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【連載版】本当に我が子なのか、と言われましても  作者: 秋色mai @ノラ令嬢発売中!


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3. 悪党貴族は犬を飼っていました


「ソ、ソウダナ。ソウシマショウ。ソウ仰るナラ」


 エイダン・ボーモントは壊れた水差し鳥のように頷いて、最終的には煙が出ていました。

 焦点が合わず、会話が成り立たないようでしたので、そのまま置いて去りました。


 お父様から何も言われなかった事を考えると、おそらく正解だったのでしょう。


「今週末に決定したと、旦那様から」


 また謎に笑っていたり、少々宙に浮いているエイダン・ボーモントを見かけながら学園を過ごしていると、使用人からそう告げられました。つまり、婚約の話し合いの日取りが決まったという事です。



 ラッセルには敵が大勢おります。お父様は、まだ派閥に引き入れていない謎の成り上がり伯爵家を屋敷にあげたり、逆にに出向くような方ではございません。

 婚約の話し合いは私一人でボーモント家へ向かいました。流石に家の格の違いを理解しているのか、エイダン・ボーモントが正門まで出迎えに来ておりました。


「お手を。出向かせてしまって申し訳ない」

「いえ」


 ……馬車から降り、はじめて敷居を跨いだボーモント家では、犬がたくさん飼われていました。よく躾けられており、一族のものではない私に吠えてきます。しかし、まったく怖くありません。それよりも疑問がわきます。


「なぜ、これほどの数を……」

「フン。番犬なのもありますが、獣は裏切りませんから」


 人なんて信じない、と言った具合に鼻を鳴らしたエイダン・ボーモントに、呆れてものも言えません。


「なあ、モップ。今日もふわふわのいい毛並みだ」

「アゥゥゥ……アン!」


 ……どう考えても、ヨークシャー・テリアは番犬になりません。番犬として飼うならばブルドッグやマスティフでしょう。侵入者をかみ殺すくらいの力と体躯が必要です。


「拾った時は酷い汚れ具合だったが、すっかり我が家に染まったな」


 まさかの捨て犬でした。エイダン・ボーモントは外套のポケットからおやつ取り出し、おやつに気を取られている間にごく自然にブラッシングをします。毛が飛び散らないよう、抜け毛は袋に詰めています。

 ……常に持ち歩いているのですか?


「ふん。そんな顔をしても二個目はやらんぞ。健康が一番だ。って、おい、蹴るな」


 噂通りに犬を蹴飛ばすのではなく、犬に蹴飛ばされるの間違いではありませんか。

 私は密かに呆れ返りました。どう考えても、警備が手薄です。

 洋服が犬の毛だらけになったエイダン・ボーモントは、玄関の外で自ら洋服ブラシで払い、ランドリーメイドに渡します。使用人の仕事を奪っています。

 家の構造はそこそこに暗殺対策されており、少し安心しました。


「ようこそいらっしゃいました」


 玄関にて迎えてくださったボーモント家の面々に目を疑います。

 眼帯にしっかりと撫で付けた髪の顔の怖いボーモント伯爵、釣り上がった目に赤い口紅の悪女に見える伯爵夫人、縦に巻いた髪と含みのありそうな笑みの伯爵令嬢。

 なぜ揃いも揃って全員悪人面なのでしょうか。あまりの光景にここが裏賭博場と錯覚するほどです。


「どうぞ、応接間へ」


 それでも粛々と婚約ならびに婚姻の話し合いは進んでいきました。

 一段落ついたところで、リップを拭う振りをしてカップを拭い、淵に口だけをつけます。そこで伯爵令嬢が初めて口を開きました。


「お義姉……フレヤ様は、この愚兄のどこがよろしかったのでしょうか?」


 エイダン・ボーモントが人を殺せるほどの眼圧で、伯爵令嬢を睨みつけます。しかし、逆にローテーブルの下で足蹴にされ、敗北していました。

 ……私には兄弟がいませんしわかりませんが、こういうものなのでしょうか。


「よろしい、と仰るのは?」

「不躾ながら申し上げますと、我が兄を結婚相手に望む理由が知りたいのです」


 何か裏があるのではないかと疑っているようには見えず、どういった意図なのか分かりかねますが、私は答えます。


「まだどの派閥にも属しておらず、大貴族であり、ボーモント家の嫡子で、成績優秀。長らく相応しい相手がいなかった私からすれば、十分な理由になり得ます」


 伯爵令嬢は目を見開き、眉根を寄せました。まるで下級令嬢を虐げる時のような顔ですが、求めている答えとは異なったのでしょうか。


「異性としての魅力などは……」

「必要ありません」


 伝わっていなかったことを内心面倒に思いながら、今度はエイダン・ボーモントの赤い瞳を真っ直ぐに捉え、私は告げました。


「契約通り生まれた長男をラッセル家の後継にさせていただければ、貴方を愛することはありません」


「えっ…………」


 エイダン・ボーモントはそれだけを言い残し、灰になりました。ボーモント伯爵が静かに骨を拾っていました。



 翌日の学園で、婚約したのだから敬語を使う必要はないのだと話していたところ、何やら考え込んだらしいエイダン・ボーモントが、


「俺は愛してもいいか」


 と尋ねてきました。

 どう返せば良いのかわからず、私はただ頷きました。


 元より卒業間近だったこともあり、時はいつのまにか過ぎて、私たちは無事卒業し、お父様は結婚式の準備を進めているようでした。

 すでに作られていたウェディングドレスを試着し、契約書にサインをし、少ない荷物をまとめる。

 私は粛々と命をこなすだけだと、そう思っていたのです。

 ────思っていましたのに。



「……貴方を愛することはない」

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