96話 合流
サイタニ屋にて。
「ほれ、ウミからちゃんとリーちゃんに報告しな」
「あ、……うん。あのね、リーちゃん、この前言っていたシカちゃんの帰る場所の話なんだけど……」
「はい、今、殿様が普請中の春日神社ですね?ようやく基礎に取り掛かったと、家老様が仰られてました」
ダンディ家老、フットワーク軽いな。気軽に町をぶらぶらしてるんやな。
「そうなんだ。そうなんだけどね……」
モジモジするなよ、別に愛の告白でもあるまいし。単に一緒に旅しながら修行しよ、でええやん。イライラ……。
「ソラ!」
アタッ!ユイにつねられた。だってこいつぅ。
「先生!神様戻った!神社任せた!シカ一緒に行く」
「え?シカちゃん、神様にもう会えたの?良かった~。完成前なのに戻ってくれたのね。じゃあシカちゃん帰れる場所ができたんだ?という事は私も校長の吉田さんにお任せして、皆さんとご一緒に旅に出られるのね!やったー!」
あれれ?ウミ?
「……」
何を沈黙してるんや、この純情ボーイは。まだほっぺにキスの余韻に浸っとるんか?いつの話やねん。
「それじゃあちょっと時間も遅いですけど、教会の宿舎に行って、吉田さんに伝えてきます!実はいつでも旅に出ていいとは言ってくれてたんです。一応、シカちゃんの帰る場所ができるまではって言ったんですけど、吉田さんが『限りある時間を大切にしなさい』ってずっと言ってくれてて。とにかく行ってきまーす!う~!やったー!」
あ、走って出て行った。慌ただしい子やなぁ。ウミは口をパクパクさせてる。
「おい、まぁあれや。なんか違う感じになったけどええやん。色々今まで我慢してたのが一気に吹き出した感じやろ。そんだけ嬉しいんや。無理やり学校の先生お願いしたってのもあるしな。口には出さんけど思うところもあったやろうな。よかったよかった」
「う、うん。そうだね!僕も嬉しい」
「シカも!」
うんうん。
「あ、アオどうする?あいつ多分あそこで待ってるけど……今日はここで宴会……ん、いや、さっき安穏寺さんとこでみんな腹いっぱい食べたか」
「ソラ、中華とスイーツは別腹よ」
格好良く言ってもそんな慣用句みたいなのは聞いた事無い。
「私もまだ腹五分目くらいです」
と胸を張るサトちゃん。どこに栄養が行ってるんですかねぇ、あなた。素敵ですけどね。
「じゃあリーちゃんの歓迎会やな。ユイ、ローパーちゃんにアオをサイタニ屋に来るよう連絡させて。あいつならリーちゃんが戻ってくる前に来るんちゃうか?」
「いくらアオでもそんな早くに来るなんて無理に決まってるでしょ。とりあえず連絡はするけど」
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「ソラさん、急用って事でカラスに突かれたんですけど、どうしました?かなり急いで来ました」
「ほら、リーちゃんより早いやろ?」
「アオ、あなたどんな足してるのよ。まだローパーちゃん戻ってないわよ」
空飛ぶカラスより速いんか、こいつ。ホンマあなどれんな。
「明日からリーちゃんが合流するからそのお祝いするから。あとお前の歓迎会も」
「そうなんですね!って、え?僕の歓迎会もですか?僕、密偵ですけど、一応。いいんですか?あ、そうだ!ユキさんと話してた辺りで怪しい場所を見つけましたので、ウミさんの真似して解放しときました!」
「なぬ?ウミの真似してだって?」
「あ、はい。近くで見とけって言われたので、ちゃんと近くで見てたので。これでいいかな?って思ったら空から光が降りてきてなんか空気が急に綺麗になりました!」
「お前、一体何者や?底が知れんのぉ」
「僕はアオです!」
「アオね」
「アオ君だね」
「アオ君です!」
「ウミ、封印の解放ってそんな簡単なもんなんか?」
「うん、理屈さえわかれば。前はもっと複雑に考えてたけど、悪鬼のやり方を見て逆再生するってのをベースにしたら単純な作業だなって思った」
「俺でもできるの?」
