77話 守り神
「ウミ、久しぶりの実家はどうやった?ゆっくりできたか?」
「いやぁ~父さんにサチが祓われそうになって大変だったよ」
「除霊に対してアグレッシブなおやっさんやなぁ~」
「それがね、うちの寺では一切除霊なんてしてないんだよ。でもよっぽどサチがヤバいって感じたんだろうね」
「クゥ~ン」
ほら、僕じゃなくウミについて行くからさ、この裏切りもん。
「で?お前は買い出しはしたんか?」
「うん、あっちの生活であったらいいなって物はそれなりに」
「あ、そうそう。リーちゃんの普段着とかはユイが適当にチョイスして買ったよ」
「あっ!ありがとう」
「まぁ俺らの仲間なんやから、お前にありがとうって言われるのも変な話やな」
「ねえねえウミさん。聞いて下さいよ!ソラさんってば社長さんに仲人のお願いしたんですよ!」
あ、サトちゃんいらんことを……。
「え?仲人って。ソラ君いつユイにプロポーズしたの?すごい!知らなかったよ」
「ん?プロポーズ?そんなんしてへんぞ」
「なにそれ。プロポーズもしてないのに社長に仲人になってもらう相談?」
「うん。もしそうなったら頼むの社長しかおらんしの。俺らのややこしい事情知っとるの社長くらいやし。それに披露宴で来賓に殿様やらカッパやら坊さんやら来たら普通の人はビビるやろ」
「それはさすがにうちの父さんでもビビると思うよ。と言うか、みんなを結婚式に呼ぶ気なんだね、ソラ君らしいなぁ」
「あっちでは皆になんやかんやと世話になっとるしの。でもユイの案で、式はこっちじゃなくて向こうの方がええんちゃうかって」
「ユイの?……そうだユイ!そもそもソラ君からプロポーズもされてないのにそれでいいの?」
「だってそこはソラだもの。いつもそんな感じでしょ?」
「あはは、凄い納得できる答えだね。確かにソラ君だからだよね」
「俺の悪口か?まぁええわ。ま、そんな感じで、こっちからは社長だけ向こうに連行したらええかと思ての。うちの親は事後報告でええわ」
「ソラ君、自分の親を呼ばないなんてどんな結婚式よ、それ」
「社長が言うには、びっくり博覧会」
「まさに、それだね。さすがにコーチの殿様だって同じテーブルにカッパがいたらびっくりするよ。奥さんのフミさんや子供らも呼ぶでしょ」
「そうやの、殿さんも俺らと一緒なら色々見えるようになってるからな。逆に見えへんダンディ家老は式場見たらえらい空席ばっかりやなぁ~って思うわ。カッパご一同様って書かれた席が八つあっても一人も見えんってな。夫婦に子供五人と猿猴も入れたら八匹や」
「あはははは、それ面白い!ぜひやろう!サチも席もらおうね」
「ワン!」
お前も参列するんかーい!
「ただひとつ問題がある」
「なに?」
「そもそも俺とユイはまだ付き合ってすらいない……」
「ズコォー」
ひっくり返るなウミ。口で擬音すな。
「なんか、なんか凄いね、それ」
「ウミにも一応会社であったことを順を追って詳しく説明するわ。お前も会った事あるやろ?掃除のおばちゃん。あの人死んで幽霊になってたんやけど……」
「なになにそれ……話が急すぎる。あのおばさん、八代さんだっけ?亡くなりはったん?で、何?幽霊?」
「そうよ。ほんでおばちゃんに結婚祝いにって100万円もろた」
「幽霊に?お祝いを?もう既に訳わかんない……」
「まあ善通院市に全額寄付したけどの」
「寄付って何よ?ソラ君、一体何やってるの。全然わからない」
「ん、慈善活動。それは置いといての、その間にデーモンやっつけてん」
「で、でーもん?デーモン!?その間って何!片手間みたいに。置いとく話?」
「そんな事もあって俺らは『許嫁みたいなもんやな』っておばさんがの」
「全く話についていけない」
「ソラ、今どきのAIでも今の話を聞いて要約できないわよ。私、横で聞いていて頭痛くなったわ」
「だからまぁ俺とユイは、恋愛感情云々(うんぬん)はとりあえず置いといて、俺らは許嫁って感じでよろしく」
「ゲッ!それ、一番置いといたらいけない感情を放置してない?ユイはそれでいいの?」
「ん~、だってそこはソラだからねぇ」
「あ、ユイも納得済みなんだね?相手はソラ君だしね。じゃあいいや」
ウミ、お前も大概やな。さて帰るか。
「ま、そう言うことで大きな荷物は一旦、天さんの所に保管で。じゃあウミ戒壇をぐるっと逆に回って戻ろうか」
「ソラさん。私とシカちゃんはこの格好で帰る!」
あ、サトちゃんさっき買ったヤツ気に入ってるんか。
「サトちゃん、そんなへそ出ししたらお腹、虫に刺されても知らんで?」
そもそもサトちゃん僕より歳上だったような。そろそろ落ち着かんと。
