85話 継承
僕達はシカちゃん……もとい、詩歌様の背に乗せていただき種間寺の隣にあった春日神社跡地へ向かう。手紙の内容を聞いていた詩歌様はやる心を抑えて、田畑の上を駆け抜ける。
「詩歌様、いつもよりちょっとお急ぎ気味でいらっしゃる?」
「ソラ、今更そんな言葉遣いやめなさいよ」
「そうは言うけどユイ、俺ら今までなんか罰当たりな事してないかな?神様に向かって色々と」
「ソラ様、そのようなお心遣いは無用でございます。何も問題ございません」
と白鹿となったシカちゃんが言う。
「ソラ、あなたね、うちのママだって女神よ。それもこの世界の唯一神と言われてるのに初めの頃はウミにスカート覗け!とか言ってたそうじゃない?それはどうなのよ」
「うん、確かに言われた!アデヤさんが立ってるって言ったら、『下からパンツ見ろ!』って。アデヤさんスカートの裾押さえてたもん」
「最低ね、ソラ!現役バリバリの女神様にそこまでしといて、再建中の神社の神様に不敬な事してないかな?なんて今更じゃない?」
「そ……そうかな?じゃあ、シカちゃん……シカさん、あなたは一体どういう立場なんだい?」
「さて、もう随分前ですし、童子の姿で神様のお供をしていたのでなんともあやふやでして」
「シカさんは色々変身できる感じなの?」
「それが神様といた頃は童子の姿がほとんどで、この白鹿になるのは神様の移動の時くらいでした。他の物に変身できるかと言われるとできなくもないような」
「例えば龍とかになったりは?」
「ではひとつ試してみましょう」
そう言うとシカさんは移動しながらも精神を統一して大きく吠えた。すると……
「うわ~竜神様みたいになったぞぉ~!サトちゃ~ん!大丈夫かあ~」
なんか体が伸びてサトちゃんとウミとえらく距離が離れてしまった。
「大丈夫……ですけど、私、この龍の角って握っていいんですかね?罰当たったりしないですか?」
「竜の子太郎も握ってたからええんちゃうかぁ~?漫画日本昔ばなしのオープニングででんでん太鼓まわしながら掴んでたでぇ~~~!!」
「なんですか、それ!全然わかりませんけど掴みますよ。責任取ってくださいね!」
どう責任取るんだよ。
「ソラ、神の世界は一夫多妻制だから別に私は……」
ユイ、なに言ってるんだよ。
「そうなると面白いね!ソラ君」
と離れた所からウミが煽ってくる。アホか!二人も養えるか、安月給やのに。
「ソラ様、このまま行ってよろしいですか?少しでも早く着きたいもので」
そりゃそうか、神様に会うの久しぶりやもんな。
「初めての変身でそんな飛ばして大丈夫?シカさんがええなら急いでもらってええよ」
「では!」
そう言うと地面ギリギリを飛んでいたシカさんは高く舞い上がりまさに空を飛ぶ龍になった。スピードも大幅にアップ。
「ねえ、ソラ君、龍ってなんで飛べるの?推進力はなんだろう?どうやって浮力を得てるんだろうね?わからないなぁ」
「ウミ、龍のお腹の中には飛行石っていうのが入っているのよ」
「へ~飛行石か……すごいね!」
ウミ、完全にユイに遊ばれてるぞ。たまには金曜ロードショー見ろよ。バルスって言ってみろよ、ホンマやったらシカさんバラバラになって僕ら真っ逆さまに地面に叩きつけられるぞ。
「なんてウソよ」
あっさりバラすんかい!
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「ソラさん、早かったですね!さっきローパーさんに手紙渡したところなのに。シカちゃん凄いですね」
「凄いっちゃ凄いけどなぁ。お前、何も見えてないよな?それとシカちゃんなんてお前馴れ馴れしいぞ。シカ様と呼べ」
「へっ?シカ様?……わかりました。ところで、さっきいきなり皆さんが空中に現れてびっくりしましたよ!」
アオ、お前が能力無くて安心だわ。普通の人の感覚って大事!これを普通に思ったらいかんよな。
普請中の現場に行くと見るからに杖をもった白髪の着物姿の爺さんがあれこれ指示している。あれもう絶対……。
「神様ぁ~~~~!!!」
シカちゃんがダッシュで爺さんの元に駆け寄って飛びついた。当然のごとく爺さんごとひっくり返ってしまう。シカちゃんは神様の胸で大泣きして離れない。神様も困ってる。
「あの~大丈夫ですか?」
と爺さんに手を差し伸べて起き上がらせる。
「おお、ありがとう、お若いの。それと詩歌よ、久しぶりじゃな。息災か?」
「神様、神様……」
シカちゃんは立ち上がっても泣きながらしがみついてずっと離れない。
「あの~もう聞くまでもないですけど、神様ですよね?」
と老人に聞く。
「わしか?ああ元はここを任されておったわ、ホッホッホ」
「ん?元はってどういうことですか?」
意味わからん。
「今はこの娘、詩歌に代替わりしておるが。とっくの昔の話じゃぞ」
「話が見えんのですが……この子はずっと壊れた神社の跡地で神様を待っていたところを僕らが保護したんですけど」
「は?建て替えてるだけじゃろ?」
「違いますよ!100年以上前にアデヤ教の狂信者によってグシャグシャに破壊されてたんですよ。シカちゃ……詩歌さんは神様のお使いに出かけて帰ったら神社が壊されていて、神様が帰ってこれないって事で誰かが迎えに来てくれるのをずっと待ってたんです」
「なんとな?わしは詩歌に後を任せたから春日大社で隠居しておったのだぞ。それまでには詩歌をあちこちの神に引き合わせて、ちゃんと段取りを踏んで継承したのだぞ」
「それで神様とあちこち行ってたのか……それにしたってこんな小さい子に任すなんてちょっとそれってどうなんですかね?」
「小さい子?詩歌が?こやつ、こんなナリをしておるが、人間で言うと500歳はゆうに越えておるぞ」
え?500歳?
