82話 暗部
「今は言えませんが、あなた方を見込んで話があります」
何を勝手に見込んでるんや?この残念な男前は。
「実は、私、秘かにあなた達の動向を探らせていただいておりました」
全然秘かにじゃなかったけどな。
「何が目的で俺らを?」
「はい、あなた方は聞くところによると、この地から消えて久しいヨダソウ教と呼ばれる宗教の流れをくむ秘密結社の方々で、アデヤ教の崩壊を企んでいると」
なんじゃそりゃ。
「ヨダソウ教ってなんやねん、初耳じゃ」
「フフフ……隠さなくても結構ですよ。とっくに調べはついているのですよ。こっちは全国に情報網があり、あなた方の事は全て把握しております」
どんな把握の仕方や。僕らの足跡たどれば全然違うってわかるやろうに。
「ソラ君、ヨダソウ教だったの?」
知らんがな。
「そう、私はヨダソウ教の聖女よ」
ユイ、話に乗っかるな、ややこしい。
「ちなみにさ、その話って誰から聞いたの?」
「情報提供者の事は一切口にできません。提供者の身の安全を考えての事です」
なんぞ、この律儀なボンクラ。
「あ、ソラさん達、お帰りなさい。今日は早いんですね」
「リーちゃん、違うってば!俺らここに住んでるんちゃうって知ってるやろ。からかわんといて」
「あ、そこの隠密さん、お知り合いだったんですか?」
「!!」
隠密さんって、リーちゃん知り合い?
「なんだぁ、知り合いなら別にウソ教えなくて良かったですね」
「ウ……ウソですと!そしてなぜ私を隠密と!」
なに慌てとるんや?
「リーちゃんなんか聞かれたの、こいつに?」
「ええ、以前からこの辺りをウロウロして、ソラさんやウミさんの事を嗅ぎまわってる人がいるって。町の人の間でも噂になっていてコーチでは有名人だったんです。どっかの隠密だなぁって言われてて影で隠密さんって呼ばれてました。それでこの前学校に来て私に『時々あなたと親しげにしている人たちの事を内密に教えて欲しいって』怪しさ全開で聞いてきて」
アホやなこいつ。あだ名が隠密さんって終わっとる。
「で?」
「まぁ適当にウソばっかり教えておきました!」
「さすがはリーちゃんだね。この人もうずっと僕らの後を追いかけてたんだよ。きっとシカちゃんの走るスピードにはさすがについて来れないから諦めて、その間は町で聞き込みしてたのかな?」
「ヨダソウ教ってのは何?」
リーちゃん、どっから出てきた宗教なんだ?
「フフフ、ソラさん逆さに読んでください」
「ウ・ソ・ダ・ヨ……!!」
僕が言う前に、残念な男はそう口にしてがっくり肩を落とす。リーちゃんに遊ばれとるんやん。
「なんか、ソラさん達が反アデヤ教の過激派だと思ったみたいで、最初から結論ありきで質問してくるのでムカついて少しおちょくってあげました」
おるおる、実社会でも自分で結論決めてから、こうですよね?ってヒアリングするダメな営業マン。こいつもそうやな。
「確かに聞く気も無いのに意味のない質問してくるアホおるわな」
「そもそも隠密のくせに、私がソラさんウミさんの仲間とすら認識してなくて、この人何を見て来たんでしょうね?ユイさんの事も何者かわかってないんでしょ?」
「ホンマにな。こいつ徳島辺りからず~っと俺らを尾行してたんよ。でも自分が見たい物しか見ようとしてないから、俺らがアデヤ教の過激派が封印した寺社を解放するのを見て、アデヤさんの邪魔をしとる!こいつら絶対反アデヤ教やって思いこんでたんやろうな。浅いのぉ~」
「浅いですと?実際あなた方がやっていたのは、唯一神を語る女神アデヤに対する反抗ではないですか?違うとは言わせません」
「重ね重ね浅いのぉ~。自分の思う結論しか見てない、見る気がない。過程とかすっ飛ばして自分が見たい結論しか見ようとしてないやん。結果何も見えてない、理解できてない、全く意味がない」
「しかし、あなた達がやっていることはあちこちで封印を壊して、さらには隠れ仏教徒の支援をしているではないか?それだけで我々には十分だ」
「で?我々と言うお前はなんなん?」
