86話 バンビ
次に目指すは……前に戒壇巡りを見つけてはしゃいでしまって、封印解く前にあっちの世界に行ってしまった清滝寺。
「ウミ~!お前が余計なもん見つけるからあっちの世界に行く羽目になったんや。セーブポイントだ~とか言ってさ。またあそこまで行くのって、無駄に思えてしゃーないわ」
「ソラ君だってあっちの世界に戻れてはしゃいでたくせに。許嫁って何ですかぁ?」
「あ、お前、なんかバカにしてる?ちょっとそこに直れ、その腐った精神を鍛え直してやる!」
「あなたたち、私を挟んで大きな声で言い合いするのやめてもらえる?シカちゃんだって迷惑よ!」
「あ、私は聞いておりませんので大丈夫ですよ」
いや、聞こえてるやん。
「なあ、シカちゃん」
「なんでございましょう?ソラ様」
「なんで白鹿の時はちゃんと大人の対応できるのに、人間になったら幼女みたいになるの?」
「さて?それもそうですね。なぜでしょう?」
「あ、ソラさん!私、ひとつ気が付きました!」
「サトちゃんどうぞ!」
「今の白鹿さんの時のシカちゃんと、人間のシカちゃんとでは頭の大きさが全然違います!」
「ふむ、続けて」
「その分頭の中身も小さくなっているのでは?」
「なるほど!簡単に言うと脳みそが小さくなっちゃってるからと?」
「そんなわけあるわけないじゃない。脳のサイズだけで言ったら象やクジラはどんだけ賢いのよ」
「あ、お前、象さん舐めとるな?象は仲間の死を悲しんだりするんだぞ!クジラだって」
「あのねぇ、犬でもネコでも子供が死んだら悲しむわよ、ね、サチ」
「クゥ~ン」
なるほど……それもそうか。
「まあそこは置いといて、人間のシカちゃんは見た目相応の知能、これで結論!」
乱暴な結論だけど。
「ソラは適当ね、本当に。でもちょっと面白い考察ね」
そこで僕らの悪い癖が出た。どうでもいい寄り道。シカちゃんに一旦飛ぶのをやめて開けた草原に降りてもらった。みんなで考察しあった内容の検証をしようって話になったのだ。僕だけの意見じゃないからね!
「シカちゃん、みんな下りたからちょっと変身してもらえる?」
「なんなりとお申し付けください。また龍がご所望ですか?」
「いや、白鹿のままでええんやけど大きさをバンビみたいになれる?」
「ばんび?ですか?」
「シカちゃん、小鹿って事だよ、ソラ君の説明っていつもあれだから」
うるさい、ウミ。
「小鹿ですね?かしこまりました」
そう言うとシカちゃんは大きな白鹿の姿から、生まれたての小鹿のサイズまで小さくなった。凄いな、変幻自在だ。おお、足をプルプルさせて立ち上がっている。
「頑張れシカちゃん!」
サトちゃん、手を握りしめて応援してる。なんか趣旨間違ってるぞ。
「おお~立ち上がった~」
ってみんななんで拍手してるんだ。クララが立ったんとは違うよ?
「じゃあシカちゃん、俺の名前は?覚えてる?」
と試しに聞いてみる。
「??」
なんか首傾げてこっち見てる。やっぱり知能も後退してるんかな?
「シカちゃん?」
ユイが呼んでみる。
「??」
首を傾げている。
「あれ、シカちゃん??」
サトちゃんも呼びかける。あ~なんか勝手に草食べだした。ちょっとちょっとこれはまずくない?
「ソラ君、シカちゃん……小鹿になって、僕らの言葉もわからなくなった……って事は無いよね?」
ゲッ!
