78話 直談判
見慣れた田舎の風景だけど高知と香川はやっぱり違うな。香川は小さい山があちこちにポコポコあるなぁ。それとため池がやたら多い。これは空海さんが渇水対策で農業指導した結果なんやろうな。ホンマに多いわ。シカちゃんは見る物全てが珍しくきょろきょろしてる。サトちゃんの家からしばらく歩くと昔の寺町に入った。今なら教会町って言うんか?知らんけど。通りの左右に色んな店があるけどやはりコーチの城下町とは品揃えも全然違う。
「ソラ、これ、お嫁さんのお菓子、何?」
ああ、おいりか。他では見ないなぁ、そう言えば。
「あれはね、お嫁さんが行った先で幸せのおすそ分けって事で、嫁ぎ先の近所にお菓子を配るんだよ。色とりどりの丸いフワッとしたニッキ味のお菓子。でもまぁ美味いもんでも無いよ。空気食ってるみたいなもん。腹も膨れん。なんかソフトクリームとかに無理やり引っ付けてインスタ映え狙う店もあるけどなぁ」
「ソラ君、お祝いのもんだからそんな言い方したら身も蓋も無いよ。縁起物として受け入れて」
「まぁ試しに食べてみるか?マジでスカスカの空気やで。甘いニッキの味しかせえへんからな」
そう言ってお金を払って袋はウミに持たせて中の一つを取ってシカちゃんに渡す。シカちゃんが握るとクシュっと潰れた。
「ソラ、無くなった」
「空気や言うたやろ?好きな色のを摘んでお口に入れてご覧」
そう言うとシカちゃんは白いのを一つ恐る恐る摘んで口に入れた。
「甘い。軽い。ニッキ?」
「粉に味付けて膨らせるだけや」
そう言えば昔、実家がおいり屋さんしてるヤツおったなぁ。今でも商売成り立ってるのかな。地元がこっちのサトちゃんやウミはかろうじて知っているけどユイは知らんか?
「お前も食べたら?」
とユイに摘んで渡す。
「う~ん、確かによくわからないけどかわいらしい食べ物ね。シナモン?風ね。食べた気はしないけど」
シナモンとはまぁちょっと違うけどなぁ。子供の頃、野生児だったから学校帰りに山に行ってニッキの根っ子の皮かじったけど。シナモンは木の樹皮やから若干味わいが違うのよなぁ。野性味があるっての?
「縁起もんやしの。子供の頃、そんな袋じゃなくて箱に入ってるやつがさらに12個入ってるでかい段ボールが実家にあってさ、一人で一気に12箱全部食ったわ。でも全く腹は膨れんかった。胸焼けはした」
「美味しくも無いとか言ってるのに食べるのね」
「縁起物やからな」
シカちゃんはウミから袋ごともらって、手のひらに色んな色を集めては色ごとに一気食いしてた。僕も昔やった、やった。色は違うけど味は一緒なんよなぁ。
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教会の前に着いた僕たちはその異様さに圧倒された。小さな教会にものすごい数の霊?が何重にも取り囲んでいる。かなりの腐臭もするな。今まで見た霊とは様相が違うぞ。遠目に見て異様さに気づいて、すぐメガネをかけて確認したもん。
「ソラ、あれどういう事?」
「霊と言うか亡者って感じだね。あの状態が更に時が過ぎて悪化したのが岡豊城の紫の念の塊かな」
「あれの前段階か。いつもの霊の大名行列とはわけが違うな。おる連中、老若男女みんな泥だらけで教会に助けを求めとるぞ。弔われずどうしていいかわからん霊達が行列で町を歩いてるのとはわけが違う」
「ソラさん、それって私が子供の頃にあった、川の氾濫で亡くなった人かも……」
「え?サトちゃん、水害って?ここで?」
「はい、財田川って大きな川が大氾濫を起こしてこの流域に住んでいた人達が巻き込まれて……」
「財田川か……川幅かなりでかいだね。あれが氾濫したのか。災害でわけわからず命を失ったけどアデヤ教徒達だから、即転生してないって事はまだ自分たちは生きてる!と思って未だに教会に助けを求めに来てるんだね」
「なんか罪な教えよな。生まれ変わりをまだしていない=死んでないって思っちゃうんだもんな。死んでワンクッションあの世がある、って思ってたら、今の状態はなんかおかしいって思う余地もあるんだろうけどな」
「うん、あとは病死とか大けがとか老衰とか死への覚悟があるとまた違うんだろうけど、寝てる間に濁流に呑まれたとかだったら何が何だかわからないまま、とりあえず教会に助けを求めに来ている気持ちなんだろうね」
「とりあえずサトちゃんの実家の商売の話もあるから中に入れてもらおうか。司祭と話しせんとな」
そう言って僕は教会の扉を叩いた。ん?教会なんて日中、扉を閉めるもんか?信者向けに開放したないか?客が来たらどうすんねん。
「こんにちわ~司祭さんいますか?」
と声をかける。ガチャっとドアが半分開いて、中年の男が笑顔で迎えてくれた。はんで半分オープンのみ。
「よくいらっしゃいました。お祈りですか?」
僕ら、100%アデヤ教徒のお参りと思われてるな。
「祈りと言うか話があってきました。ちょっと時間いただけます?」
と言って半分開いたドアから無理やり中に入って長椅子にそれぞれ座る。
「改めましてこんにちは。僕ら旅の者ですけど、ちょっとお話がありまして」
「はい、なんでしょう?」
微笑みは崩さんな。
「司祭さん、タカマツ系の方?」
「え?タカマツ?いえ、違いますが何か?」
警戒しとるな。
「この国は今アデヤ教のみですが、アデヤ教の教義で他の宗教の話とかは禁止されてますか?」
リトマス試験紙や。どういう反応示すかな?