「うーん、多分無理」
「なんでアオができるんだよ!俺にはできなくてなんでアオが?」
「そもそもアオ君、宗教の素養あるんじゃないかと思う。親かその上の世代から反アデヤ教だけど、宗教的な体質が受け継がれてきたものがあるんだと思うよ」
「うちなんてそれこそ空海さんの時代から真言よ?」
「ソラ君はそもそも真剣に宗教に取り組んでないじゃない?あっちで葬祭業しててもいつもフラットな目で見てるし」
「あ~なるほどなぁ。俺にとったら真言も浄土宗も臨済宗も天理教もキリスト教もそこら辺のもん全部ごっちゃまぜの知識が入ってるな」
「だからじゃない?ソラ君がひとつの物を極める未来が見えない」
「失礼やな……。でもまぁどれがよくてどれが悪いとかわからんしわかろうとも思わんわな。それが原因で対立するのも理解できん。自分がええと思ったらそれでええやん。他を攻撃する理由にはならんやろ?」
「またソラ教の原点を語ってるの?」
「こら、ユイ!ソラ教って言うな。そんなんじゃないよ。俺の考え方だけ。だからアデヤ教にも肩入れする気無いぞ」
「全部をフラットに見てって本当にパパそっくりね、あなた。真言の根っこはウミに全部任せて、あなたは自由に考え生きている」
「自由じゃないわ!自由やったらここで妖怪しばいたりしてない。仕事や、仕事。社長に言われてやってんの!ウミの面倒見ろっていうからさ」
「いやいややってたの?」
「??いやいやってか?……めっちゃ楽しいけど」
「ソラさんはいつも楽しそうです。悪鬼にボコボコにされて凹んでた時も眉間に皺寄せて、あれこれ考えてニヤニヤしたり」
サトちゃんよく見てるなぁ。
「会社は会社で毎日楽しかったよ。おかしな仲間が多かったしな。でもこっちはこっちで全部自己責任。それが楽しい。ええも悪いも自分次第やし。あとなんか知らんけど、元の世界でも給料は割と出てるし、こっちはこっちであんまり金に困らんよな」
「最初はコトヘラでトイレットペーパーや塩を売ってたのにね、ははは」
「そうやったな。小銭稼ぎにひぃひぃ言うてたけど、今は殿さんがスポンサーになってくれたし」
「なってくれたし?」
「ユイの古着は金になる!」
「あなた最低ね!またノベルティにする気ね!この服は嫌よ。涼しくて気に入ってるんだから」
「冗談や。お布施を懐に入れたりせんわ。金なんて無くてもなんかみんなから色々助けてもらえるしの。カッパとか安穏寺さんとか」
「ソラ君、それはソラ君がそれだけの事をしているからだよ」
「なに言ってるの。ウミもよ。二人で一人でしょ」
「因果応報ってやつですね」
サトちゃんが締めたな。まぁ運命なんて一ミリも信じる気無いけど、やってきたことがちゃんと戻って来るって事はあるんやな。
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「ただいまぁ~!ついでに吉田さんも連れてきましたぁ」
お、久しぶりの登場やなぁ、吉田さん。
「皆さん、こんばんは。お揃いですね。あ、密偵さんも一緒にいるんですか?凄い顔ぶれですね」
吉田さんにもバレとるって相当やぞ。この人ほとんど教会と学校しか行き来してないのに。
「な、なぜ私を密偵と!あなたまさか……」
「お前の事なんて町の人みんな知ってる言うたやろ?。あだ名が密偵なんやし。多分殿様の耳にも入ってるんちゃうか?」
「顔バレで町一番の有名人な密偵ってある意味貴重だね、アオ君」
「じゃぁとりあえず歓迎会にしよう。リーちゃんとアオ、あと今後学校を仕切ってもらう吉田さんも」
「ソラさん、私は以前あなたを殺しかけたんですよね?なのに助け出してもらって居場所まで作ってもらって、その上こんな席に同席させてもらうなんて」
忘れとった。悪鬼やったな、そう言えば。
「ええ?殺しかけたって?どういうことですか?」
「アオ、俺らの後をついてきてたなら知ってるやろ?俺が悪鬼に殺されかけたの」
「え?あの皆さん三人がかりでやっつけた怪物ですか?」