サトちゃんさっきからずっと興味津々でメモってる。もうさっきからツボにはまって笑いこらえるのに必死やん。
「それは死んでも言えん!」
ほう。サトちゃんついに吹き出した。
「ウミ、こいつの身体検査して。サチ、暴れんようにこいつの煩悩しっかり吸って反抗する気力失わせてやって」
「ワウ!」
サチはそいつの足首にカプリと噛みついて嬉しそうに煩悩を吸う。カプカプしている間に、そいつはすっかり抵抗するのをやめて大人しくなった。
「ソラさん、私、関節でも極めてこの人の戦意ポッキリ挫きましょうか?肩でも首でもどこでも極めれますけど」
リーちゃん怖いわ。既にもう反抗する気力も無くしてる。
「あ!ソラ君、なんか懐からご丁寧に密書って書いた紙が出てきたよ」
とウミが嬉しそうに掲げている。「密書」って密書に書くんか?奥が深いのぉ~。普通バレんようにするんちゃうんか?それをユイが受け取って読み始める。
「え~と……現在コーチの町で一行を追跡中。現在までに34の寺院跡の解放を確認。他神社、祠等の解放も確認。アデヤ教への反意間違いない。隠れ仏教徒の支援も確認済み。近く接触し、我々の活動に組み入れアデヤ教団の転覆の先鋒とならんことを期待する。アウル教団徳島支部暗部尾行専門役 アオヤマ ミドリ 19歳……ですって。全部バレバレね。この子、かなり残念な子ね。顔はいいのにもったいない」
「すごいですね、密書って表題からしてあれですけど報告書に自分の所属も氏名も年齢まで書いて……アホなんですかね、顔はいいのに」
サトちゃんも厳しい。
「顔が二枚目過ぎてコーチの町じゃ目立ち過ぎるんですよ、隠密…ミドリさんは。うちの宿屋の宿帳にも本名で書いてましたよ。あと住所もしっかりと。顔はいいんですけどね」
リーちゃん、こいつサイタニ屋に泊まってるんか。どうしようもないのぉ。サチに煩悩吸われてなんかあっちの世界に意識飛んどるな、こいつ。
「おい、ミドリよ!こら!アウル教徳島支部の尾行専門のアオヤマ ミドリ19歳!起きろ!」
「なぜ私の名を!教団の名前まで……くそっ!よくぞ私の事をそこまで調べ上げたな?さては卑劣にも自白剤を使ったか!」
「はい、これ返すね」
とユイが密書を渡す。サトちゃんが赤のペンで密書の上にはなまるを書いてやってるな。遊ぶなよ、かわいそうに。
「クッ!これ以上は何をされても喋らぬぞ」
と口を閉ざすミドリ。
「アオヤマって名前はかつて阿波の国を治めた蜂須賀小六の部下で、青山姓の人がいたけどその流れかな?大名の下で諜報活動をしてたと思うけど」
さすがウミ!歴史書読んでるなぁ。
「そこまで知っているとは、お主何者だ!」
「お前、ホンマにアホやな?そいつはウミじゃ。どんだけ俺らにひっついてきとったんや?お前は何ヶ月も誰かわからんと尾行しとったんか?」
「あ、確かにウミだったな?何やら怪しい術を使って封印を解くところを何度も見てきたぞ」
「なら聞くなよ、バカ!」
なんか疲れるな。残念な男前。
「ほんでアウル教団って何よ?そんなんあるんか?今でも」
「絶対に言わん!」
「ソラ、それってママがアデヤ教で宗教を統一しようとしたきっかけになった教団よ。ある程度わかっていると思うけど、当時あまりにいろんな宗教が絡まり合って大変な時代だったのよ。それでも仏教、神道、新興宗教や海外の多様な宗教もあったけど、大枠では均衡が保たれてての。そこに突然アウル教団という怪しいのが現れて、勢力を拡大していったの」
「なんや昔似たような話、本で読んだ事あるのぉ。いつの時代もあるあるなんかな」
「優秀な人ほどなぜかその怪しい教団に洗脳されて、その優秀な人がシステムを作り、豊富な資金を元にどんどん大きくなったわ。そして最終的には世界征服みたいなことも教祖が言い出したわけ」
「ショッカーみたいやん」
「それに危機感を抱いたママがこれ以上宗教の乱れを放っておけなくなって統一の道を選んだの。パパはそこまでしなくても人は馬鹿じゃない、こんな新興教団はいつまでも続かないって言ってね。そこに大きな意見の相違があって最終的にパパが出て行っちゃったのよ」
