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81話 お土産


「シカちゃん、ありがとう。多分あの辺でまだ農作業してると思うわ、ここで一旦みんな下りるよ」


そう言うとシカちゃんはしゃがんでくれて皆が下りやすいようにしてくれた。


「疲れたやろ?ずっと走りっぱなしで」


「へーき、ウソ、ちょっとだけ」


疲れとるんやないか~い!今日はここまでやな。


「こんちわ~!安穏寺さ~ん!!」


と田んぼに向かって叫ぶ。


「おおおおおお!!その声は!!」


と向こうからマッチョなスキンヘッドが走ってくる。いや、あぜ道走れよ。安穏寺さんが走ったせいで、せっかくの稲が台風の後みたいに倒れとる。そないに焦らんでもええがな。


「ソラ、ウミ、元気にしとったがか?」


ああ、もう暑苦しい。この筋肉だるま。


「うん、元気。とりあえず今夜泊めて。大所帯やけど」


「それはええけど……ってまた増えたんか?」


「うん、この子はコーチの東の神社の神様の使いのシカでシカちゃん。神さんに適当な名付けされたみたいよ」


「シカちゃんか。まっことかわいい子じゃのぉ」


「あれ?驚かんの?神様の使いやで?」


「おまんらの事では大抵のことではもう驚かんがよ」


「あ、安穏寺さん、ソラ君とユイ、許嫁になったよ」


「えええええええ!ソラとユイさんがぁ~!!まことかぁ!」


「ソラ、おんし、空海上人様の生まれ変わりなが?ユイさんはアデヤ様の娘さんで聖女なが?それでええがか?」


「ユイのご両親はいいみたいだよ。ソラ君は事後報告でいいみたいだし問題なし」


「まっことたまげたがぞ」


「まあ先の事はわからんけど、まあ結婚する時は呼ぶから来てよ」


「当たり前じゃ!一族あげてお祝いに行くがやき」


「いや、安穏寺さんだけでええから。あ、土産あるからとりあえず家に行って広げるわ」


「なんぞ、土産て」


「お楽しみに」


---


「おんしゃぁ、こんな貴重な本、どこにあったがぞ!」


サトちゃんところで買った空海語録をお土産にあげたらテンション爆上がりしとる。他にも真言に関する本を数冊買っておいた。ホンマにサトちゃんの実家の本屋、禁書扱いされてたヤバいヤツたんまり隠してたからなぁ。お宝の山よな、マニアには。


「そこのサトちゃんの実家に隠してたのを譲ってもらったんよ。まだいっぱいあったで。重いからとりあえずこんだけやけど」


「まことか。ぜひ他のも見てみたいもんじゃ」


「結婚式することになったら向こうに行くこともあるかも知れんから、また買ってきてあげるわ」


「ソラ!はよ結婚せい!今すぐせい!仏式で良かった今からわしが仕切るがぞ。どうや?すぐ式あげんか?はよ新しい本持って来い!」


「安穏寺さん、女神アデヤ様と箸蔵の天狗、コーチの殿様とか家老も呼ぶけどあんた仕切れるか?できるなら別にええけど」


「え?コーチのお殿様?神様と天狗様?それは……」


「あとうちの社長が仲人」


「そりゃどうでもええがの」


安穏寺さん、うちの社長舐めるなよ。安穏寺さんの負けんくらい頭髪は薄いぞ!


「ソラ君、悪い顔してるねぇ~」


そりゃそんな式を仕切れる人間なんてそうはおらんやろ。


「まぁそれは冗談として。ソラよ、式は何式でするんや?仏式か?神式か?」


「え?考えてないけど、人前式(じんぜんしき)みたいなんでええかなと。宗教で縛れる気無いしな。人前(じんぜん)ですら無いか。神様や妖怪や霊も呼ぶしの。アデヤ教の教会の人も呼ぶし、元隠れ仏教徒も呼ぶし、まぁ特に仕切る事もないか。仲人に頑張ってもらう」


「大変やの。社長って人も」


「あの人は器が半端ないから大丈夫!ユイの父ちゃんの天狗とマブダチになって一緒に酒飲みに行ってるもん」


「それは相当のお人やの」


「ソラ君、社長さんへの信頼度ものすごいもんね」


「そもそも俺をちゃんとした人の形にしてくれたのは社長やからな。チンピラみたいな学生上がりに色々と根気強く教えてくれた恩人や」


「その割に社長の扱いが雑だよね」


「ええねん。俺らそんな仲やし」


「まぁ結婚式楽しみしちゅうがぞ。絶対しろよ」


「安穏寺さん、本が目当てなだけやろ」


「まっこと、ハッハッハ」


そんな事を言いながら夜もふけ僕らは眠りについた。ユイとサトちゃんとシカちゃんはシレッと天さんの山小屋に寝に行った。翌朝、僕とウミとサチは外の井戸で水浴びして汗を流す。夏の井戸は冷たくて気持ちいぞ。一方女子たちはシャンプーの匂いをさせながら戻ってきた。朝飯はこっちで食うんかい!