「特に話して問題となるわけは無いですが、推奨もしておりません。なぜならアデヤ教が最も正しい教えだからです。ですので当然ながら他の宗教は廃れていったのです。淘汰されたのですよ」
ああ、悪気はない感じか。
「アデヤ教徒による多宗教の排斥、寺社仏閣破壊については?」
「過去に相当過激に信仰を広めようとして行った愚かな行為かと。そこまでしなくてもアデヤ教が唯一の信仰になるのは自明の理であったのに」
はいはい、この人はまぁ熱心なアデヤ教徒レベルだな。
「豊中のでっかい書店があるけど、あそこで明日から仏教や神道、歴史書などの販売が再開されるけど問題はある?」
「そんなものがまだあるのですか?販売することに問題はございませんが、なぜそんな無駄な事を?敬虔なるアデヤ教の信徒は見向きもしませんよ」
「じゃあ教会が邪魔をするって事は無い?」
「する意味がございません。と言いますかさっきから聞いているとおかしなことを。あなた方は何者です?反アデヤ教徒ですか?まさか仏教徒?いや、まさか……」
「ああ、俺ら?言うなればアデヤ教を救う者、とでも言おうか?アデヤ教に欠けてる物を補完してる」
「何をバカな!アデヤ教に欠陥があるものか。無礼者が!誰か、誰かいるか!この不埒者達を役人に!」
あんたまっすぐ過ぎるねん、司祭さん。優秀なんだろうけどさ。奥から数名の教会の関係者がバタバタと走り出てきた。司祭もそうやけど教会は質素で、司祭も関係者も質素な格好している。不正な蓄財とかはしてなさそうやな。
「欠陥品みたいにって怒るけどそれが事実よ。だからアデヤ教の聖女も僕らと一緒に行動して、教義の欠けた部分を補っていっている」
「聖女様だと?バカな事を。こんな田舎の教会にに聖女様が来るわけなかろうが。そもそも聖女様なんて見たことも聞いたこともない。聖女を語る怪しい者め!」
いや、ここにおるけど。ユイを見るとかなりイラっとしてる。こめかみにに血管が……まだ耐えてね。
「そこであんた睨んどるのがそうやで?司祭さん、あの子怒らせたら知らんで。この教会ごと消えるよ?」
一応忠告したぞ。
「アデヤ様にご息女がいて聖女の資格がある方がいるのは周知の事実。だが100年以上前に姿を消されたはずだ。今は消息不明と聞いている」
あ、田舎だから中央からの通達が来てないだけか。コーチで派手に登場したんやけどなぁ。この司祭が知らんだけやな。
「まあ信じんのやったら別ええわ。それはさておき、表に亡者の群れが教会を囲い込んでるけどなんでなんもせんの?助けてあげんの?」
「バカを言え!アデヤ教の信者は即転生できるのだ。亡者?死んで霊になんぞなるはずがなかろう!そんなもんはおらん!」
ああ、やっぱりまっすぐな人だ。根っからの悪人じゃないんだろうな。霊を感じてもこれは気のせい、疲れてるんだって思うタイプ。
「じゃあなんで玄関閉めてるのさ?何かが入ってくるのを防ぐためだろ?普通は信者の為に開けっ放しにするだろ?」
「そんな意図ではない。風に乗って嫌な匂いが入って来て信者の方々が気分が悪くなったりするから閉めているだけだ。それ以外の理由は無い」
「それは教会に助けを求めてきている亡者の腐臭だよ。嫌な匂いがずっと教会の周辺に充満してるだろ?教会に助けて欲しくて集まってるんだよ。司祭さん、あなたはそれを気づかないふりをして逃げてるんだ」
「亡者なんておらん!存在するはずがない!」
「ウミ、玄関開けて入れてやって」
「ラジャ!」
そう言うとウミは玄関を全開にして、亡者たちを教会内に導き入れた。サチが外からこっちに亡者を追い立ててる。いい仕事するな、幽霊犬。あっという間に教会内部は亡霊でぎちぎちに埋まる。見えない人からしたら、誰もいないのに息苦しいって感じかな。う~ん確かに気分が悪くなる匂いだ。司祭は見えないらしくハァハァ息をして息苦しさは感じているようだ。
