97話 離脱
「ウミ、本当に道あってる?」
海沿いの道から外れてまた田畑を抜けて険しい山沿いに歩いている。
「うん、合ってるけどなんで?」
「さっき、青龍寺行ったじゃん?アオが封印解放したって言ってたけど確認の為にさ」
「完璧だったね、びっくりした」
「いや、確かにびっくりはしたけどさ」
「アオ君、凄いよ!」
「そうね、見直したわよ、アオ」
「見直したって、ユイさん、僕をどう見てたんですか?」
「え?隠れてない密偵」
「ひどい……」
「アオ君は仲間ですよ、ユイちゃん」
サトちゃんのナイスフォロー。
「いや、一応、密偵ですけど」
「今後も密偵として生きるかどうかを一緒に旅して確認する旅なんでしょ?アオ君は」
リーちゃん優しい。
「はい!そうです。そうなんです。僕は皆さんの動きを報告しつつ、何が正しいのかを見極める旅をするのです!」
「立派やの、アオ。まあ半年に一度くらいは教団に連絡しろよ、教団の人達が心配したらいかんからの」
「はい!ありがとうございます!たまには連絡します!」
「ローパーちゃん使っていいからね」
「ユイさんありがとうございます!」
「誤字脱字とか無いか私がしっかり添削してあげるからね、アオ君」
「サトさんも、ありがとうございます!」
お前ら、アオで遊んどるな。どうせ内容の無い報告書やろうけど。あ~いかん、また話が逸れとる。そうじゃないんや。
「サトちゃん、サトちゃん手持ちのお遍路さんの案内もこの道であってる?」
「はい、さっきから見てますけど全く同じですよ」
「マジかぁ~」
「どうしたの?ソラ君」
「だってよぉ~青龍寺ってユキさんがいたあの海渡った場所やぞ?次の岩本寺って何よ!」
「四万十川の近くだね」
「そこって高岡郡ぞ。うちの親父の実家があったとこの郡ぞ。山じゃん!じいちゃんの家って四万十川の源流やったわ。天狗高原っていう四国カルストの山の麓!」
「あなたのルーツ、前も聞いたけどとんでもないところね。でも天狗高原って聞くと何らかの因縁を感じるわね、ふふ」
「運命ってやつですか?」
サトちゃん、それは違うぞ。
「運命なんて無い!自分次第!占い師があなたはこの道を右に曲がりますって言うたら俺は左に行く。俺の未来は俺が決める。運命が最初から決まってるなら必死で生きる意味無いじゃん。自分で考えて動くからこそ意味がある。生まれたときから未来が決まってったら努力する意味無くない?」
「はいはい、そこまで。ウミ、この道であってるわよね?」
脱線をユイに修正された。まあ延々語ってしまうから止めてくれて助かった。占い師とか陰陽師とかの話までいきそうだったし。
「うん、あってる。元の世界の四国八十八ヶ所のガイドブックでだいたい五十キロくらいの表示だから、この世界の道で行くと多分1日では無理だね」
「だよなぁ~久々の野宿になるよなぁ。女子達はいいよなぁ~天さんとこ泊るだろ?男はテントだぜ」
「川が近いから水浴びできるわよ、良かったわね」
「それ目的の寺の近くやん、そこに行くまでが山だ、って言ってるの!」
「うるさいわね、あなた行きは文句言わないって自慢してたじゃないの。Uターンはムカつくとか言ってたけどシカちゃんのおかげでそれも無くなったし。前に進む時に、やいやい文句言わないの!」
「これは文句じゃないの。愚痴。せっかく海沿いに来たのにまた山の中って心折れるやん?徳島の山から高知来て室戸の海行ってたら山行ってまたまた海行ってユキさん拾ってまた山ってか!」
「安心して、その次の三十八番はまた海沿いだよ。なんと足摺岬の先」
「ギャー!また海!それも足摺岬ってウミよ、四国最南端やろ?どうなってるんだ高知の札所は!いちいち距離が遠すぎる」
「ソラさん、それも空海様の試練のうちですよ」
「俺は修行してな~い!」
「ソラ君、八十八ヶ所は昔から普通のお遍路さんが歩いてまわってたんだよ。お年寄りも含めてね」
「わかっとるわい。俺が言いたいのはそんなに距離があったら絶対また色々とやなぁ……」