「ソラ、神界の神って歳を取るのが人とは違うのよ、私もだけど」
あ、そうか……神様だからか。
「そう言う娘、お主は一体何者じゃ……?」
「私ですか?私はまぁ……」
とユイが誤魔化そうとするとまじまじとユイを見つめていた神様が
「あ!あなたは大神様の御息女ではありませんか?間違いない、小さい頃一度お会いした記憶がありますぞ。あなたがなぜ地上に?それも詩歌と一緒に?」
「神様、こいつ狼様の娘とちゃいますよ。天狗です、天狗。徳島は箸蔵の山の天狗様と今のアデヤ教の女神様との間の娘。そこに犬神の母ならおりますけど、狼関連は今のところいません」
「狼って……若いの。この方は……」
「春日の神様ですね。ごめんなさい、私は多分お会いした時はまだ小さくて覚えていないのですが、私はまぎれもなく天狗とアデヤの娘です」
「いや、大神様の……」
「て・ん・ぐ!」
ユイえらく否定するな。まあ天狗と狼とは全然ちゃうよな。ウミとサトちゃんはなんかヒソヒソ話してるなぁ。まあええわ。
「あの神様、詩歌さんは神様の娘さんですか?」
「そうじゃ、いつまで経っても親離れせんから、半ば強制的にこの神社を引き継いだんじゃ。今日、久しぶりに外界に様子を見に来たら、羽振りよく神社を立て直しておるから改善してやろうと思って、あれこれ指示しておった」
「ちょっとシカちゃん、ここへ」
シカちゃんとぼとぼ歩いてくる。
「シカちゃん、実はめっちゃ大人じゃん!」
「シカ、まだ子供、わからない」
「これよこれ!こやつ、400年ずっとこの調子で全く覚える気がなかったんじゃ。我が子じゃから可愛くてずっと小さいままでもええのう、と思っておったが、さすがに400年ずっとこれだからさすがに大人になれ!って叱って突き放してみたんじゃが……迷惑かけたみたいじゃの」
「シカ、まだ、大人、イヤ!」
「う~ん……わからんけど、神様。神様って人間で言うとおいくつくらいなんですか?」
「わしか?わしは作られてから数千年以上、万年かの?」
万年?壮大やな、神様の世界って。人間で良かった。
「その感覚で行ったら500歳なんてまだまだ子供じゃないですか。人とは歳のとり方が違うんでしょ?神様に寿命もないんでしょ?だったらまだまだ子供のままですよ。400歳程度で引き継ぐのはまだまだ早かったんじゃないですか?」
「でもどこかで親離れ、子離れは必要じゃったしの……」
「失礼を承知で言いますけど……」
「何でも申すがよいぞ、ホッホッホ」
「神様って死なないですよね?基本的に」
「そうじゃの、まだまだ死なんのぉ」
「なんで隠居したいんですか?」
「ギクッ!」
「あなた……当時、アデヤ教が勢いを付けてきたから面倒くさくなったんじゃないですか?」
「ギクッ!」
「信者もアデヤ教にどんどん取られて行って、神社に昔のにぎわいも無くなってきて先細りになっていくのが見えていた」
「ギクッ!」
「神様も集まりに出て各所の神社や寺がアデヤ教徒の手で潰されているという噂を聞いていた」
「うむむむ」
「で、バタバタのうちに詩歌さんに引き継いだ体にして隠居した、って事では?」
「若いの、お前なかなか真理が見えるようじゃの?人間なのに」
「可愛い娘になんでそんな事を」
「甘やかして育てた娘じゃが、そりゃ可愛い。断腸の思いで突き放した。詩歌がこの時代をどう乗り切るかを見たかったんじゃ。他の神社同様破壊されても何もできないまま放置されているのか、それともなんとかしようとしているのか、親としてそれが見たかった」
「見た後はどうするつもりだったので?」
「放置されたまま呆けておったらそれはそれ。またわしの元で春日大社でもっと厳しく鍛えようと思っておった。もし神社を生まれ変わらせようと努力していたならそれは詩歌の成長として認めようと思っておったよ」
「今の状況を見てどう思われます?」
「正直驚いた。こんな立派な普請が行われていようとは夢にも思わなんだ。お賽銭もあったろうが、どうやってこれだけの人と資材を集めたのか」
「これ、シカ、違う」
「うん?詩歌がやったのではないのか?」
「うん、ソラ、ウミ、ユイ、リー、サトのおかげ」
「人のおかげだと?」
「殿様、家老、お金、資材くれた。ソラも」
