94話 邂逅(かいこう)
シカちゃんは三人しか乗せていない為か、かなりの高さを走るように飛ぶ。なんか物理的にどうなのってのが昔は気になっていたけど、もうこういうものと理解しないとしょうがない。だって実際に飛んでるんだもの。
「ソラ君、シカちゃん絶好調だね。いつもよりずいぶんペースが速い気がする」
そうよなぁ。無理してないかな?
「シカちゃん、そんなに飛ばして大丈夫?休憩はしなくていいの?」
「お気遣い感謝いたします。早くユキ殿を楽にしてあげたく存じますので、一刻も早くと気が急いております」
シカちゃんも思うことがあるのかな。神様だし。
「シカちゃんは何か変化の力とか無いの?自分ではできるみたいだけど、他人を変えるとかは」
「あいにく、私自身は変化可能ですが、他者となるともっと格上の神でないと、とてもとても」
「そういうもんなんだね……もっと格上か」
天さんなら何とかできるかな?天さんも人になったり天狗になったり自分自身は変化できてるけど、他者となると無理かな。
「大丈夫だよ、天さんなら」
「なんや、ウミその確信したような言い方は。山の天狗にそんな力あるんか?」
「だって女神アデヤさんの元彼だよ?聖女ユイのお父さんだよ?中途半端な天狗にそんな役目が務まると思う?」
「だから色々あって天界から逃げて下界に来たんだろうが?」
「逃げたのかな?空海様との友情とかもだけど、自分から積極的に人間界に下りて来て、もっと人を知ろうとしてるんじゃない?だからユイも天さんの方針で人間の学校に通ったり、海外留学したんじゃないの?」
「そんなマクロ的に天さんは世界を見てるってか?普段、善通院に行って社長と飲み歩いてるおっさんやぞ、あれ。スナックではチーママに天ちゃんって呼ばれとるらしいがな」
「まぁそこが天さんの面白いところだよね」
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「ソラ様、もうじき到着のようです。サチ殿がユイ様達の匂いを感じたようでゆっくり下りていっております」
「ああ、シカちゃん、確かにこの辺って前に見た事ある景色だわ。やつの祠の近くだな。じゃあゆっくり下りて」
「かしこまりました」
と徐々に降下していくシカちゃん。下を見るとあ、ユイとサトちゃんだ。手を振ってるけど、あいつらなんか髪の毛がツヤツヤしてるな。絶対シャワー浴びてトリートメントまでしてる……。下りて気付いたぞ。あ?
「なあ、サトちゃん、君ひょっとしてメイクしてないか?」
「え?わかります?ちょっとユイさんにいじってもらいました」
ちょっとってあんた、マスカラつけてお目めパッチリ。ちょっとシャドーとかも入れてますか?唇もツヤツヤ
「ウミ、どう思う?」
「え~っと、ナチュラルで自然な方がサトちゃんに似合ってると思う」
「同感だな」
「バカな男にはこの良さがわからないのよ」
「ん?いや、綺麗になったとは思ってるぞ。でもなんにもしなくてもサトちゃんめっちゃ可愛いじゃん。別になんもしなくても十分だよ」
「え?そうなんですか?」
「うん、もともとの素材がいいんだもん。別にいつものままでも素敵だと思うよ」
「ソラ、あなたまたそうやって……」
違う違う。うちの関係者みんなそのままでも美人じゃん。ユイだって。メイクの必要性感じないもん。
「でもたまにはいいかもね」
ナイスフォロー、ウミ。できた子だよ、まったく。
「こんなところまで連れて来て妾はどうしたらよいのじゃ?」
あ、ユキさん、ごめん、ごめん。放置してた。
「ユイ、天さんは?」
「パパも、もうすぐ来るわ。今ちょっとユキさんが生きてた頃の神様を探して尋問中」
「尋問って……よっぽどアデヤさんの後ろ盾が凄いんやの。アデヤ様の七光りってか?ははは。元彼やのに強気やのぉ。」
「まぁ……そんな感じ?で、いいかな、うん」
「ところであいつは?」
「あ、さっきパパが喋れるように色々やってくれたわよ」
「やってくれたとは?」
「大蛇のままだと舌が喋れる構造じゃないから、喋れるようにって人型に変えてくれたの」
「あ!やっぱり天さん他者も変化させられるんだ?俺の思った通りだ」
「思ってたの?」
「おう、なんか天さんって俺らに隠してる力はあるんやろうけど、出し惜しみしてると思ってたもん。ホンマはめっちゃ強いんちゃうか?悪鬼とかあんな手こずらずに一撃でやっつけられそう」
「あ、まあそうかもね。知らないけど」
「絶対、あの人、強いと思うぞ。天さんも一緒に旅について来てくれたらサクサク進むの」
「頼みたいの?」
「ははっ、まさか。八十八ヶ所の封印解くのは俺とウミの仕事やもん。これを自力でやらんとここにおる意味ないもんな。ぶっちゃけ天さんなら空も飛べるし一人で全部やれそうやけど、今までそれをやらずに放置しとったんやろ?できるけどやらんのはあの人なりの理由があるんやろうしな」