「司祭さん、霊はおらんて言うたな?ちょっと見といてな」
そう言うと近くにいた男の霊に話しかける。
「残念やけどあなたは川の氾濫に巻き込まれて亡くなったんです。アデヤ教徒さんやろから転生しとかないかんのですが、ちょっと神様の都合で間に合ってないんです。わかりますか?」
と言ったものの自我を失った霊はゾンビのように「ア”~ア"~」と呻くのみ。聞く耳持たんとはこのことか。司祭はなんじゃこいつ独り言かって目で僕を見とる。しゃーない亡霊の目を覚まさせるしかないな。僕にはこれしかできん。
「すまんな……。おらぁ!お前ら人の話し話聞けや、ゴルァ!」
と言って近くの男の霊を数名選んでいつもより優しくゴツンと拳骨を頭に落とす。すまんな。突然殴られた霊は、おや?と言う顔をして僕を見た。そして周りを見て驚愕する。そりゃ亡霊の一団に囲まれとるんやもんな。でもあんたもその一味ぞ。
「あんな、あんたら財田川の氾濫で濁流に飲み込まれてもう死んでるんや。残念やけどな。転生は順番待ちになっとるからまだ時間かかるんやわ。ちょっと待機しといてもらわなあかんけど、僕のいう事わかるか?」
と言うと、しばいた4~5人の亡霊が頷く。よしええ子や。腕が変な方向に曲がったり、足がなかったり、頭から血が流れていたり本当にひどい有様だ。あんたら痛かったろうな。
「ほんだらちょっとここにいる全員をこれから助けるから、まずは協力して。そこにおるアデヤ教の司祭さん頑固やからまずはこの状態を理解してもらうために、そこかしこで大きめに音鳴らしてくれるか?あと、自分を失ってる亡者達の目を覚まさせて。みんな顔見知りやろ?近所の人や親戚やら多いと思うけど、小突いたり、叩いたりして自我を取り戻させてあげて」
そう言うと自我を取り戻した霊達は散らばっていき、玄関を叩いたり窓ガラスを揺らしたり床を踏み鳴らしたりで、どえらい騒ぎになる。自我を取り戻した霊達はそれぞれ知り合いの亡霊をどついたりしてゾンビ状態から自我を取り戻させていってくれてる。協力感謝。あちこちでガタガタ、ドンドン、ガシャガシャという音が教会中から響き渡る。
「な、な、な……」
司祭は声も出ん。
「じゃあみんな次はその辺のもん勝手に動かしてみて」
と頼む。そこかしこで自我を取り戻した霊は僕の頼みに反応して、長椅子を持ち上げてみたり、吊り下げ式の照明を揺らしてみたり、司祭のヅラを持ち上げてみたり……あんたヅラやったんかい!さすがにヅラをずらされて……ダジャレみたいになったけど、司祭は霊の存在を認めざるを得なかった。
「わかった!わかった!あんたの言う通りだ!信じる!やめてくれ」
すると音は静まり返り、揺れていた照明は元通りになり、椅子も定位置に。ずれたヅラは微調整の上できちんと司祭の頭に収まった。霊の皆さん、丁寧な作業ご苦労。
「亡霊だった皆さん、だいぶ自我を取り戻していただいたようで何よりです。残念な事ではありますが、これからあなた方を本来いるべき場所にお送りします。まだ自我を取り戻してない方が近くにいらっしゃったらどつくなりビンタするなりして、自我を取り戻させてあげてください。亡者のままだとずっと教会の周りをグルグルするしかありませんから。その人の為だと思って遠慮なく」
そう言うと教会のあちこちで「ギャ」とか「グェ」とかいう声が響き渡った。そっとでええんやで?生前恨みでもあったんか?ほどほどにな。
「近くにまだ自我が無い人おるよ~っていう人いたら教えてください」
と全体に声をかける。よし、全員普通の霊になったな。見回すと本当に泥だらけ、濡れたまま、怪我しとる大人も子供も赤ちゃんもいっぱいおる。教会にあぶれるくらいおるから200人以上かなぁ。でもこれだけちゃうよなぁ……他の場所でももっといっぱい……いや、今思う事じゃないな。今、ここにいる人達がまずは先やな。
*(79話へ続く)*