「あ~あ、またフラグ立てる」
「立てたわね」
「ふらぐ?何?」
シカちゃん、見てたらわかるよ、嫌だけど。
「ソラがまた厄介ごとを呼び込むぞぉ~って宣言したのよ」
「ソラ、面倒、好き」
「好きじゃない~!ただでさえ時間かかってるのに、余計な事でまた行ったり来たりするじゃん」
「あなたが見つけなければいいのよ」
「そうそう。目を瞑って歩いたらいいですよ、ソラさん」
サトちゃんまで。
「そいういや最近サチの存在感薄いな?何してるんや?」
「あ、フラグ……」
「ちゃうわ、どこ行ったんかなって思っただけやん」
「ワンワンワンワン!」
サチのけたたましい鳴き声が前方の林の中から聞こえて来た。いかん、ここは黙ってスルーだ。
「僕、見てきますね!」
あ、アオ……。
「あ~行っちゃったね」
「止めようにももう見えなくなったわね」
「アオ君、足めちゃくちゃ速いですね」
リーちゃんは初見か。あいつ短距離選手より速いスピードで長距離走るからな。あ、もう戻って来た。
「ソラさん、大変です~!犬の声は聞こえるのに僕には何も見えません!」
「あ、お前、見えないタイプやったな。何しに行ったんや?」
「さて??」
お前のそういうところ好きよ。
「サチが何かを見つけたみたいだね。ちょっと急ごうか?」
「あ、ええよ。まだリーちゃんが歩くの慣れてないやろうし。俺とユイが先行する」
「あなた、本当に文句言いながらもこういう時は自分で行くわね」
「こういう時の為にセーブしとるんやって言うたやろ。アオ案内してくれ。本気で走っていいぞ」
「え?本気で?」
「おう、長距離はしんどいけどサチの声が聞こえてるくらいの距離ならトップスピードで行ける」
「とっぷ?」
「ええから案内してくれ、行くぞ」
と言いアオより先に飛び出した。
「アオ、置いて行かれるわよ。本気のソラは速いわよ」
「あわわわわ、行ってきま~す」
「じゃあ私も行くわ。サトちゃん、ウミ、リーちゃんとシカちゃんをお願いね」
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おおっと!杉の生い茂った暗い山道の外れでサチが何かを追い詰めてる。片目片足の……なんやこれ?
「サチ、ストップ。やめてやって」
と言うとサチは吠えるのをやめて足元に来て尻尾を振っている。こいつなんや?敵意は感じないな。
「もしもし、あなた、妖怪なん?霊なん?それとも神様なん?」
「お前、わしが見えるか?そこの狂暴な犬はなんぞ?ただの犬じゃなかろう?我より強き力を感じるぞ」
「これは簡単に言うと犬神。厳密には違うけど」
「おお、犬神様か。初めて見たわ。初対面で吠えられる言われは無いがの」
「ごめん、こいつ俺に危険が及ばないように事前に見回ってくれてるから。怪しいと思ったら吠えて知らせてくれるんだ」
「怪しいか?我は由緒正しき神ぞ。もとは人の鍛冶師じゃったが、道を究めてその後、神となった」
「ホンマ神様ばっかりやな、この国は。八百万って伊達じゃないな。で、ちなみに何系の神様なんです?」
「我は鍛冶や建築を司っておる」
「え?鍛冶、建築?ホンマに?」
「ウソを言うてどうする。ただの……ほとんどもう誰もこの辺に来んようになったんじゃ。昔はこの道も人が活発に往来して、職人達は我の社に祈願に来ては様々な道具を納めて帰りおった」
「あなた、片足みたいやけどどうしたん?クマにでも食われたんか?目も、か」
「バカを申すな。生きている時からじゃ。火を起こすたたらを片足で踏み続けておるうちに、もう片方が萎えてしもうての。目もな、片目で一点を睨み続けたらこうなってたわ、カッカッカ」
「そりゃ気の毒に」
「なにが気の毒なもんか。神となった時から最初からこの姿じゃ。なんの不便も無いぞ。風呂に入る時も片足洗うだけで済むんじゃ、楽じゃ、楽、カッカッカ」
おもろい神様やな。ユキさんみたいに生まれた時から己の姿を嘆いて恨むのもいれば、こうやって受け入れて笑い飛ばすのもいるんよな。全ては気の持ちようって事だな。おっと、ウミたちが追いついて来た。