「安穏寺さんとこの米、めっちゃ美味しいです!」


「そうかそうか。丹精込めて作った大事な田んぼじゃき」


「あんた昨日その大事な稲踏み潰して走ってたけどな」


「そりゃ一大事じゃからの、おまんらが来たとなると」


「ありがとうね、色々。この前もコーチに野菜の種やら苗やらわけてもろうて」


「アホ言われん!どんだけおまんらに助けられたか。まだまだ足らんがぞ」


「まあ、これからもよろしく頼むわ、兄貴!」


「兄貴か。おまんらわしの子ぐらいぞ」


「関係ないよ。心の兄貴や」


「そうかそうか」


と満面の笑みの安穏寺さん。ほんま頼りにしてる。


「寺はどんな感じ?」


「ああ、ボチボチとな。近所の檀家さんとやっとるわ。もうコソコソせんでええしの」


「うん、アデヤ教会も邪魔はせんよ。確認しとる。なぁユイ」


「ええ、アデヤ教はアデヤ教の教えに共感する人が信じる宗教。強制するものではありません」


「あのさ、安穏寺さん」


「どうした?」


「アデヤ教もそう悪いもんでもないわ。最近そう思うようになった」


「そうか。ソラがそう思うならそうなんじゃろうな。わしも興味がでるがやき」


「いや、あんたは仏さん信じろよ」


「アハハハ、そうじゃったそうじゃった」


「ごちそうさん!またそのうち飯食いに来るわ。ほな、これからコーチ行くけん」


「そうか。また顔出せよ」


「稲がだめにならんように次は稲刈り後にする」


「おお、新米の時期やのぉ。待っとるぞ」


---


シカちゃんの背に揺られ無事コーチの町に到着。


「お、ソラ、今日はもう終わったがか?」


八百屋のおっさん、今日はじゃないんだよ!立ち寄っただけじゃ。


「サイタニ屋さんの今日の日替わりは青椒肉絲とか言う料理やったぞ」


金物屋のおっさん、日替わりの話を僕にするなと。毎日おらへんのや!


「おや、ソラさん……」


そのくだり毎回いらんねん!


「ところでウミ、またおるか?」


「うん、いるね。ご熱心なことで」


「ユイ、あいつやんな?」


「そうね、またあいつね」

挿絵(By みてみん)

ふ~む。


「あの、誰がいるんですか?」


あ、サトちゃんは気づいてないか。


「あのな、もうず~っと前から俺らの後を付けてきてるヤツがおるんや」


「え?岡豊からですか?」


「うんにゃ、もっと前。ユイと出会う前からかな」


「え?そんな前からずっとですか?」


「そうそう。アーワの国の札所の封印を外し始めてちょっとしてくらいからかの?」


「初めてサブロウさんをソラ君が吉野川の河口でどついた時よりは後だったかな?」


「ソラさん、ほんとに誰でもどつくんですね……」


いや、そこはスルーしてよ、サトちゃん。


「阿南の恩山寺辺りやったと思うぞ。18番札所辺り」


「あ~そうそう、またUターン嫌やぁ~ってソラ君がごねてたからその辺だね」


「ずっといるんですか?」


「いや、どういう基準かわからんけど、気づくと同じ顔した町人が俺らの周りをウロウロしとる。最初は気のせいかと思ってウミに行ったら、ウミって人の顔絶対忘れん病気やん?」


「病気じゃないよ、失礼な」


「そんで聞いたら、あの人いつもいるね、って普通に言うから、そんな偶然あるかい!ってツッコんだら初めて怪しいって気づいたみたいで」


「ウミさん、相変わらず天然ですね」


サトちゃん、その言い方はユイに教わったな?


「ちなみにどんな人相なんですか?」


「ウミ、お前、絵も得意やろ?描いてやって」


「うん、いいよ」


そう言ってサトちゃんのメモ帳にちゃちゃっと似顔絵を描き始めた。


「サラサラ~って描いてますけどものすごく覚えられてるんですね」


「そうやろ?アホかと思ってな。尾行やったら隠れたりするやん?あいつ素のままそこでおるねん。俺ら町の入口で立ち話してるやん?普通歩行者のフリしたり物陰に隠れるやろ?あいつ、普通におるねん。ボーッと立って」


「自己主張の強い隠密ですね」


「既に隠でも密でもないけどな。フルオープンや」


「怪しさ全開ってことね」


ウミ、優しいの。


「目的はなんなんでしょうね?」


「さあなぁ、まあ多分俺らが封印された場所を解放してるから、最初はそれを面白く思ってないアデヤ教の刺客かと思って警戒してたけどなぁ」


「違うんですか?」


「ユイと一緒に旅するようになってユイに聞いたら、『さすがにあんなバカは雇わないでしょ?』って」


「そうなんですか?ユイさん」


「さすがにあんなバカは雇わないでしょ?」


そのまんまやん。


「じゃあ何が目的なんでしょう?」


「それが全くわからんなぁ。ひょっとしたらやけど、俺らを反アデヤ教とか隠れ仏教徒と思って近寄ってこようとしている一味かも知れん」


「でも何も接触して来ないんでしょ?」


「そうよ。シカちゃんで移動してる時とかでも、気づいたらおる。ずっとへばりつきじゃなくて、要所要所で時々見張ってるって感じかな」


「サトちゃんできたよ」


と言って似顔絵を渡すウミ。


「え?ウソでしょ?さっきからそこにいる人じゃないですか!」


「うん、チラチラこっち見るやろ?あいつ」


「ええ。うわ、今、目があったら逸らしましたよ」


「そうなんよ。わけわからん」


「じゃあ私、聞いてきますね!」


「え?サトちゃんマジで?」


という間もなくメモを持って怪しいヤツの前に行って話しかけた。おいおい……。


「あなた、どなた?」


とその若い男に声をかけるサトちゃん。年の頃は僕と同じくらいかな。整った顔をしているのに残念な男前やな。


「え?私?違いますよ」


何を言うとるんじゃこいつは。あからさまにサトちゃんから逃げようとするのでウミが腕を掴んで捕まえた。


「君、僕らの事をずっと付けまわしてるよね?なんでなの?」


とウミが優しく問いかける。


「……そこまでバレてちゃしょうがない。まさか私の尾行が見破られるとは……不覚!」


いや、なんもバレてないけど自ら自白かい?楽なスパイや。


「何を隠そう私は……」


ゴクリ。


*(82話へ続く)*


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