の声が飛んだ。
「撃て!」
乾いた銃声が連続して響く。
対怪人用の弾丸が胸、肩、脚へと次々に命中し、そのたびにフレイムピジョンの身体が揺れた。
確かに効いている。
だが、致命傷には程遠い。
キッドは射撃が途切れる瞬間を狙って踏み込もうとした。
「来るぞ!」
ニシの声に反応し、横を見る。
建物の陰から、白い異形が次々に這い出してきていた。
「シロアリ……!」
一体や二体ではない。
先頭の個体に続き、その後ろからも新たなシロアリ怪人が姿を現す。
「雑魚まで来やがったか!」
ニシが前へ出た。
南浦は迷わない。
「本体はキッドに任せる! こっちは雑魚を止めろ!」
CASH隊員たちの銃口が、一斉にシロアリ怪人へ向いた。
そのわずかな間に、フレイムピジョンが翼を大きく広げる。
「あっ!」
ひときわ強い羽ばたき。
白い身体が地面を離れ、一気に上空へ駆け上がった。
「飛ぶのか!」
キッドは遠ざかる影を見上げ、すぐにメモリーへ手を伸ばした。
「鬼闇魔!」
◇
力が切り替わった。
キッドの身体が地面を離れ、フレイムピジョンを追って空へ上がる。
先を行く白い影が翼を傾け、大きな弧を描いた。
キッドはその軌道をなぞらない。
旋回するフレイムピジョンの内側へ入り込み、より小さな弧で一気に距離を詰めた。
「いける!」
相手が急上昇すれば、そのまま追従する。
フレイムピジョンが方向を変えた瞬間、キッドは空中で急停止した。
ぴたりと止まる。
身体の向きを変える。
次の瞬間には、別方向へ一気に加速していた。
大きな翼で空気を掴みながら飛ぶフレイムピジョンとは、空中での動きそのものが違う。
急停止。
急旋回。
ホバリングからの再加速。
飛行性能だけなら――。
「こっちの方が上だ!」
拳の届く距離まで、あと少し。
フレイムピジョンが振り返った。
頭上の炎が膨れ上がる。
「っ!」
炎が正面から押し寄せた。
キッドは空中で急停止する。
鼻先を熱気が掠め、炎の塊がそのまま前方を通過した。
消えた瞬間に再加速。
今度こそ――。
フレイムピジョンの右手が振られた。
小さな影が一直線に飛んでくる。
オリーブの実を模した弾丸。
「うわっ!」
身体を横へ滑らせる。
弾丸がすぐ脇を抜けていった。
そのまま前へ。
また炎。
下降してかわし、下から回り込もうとすればオリーブ弾。
急旋回。
再接近。
炎。
鬼闇魔の機動力なら、どちらも避けられる。
それなのに、拳は届かない。
攻撃をかわすたびに、それまで縮めた距離を取り戻されていく。
「くそっ……!」
◇
地上では、別の戦いが始まっていた。
「右から来るぞ!」
ニシが飛び込んできたシロアリ怪人を受け止め、その勢いを横へ流す。
体勢を崩したところへCASHの銃撃が集中した。
別の一体へ南浦が狙いをつける。
発砲。
シロアリ怪人が倒れる。
CASHの武装なら、雑魚怪人には十分通用する。
だが、倒しても次が来る。
さらに頭上から、別の脅威が降ってきた。
「上!」
隊員の一人が叫ぶ。
空中でキッドがかわした炎が、そのまま地上へ落ちてきた。
店舗の屋根へ着弾。
炎が一気に広がる。
別の火球は看板を焼き、その破片が道路へ落ちた。さらに別の炎が道路脇へ飛び込み、周囲へ火が走る。
「火災発生!」
「消防、動け!」
待機していた消防隊が一斉に走り出す。
CASHからも一部の隊員が抜け、消防隊の進路を確保しながら、近づこうとするシロアリ怪人へ銃を向けた。
怪人を倒す。
火を消す。
その間にも、空から次の炎が降ってくる。
戦場は、地上だけでも急速に広がっていった。
◇
「怪人だ!」
消防隊員の声が上がった。
ホースを運んでいた隊員たちが、一斉に足を止める。
煙の向こうから現れたのは、アガトとユキだった。
CASHなら事情を知っている。
だが、消防隊員たちにとっては違う。
火災現場へ突然現れた二体の怪人にしか見えなかった。
「下がれ!」
先頭の隊員がホースを構える。
その後ろでも何人かが身構えた。
『待って!』
東の声が無線から響く。
『その二人は敵じゃない! 攻撃しないで!』
「敵じゃない……?」
誰もすぐには動けなかった。
その横を、ユキが走り抜ける。
燃え上がる店舗の前で立ち止まり、身体の散布機構を作動させた。
白い霧が勢いよく噴き出す。
炎を覆い、熱を奪うように火の勢いを弱めていった。
反対側ではアガトが別の火元へ向かっている。
同じように霧を散布。
燃えていた軒先から炎が消えていく。
「……火を消してる?」
消防隊員が呟いた。
アガトとユキは振り返らない。
一つ消せば、すぐ次の火元へ向かう。
それを見ていた隊長格の消防隊員が声を上げた。
「俺たちも行くぞ! 消火を続けろ!」
止まっていた消防隊が再び動き出した。
◇
その頃、上空ではキッドが何度目かの接近を試みていた。
フレイムピジョンが大きく旋回する。
キッドはその内側へ滑り込み、距離を削る。
あと少し。
拳を伸ばせば届くところまで――。
炎が広がった。
「またか!」
空中で急停止。
炎が目の前を横切った瞬間、真横へ加速する。
そこへオリーブ弾。