「平気です!100均でオニヤンマのキーホルダー買いました!」
それってさぁマジで効果あるの?あったら全員分買うけど。蚊には効かんよ多分。じゃあ善通院さんに挨拶してから戒壇巡り逆回転行くかぁ~。
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「ソラさん、ここがさっきの善通院の跡地ですか?見る影もないですね」
無事?例の隙間から廃墟の善通院に戻ったサトちゃんがペンを走らせている。
「ああ、無惨な瓦礫しか残って無いやろ?総本山やからアデヤ教の狂信者に徹底的に破壊されとる。俺らが初めて来たときに、小さいご本尊さん見つけられたのは奇跡やったわ」
「やっぱり実家みたいなもんだからこんなのを見ると心が痛むね」
「でもな、信仰とかはその器で決まるもんちゃうやろ。何を信じるかは自分で決めるもんや。必要ならみんながまた集まって建てるやろ!俺らは俺らがやれることをやるだけや。ここを解放するのはまだ先やし、まぁ順番順番」
「うん、また高知に戻って再スタートだね」
「あ!ソラさん、この前もお伝えしましたが私、ちょっと実家に」
ああ、もちろん覚えてるよ。親御さんに顔見せやんな。
「こっからはサトちゃんの実家はそう遠くは無いけど時短でシカちゃんにお願いしよう。シカちゃんええかな?」
「大丈夫。朝いっぱい食べた。おやつもサトと食べた。力ある」
「じゃあこの前みたいに四ケツで行こうか。サトちゃんは道案内よろしくね」
そうして僕らを背中に乗せたシカちゃんは、サトちゃんの案内で豊中方面に走って……飛んで行ったのだった。
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「着きました。ここがうちの家です」
と案内されたのは想像していた本屋とは全く違う、途方もなくでかい書店。書店?というかもう市の図書館みたいなでかさがあるけど。
「凄いでかい店やなぁ~」
「ご先祖様が頑張ったんですよ。なんかある時からやけに商売が上向きになって、気づいたらこんなんなってたっておじいちゃんが言ってました」
なんて大雑把な歴史。
「おお、サトか!久しぶりに見たと思ったらなんだその恰好は」
多分現代日本の田舎でも、帰省した娘がこんな格好してたら親は小言を言うだろうな。
「あ、お父さん。この服、カッコいい?買ってもらったの」
「サト、突然旅に出るって言って出て行ったと思ったら、連絡も無しに帰って来て。今まで何してたの?」
あ、お母さんですか?
「まだ旅の途中よ。今、四国中をこの人達と一緒にまわってるの」
「お話中すみません。こんにちは、初めまして。私、ご息女と一緒に旅をしているソラと申します。過去にあった四国八十八ヶ所を辿る旅をしている途中に、偶然同じ目的を持つサトさんとお会いしまして同行させてもらっています」
「ああ、これはこれはご丁寧に。私はサトの父、そしてこちらがサトの母親です。いつも娘がお世話になっております。サトと遺跡巡りですか。こんな子ですが皆さんにご迷惑をおかけしてないですか?」
こう見えてこのメンツじゃサトちゃん最年長なんだけど、ユイを除く。
「ご息女には旅慣れない私たちに、色々教えていただいて助けてもらってます」
正直、こっちの世界の常識があるのはサトちゃんだけだもん。本当に助かってる。貨幣価値とかよくわからんし、中途半端な和洋折衷なしきたりがもう訳わからん。サトちゃんはその辺詳しいからいないと困る存在になっているもんな。
「そうですか。ご迷惑をおかけしていなければよいのですが」
「ご息女に伺ったのですが……あの、ご自宅に禁書とされる物をお持ちだとか」
と周りに聞こえないようにヒソヒソ声でお父さんに話しかける。
「えっ?娘がそんな事を?……なら隠しても無駄ですね。実は先祖伝来の様々な宗派の本から歴史書まで大量に隠しております」
「存在を認めてもらえたのでヒソヒソ話しはやめますね。それらはもう禁書扱いしなくていいです。禁書じゃないので明日からでも堂々と販売してください!」
「え?どういうことですか?禁書じゃないと?」
「ええ、そもそも禁書なんて無かったのです。禁書と定めたのはアデヤ教の方針ではなく、アデヤ教会の一部の過激派の意向だけです。寺社仏閣の破壊もアデヤ教の本意では無かったのです。女神アデヤは他宗教を攻撃しろとまでは言ってない」
「ええ?そうだったんですか?でも教会関係者にあちこちに無惨に破壊された寺がたくさんあります。仏教徒狩りも実際あったそうです。そんな事を今さら聞かされても手遅れじゃないですか」
