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【完結】本当に我が子なのか、と言われましても  作者: 秋色mai @ノラ令嬢発売中!


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12/20

12. 悪党貴族は断罪されました


「なん……だと……?」


 ここで反応すれば向こうの思う壺だというのに、旦那様は焦燥を隠せないようでした。


「皆様にも見ていただきたい、この貴族とは思えない非道な契約書を」


 証拠のように提示された契約書は、当然のように偽造されたもの。

 けれど偽物は、本物がない時に限り本物になり得る。

 そう、本来の借用書に利子は存在しないから為せること。


 始まったのは、ゲイル・ブルックス劇場。支離滅裂な作り話と、その結末。哀れにも事業に失敗し、責任を取って派閥から抜け、金を搾り取られた末の伯爵の苦肉の策と、返せるはずもない地獄のような借用書。

 ……そして、ボーモント家の悪事について。


「流石、違法商売をしていただけあります」


 ただひとつ、違法商売の証拠だけは本物のようでした。

 どこから流出したのかはわかりませんが、人に見せるほど自信満々に偽造書を出したのはそれが理由ですか。


「ただの平民が百年も経たずに大貴族まで成り上がるなど、おかしいとは思いませんでしょうか?」


 たった一つの真実と秘匿されてきた成り上がりの事実は、人々の心を揺さぶるに十分なものでした。

 隣の旦那様が拳をきつく握りしめます。


「ふざけるなっ!」


 ついに声を荒げました。恐怖に倒れないところを見るに周囲は追い詰められた者の焦りだと思っているようですが、私はもう知っています。


「……こんなことが、許されると思っているのか?」


 謂れもない嘘で大事な人が傷つけられたことで、怒っているのだと。

 何も知らないゲイル・ブルックスは吐き捨てるように睨み返しました。


「それはこちらのセリフだ。この卑怯者が」


 その瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、あのすべてが始まった舞踏会の翌日のことです。


『不正でもしたのだろう!』


 ゲイル・ブルックスは不正を疑い、旦那様は証拠を出せと嗤っていました。

 まさか。まさかとは思いますが、試験結果の件にまだ気づいてないのでしょうか。



「……ふ、ふふっ。あははっ」


 会場内が急に静かになりました。それもそのはずでしょう、こんな風に笑ったことなど、私は今までありませんでしたから。

 もう、旦那様のことを言えませんね。


「失礼。堪えられなくて」


 あまりの愚かさに、つい笑ってしまいました。

 この場にいらっしゃらないブルックス侯爵の青ざめた顔色が目に浮かびます。

 詰めの甘すぎる計画に裏の目的を疑っていた私が馬鹿みたいです。


「その肝心の契約書は、本当に存在しているのでしょうか?」


 偽造なのは当然として、証明するにはどうすれば良いか。そう、それよりも精巧な偽造の契約書があれば良い。

 追加で書かせた書類の筆跡、指紋、印章……何もかも、私は持っていた。


「今すぐ早馬を出し、本来の契約書を持ってこさせましょう」


 ポーズとしてではなく、本当に使用人を呼び寄せ、取りに行かせたことで、ゲイル・ブルックスは混乱します。


「む、無駄な足掻きはやめた方がいい。そんな書類が存在するはずもない」


 存在しないと知っている時点で、自分の首を絞めているというのに。

 それでも、返事をするのは私ではありません。私たちはあくまで、何も知らない被害者なのですから。


「……どうして、存在しないと知っているのでしょうか。我々の心理と状況を利用し、この茶番に加担させたからでしょうか」


 現れたのは、欠席だったはずの伯爵夫人。何事もなければ、表舞台に出てこなかった人。

 内部の争いは内部でどうぞ。私はただ、彼女に全てを明かし、何かあった時に後ろ盾となるよう、ラッセルに通じておいただけ。


「どういうことだ!?」


 煩わしいゲイル・ブルックスの鳴き声は無視し、旦那様の袖を掴みます。やっとこちらを向いてくださった旦那様は、策略に気づけず、周りを巻き込んでしまった自分への嫌悪で辛そうな顔をしていました。


「大丈夫ですよ」


 すべての諍いは他の者に、自らの手は汚さない。いくつもの布石の末に、誰かに最後の一駒を置かせる。真の悪党のやり方は、私が知っています。

 ボーモントを敵に回すということは、ラッセルを敵に回すに等しい。

 我々はボーモントを監視してはおりますが、それは派閥に引き入れると決めたゆえのこと。


「しかし、あの商売の証拠は……」


 確かに面倒ですが、向こうの非が明らかとなれば、うやむやにすることはたやすいこと。

 旦那様の頬を撫でようとして、誰かが階段を降りる音で手を止めます。


「なんの騒ぎかと降りてきてみれば、随分と面倒なことになっているようだね。エイダン」


 全ての視線は、そちらへ。王太子殿下が旦那様の名前を呼んだことで、すべての流れが変わりました。


「王家としては秘匿しておきたかったんだけど……私は君に期待しているからね」



「ボーモントの歴史を、語ることを許そう」

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