13. 悪党貴族は犯罪者でした
「……本当に、よろしいのですか?」
「ああ、父上は難色を示していたが、もう戦は終わったんだ。いつかはバレることだっただろう?」
王太子殿下に確認し、旦那様はゲイル・ブルックスに、貴族の皆々に正面から向き合いました。
「我らボーモントは恥ずべきことなど一切していない。それを今ここで語ろう」
こうして、淡々と旦那様は語り始めました。
*
『っ違う、俺はやっていない!』
ボーモントの曾祖父は、住んでいた村で、事件現場に居合わせたこと、最後まで助けようと止血を試みたことで被害者の血が付着していたことで、犯人として冤罪をかけられてしまった。普段優しい村長が犯人だったこともあり、小作人で天涯孤独、顔の怖い彼は疑いを晴らすことができなかった。
それでも他人の罪のせいで死ぬことはできず、彼は放浪の末に行き倒れた。
そこで一人の変わった村娘に助けてもらった。
『人が倒れていたら助けないと寝覚めが悪いし……私、怖いものが好きなの』
警戒していた彼はその答えに脱力し、娘に経緯を理解してもらい、新たな村で彼は迎え入れてもらえた。
しかし、領主は村に重税を課していた。
少し前の川の増水の影響で村の土壌は悪く、どんな税を払えるわけもなかった。それなのに、領主は耳を貸さず、ついには鞭を持って村に降り立った。
『税を納めなければどうなるのか、身をもって知ってもらわなければなぁ!』
『やめてください、どうか、どうか!』
『放して、嫌っ』
村長は痛めつけられ、村娘は屋敷に連れていかれた。ボーモントの曾祖父も、片目を失った。
激しい怒りが沸いた。自分に優しくしてくれた彼らが酷い目に遭うのが許せなかった。
『俺が払おう、払えなかった時はこの右目も、腕も、心臓も俺が差し出せるものは何もかも差し出そう』
ある日、自分が納税を一定期間肩代わりすることを申し出た。徴税人は笑い、領主は余興としてその話を飲んだ。
彼はその身ひとつで街へ出た。そして自分を雇ってくれる場所を見つけようとした、がそんな上手くはいかなかった。その日雇いですら雇ってもらえず、ゴロツキに間違われ、ゴロツキに殺されかけた。
『お前、私の元で働かないか?』
そんな時、ある商人が彼を拾った。
共に取引相手の元へ行けばよい簡単な仕事だと説明された。彼は最初は護衛だと思っていたが、それは顔が怖いがゆえの脅し要員だった。商人は悪徳商人だった。
人も、武器も、違法物もなんでも売った。力で脅し、力で解決していた。彼は顔の怖さでどうにか自らの手を汚さずに済んだが、賃金は安く、何よりこの状況に納得しているはずもなかった。彼は同じ商会で働く者と打ち解け、自分と似たような立場の者たちと結託した。
証拠を集め、匿名で通報することにした。
『ふざけるなっ! 拾ってやった恩を忘れやがって!!』
しかし直前で商人にバレてしまい、彼は殺されかけた。そこで行政の監査が入った。商人は罰せられ、商会は解体された。
残ったのは、押収されなかった正規の販売ルートや人脈、土地や従業員だった。
彼は、残った従業員たちと協力し、商会を立ち上げた。
商人は人を見る目だけはあり、優秀なものが大勢いた。ボーモントの曾祖父は税を返すため、村娘を救い、村の人々を助けるために、金を稼ぐ情熱があった。
その矢先、大きな戦が起こった。
武器や違法物のルート、他国との交通網を、彼らは知っていた。何より、ボーモントの曾祖父は各地を流浪していたこともあり、各所の特徴を理解していた。
『……本来は使うべきではないが、国の危機だ』
戦を早く終わらせ、多くの人の命を救うと信じて、彼らはその知識を最大限活用し、数多の金を稼ぎ、戦に大きく貢献した。商会が落ち着くと、ボーモントの曾祖父は自分の金で武器や防具を買い、参戦した。かなりの戦果を上げた。
実のところ、先の戦の勝利は、敵国への秘密の侵入ルートを知っていた彼のおかげだった。
戦後、彼は王から褒章が与えられることとなった。
『では、私にかの土地の領主の座を。もう誰も、あんな目に遭わせないように』
彼が望んだのは、領主の座だった。
すでに肩代わりした税は払い終え、村娘は助かっていた。それでも、今後もないとは言い切れず、従業員たちの安寧の地も欲しかった。
彼は男爵位に叙爵された。領主の悪事はすべて白日に晒され、全て取り上げられた。取り上げられたものは、ボーモントの曾祖父のものとなった。
『……ボーモントには、すまないと思っている』
しかし時代の波が彼の活躍を日の目に出すのを許さなかった。ボーモントは影の英雄として、社交界では商人の成り上がり貴族として扱われる。
原因としては、貴族の娘との結婚を拒否し、村娘と結婚したのもあっただろう。臣下が皆元従業員の平民しかいないこともあっただろう。
それでも彼は、今度は領地のために尽力した。
すべては、過去の自分を救うために。救ってくれた人に恩報いるために。
この意思は代々引き継がれた。知は力だと知っている彼らは勤勉を尊び、村民にも教育を施した。結果として、優秀なものが救われ、ボーモントを救い、加速度的に力をつけていった。
ボーモントは、数奇な運命と人脈によって成り上がった。
*
「つまり、その違法商売の証拠は戦時中のものだ」
長い語りを聞き終えて、会場内は唖然としていました。
しかし、私は納得しておりました。そして、今まで自分がしてきたことが徒労だったと知りました。
監視の意味など、なかったのです。
「フレヤには、いつか話そうと思っていた。心配をかけてすまない」
眉を下げる旦那様を前に、私は首を振ります。貴族にとって、王命は絶対です。
「だからまあ、ゲイル。君の話はあり得るはずもないんだ」
王太子殿下のお言葉が、会場内に響き渡りました。




