76話 使途
「ソラ~起きとるかぁ~」
と襖の向こうで社長の声。時計を見ると朝の6時……早いわじじい。ユイも不機嫌に目を覚ます。シカちゃんとサトちゃんはそんな声に関係なく爆睡中。
「社長、早いわ。これやからじじいはさぁ~。なんでこんな早いんよ」
と目を擦りつつ襖を開けて文句を言う。
「いや、お前らの朝飯買って来てやったからみんなはよ食べ」
いや、まだ6時ぞ。
「気持ちだけもろとくわ……」
と言って襖を閉めようと思ったけど昨夜の出来事を言うとこか。
「ユイ、お前もちょっと来て」
とユイも廊下に出てもらう。そこで社長に昨日のおばちゃんの話とユニットバスの上の現金の話、そして茶色の紙袋を社長に渡す。
「中はチラッとしか見てないけん、社長一緒に確認してや」
「なんと、驚いたのぉ~。ホンマに宝くじ当たっとったんか八代のおばちゃん」
そう言いつつ待合室のソファに座りテーブルの上に札束を広げる。
「ソラ、お前見たことあるか?これ聖徳太子の1万円札やぞ」
「さすがに漫画とかでしか見た事ないわ……それが新札のまま束であるって凄いな」
「使おうと思えばあの人も贅沢できたのにのぉ」
「まあいつか使いたいことができるまで置いとったみたいよ」
「ほんで、この金は全部市の福祉に寄付するんやの?目的は野良犬や野良猫の保護でええんやな?」
「うん、そうしてくれってさ」
「ほんだらお前、八代のおばちゃんの祝い金100万円ちゃんともろとけ」
「ああ、もらう」
そう言って、帯の付いた1万円の束をひとつ受け取った。
「ユイ、前祝いに100万おばちゃんからもろたわ。なんか俺ら、祝いもろうたおばさんの手前、別れるわけにはいかんようになったの、はは」
「ふふふ、まぁそうね」
「これ俺が使い道決めてええかな?」
「もちろん」
「じゃあ、社長、これ僕らから100万動物保護に寄付するわ」
「ええんか?大金ぞ」
とユイの方を見る社長。
「ソラの言う通りに」
ありがとうユイ。
「社長もおばさんが亡くなった時、ごっつい戒名つけてあげたんやろ?おばさん感動しとったで。僕らもそのくらい気前よくせんとな」
「話半分に聞いてたけど、ほんまに八代のおばちゃんと話したんやな、お前……」
「信じてなかったんかい。聞いてなかったらユニットバスの上で現金見つけるかいや」
「そりゃそうじゃの。じゃあ役所があいたらおばちゃんとソラとユイさんの名前で寄付しとくの」
「頼んます。色々手間かけてすみません、社長。いつも感謝しとります」
「なんや、急に改まって。気色悪いのぉ」
「いや、もう会えんかもしれんと思て生きてるうちに伝えんと、おばさん時みたいに後悔しそうやから」
「わしはまだ元気じゃ、アホ!」
「みんなそう言うんや」
「社長さん、今後ともよろしくお願いします。ソラは私がしっかりと守りますから安心してください」
「ああ、ユイさんよろしくお願いします。あなたがいれば安心ですわ」
僕が守られる対象ってか?まぁそうなんかな。気に食わんけど。
「ほな社長、後で箱バン借りるわ。朝飯食べたらゆめタウン丸亀でシカちゃんの服買って、その足で善通院に行くけん。車は寺の駐車場に乗り捨てるから後で田中さんにでも取りに行かせて」
「お前、先輩をこき使うなよ。まあええけど」
「ほんだら社長、仲人のこと忘れんといてな。あ、それとな、おばさんに言われてしっくり来たけど、僕とユイは恋人とか婚約者とかちゃうから。まあ『許嫁』みたいな感じ?それでよろしく」
「婚約者と許嫁の何が違うんぞ?」
いや、よくわからんけどまぁ受動的か能動的かみたいな?そんなフワッとしたのがええやん。
「社長さん、ソラがそんな感じなのでそれでお願いします。私もそっちの方が楽ですから」
「ユイさんがええならそれでええが。ソラ、お前、ホンマに親には相談せんでええんか?」
「あ、昨日電話したけどまた留守電やったから『結婚するかもしれんけん、社長に仲人頼んだきんな』って入れといた」
「お前んとこ、ホンマたいがいやな」
それでええんよ、うちは。
「まさか神様の娘とは思わんぞ。来賓に妖怪や幽霊や殿様が来るとか聞いても絶対しょうもない冗談やと思われるぞ」
「だけん、式当日に説明なしで参加させたらおもろいやん。絶対ウケるで」
「ま、お前らしいわの」
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ようやく起きたシカちゃんとサトちゃんに顔を洗わせてから、布団を片付けた芙蓉の間に足の短い長テーブルを2つくっつけて食卓にする。ドリンクは社長がOK出してくれているので、ゲスト用の冷蔵庫から烏龍茶やらオレンジジュースやらコーラやらを適当に持ってきてグラスに注ぐ。
「ソラさん、頭が痛いですぅ~」
安いワインをがぶ飲みしたから二日酔いじゃ、サトちゃん。ミネラルウォーター飲んどけ!