「こいつらが原因やったんか!天さんの家出とアデヤさんのワンオペによる即転生の停滞。こいつらユイにしたら最悪の敵やん」
「まぁアウル教団はママが手を下す間も無くその後色々やらかして、勝手に勢いは落ちていって結局パパが言っていた通りになっていったわ。さらに追い打ちをかけるようにアデヤ教の過激派が、徹底的に教団本部を破壊して解散に追いやったのよ」
「でも、改宗したふりをした在家信者達がまたこっそり集まって、アデヤ教団転覆を図っていたって事なんだね?頭がいいのか悪いのかわかんないね、ソラ君」
「人の信仰なんて簡単には変えられんちゅう事や。まぁでも100年以上も経って隠れ信者達も三世、四世になって組織の弱体化もええとこやろ?だってこれ、ミドリが暗部で、それも最前線に送り込まれてるんやろ?」
「どこも人材不足なのね、フフ」
「ミドリ君が暗部って事なら全然心配いらないね!」
ウミ、まぁそうやけど。
「じゃあ離してあげますか?害はなさそうですし」
リーちゃん、スリーパーして意識落ちる寸前まで締め上げてたな。しかしみんなアウル教団舐め倒してるな。
「おい、青だか緑だか知らんけどの、密書は返してやる。俺は信じるものは人それぞれでええと思うからアウル教団も否定はせん。でもそれが本当に正しい事をしているのかを見る目は大事やぞ。もう一回教義とかを見直してみろ。その上で、俺らが何をしているのかその目でしっかり見ろ。人に言われたからこれが正しい答えと思いこまず、とりあえず教え込まれた答えは一旦横に置いておけ。ほんでこれから何が目の前で起きているのかしっかり見て、考え、それから自分の心に問いかけろ」
「自分の目で?これまでずっとあなた達の事を見てきたぞ」
「お前らの望む答えありきでな。そうじゃなくて一度ぜ~んぶ横に置いて、ゼロから俺らの動きを見ろ。ソラが何をしているのか、ユイがどう動いているのか。リーちゃんがなんで教師をしているのかとかな。どうして俺らが神社を建てているのか。お前は第三者として特等席で俺らがやっている事を見とけ。今、そこにいるサトちゃんがその立場に近いかの。彼女は記録係として第三者的に俺らについてきている。お前もついてくるなら堂々とついてこい」
「堂々と?」
「ああ、腹が減ってメシがなかったら分けてやる。路銀が足らんようになったら融通してやる。ずっと俺らについてきてたんやろ?その心意気は買うよ。俺らの一番側にいて、色々見て、自分の心に問いかけて、それでもやはりアウル教が正しい、教団の利益の為に尽くすって言うならそれでええよ。俺らの情報もバンバン送れ。でも絶対俺らはお前らの味方にはならんと思うけどな。一緒におるのに飽きたらついてくるのやめたらええし。離れる時は言って来い。餞別くらい渡してやるわ」
「なんでそんな事を……」
「お前も洗脳されとるだけちゃうんかと思っての。もったいないやん。まだ若いし」
「男前やし、フフフ」
ウミ、お前楽しんでるやろ。
「私はアウル教の教えから外れるようなことは絶対にしない」
「そうか、そうか。ほなそれでええんちゃうか?さっきも言うたけど、俺はお前の信じるもんにケチを付ける気はない。ただ……信じる神や仏の為に人を傷つけても平気、とか言う考えがあったら遠慮なくどつき回す。そんだけ」
「ほなみんな、腹減ったし宿行くか。ミドリも一緒に帰るか?」
「え?あ、はい。私はあなた方についていくのが仕事ですから」
「よっしゃ!ほな一緒に行こうや」
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「ユイさん、ミドリさんって絶対近い内にソラ教に入信しますよ」
「そうでしょうね。ソラの話聞いてるともうわけがわからなくなるから」
「ソラ教の何番目の信者でしょうね」
「サトちゃん!私が一番よ!」
「知ってますってぇ~フフフ」
*(83話へ続く)*