「あれ?ユイは?俺の後に出たと思うけど」
「それが、先に行くような事を言いながら出たけど、服に穴をあけるのが嫌だったみたいで、ノースリーブの横から羽を出したらうまく飛べなくて、そっちの林に落ちてたよ。置いて来たけど」
「置いて来たって冷たいのぉ。まあええけど」
「それより、ソラ君、そこにいるのは一本だたらっていう神様じゃない?」
「ん?なんか鍛冶とか建築が得意って言ってるけど」
「あのぉ~さっきから皆さん、誰と話してるんですか?」
あ、アオは見えんかったな。神様や妖怪とかは隠蔽が使えるからな。リュックにまだ入ってるな、レイバン!貸してやろう。
「う、うわ!ソラさん、これ……なんですか?」
偏光ガラスが妖かし共の隠蔽術の光を透かすなんて知ってるの僕らしかいないだろうな。そもそもこの世界にいるのが僕とウミだけか。でもあっちの世界でも釣りしたり運転してるときに見えたら……それはやだなぁ。
「これとはなんじゃ、小僧!神様を捕まえて失礼な!お主、釘に変えてやろうか?」
いや、神様、そのルックスはちょっと妖怪にしか見えんて。ぼさぼさの毛に一つ目で片足……サチじゃなくても警戒するわな。
「そこのお主はなかなか物知りのようじゃな?見どころがあるぞ」
「あ、どうも。水木先生の妖怪図鑑で見たことあるので」
「よ、妖怪じゃと?神だと言っておるだろうが!神だと」
「ちょっと~みんな冷たいわね。誰も助けてくれないのってひどくない?」
ユイが頭に杉の枝を引っ付けたまま遅れてやって来た。
「ユイ、お前でも失敗するんやな?服、ケチるからや。あの隙間から翼を出して羽ばたくの無理ぞ」
「だって毎回羽を出すたびに洋服がダメになるのよ?そんな頻繁に服も買えないし」
「そんなもん、しょっちゅう山の家に帰ってるんだからついでに買ってくればいいじゃん。天さんに頼んでもいいし。金ならあるやろ?天さん金持ちやし」
「いやよ、いつまでもパパに甘えるの」
「なんやねん、そのこだわり。しゃーないな、ほなこれ……」
と言ってポケットから財布を出してキャッシュカードを渡す。
「楽天銀行だから月に何回かはコンビニや郵便局も手数料無料で引き出せるはず。暗唱番号は5963な」
「ごくろーさん?」
ウミ、正解!
「向こうに戻ったとき適当に引き出して使え。ついでにリーちゃんやサトちゃんの服も。あ、シカちゃんのもな」
「いいの?」
「ええよ、こっちでおっても俺、使えへんし。勝手に給料は振り込まれて毎月増えていってるしマイナスにならん限りいるだけ使えや。さすがにゼロになったら家賃止まって追い出されるからそれだけは残しといて。毎月最低10万くらい残してたらええよ」
「ソラ君、それじゃあユイとの結婚資金無くなるよ」
「あ……そうか。まぁそん時はそん時で、ってまだ付き合ってすらないぞ!」
「バカね!ウミ、そんなに使わないわよ!」
「と、言いつつユイはポーチにしっかりしまうんだね、ふふ」
ウミ、いじるなよ。
「私たちは何を見せられているんでしょうね?リーちゃん、うふふ。もうおサイフ握られちゃってますよ、あの人」
サトちゃん、冷静にツッコむのやめて。
「ユイちゃんの機嫌が直ったからいいんじゃないですか?」
「おい、お主ら大人数で我をどうする気じゃ?わかるぞ、どいつもこいつも我より力を持っておるな?滅するか?この神を滅する気か!」
「あ、いえ、私普通の人です~」
とサトちゃんが手をあげる。
「ウソを申すな。お主からただならぬ力を感じる。なんの力だ?伝える力か?」
「そうなんですか?へ~」
軽いな、サトちゃん。
「僕はなんも無いです!」
アオは走るのが速い!以上。
「お主…ただ者ではないな」
「え?なぜ僕を隠密と!」
いや、誰も言ってないから。
「わかったぞ!この神様、俺らより弱いって自認してるっていうことは、言っちゃ悪いけどそんなに力が無いと見た!なので無害、このまま放置で大丈夫。では元気で暮らしてください。じゃあ!」
