83話 アオ
「リーちゃんさん、これ美味しいですね!今までこんなの出た事なかったですよぉ!」
あれから僕達は隠密と一緒にサイタニ屋に来て、リーちゃんパパ特製の裏メニューをいただいている。
「『さん』はいらないですよ、隠密さん。この料理はウミさんやソラさんが来たときしか作らないんです。コーチの人には辛すぎるって言われるので」
「この美味さがわからんとは残念ですねぇ。いやぁ~この辛さが病みつきになる!」
隠密のくせに酒飲んで、火鍋食って汗をダラダラ流しながらご機嫌だ。
「おい、隠密、リーちゃんがさん付けいらんって言ってるから今後はリーちゃんって呼べ」
「わっかりました~!リーちゃんよろしくぅ~」
軽いなこいつ。
「ところで隠密さん、アウル教団ってどんくらいの規模なんですか?」
しれっとサトちゃんがインタビュー。
「そんな事言えるわけないじゃないですかぁ。まぁ百人は越えてますよ、全国にいますからねぇ。それはそうと隠密ってなんすか!ちゃんと名前で呼んでくらさいよぉ~」
面倒な酔っ払いやな。
「お前さ、隠密のくせに本名で呼べって大概頭悪いぞ」
「なかなかいないよね」
とウミ。
「じゃあミドリかしら?」
ん?ミドリとな?
「生意気やのぉ~」
けしからんぞ、ミドリは。
「生意気って何よ?意味わかんない」
「ユイ、ウミ、サト、シカ、リー、サチ、ソラ……みんな二文字じゃ。なんでポッと出のこいつが三文字やねん!」
「そこ?ひっかかるの~?」
「生意気や。おい、アオヤマ、お前は今からアオやアオ。ええな?」
「アオれすかぁ?なんか昔話に出てくる馬の名前みたいでやだなぁ。もっとこぉ心躍るようなですねぇ~」
「あ?隠密とどっちがええんや?」
「アオで!」
はい、アオ爆誕。おめでとう!
「で、アオよ。全国で百人以上って言うけど、お前のおる支部とかだったら数は知れてるやろ?それでアデヤ教をひっくり返そうとしてたんか?」
「ええもちろん。教祖様の偉大なお力があればそんなことはいとも容易く実現可能れすよ」
「教祖ったって最初から数えたらもう何代も代替わりしとろうが?初代が凄かったからって言って、それを受け継ぐものが全員優秀とは限らんが?」
「!!」
こいつなんも考えてなかったな。
「そもそもやぞ、教祖様個人を敬うってのはなんか違う気がするぞ。仏教やって色んな宗派の開祖はおっても、その人を拝むんじゃなくてその人が信じた仏さんを拝んどる。新興宗教とかの教祖個人を追っかけるのとは違うと思うぞ。そんな宗教やったらその人が亡くなったら終わるべきじゃないんか?」
霊能力のある教祖が死者の声を聞くっていうのもあったけど、結局次の教祖様はどうなったんかな。知らんけど。
「そ……それはれすね、ちゃんと世襲で血筋を重んじておるわけで……」
「1滴でも血が入ってたらその能力は受け継がれるんか?ほな教祖が献血したら町中に能力者があふれまくるのぉ、アホか」
「ソラ君、こっちの世界にまだ献血は無いと思うよ、フフ。でも理屈でいくとそうなるね。輸血を受けた赤の他人が突然能力者になっちゃう」
「教祖が子供作ったらその時点で半分に血は薄まっとる。さらに次の世代、さらに次ってなったらどうなるんよ。系統がそれって言うだけで、能力は薄れてただのお飾りにされるんちゃうか?結局周りの人間の徳の為ちゃうか?」
「ソラ、アオはとっくに寝てるわよ」
あ、こいつホンマに~。
「なぁユイ、アデヤ教はアウル教が地下で活動してるのは知らんかったん?」
「こんなの?暗部があるのがアウル教団だけと思わないでね。アデヤ教にも諜報部門はあるし、アウル教団なんて比べ物にならないくらいの諜報員があちこちにいるわよ。この町にもね」
「え?そうなん?」
「もちろん。コトヘラにもいて、あなた達の事は最初から報告されてたみたいよ」
「マジか?でも特になんもされてないが」
「だって本当に諜報のみだもの。諜報と言うか信者の主婦とかの報告会みたいな感じかしら?こんなことがあったって会合の時に話が出たのを、そこの長が本部に報告するみたいな」
「主婦の井戸端会議の延長やん!」
「まぁ似たようなもんよ。困った事、変った事、気になる事を教会へ報告。内容によって教会が対応するっていう活動の一つよ。問題ありとなったら諜報員が現地に出向いて確認して、解決策を諮るの」
「なるほどなぁ。じゃあひょっとして隠れ仏教徒がいるとかアウル教が何か企んでるとかも」
「もちろん。全ての報告は上がっているわよ。ママがやろうと思えば簡単に捻りつぶせるわ」
「それをしないのは?」
「かつて唯一神としてアデヤ教の教えだけで、人心を把握しようとしたけど、心に届かない人もいたって事でしょ。自分自身への戒めとして捉えてるんじゃないかしら。あとは寺社仏閣を破壊した過激派、狂信者を見逃した負い目もあるのかもね」