「ご飯、ご飯」
とシカちゃんが急かす。電子レンジで温めた朝食は社長チョイス。
「ん~と、おにぎり3個とカップ麺が2個にサンドイッチとメロンパンとからあげクンとフランクフルトとサラダとゆで卵と……」
何品買ってきとるねん!この子ら選択肢が多い分だけ時間かかるんじゃ!適当にチョイスして並べたる。
「はい、サトちゃんはサンドイッチとゆで卵ね。シカちゃんはメロンパン食べるかな?あとサラダと牛乳飲みなさいね。残りをユイと俺が食べる!おにぎりとからあげクンとフランクフルト……カップ麺は非常食で持っていくか」
「ではいただきます!」
「いただきま~す」
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「ソラさん、さっきお薬もらって飲んだらすぐに頭痛がおさまりました。凄いです!そしてまた小腹が空きました!」
「サトちゃん、今から行くところにはもっといっぱい食べ物あるから我慢しとき!」
そうこれからゆめタウンに行くのだ。昔はダイエーやらサティやらビブレやらがあったそうだけど、そんなもんとっくに無くなった。今はイオンタウンかゆめタウンがこの辺りじゃ王道なのだ。
「ユイはなんか服買う?」
「ん~そうね。ドレスばっかりじゃしょっちゅうソラに切られて、信者向けノベルティにされちゃうからプチプラの気軽に着れる服を買おうかしら」
「サトちゃんもコットンのTシャツとか短パンも買っておこうか?」
「あ、サトちゃんもちょっと下着を買ったほうがいいかも……」
あ、全然気づかなかった。そう言えば胸をさらしみたいなんで抑えてたな。邪魔だとか言って。
「シカちゃんも動きやすい子供服を選んであげようかな」
ちょっとユイと内緒話しよう。
「なぁ、シカちゃんってこれから大きくなるんかの?」
「多分、姿は自由に変えられると思うけど」
「ちっちゃいまんまやったら西松屋とかでええんかなと思ったり」
「しまむらとかね」
「一点豪華主義より子供は汗かくから数よなぁ、やっぱり」
「そうね、今朝も明け方、寝汗凄かったもんね。じゃあシカちゃんは寝間着と普段着とお城とか行くとき用によそ行きのを買いましょう」
「その女子目線助かる。ただ一点ルールは守ろう。前も言ったけどあっちの世界にないもんは残さん。だからプラとかポリエステルの生地は禁止。いつかこっちに戻る俺らはええけど、残るシカちゃんやサトちゃんの服とかはコットンとかシルクとか天然素材にこだわろう」
「絶対そっちの方が高く付くけどいいの?ソラ」
「ユイ、俺様は今は富豪や言うたやろ?通帳に金が貯まりまくりや」
「じゃあ二人の服はその方向で。リーちゃんはどうする?」
「リーちゃんはいつものチャイナがええなぁ」
「ソラの趣味でしょ!いつかは合流するんだから同じ様に用意して山の家に置いとくわ」
「うん、そうしてあげて。いつかリーちゃんも一緒に旅する時のためにな!」
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ゆめタウンでは大変だった。鏡は既に昨日会館のお風呂やトイレで見たからそれほど驚かなかったけど、エスカレーターとエレベーターでシカちゃんとサトちゃんがうるさいうるさい。格好もシカちゃんはお人形さんみたいだからやたらと年寄りに話しかけられて人気者になるし、サトちゃんはサトちゃんで電気屋で目を輝かせてた。特にチェキを見てしばらく離れなかった。いや買ってやらへんからな。
「サトちゃん、文房具屋でなら色々買ってあげるで。フリクションもいろんな色あるしメモ帳も!」
「本当ですか?」
と言ってなんか色々持ってきたけど、ペンとノート以外は却下や。
「これは……」
と出してきたのは付箋紙。ああ。メモしたり貼ったり便利やな。天然素材じゃないけど使い切るからOK。ついでにマスキングテープ各種も買ってあげた。せいぜいデコってくれい。
シカちゃんはユイに色々着せられてヘトヘトになっているなぁ。着せ替え人形やな。キャップ被らせたりしてる。夏は暑いし帽子はいるなぁ。サトちゃんにも買ってあげよう。え?サトちゃんへそ出すの?
