95話 迎え
「おーい、サブロウ~や~い!」
お馴染みの吉野川の淵に行き声をかける。少しして水面にポコッとおなじみの顔が出てくる。
「あ、ソラさん。どうされたのですか?」
そう言いながら近寄ってくる。
「あのさ、大蛇が嫁もろうたけんその報告」
「え?剣山の大蛇でございますか?」
「ほうよ」
「いつでしょうか?」
「さっき」
「え?さっきですか?」
「俺らが縁を取り持っての。やけん、ちょっとの間野菜の付け届けの間隔あくかもって連絡」
「ああ、それはおめでたいことでございます。野菜は別に、近所の畑から取れば済む話でございますし」
「お前はまだそんな悪さを……」
とヘッドロックをしてこめかみをグリグリしてやる。
「冗談でございますよ、冗談です」
「わかっとるわ、俺も冗談や。本気でやったらお前の方が力強いの知っとるし」
「いえ、本気を出したソラさんには絶対に勝てません」
なんじゃその自信。
「で、の。嫁さんになった人がまぁ俺らにも縁のある人やけん、悪いけど時々新鮮な鮎でも差し入れてあげてくれへん?乱獲したら前みたいに町の人困るけんほどほどで」
「かしこまりました、めでたい事ですし喜んでそういたします。最近子供らも大きくなりましたので働き手が増えましたしお任せください」
「よその子とカッパの子が大きくなるのは早いのぉ」
「聞いたことないよ、そんな話」
冷静なツッコみやめて、ウミ。
「ついでと言っちゃ悪いけど、アユを10匹くらい分けてくれへん?ちょっと持って行きたいとこあるのよ」
「かまいませんよ、少々お待ちくださいませ」
と言うと家に戻ると子供らと猿猴がそれぞれ川に散っていく。そしてものの数分で20匹近くのアユが集まった。
「めっちゃ早いのぉ」
「教育が行き届いておりますから」
さすが、えでぃとかなにやら達だ。しかし、こいつの口調、吉田さんそっくりやな。血縁関係あるんちゃうか?……無いか。
「じゃあ悪いけど貰っていくわ。次はなんか土産持って来るわな。なにがええ?」
そう言うと子供らが口々にリクエストを各自自由に言ってくる。
「きゅうり!」「トマト」「なす!」「ピーマン!」
ん?トマト?ピーマン言うたか?まあええわ。
「ほなありがとう!またの」
と言ってシカちゃんに乗って移動開始。
見えなくなるまで手を振るサブロウ一家とおまけの猿猴。すっかり家族の一員やな、猿猴も。
---
「安穏寺さんおるぅ?」
いきなり玄関の戸をガンガンと叩く。
「なんや、お前、いつも突然やのぉ。まあ入れ、入れ。今日は泊まるがか?」
「いや、新鮮なアユもろたから安穏寺さんにお土産。ついでに俺らも一緒に晩飯、食おうかと思てな。ここの米が一番うまい!」
「はっはっは、わざわざ飯、食いに来たがか?まあええ。そこに座っちょれ。早速用意するがぞ」
「あ、安穏寺さん、私も手伝います」
とユイ。
「私、お米を研ぎますね」
とサトちゃん。
「シカ、魚、串に刺す」
おお見事な連携。
「じゃあ俺は……」
「ソラとウミは座って待ってなさい。そんなに炊事場広くないんだし」
「ほ~い」
と言って囲炉裏の前に座る。夏だから暑いな。でも魚焼かないかんし。火の世話しなきゃ。
「なあ、ウミ。これからコーチ戻るけど」
「うん」
「リーちゃん、もう迎えてええかな?早いか?」
「リーちゃん?まぁこの前でも行けるタイミングだったけど、シカちゃんの事があったから先延ばしにしたでしょ?もういいと思うよ」