「あなた、よく色々考えてるわね?感心するわ。ウミの方が賢いのに」
「ユイ、僕はややこしい事は考えず、ソラ君がやろうという事を一緒にやってるだけだよ。僕には本や仏教の知識はあるけど経験が足らない。ソラ君は色々と物事を俯瞰で見て最善策をいつも考えているからね」
「そうなのよね、そこがパパと似てるのよね、癪だけど。空って単純で直感的なくせに色々考えているもの」
褒められてるのか、けなされてるのかわからんがきっと悪い意味じゃないんだろうな。
「あ、そうだ、そろそろソロを呼ぼうかしら?」
「そろそろそろ?」
「違うわよ、バカ!ソロを呼ぼうかって言ったの。大蛇よ大蛇」
「ああ、人型になってソロって名前になったのか」
「ええ、パパが本人に聞いたところによると、剣山に古代イスラエルの王様がこの山にソロモンの秘宝、アークを隠したんですって。その守り神としてソロは大蛇の姿に身を変えてずっと人が、ここの聖域に立ち入らないように見守ってるそうよ。名前を聞いても忘れたとしか言わないから、ソロモンの王様じゃ無いのに、じゃあソロモンのソロな!ってパパが勝手に決めちゃった」
「あ、大蛇も元は人から妖かしに変えられたクチか。ところでアークって聖櫃のことやろ?昔、インディジョーンズで見たけど、ここにあったんか?」
「色々世界中に伝説があって、ここのもダミーかもしれないけれど、大蛇のソロは命じられたまま言いつけを守って、ずっとここにとどまっているそうよ」
「ソロモンから取ってソロって名か。まあええんちゃう。おもろいやん。じゃあそろそろソロを呼んでよ」
「ソロ!恥ずかしがらず祠から出てきなさい」
お、祠の中から背の高い男が身をかがめてのそっと出て来たぞ。
「……」
「なんじゃ、この長髪のイケメンは!おおぅ?」
出てきたのは着流しを着た、涼しげな目の長髪の男前。アオとは違う外国の貴公子みたいな姿をしている。納得できん!
「すごいでしょ、ソラさん!アオさんも男前でしたけど、また違う種類の美男子ですよね。もうたまりません!」
サトちゃん目がハートになってるやん。ミーハーやな。ヘソ出すし。それは僕の偏見かな。
「あんた、本当にあの時の大蛇か?俺がボコボコにした」
と聞くと伏し目がちに頷く。マジか……。
「なんか容姿を美化してもらったんか?おかしいやろ?人間の時にこんな姿やったんか?」
と聞くと
「……」
と無言でまた頷く。喋れや。無口か。
「ウミ、いまさらやけど、ソロモンってそもそもなんなん?」
「ソロモンはね、今じゃなくて大昔のイスラエルの王様だよ。紀元前の話だから三千年くらい前かな」
「じゃあもとはユダヤ人って事?」
「うん。色んな面でユダヤって日本人に通じるところがあるって言われてるよね。ソロさんも西洋風でありちょっと日本人みたいだし」
「って言うか、ソロは本物か偽物かわからんお宝をず~っと三千年近く故郷を離れて大蛇の姿で一人で守ってきたの?」
「……」
黙って頷くソロ。おい、なんか喋れや。
「それって、もう千年どころの話じゃないな」
とユキさんを見る。じっとソロを見ている。
「あ、ユキさん、こいつは元々はここの山の守り神の大蛇だったんだよ。ユキさんと違って全身蛇。鱗まみれ。それはそれで格好いいと俺らも思ってたけどね。こいつも大きさはアオダイショウの大きさから大木の幹くらいとか色々変えられたけど他のもんには変身できなくてね。俺らが来る少し前にユイのお父さんの天狗にお願いして人の形にしてもらったらこうなった。元から男前だったみたいやけどな!しかし二枚目やら美人が多いのぉ」
「この男、全身蛇のままで三千年いると言うたか……どれほど辛かったんじゃろうの。妾の何倍、苦しんだことであろう」
とユキさんが呟くとソロは無言のまま首を振った。
「なぜじゃ?人間から蛇の姿じゃぞ。苦しみしかなかろう?」
またソロが首を振る。そして喋り慣れていないからか、喉から声を絞り出すように言った。
「わ、我が、し……使命、目的ある」
「使命、目的とな」
「ソロは宝を守る使命をずっと守ってるんだな。まぁ、ちょっと悪さもしとったけど今は心を入れ替えて真面目にやってるんだよな?」
「う、うむ」
と頷く。所作も優雅やなぁ、この優男。
「三千年使命を……妾は千年ずっとただ死のうとしておったのに」
「ユキさん、こいつな、大蛇になってここに人間が立ち入らないように見張ってたんだけど、ちょっと前にカッパを手下にして魚を貢がせてたのよ。そこを俺ら懲らしめたのが縁で知り合いになったんよ。かなり狂暴やったけど、まぁ役目に忠実やっただけやと思うよ。悪いやつなら滅してたわ、ははは」
と笑っていたら、後ろから突然