「シカちゃん、シカちゃん!返事して~?元の白鹿さんに戻ってくれるかな?」
優しく話しかけるも無視。あらら。
「あ~シカちゃんが逃げました~!」
とサトちゃんが慌てて追いかける。えらいこっちゃ!ただの小鹿になってしまった。どうしよう。
「なってしまったもんはしゃーない。こっから歩くぞ!」
向こうでシカちゃん捕まえようとしてサトちゃん転んでる。ほらへそ出してるからお腹赤くなってるし。
「え~と、シカちゃんがこうなった以上、こっからは清滝寺まで全員歩いて向かいます!サトちゃん、シカちゃんが逃げないようにしっかりと引率をお願いします!」
「私がですか~?逃げないようにって、そんな無茶な」
「適当に縄で手綱作ってください」
サトちゃんがカバンから縄を取り出してシカちゃんを縛ってる。頼むから首絞めないでね。
「そして、ユイ君」
「なによ?」
「大至急、春日神社の神様に戻し方を聞いて来てください」
「あなたが余計な事するからよ」
「ちょっと待てや!お前ら全員ノリノリで検証しようって言うたやん!まさかホンマに体のサイズで脳みそのサイズ変わると思わんやん。さらに言うとシカちゃん、神様やぞ。こんな簡単にアホになってええんか?」
「アホって、ソラ君……」
「まあアホじゃないけど記憶がまっさらになってしもうた。パソコンのSSD初期化したみたいなもんやん。もし元に戻ったら今後は人間モードと白鹿モードに限定しよう。まさかこんな惨事になるとは」
「本当にもう!いつもこんなどうでもいい道草ばっかりするから先に進まないのよ!八十八ヶ所早く終わらせて、あっちに戻りたいんでしょ!」
「あ、はい」
「もたもたしてられないから聞いてくるけど、これっきりにしてよ!バカ。ウミもよ!一緒になってソラと遊ぶんじゃないわよ、あなたまでバカになるわよ」
「ごめんなさい」
「……ん?」
待て待て。
「なんかお前、傍観者みたいなノリで説教してるけど、お前だって実験に賛成してたじゃんか!全員共犯やぞ!」
「バレた?フフ」
と言ってユイは翼を広げて飛んで行った。お前にかかっている!頼んだぞ、ユイ。
「じゃあ改めて行くか!サトちゃん、大丈夫?」
「大丈夫かと言われると大丈夫では無いです。シカちゃん、生まれたてみたいで、さっき走ったから膝がフルフルして長距離歩けそうにありません!緊急事態です!」
「急に走ったからやの。ウミ、悪いけど俺のリュック背負って」
「了解。でも何するの?」
「何って……シカちゃん歩けんのなら背負うしかないだろ?」
「ソラ君が?」
「おう、前にテレビで沖縄のドキュメンタリーで見たことあるぞ。なんか手足縛って担いでるの」
「それ、山羊を食べるときに調理場へ運んでるシーンじゃないの?」
「あれそうやったんか?沖縄ってえらいペットと仲良しやなぁと思って見てたわ。まあとりあえず持ちやすく縛ってくれたら俺が背負うわ」
「シカちゃんごめんね~」
そう言って器用にサトちゃんが足とかを縛ってポータブルシカちゃんにする。よし、これで暴れる事もないな。よっこらしょ……。
「大丈夫?ソラ君」
「ああ、昔、ご遺体背負った時に比べたらこんなん苦にもならんわ。いけるいける」
そう言って僕はシカちゃんを背負って歩き出した。うん、これは腰に来る。
「ソラ君、ご遺体背負ったって言っても2階まで短距離を運んだってやつでしょ?こっから次の札所まで何キロも離れてるけどいけるの?」
「気にすんな。本気出す時は本気出すからな、俺は」
そう言って清滝寺へ向かって歩いた。
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「凄い!ソラ君ちゃんと歩ききったね!」
「ソラさん、感動です」
「俺はやる時はやるって言うたやろ……」
と言って僕はその場に倒れ込んだ。シカちゃんも長時間足を縛られて辛かったろうに。ほどいてあげて。
「シカちゃん、ぐっすり寝てますね~。背中で揺られて気持ち良かったんでしょうか?」
寝てたんかい!
「みなさん、遅かったですね。歩いて来たんですか?あ、途中で小鹿、捕まえたんですか?今日の晩御飯ですか?」
アオが無邪気に聞いてくる。お前、神様食おうとしてる?