「それをなんとかする旅を僕らはしています」
「なんとかする、ですか」
「僕らに何をどこまでできるのかわかりませんが、それが使命だと思ってやっています。その一助としてお父さんも協力してくださいませんか?隠している本を店に並べて、アデヤ教以外にもかつてはこんなお寺があった、こんな神社があった、宗教があったと一般の人にも知らしめてあげたいのです。今では破壊されて瓦礫になった寺社も、昔は人が集まって信仰を深めていたんだと言うことを」
「でもそんな事をしたらアデヤ教会が面白くないのでは?」
「ところが実はそこにいる僕らのツレの女の子は、アデヤ教の聖女です」
「ええ?聖女様?なんで聖女様が皆さんと……」
「アデヤ教の聖女が私たちと一緒に旅をしています。詳しくはお話ししませんが、僕らの活動に興味を持って途中からサトさんも一緒に旅をしてくれています」
しばらく考えたサトちゃんのお父さんは
「なるほど!面白いです!サトもバカじゃありませんから、彼女が信じて皆さんと一緒にいるという事は事実でしょう。では明日から禁書だったものを堂々と店頭に並べましょう!ははははは!今はまだアデヤ教徒しかいないこの世界で、どれだけの人が仏教や神道の本を手に取るかわかりませんが、唯一無二、ここにしかない本たちです。うちの独占販売ですね!面白いですな」
生粋の商売人やな、パパさん。
「あ、我々も一応今後揉めないように、この町の教会には筋を通しに行っときますので安心して並べちゃってください」
「わかりました。サトはいいお仲間に巡り合えたようだ。ありがとうございます」
パパさん両目が「¥」マークになってる。あ、こっちはアデヤ金貨か。近いのは「₵」こんな感じ?ガーナのセディって通過記号らしい。「₵₵」こんな目。
「そうだ!お父さん、私、路銀が心もとないのでちょっと私の貯金から持って行かせて」
「ああ、大儲けできるかも知れん前祝いだ。必要な分だけ持って行きなさい。母さん、そこの米袋に金貨を詰め込めるだけ詰めて」
いやいや米袋に金貨って重すぎる&物騒過ぎる。
「あのね、お父さん、盗賊とかの心配もあるのでほどほどで……」
そう言ってサトちゃんは金貨を一握り程度受け取って店の外に出た。
「ではご息女の事はお任せください。最大限安全に配慮いたしますので」
「サトをよろしくお願いします。今後の道のりは大変でしょうが、みなさん安全に良い旅を」
「サト、体には気を付けてね」
「聖女様も一緒だから大丈夫よ、ね」
とユイにウインクするサトちゃん。微笑み返すユイ。ええコンビやな。じゃあ行くか。なんかパパさんから、これは商売の情報料って事でかなりの金貨を渡された。断ろうと思ったけど、八代のおばさんの言葉が頭に浮かんで受け取った。邪魔になるもんじゃないしなって。大事に使わせてもらおう。ここから教会までは近いらしいので徒歩で行こう。歩きながらサトちゃんに気になってたことを聞く。
「サトちゃん、あれ見えた?」
「えっ?あれ?ああ、はい……あれですね」
「かなり前からおったみたいやな」
「はい、私も子供の頃から何か気配は感じてたんですが」
「ウミも見えた?」
「階段の上にいた子?」
「うん、あれ絶対に座敷童やんな?」
「そうみたいだね。サトちゃんも言ってけど座敷童が住み着いてから急に商売が軌道に乗ったんだろうね」
「ソラ、実はあの座敷童、店に入ったときから私の心にず~っと話しかけてたのよ」
「え?念話ってやつ?なんて?」
「サトちゃんと一緒に行きたい~!って。サトちゃんが子供の頃から、友達でずっと一緒にいたからいなくて寂しいって」
「私とずっと一緒?私って子供の頃からずっと、店の隅で本ばっかり読んでて友達いなかったんですけど」
なに、その悲しい過去。
「その隣でずっと一緒に本を見てたんですって。だからこれからも一緒にいたいって訴えかけてたの」
「そうなんですか。じゃあ今からその子を迎えに……」
「ダメよ、座敷童が家から出るとご実家の商売が傾いちゃうかもしれないもの。お父さんあんなにノリノリだったのにかわいそうじゃない。明日から閑古鳥が鳴いたりしたら。だから、サトちゃんは旅が終わったら必ずここに戻って来て、今度は本を書く仕事をするからずっと家で一緒だよって言ったら、本書くの楽しみ~!って言って素直に私達を見送ってくれたの」
そうか、じゃあとっとと終わらせてサトちゃんには作家生活を目指してもらおうか。座敷童が付いてたらそりゃきっとベストセラー作家になるぞ。まあその前に、町の教会の司祭と話つけとかんとな。どんな人やろ。
*(78話へ続く)*