「やぁ!待った?」
と天さんが現れた。相変わらずいつも唐突やな。
「あ、天さん久しぶり!また無理言うてごめん」
「もっとお義父さんを頼ってええんやぞ、婿殿」
「いや、だれがお義父さんやねん!まだ婿でも無いぞ!」
「ソラァ~、お前さ、社長からも聞いたでぇ~。社長、仲人の話聞いて、めっちゃ気合入れて最近、頭にリアップ塗り始めたぞ、はっはっは!」
相変わらず軽い天狗だ。社長も何浮かれてるんや。今度あったらふさふさやったらどうしよう。ちょっとむしってやるか。
「ほんで、なに?ユイに前の神様をツメに行ったって聞いたけど」
「おお、そうそう。当時の神さん見つけて聞いたったわ。その頃にアホみたいに妖怪を量産した張本人な。ぬりかべやらぬらりひょんやら小豆洗いやら、もうようそんだけ考えたなってくらいバリエーション豊かに作るだけ作って以後全くケアしてないからのぉ」
「その神さん、何がしたかったんやろな」
「本人……本神?的には本気で救いのつもりやったそうやけどの」
「なんと!神の救いで妾はこの体か!」
「おお、お前がユキか。いや、美しいのぉ~。見事な体ではないか。整った鱗、長い胴、初めて見たぞ」
「天狗風情が妾を、妾を愚弄するか!」
ヤバっ、ユキさん激おこやん。
「わしを天狗風情と来たか……はっはっは。愉快、愉快」
あ、ユイが真顔になったぞ。でも天さんはちらりとユイの方を見て心配ないという風に頷く。
「まあわしも天狗と言えば天狗じゃが割と世間に顔が効く方での。色々上で事情を聞いて来たわ。その神はの、お主を哀れに思い美しい姿に変えようとしたんだと。どこぞで聞きかじった知識で西洋にセイレーンというのがおって、とても美しい姿をしているそうだと。ひときわ美しいお主をそれにしてやろうと思ったのだとよ」
「せいれーん……とな?」
「ああ、セイレーンってなんかゲームで見た事あるなぁ。確かに言われてみればそうかも。微妙に違う気がするけど似てるといえば似てる」
「まぁ実物をその神も見た事がなかったので、半分想像でお主を救おうとしたのがその姿じゃ」
「神は救った……と」
「ユキさん、天さんも言ってるし僕らも言ってるけど、全然あなたは醜くなんて無いんだよ。空海さんだってそう思ったはずだよ。ユキさんだけが受け入れられてないんだよ。お願いだから気づいてよ。今の姿は全然化け物じゃないって。人とは違うだけでお美しいよ。ずっと人にこだわりすぎなんだ。崖から身を投げた時点で人を捨てたと思いなよ。その時の神様のおかげで、新しくまた別の美しい体を手に入れることができたんだ」
「う……美しい」
え?ソロどうした?
「見事な鱗。長く太い胴、それに続く細い尻尾、手入れの行き届いた髪、憂いを含んだ目、小さな口、あなたは全てにおいて美しい」
おいおい、めっちゃ喋るやん!ソロ。イタリア出身の間違いか?知らんけど。
「妾が……美しいと」
「ユキさん、軽そうに聞こえるけど、こいつの言葉は三千年の重みがあるよ。ユキさんと違って三千年、人と喋れず、大蛇の姿でこの地から動けないんだから。まぁ今はちょっと先まで泳いで野菜運んでるけどね」
サブロウ一家への貢ぎ物に行かせてるけど。おい、ソロ照れるな、別に褒めてない。
「三千年……」
「そこの女子、ユキさんと言ったか?わしがそこの大蛇のように人の姿にもなれるようにしてやる。ただし、勘違いするなよ?その姿が醜いからではない。今後、人の世でも生きやすいようにしてやるだけだ。必要があれば自分の意思でその姿にも戻れるようにしてやろう。お主をその姿に変えた神のケア……じゃなくて手当が足らなんだ詫びも含めての。ただもう一度言うがその姿は類を見ないほど美しい。……アデヤの次かの?」
うんうん。全員頷いている。食い気味にソロも頷いている。ふふ、気に入ったみたいやな。最後に小声で余計な一言いれたけどスルーしてやろう。
「では大蛇、あ、ソロと名付けたのはわしじゃったな。ソロよ、ちょっと祠を借りるぞ。ユキとやら、わしについて参れ。ただし祠の中の事は口外無用じゃ。ソロもぞ。喋ると消すぞ、はははは」
天さん怖い事言うとる。ソロが直立不動になって何度も頷く。ユキさんは天さんの後を恐る恐るついて行った。
「ユイ、あれ今から何するん?」
「さあ?知らないわ」
「ユイさん、私、見て来ていいかな?」
とサトちゃんが聞く。
「ん~、消されていいのなら」
ユイの目が笑ってない。マジか。
「やめときまーす」
それでいいと頷くソロ。するとしばらくすると祠から眩しい光が漏れてきた。
「あ、神の御業、光」
とシカちゃんが呟く。
「ん?どうしたの?神さんの力なの?」
と聞くと
「シカ、無理、できない」
と言って口をつぐむ。しばらくすると祠の中からおぼつかない足取りでユキさんが出て来た。ん、足取り??