「ユイはまだやんな?」
とアオに聞くと
「ユイさん、少し前にここに来て、僕にさっき神社を出る前にシカさんにあげたお菓子って何って聞かれて、コーチで買った麩菓子ですって答えたら、慌ててまた飛んで行きました。何かあったんですか?」
「いや、まぁ……ちょっとな」
「そうなんですね。とりあえず食事の用意しましょうか?その鹿、今から捌きます?」
懐から小刀を取り出すアオ。あ、こいつ隠密やったか、一応。
「やめろ、触るな。刃物しまえ」
怖いわ。とりあえずシカちゃんの縄をほどいて日陰に連れていき、サトちゃんがつきっきりで面倒を見ている。
「まあ大変な事になったけど、凄い発見ではあるね」
「そうやな、シカちゃんは変身したモノの能力に左右されるんだな。女神様にって言ったら女神様のスキル発揮しそうやな。雷落としたりして」
「なんにでもなれるならね」
そんなどうでもいい話をしているとユイが戻ってきた。
「あなた達、ずいぶん早いわね。生まれたての小鹿を連れて歩いた割には」
「ソラ君が背負って運んでくれたから早かったよ」
「また無茶をするものね。ソラは」
「なんか手間かけたな、ユイ」
「それはいいのよ。はい、これ麩菓子」
「なんぞ?俺が食べたらええんか?口の中パサパサになるから今はもっとこう柔らかい……」
「違うわよ。神様に戻し方を聞いたのよ。そうしたら子供の姿のときの最後に食べた物を食べさせたらその時の姿に戻れるって」
「食べ物の記憶で強制リセットできるって事?面白いな」
「でも一つ問題があるわ」
なんやなんや。
「鹿って麩菓子食べるのかしら?」
「あ……」
赤ちゃん鹿が麩菓子なんて食うか?
「アオ!お前、なんてもん食べさせたんだよ!もっとこう草とか葉っぱとか食わせとけや!先見の明とかないんか、お前!」
「八つ当たりですよぉ~ソラさん~」
「お前が麩菓子なんて持ってなかったらこんなことには!」
「ソラ君さすがにそれは違うよ」
……ウミ、知ってる。知ってるけどなぁ~どうすっかなあ。
「ユイ、それ貸して」
と麩菓子を受け取る。おもむろに麩菓子をぺったんこに潰して、水をかけて丸める。さらに平らにして
「おい、アオよ!そこらの草を切ってお前の刃物でみじん切りにして」
「わかりました!」
こいつ、フットワーク軽くて助かる。刻んだ草をさっきのぺたんこの麩菓子に乗せて
「ソラ君、それってまさかの?」
「そう、まさかの鹿せんべい~!」
ターボライターで軽く焼く。香ばしく焼けたなんちゃって鹿せんべいをシカちゃんの口元に持って行く。あら、プイっと横を向かれる。そりゃなぁ麩菓子と草の変な匂いやもん。怪しさマックス。
「シカちゃん、こうやって食べるんだよ」
と言って、端っこをかじって食べて見せる。うお、ゲロマズ。でも美味しそうなふりをして食べて見せる。みんなドン引き。お前ら連帯責任やからな。
「まあお前ら全員ちょっとずつ食え」
と回し食い。お行儀悪いけどしゃーない。全員ひきつった笑顔で少しずつかじる。サトちゃん、後ろ向いて吐き出したか?やり直しじゃおら!みんなが食べてニコニコしているのを確認して、シカちゃんが恐る恐る偽鹿せんべいをかじる。パリっと音がして、続いてバリバリと噛み砕く音。そして僕の手元から偽鹿せんべいは無くなった。
「全部食べたね!」
そのまま様子を見守ると
「あ、シカちゃんがシカちゃんに!」
ややこしいなサトちゃん。小鹿からいつもの幼女のシカちゃんに姿が戻る。戻るなり黙って僕に抱き着いてくるシカちゃん。
「シカちゃん、ゴメンね。なんかややこしい事しちゃって」
と素直に謝る。
「ソラの背中、気持ちよかった」
あ、起きてたんか。目覚めても大人しくしててえらかったね。
「シカちゃん、時々ソラにおんぶしてもらいなさい」
え?
「罰よ」
と微笑むユイ。
「いや、何度も言うけど連帯責任やろ!」
なんかわからんけど、やっちゃダメな事を一つ覚えた僕たちは、サクッと清滝寺の封印を解除して次に向かうのだった。
「アオ、今日、俺らを近くで見ていて何を感じた?」
「ソラさん達、何でもないことをややこしくするのが得意なんだなぁと思いました!」
まぁそうなんやけどさ。封印解除したとこ見とけや!隠密。
「こっから先はお前も一緒に行くぞ。もっとましなとこ見とけ!」
「わかりました!」
うん、多分一件落着。次だ、次。
*(87話へ続く)*