「うん、俺もそう思う。ええよな。これからもっと色々と面倒ごと起こるかもやけど、ウミとリーちゃんいたらある程度対処できそうやし」
「じゃあ一緒に行ってもいいかな」
「行くべきでしょ。料理も上手だし」
「そうなると大所帯だね。ソラ君、僕、ユイ、リーちゃん、サトちゃん、シカちゃん、サチ、そしてアオ君」
「そう言えばそうやな。二人で始まったのにいつの間にやら七人と一匹。中堅冒険者パーティ並みやの」
「でもドラクエで例えるなら遊び人が二人」
「サトちゃんとアオか」
「そうそう。あとシカちゃんは……」
「あ~そう言えばシカちゃんも神様だから本当はなんか力ありそう。今はソラ君が乗り物扱いしてるけど」
「あるやろうのぉ。でも神様の自覚無いからなぁ、一応戦力外で」
「確かに、百年以上前に神様から承継をされたのに気づかず、ずっとお父さん神の帰り待ってたもんね」
---
「ソラ、ウミ、なにか私たちの悪口言ってた?」
とユイが茶碗を持ってやってきた。めっちゃ早いな。
「お待たせしました~」
「魚、焼けた」
「え?囲炉裏は?」
「ソラ、アホか。こんな暑いのに囲炉裏に火ぃ入れるな。外で七輪で焼いたわ」
「バカね、ソラは」
「ええ~良かれと思って火起こししたのに」
「まあ火を見ながら食べるのもいいですよ」
サトちゃんありがとう!そして僕らは美味い晩御飯を食べたのだった。暑かったけど。
「あ、ソラよ、あれから新しい本は手に入れて無いんか?」
「この前サトちゃんの実家行ったとこじゃん。まだ行かないよ」
「あれが楽しみなんじゃ。また頼むわ」
「わかった。あ、安穏寺さんもめぼしい妖怪おったら紹介するわな」
「なんじゃ、それ。めぼしい妖怪って物騒やの」
「びびるくらい美人の妖怪やったら?」
「それは有りやな」
「さすが筋肉バカ。気が合うな。任せといて!とびっきりの妖怪見つけてくる」
「妖怪が前提なのね?安穏寺さんの相手って、ふふ」
「ごちそうさんでした!ほなまた来るわ。これからコーチ行く」
「そうか、夜道に気を付けてって……お前らやったら大丈夫やの。また来い」
「もちろん!また飯食いに来るわ。美人の妖怪探しとくけんな、ほんだらな!」
---
ものの数十分で無事コーチ着。シカちゃん凄い。
「飯くって喋ってたらすっかり夜になったのぉ~。店も閉まっとるしサイタニ屋直行やな」
「ユイはどうする?夜は山小屋戻るんか?」
「サトちゃんもシャワー浴びてるし今日は宿に泊ろうかしら?」
「じゃあみんなでサイタニ屋へGO!」
「なんかソラ、ウキウキしてない?」
「当たり前よ!リーちゃんを迎えに行くんだぞ」
「あ、とうとう一緒に旅できるのね?」
「楽しみです~、一緒に行くの」
「リーちゃん、一緒?」
「そう、シカちゃん、旅をしながらお勉強も教えてもらって立派な神様にならないとね」
「う~、勉強……」
「ソラ君、ソラ君、シカちゃん神様に変身って言ったら、勉強なんてしなくてもものすごく立派な神様に変身できたりするんじゃ?」
「うむ!その可能性大!でも多分神様になったら可愛くないからこのままのシカちゃんで!子供のシカちゃんか白鹿モードしか認めません」
「ソラ君、悪いなぁ~」
「シカちゃんはまだこのままでいいのよ」
「うん、確かに今のままでいいね、みんな」
「よしじゃあ行くか!」
皆笑顔だ。昨日、今日と忙しかったしゆっくり休もう。
「たのもぉ~!」
そう言ってサイタニ屋のドアを叩くのだった。
*(96話へ続く)*