「最後も見とったんか。三人じゃなくてホンマは四位一体やったけどな。お前、サチ見えんからわからんかったか」
「サチさんもですか。そうだったんですね。あの時の悪鬼から離れた方がこちらの校長先生ですか?」
「そう、吉田さん。名無しだったから名前は勝手に俺が付けたけどな。元はお坊さんで寺子屋の先生やったんや。学校の校長に適任や」
「へ~」
アホみたいな顔してるけどやっぱアオは男前やな。
「それではリーちゃんとアオの歓迎会と、吉田さんの今後の活躍を祈念しましてかんぱ~い!」
「リーちゃん待ってたよぉ~」
と抱きついて泣くサトちゃん。もう酔ってる。弱いのに酒飲むなよ。
「リーちゃん、いよいよこれから長い修行が始まるけどよろしくね!」
真面目か、ウミ。
「アオはまだまだ秘密がありそうね。ちょっとずつ丸裸にしていきましょうか」
「ユイさん、目が怖いです!」
「吉田さん、これから学校の事お願いしますね。困ったらいつでも俺らに……じゃなくて、とりあえず殿様に言ってください。あの人なら助けてくれます」
「ありがとうございます。リーさんからも聞いていると思いますが、商家の方からの援助や協力が本当に助かっていまして、リーさんがいなくても十分運営できますからご心配なく」
「何かあったら教会からも援助させますからね」
とユイ。お前の古着がまた役立つぞ。
「皆さん、これからお世話になります。ユイさんに用意してもらった服で明日から旅に出ますね」
あ、チャイナやめるんか、残念。まあサトちゃんもシカちゃんももうほぼユニクロ、GUやしええか。
「そうや、今さらやけどちょっと序列をきちんとしたい!」
「序列って何よ?」
「こんだけ人が多かったら順位付けが必要やろ?だからいったん整理する」
「どうやって?」
「ん?基本年齢順?」
そんくらいしか思いつかん。
「じゃあ一番上はユイって事?」
「ふん、私は十八歳よ」
「え?」
と一同。皆、知ってるし。
「いいのよ!永遠の十八歳なの!」
そう力説するおば様いっぱい知っとるわ。ユイも会った時は十五歳くらいやったけど、仲間になる時にちょっと大人になったもんな。
「じゃあ、本人が言うのでユイは十八歳で」
ブーイングが上がってるけどスルー。
「ウミは高三で十八で異論無しやな」
「サトちゃんは二十六歳だっけ?」
「私~?私は二十四だったかな?五かな?六かな?」
「前に自分で二十六って言ってたけどまあいいか?いくつにする?」
「じゃあ二十二!」
またブーイング。どうでもええわ。はい、サトちゃん二十二歳で決定。もう自己申告制でいいや。
「俺は二十四歳だな」
これは間違いない。
「リーちゃんは?」
「私は十八です」
「ウミと一緒か。あ、ユイも一応一緒って扱いか」
いや、蹴るなよユイ。
「アオは十九よな?」
「はい!十九です」
「シカちゃんは……」
あ、神様だった。ダントツで最年長の可能性大。
「シカちゃんは五歳にします!」
全員黙って拍手。みんな同じこと思ってたな。
「あと呼び方だけど、サトちゃんはサトちゃん、リーちゃんはリーちゃん、シカちゃんはシカちゃんで良いと思うけど、どう?」
「僕はちょっとまだ早いので皆さんはさん付けにします」
アオ、割と真面目やな。あとは俺らか。
「私はユイちゃん、ウミさん、アオくんって呼ぶわよ?」
とサトちゃん。
「私も」
リーちゃんもか。
「俺の事はみんな好きに呼んでくれていいよ」
「じゃあ僕は、ソラで!」
お?アオ?勇気あるなお前、ちょっとこっち来い。ヘッドロックしてグリグリしてやる。
「アタタタ、冗談です、冗談」
「あの~あの方って密偵なんですよね?そもそも密偵の歓迎会ってなんなんですか?」
と吉田さんが真顔で聞く。
「それが私達なんですよ」
とユイ。
「なるほどなるほど。そうですね、ソラさん達ですものね。わかります」
それから宴会は深夜まで続いたのだった。あ、サトちゃんリバース……。
*(97話へ続く)*