「なるほどなぁ。アデヤさんはアデヤ教の教えが他の宗教を淘汰できる自信があったんか。それでも伝わり切らなかった、手から零れ落ちた者も、あえて潰さず放っておいていると」
「何も問題を起こさない限りは、だけどね」
「それは俺らもそうだったって事?」
「ソラ達は違うわ。あなた達、放っておいたらすぐ死にそうだったからパパとママが私を派遣したんだってば」
「俺らは水槽にぶつかって死んでしまうマンボウか」
「それは知らないけど」
冷たいリアクション。
「で、こいつどうする?」
「ソラ君の言ってた通りにしたらいいと思うよ。アオ君、多分、彼の親が信者で二世、三世とかでしょ?何が正しいとか考えず、ただ言われたまま信じて生きてきたんじゃないかな」
「私もそう思います。さっきのアオ君の話だと最初の教祖様が凄かったんでしょ?でも色々問題起こして潰されたんでしょ?その後継者はアデヤ教憎しだけで動いている気がします。だってアオさんの話には教義の事は何も出ませんでしたもん。もう単に破壊を企む組織なだけな気がします」
さすがサトちゃん。賢いな。テロリスト予備軍やな。
「ソラさんとウミさんと行動を共にしていれば、きっとアオさんの洗脳は解けますよ!私も早く皆さんに同行したいです」
リーちゃん、早くそうなるといいなぁ。ウミの為にもね。
「みんな同じやな。俺はこいつを連れまわしたらええかと思ってたけど、そう言えばみんなの意見を全然聞いてなかったと思ってな」
「いつもの事じゃない。何を今さら」
「いつも通りだね」
みんな頷かないで。
「よし、ほなそういう事で……アオ!起きろ!」
ほっぺたをパチンと叩く。
「ふわぁい。あれ?なんかほっぺたが痛い」
「気のせいや。アオ、お前に仕事を与える」
「仕事れすか?」
「お前な、これから一緒に旅するけどお前も知っての通り、俺らってあっち行ってはコーチに戻り、そっち行ってはコーチへ戻りが多い」
「そうなんですよぉ~だから僕もここの宿にほぼ住み込んでる感じになってますぅ」
「でな、俺らは基本霊場へは歩きで移動するけど、急ぎで戻る時はシカちゃん……もうとっくに寝てるけど、この子に頼んで移動しとる」
「はい、なんか皆さん方が急に見えなくなる時がありましたぁ」
あ、こいつ見えない方のヤツや……僕より無能者大歓迎!
「で、シカちゃんは最大四人しか運べない。お前は無理」
「はい」
「だから、お前は俺らがコーチとかどっかに後戻りしてるときは、先行して霊場の足場を均しておいてくれ」
「足場を?」
「そうや。霊場やら神社やら祠やらを俺らが行く前に見つけて、何か対処すべきことがあったらそれを事前に調べて俺らに教えてくれ。軍隊で言うなら斥候みたいな仕事やな」
「ひとついいれすか?」
「どぞ」
「あのぉ、僕はぁ尾行を教団から指示されております。尾行って後からつけていく仕事じゃないですかぁ?先に行ったら頭行になりませんかぁ?」
そんな言葉聞いたことないわ。
「ソラ君、頭行って面白いね」
「アオにしかできない仕事ね」
「すごいです!アオさん」
「ウミさんのお役に立ってくださいね!」
「???はぁい~!やりま~すぅ」
調子ええやつや。
「あと、密書を教団に送る時は事前にサトちゃんに推敲してもらってからな。はなまるがついたやつしか勝手に送るなよ」
「はぁ~い」
「じゃあアオさん、ここに誓約書書きましょうか?」
サトちゃん、抜け目ないなぁ。アオ、すらすら書いて言ってもいないのに親指を懐刀で突いて血判を押した。あ~あ……契約やぞそれ。
「アデヤ教聖女が立会いの上、誓約の確認いたしました」
アドリブで宣誓契約書にしてしもた。ユイ、悪いヤツやなぁ。
「わぁ~い」
アオ、お前アホやな。
「ではこれにて解散!各自自由に過ごすように!」
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次の日宿屋で起きて手元にある書面に気づいたアオが聞いてきた。まだ眠いんやけどなぁ。
「ソラさん、ソラさん、これなんですか?」
「それ?昨夜お前が書いた誓約書。全部で三部ある。俺とお前とあと一つはアデヤ教の教会の金庫にリーちゃんが朝、預けに行ったぞ。あ、それ破いても無効だから。控えやし、ははっ。原本は教会」
「ソラ君、抜け目ないから」
「アオ?仲間?これからよろしく!」
シカちゃんずっと寝とったからなぁ。アオが仲間になって嬉しそうだ。
「というわけで今日からよろしくな、アオ。それと当分禁酒な、お酒は二十歳になってから!」
こっちのルールは知らんけど。
「えええ~~~」
アオだけに真っ青になっとるぞ、顔。
一応男前が仲間になった。
*(84話へ続く)*