「じゃあお前は何も努力せずにこの普請をおこなってもらっているだけなのか?お前の力ではないと?」
「そう、シカ、ここで立ってただけ、神様待ってた」
「なんと……助けられただけだったのか。ぬか喜びだったか」
「ごめんなさい、神様、シカ、ダメだった」
と声をあげて泣き出すシカちゃんをユイが優しく抱きしめる。400歳くらい歳上だけど。
「情けなや……」
「神さん、違うで」
いかん、ちょっとムカついてきてる。
「ん?」
「シカちゃんはずっとあなたをここで一人で待っていた。それを僕らが見つけた。そしてシカちゃんの思いを聞いて僕らは動いた。でな、肝心なことを言うで。シカちゃんは僕らの仲間だ。金は確かにかなりの額のお賽銭をシカちゃんが持っていた。でもそれは手を付けず神様に返そうとなった。だから金工面を僕らでやった。シカちゃんも含めてね。ただ金があってもどうもならん。そこでコーチの殿様を頼った。この奉行や職人さんもそのおかげ。でもどんな優秀な大工や職人がいても図面が無けりゃ何もできない。その図面をシカちゃんが一人で全部描いた。神様が元あった神社を作った時に見た景色を覚えていて何枚も何枚も無我夢中で描きあげた。大工もびっくりの図面だよ。正確に寸法も描いてね。それがなきゃ神社の再建なんてとてもとても」
「詩歌が?」
「そうだよ。そもそもシカちゃんがいなけりゃここはただの瓦礫の山さ。それを見ずしてシカちゃんが何もしてないっていうのはおかしいぞ、神様」
「そうですよ、神様。シカちゃんがこの計画の責任者。シカちゃんがいないと何も進まなかったんですよ」
「うん、まさにシカちゃんがいたからです。僕ら、神社や寺の封印をこれまでいくつも解いてきました。でも再建に着手したのはここが初めてです。シカちゃんがいなかったら素通りしてました」
「そうだったか……詩歌……お前が守ったんだな?」
「神様に会いたい、神様を呼び戻したい、神様の家がないから帰れないって泣いてたよ」
「僕らはその心に打たれて、神様が戻るまで一緒に旅をすることになったんです」
「詩歌、こっちへ」
とぼとぼと泣き腫らした目で神様の元へ歩いていくシカちゃん。
「詩歌、ありがとう。わしの為か……お前に良かれと思っていたが逆じゃったな。辛い思いをさせたの」
「神様、神様……」
泣き腫らした目でまた大泣きしている。
「父と呼べ。神と使いの関係は終わりじゃ。あまりに甘やかして育てたから線引きをするために神と使いという形にしていたが、父と娘に戻ろうぞ」
「父様……父様」
そう言って神様に抱きついて離れないシカちゃん。しゃあないわな。
「まあ会えて良かったね、シカちゃん。再建までは時間がかかるけど親子でゆっくり過ごすといいよ」
と背中をポンと叩く。
「うん、シカちゃん、色々ありがとうね。またいつか会えるといいね」
とウミが頭を撫でる。
「シカちゃん、元気でね」
とユイが目に涙を浮かべて抱きしめる。
「シカちゃん……」
サトちゃんもぎゅっと抱きしめる。ゆめタウンではずっと二人で買い物してたもんな。サチも寂しそうに見ている。
「じゃあ、シカちゃん、俺ら次の札所に行くから!元気で!」
と後ろ髪をひかれつつ歩き出す。旅に別れはつきものだ。短い間だったけど自分の子供みたいだったな。500歳位年上やけど。
「え?シカ、一緒に行く」
と神様の元を離れて走ってくる。神様ポカーンとしとる。僕らもポカーン。
「父様、会えた。大丈夫!」
え?会いたかったけど、会えたからもういいの?
「あ、なんか、神様、そんな感じみたいで……親離れできました……ね?アハ」
「あ、うん、ありがとね。じゃ、じゃあ気を付けてな、詩歌」
「うん、バイバイ!」
「バイバイ?」
神様英語は苦手なようだ。なんかわからんけど次の札所に向かおう!
「アオ、次の札所も先回りしといて」
「え?先まわり?」
「清滝寺って前に行ってるんや。そこからちょっと寄り道したからまたそこまではシカちゃんで行く!お前は走れ!」
「えええええ~」
「じゃあ、シカちゃん!よろしく」
「わかった!みんな、背中、乗る」
思ってた感じとちょっと違うけど旅はまだまだ続く。
*(86話へ続く)*