身体をひねってかわし、そのまま別方向から回り込む。
今度はフレイムピジョンが炎を扇状に広げた。
進路そのものが塞がれる。
キッドは止まるしかなかった。
「近づけない……!」
飛行性能で負けているわけではない。
追いつけないわけでもない。
フレイムピジョンは、キッドを撃ち落とす必要すらなかった。
近づこうとする進路を炎で塞ぐ。
炎の隙間を抜けようとすれば、そこへ小さく速いオリーブ弾を撃ち込む。
それだけで、最後の数メートルへ入らせない。
◇
その時だった。
フレイムピジョンが突然、翼を畳んだ。
「何?」
白い身体が落下する。
いや――違う。
急降下。
その先には、シロアリ怪人と戦うCASH隊員たちがいた。
「まずい!」
キッドもすぐに身体を傾け、後を追った。
「上だ!」
南浦が気づく。
「散れ!」
CASH隊員たちが左右へ飛ぶ。
フレイムピジョンは地上すれすれまで高度を落とし、頭上の炎を膨らませた。
「させるか!」
後ろからキッドが迫る。
鬼闇魔の加速が、下降するフレイムピジョンとの距離を一気に削った。
ここなら届く。
キッドは拳を振り抜いた。
背中へ直撃。
フレイムピジョンの身体が前へよろめく。
「入った!」
すぐに追撃へ移ろうとする。
だが、フレイムピジョンは地面へ降りることなく翼を大きく広げた。
一気に再上昇。
「待て!」
キッドも追う。
白い怪人が振り返りもせず、右手だけを後方へ振った。
オリーブ弾が飛んでくる。
「っ!」
キッドは咄嗟に身体をずらした。
弾丸が通り過ぎる。
ほんの一瞬。
それだけで、フレイムピジョンは再び拳の届かない場所まで離れていた。
「くそっ!」
◇
高度を戻したキッドが、地上を見下ろす。
あちこちから炎と煙が上がっていた。
消防隊が放水している。
アガトとユキも、白い霧を撒きながら火元から火元へ走っている。
その周囲ではCASHがシロアリ怪人を食い止めていた。
それでも新しい炎が落ちる。
『西側、また着火!』
『店舗二階へ延焼!』
『こっちにも火が回ってる!』
無線から報告が重なった。
キッドの目の前を炎が通過する。
かわした先で、その炎が地上へ落ちた。
また一つ、火の手が上がる。
「次に降りてくるのを待ってたら……」
地上では、すぐに誰かが新しい火元へ走っている。
「間に合わない」
キッドはフレイムピジョンへ視線を戻した。
近づけば炎。
炎をかわしたところへオリーブ弾。
待っていれば、地上の火災が増える。
「だったら……!」
◇
キッドは空中で姿勢を変えた。
腕で顔を庇い、身体をできるだけ小さくまとめる。
回避しない。
今度は、正面から抜ける。
鬼闇魔の力を一気に加速へ回した。
フレイムピジョンの頭上で炎が膨れ上がる。
正面から放たれた。
それでも止まらない。
「うおおおおおっ!」
炎の中へ突っ込んだ。
一瞬で視界が赤く染まる。
全身を焼くような熱が襲った。
「ぐっ……!」
腕で顔を庇いながら、そのまま前へ。
止まれば押し戻される。
さらに加速。
炎を抜けた。
視界が開く。
フレイムピジョンが目の前にいる。
「届いた!」
右拳を振り抜いた。
直撃。
白い身体が大きく揺れる。
手応えはある。
確かに効いている。
だが、倒れない。
フレイムピジョンの右手が、すでにこちらへ向いていた。
「しまっ――」
至近距離。
オリーブ弾。
回避する間もない。
衝撃がキッドの身体を打ち抜いた。
「ぐあっ!」
身体が空中へ弾き飛ばされた。
◇
視界が回る。
空。
街。
炎。
もう一度、空。
キッドは何度か回転しながら、どうにか身体を立て直した。
空中で止まる。
装甲の一部から細い煙が上がっている。
「はぁ……はぁ……」
拳は入った。
だが、フレイムピジョンはまだ飛んでいる。
炎を真正面から受けてまで叩き込んだ一撃でも、決定打にはならなかった。
同じことをもう一度。
さらにもう一度。
そんな戦い方を続ければ、どちらが先に限界を迎えるかは考えるまでもない。
「これじゃ……先にこっちがもたない」
フレイムピジョンは一定の距離を保ったまま、こちらを見ていた。
頭上には炎。
右手には、次のオリーブ弾。
それに対して、キッドは拳を握ることしかできない。
「追いつけないんじゃない……」
飛行性能では上回っている。
追いつくこともできる。
攻撃をかわすこともできる。
それでも――。
「近づかせてもらえないんだ」
背後で炎が落ちた。
地上から新しい火柱が上がる。
『また着火!』
『消火急げ!』
無線が騒がしくなる。
消防隊が走る。
アガトとユキも次の火元へ向かう。
その間にも、別の場所へ炎が落ちた。
キッドは唇を噛む。
避け続ければ、街が燃える。
正面から突っ込めば、自分がもたない。
拳を届かせなければ倒せないのに、その距離へ入らせてもらえない。
しかも、考えている間にも火災は増えていく。
「どうする……?」
答えはまだ出ない。
フレイムピジョンの頭上で、次の炎が大きく膨れ上がった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