「待て待て待て待て。久しぶりの旅人じゃ。なんか依頼とかないのか?退屈しとったんじゃ。さっきも言ったが、誰も詣りに来ん。せっかくの腕がなまってしょうがない」
「ん?なんかしたいの?」
「そうともよ。働きたくてしょうがない」
「へ~そうなの?へ~」
ニヤニヤが止まらん。
「ソラ君、二つ案があります」
「ウミ、俺もや」
「一つ目はソロさんとユキさんの家を作ってあげて欲しい。あの祠、人の姿じゃちょっと不便だよ。それが終わったら、シカちゃんの神社。鍛冶の神様ならきっと装飾の金具とか得意かなと。コーチにその手の職人さんいなかったもんね」
「おお、家と神社と申したか?わしの十八番よ。ただこの足じゃ。片足だと移動でそれなりに時間がかかるぞ。それでよいならやってやるぞ」
「じゃあ二手に別れようか。合流したばかりだけど、ウミとリーちゃんはシカちゃんにお願いして、一本だたらさんを剣山に連れて行って。ざっくり建物できたらその足で春日神社に連れて行ってよ」
「いいけど、そっちは大丈夫?」
「ああ、秘密兵器のアオがおる。俺とユイとアオとサトちゃん。そっちは戦闘力弱めだからサチを用心棒にして、シカちゃんとお前とリーちゃんで」
「それでいいの?」
「一本さん!小屋一軒くらいなら1日でいけるよね?」
「一本ってなんじゃ。神の名を端折るな。まあ小屋程度なら我なら半日かの。専ら作業は式神どもじゃし」
「だったら、ウミたちがソロとユキさんにリーちゃんを紹介してる間に多分家できるさ。まだ時間がかかりそうなら、サブロウのとこに行ってリーちゃん紹介して来な。どっちもまだ会ってないだろ?顔見せや」
「ソラ、また色々考えてたのね?」
「おう、あそこらへんももうファミリーみたいなもんやしの。ついでにまた安穏寺さんとこ寄ってから、コーチで一泊して、神社に一本さん送ってシカちゃんのお父さんに引き継いだらええやろ?ほんだら明後日には合流じゃん」
「なるほどねぇ~。さすがソラ君」
「ふふふ、ソロとユキさんもファミリーか。もう大家族ね、私達」
「じゃあ、シカちゃん、ウミたちを送って行って空いた時間にリーちゃん先生から勉強教えてもらいな。二人の邪魔をしない程度にな」
「う~、勉強」
そう言いながら白鹿に変わるシカちゃん、偉い。
「じゃあ一旦、ここで別行動へ。一本さん、そこの白鹿さんに乗ってって、またげないか。ウミ、一本さん担いで乗って。リーちゃんは落ちないように、ウミに捕まっててね」
「おいおい、これは春日の神様の鹿じゃろう?我が乗っていい物ではないぞ」
「一本さん、神様の鹿じゃなくて、次の春日神社の神様だよ。二代目かな?」
「お、おい、そんな恐れ多い事ができるか、降ろせ、降ろせ。我は歩くぞ。そんな不敬を我に負わすな!責任が取れんぞ」
「同じ神さんだからいいんですよ、上も下もないって。じゃあウミ、任せた」
「うん、行ってくる。天さんの山小屋より立派な家を作ってもらうよ」
「気を付けてね、リーちゃん」
「はい、楽しみです。いえ、既に楽しいです!」
「シカちゃん、頼むね」
「かしこまりました、ソラ様。行ってまいります」
「サチ、頼んだ!」
「ワウ!」
「降ろせ、降ろせ~我を春日様から降ろせ~、降ろしてくれぇ~」
行ってしまった。なんか子連れの新婚旅行みたいやな。微笑ましい。じゃあ俺らも行くか。
「寂しそうね、ソラ」
「ん?まぁこっち来てウミと離れるなんて初めてやしな」
「サチもいないのって久しぶりね」
そういやそうだな。
「まぁこっちはこっちで先に進みましょう!野宿ですよ野宿」
「あ……忘れてた。よし、女子も道連れで今夜は野宿!帰るの禁止」
「ええええええ~」
「男二人じゃ寂しいもん」
「しょうがないですねぇ~、ユイさん、野宿しますか」
「そうね、また朝にお風呂にだけ帰りましょうか」
「おう。朝はゆっくりでいいから、服破れてもいいように新しいの買って来い」
ユイが満面の笑みでポシェットを叩く。一体いくら買う気なんだろう、ドキドキ。
*(98話へ続く)*