「ユイ、おおかた終わった?」
「ええ、シカちゃんが逃げ回って大変だったけどなんとか」
もうママやな、こいつ。ホンマに聖女かな?普通の女の子にしか思えんけどなぁ。あ、羽が出るから普通じゃないか。
「サトちゃん、リュックも布製ならOKやから防水のやつ買ってあげるわ。今のやつ、雨が染み込んでノートだめにしたことあるやろ?とりあえず俺らとおる時はジップロックも使ってよし!お別れの時回収するけど」
サトちゃんもう、僕らのカタカナ言葉もほぼ理解できるようになってる。基本めっちゃ賢いんだよなぁ。
「ソラさん、あとこの本駄目ですか?」
と持ってきたのは日本の歴史……それは劇薬過ぎるやろ?
「サトちゃん、それ見て幸せになるとは思えんけど」
「わかってますよ、こっちの世界の話で、私達の世界とは別なんでしょ?だからおとぎ話として興味があるんです。どうせこっちと同じになんてならないですから」
まぁアデヤさんが居る時点で別物になってるわな。
「わかってるんやな?似て非なるものだからね。こっちの方がええと思うかも知れんけど、俺はあっちの方がええと思うところもあるよ。ほんでややこしいのは別の世界だけどなんか繋がってるんだよな。それが何かようわからんけど、繋がっとる。あっちのことがこっちに影響するのか、その逆なのかはわからんけどさ」
「ソラさん、難しく考えなくていいですよ。おとぎ話ですよ、おとぎ話……ふふっ」
ま、そうやな。よし!買ってやる。
「みんな満足したかぁ~?もう多分来ることないぞぉ?ええか?」
「ソラ、また期待、だめ?」
「また来るかも知れん!」
「あまいなぁ~ソラさん」
サトちゃん、それを言わないで。
「親ばかね」
ユイ、お前もじゃ。
「ほんじゃあ、車に乗って善通院へ行ってウミと合流な。あいつもあっちでリーちゃんになんか買ってあげてるみたいやで。LINE来てたわ。買っていいもん悪いもんの相談。自分で線引したらええのに」
「それだけ信頼されてるんですよ、ソラさん」
「責任押し付けたいだけちゃうか?」
「そんな子じゃないでしょ、ウミは」
まあの。
「じゃ、シカちゃん、お店にバイバイして行こうな」
「ばいばい?」
あ、つい英語が……。
「一旦、今日はさようならしましょうね」
とユイが優しく言う。シカちゃんは手を振って名残惜しそうに車から見えなくなるまでゆめタウンの看板を見ていた。
「ソラさん!あれ!お城?まだここにも御殿様いるんですか?」
サトちゃん目ざといなぁ。
「ああ、あれは丸亀城な。あれはもう空っぽや。殿様とっくにおらんようになった」
「え?どこへ?」
「はい、そこでさっきの本の出番よ。後半に明治維新とか大政奉還とか出てくるからその辺読んでね」
「そら冷たいわね」
「あ、ユイは間近で見てたんちゃう?後で教えてあげて。蛤御門や桜田門外で何があったかとかを当時見たまんま」
「さすがに見てないわよ!」
あ、そう、残念。
「竜馬の暗殺の時は京都にいたわよ。犯人も実は知ってたり……」
「え?うそ?知ってるの?誰?教えて」
「内緒」
くぅ~生殺しやん。そんな事を話しながら僕達は善通院に向かったのだった。
*(77話へ続く)*