「ユキさん、足が!」
「妾は、妾はどうなったんじゃ?光に包まれて……妾と入った天狗はどこに行ったのじゃ?中におったあれはなんじゃ?」
「ユキさん」
ユイが首を振って制止する。
「ふ~疲れた、疲れた」
と肩をトントンと自分で叩きながら天さんが出て来た。
「天さん、ユキさんが人型になったよ」
「おう、とりあえず服はサービス!」
手際がいいな。
「天狗よ、神様はどこへ?礼を言わねば」
「ああ、とっくに帰った。わしと入れ替わりにの。まあその体、大事にせい。困ったことがあったらソラに言え。たいていのことはなんとかしよるわ」
「天さん、ありがとう。久しぶりに会えて良かった。この御礼はいつかきっと」
「おお、お前から神になるって返事待っとるぞ」
「ならんちゅーねん!しつこい」
「はっはっは!まあ首を長くして待っとくぞ。ほな!たまには山の小屋に来いよ」
そう言ってあわただしく消えていった。
「ユイ、ありがとう。いちいち言わんでも俺の意図全部理解してくれてたな」
「別にいいわよ。それよりソロとユキさん」
ユイが指差す方を見ると、あ、なんかいい感じ?
「ねえ、ユキさん、早くその足に慣れないといけないから、ちょっと河原の方までお散歩しては?ソロ、まだ危ないからあんたこの辺詳しいやろ?ユキさんが転ばんように案内してあげて」
と言うと黙って頷き、ユキさんをエスコートする。西洋の紳士って優雅やな。なんか夕日に映えるなあ、美男美女が歩くと。お互いほとんど語らないけど、じっと見つめ合ったりしている。お見合い成功?
「ユキさん、ここらで千年分の幸せ取り戻して、これからの千年、二千年この地で人の世の移り変わりを見てみません?僕らもまた会いに来るし。それにソロだけじゃなくて、近くに住んでるカッパの家族とかもたまに会うこともあると思うし、これから寂しくないと思いますよ!」
そう言うとユキさんは涙をこぼして「ハイ!」と答える。あら?なんか平安貴族みたいな雰囲気を捨てて、亡くなる前の九州で楽しく暮らしていた頃の、普通の娘さんに戻ったみたいやな。心なしか顔立ちも若返った気もするし。取り戻せたんかな、千年。
「ソロ!あんたにユキさん任せてええか?」
と声をかけるとコクコクと大きくうなずく。こういう時ははっきり言わんか!男だろうが!もう一回覚悟を聞くぞ。
「ユキさん連れて帰るぞ!ええんか!」
「否!!」
と、でっかい声で叫ぶ。その声が大きすぎて山びこがこだましとるがな。ユキさん、それを聞いて笑い泣きしてるな。空海さんが願ったのとは違う形かもしれんけど、ユキさんにとってはあのまま生きて大宰府でえらいさんに囲われて、年老いて死ぬよりこっちの方が幸せかもしれんな。
人生色々、妖怪も色々。幸せになって欲しいな。ならんかったらいつでもソロをしばきに来る!僕はどんなときでもユキさんの味方だ。
「ほな、ソロ、ユキさん、また来るわ!元気でな」
ソロと握手するときに耳元で「絶対ユキさん泣かすなよ」と呟くと、ソロは僕の背中をバンと叩いた。馴れ馴れしいやっちゃ。と言うか、こいつもきっと寂しかったんやろうな。ユキさんの事任せたぞ!ソロ。
そう言えば昨日の昼過ぎに出会ったばっかりでもうお別れか。濃い一日だったな。さて、アオも待たせてるし、さっさと戻るか。
*(95話へ続く)*




