第8話 天狗さんと僕らの話
腹いっぱい焼き立てのイノシシ肉を3人で食らい、ティータイム突入。
コトヘラのサブさんの店で交換した番茶をすする。
「で、お前ら何しにこんな山奥まで来た? わしへのお供えか? 頼み事か?」
天狗さんが口を開く。
「え? いや別に。通りすがりですよ。コーチまでの旅の途中ですわ」
そもそも天狗に出会うなんてイベントは予定に無かったもん。
「通りすがりってか」
その時、天狗さんがさげていた袋が少し動いた気がした。
「天狗さん、袋動いてるけど何はいとるん?」
「ああ……今食ったイノシシの子じゃ」
袋の口を広げると、可愛いウリ坊達が元気に動いていた。
良かった……少し心が軽くなった。天狗さんが保護してくれてたのか。
「お前らが殺めたイノシシの子達じゃ」
「うん……結果的にはそうなったね」とウミ。
「その子達は大きくなったら森に返すの?」と僕が聞くと、
「ん? なんで? 食うけど」
えっ。
食うの? せっかく助けた命なのに? なんのために保護したのさ。そんなかわいそうな……と思った瞬間、じゃあ今食ったばかりの親イノシシはどうなの?という考えが頭をよぎった。
なんかさっきからぐちゃぐちゃや、気持ちが。この肉はかわいそうじゃないの?って。
うぐ……。
「食う側、食われる側にそんな理屈は不要なんよ。結局食われる方はいつの間にか命を奪われて、知らんまに食われとる。お前らだっていつ食われる側になるかわからんぞ、この山では、この世界では」と天狗さん。
「そやな、イーブンやね」
「うん、イーブンや」
それでいい。それを避けてたら生きられないってことよ。
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「さて、美味い肉の礼するわ。なんか願いあるか? わし結構偉いからそれなりに期待してええぞ。玉手箱いる? それとも大きなつづら?」
バッドエンドしか見えんわ。
「天狗さん、なんか神様みたいやな」
「誰が神さんぞ! どうせ言うなら山の主様と言え」
「わかった! 天さん!」
「なんもわかってない!」
親しみを込めてるだけや。
「ほな天さん、ウミのこの曲がったアルミの槍をまっすぐ伸ばして。重心も変わって投げられへん」
「ん? あるみとな? なんやこれ……。まあええ、一応預かる。前と同じとはいかんかもしれんけどなんとかしてやるわ」
サンキュー天さん。
「初手からえらい距離近いのお前ら。今夜はとりあえずここで寝たらええ。わしの縄張りやからクマやらイノシシやら山犬やらの動物も近づかん。まぁ聖域? サンクチュアリみたいな?」
ちょっと待て天さん!
今、なんか変な事言うたな?
「じゃあの!」
と言って天さんはあっちにぴょんぴょん跳ねて行った。
そこは背中の羽でばさ~っといくんちゃうんかい! いやそれよりだ。
「さっき天さん横文字使わんかったか? 明らかにサンクチュアリ言うとったで」と僕。
「なんなんあれ? なんかとぼけたフリして消えていったけど怪しいなぁ」
ウミと目を合わせる。
でもまぁ今日は色々あって疲れた。野生動物と野生天狗に遭遇するとは思わんかったわ。早めに寝よか……また次に会った時、天さんをつめよう。
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「ゆうべはおたのしみでしたね……」
枕元で天さんの声。
なんやこのおっさん。そのネタ知ってるとは怪しさマックスや。
「ほれ、槍持ってきたぞ。前のとちょっと違うかもやけど適当に見つけてきた」
色の違う槍投げの槍を受け取ったウミが叫ぶ。
「なにこれ! アルミとちゃう。しなりが全然違う……ってこれ! カーボンの槍やん! 待って! うそ、NISHIのSuper GDや……」
待て待て、なんか色々おかしいぞ。
「え? それって3万とか5万とかすんの?」
「なんでよ! 20万以上するやつやで……これ」
アルミの槍がカーボンになって帰ってきた。わらしべ長者か……って違うやろ!
「どしたんこれ? 天さん、ひょっとしてあんた僕らの世界と両方の世界を行き来したりできるんちゃうか?」
「さあの……」
不敵に笑う天狗さん。
その左手首に——見たことのあるアップルウォッチ。
……あの農家のじいさん、天狗やったんかい!!
なんかもうめんどくさいのぉ! あれこれ情報が渋滞しとる。
「よし、わかった! わからん! わからんけどそういう事なんやろな。天さん、あんた自由にあっちの世界行ったりしてるから女神の封印されてないんやな?」
「さあの……まあ、わしは封印されるほど弱く無いし、そもそも信仰とか関係ない。昔も今も自由に山におるだけよ。自由、自由」
「ひょっとして僕らも天さんの行き来する真似したら元の世界に戻れたりしちゃったり?」
「しちゃうかもね」
軽いのおおっさん!
「じゃあ、今すぐ僕らを!」
「それでええんか?」
「え?」
レイバン越しに見る天さんの目が、さっきまでと違った。
「途中やろ? まだ」
「あ……」
そうやった。ハーマイオニー——アデヤさん。まだとっかかりやもんな、僕らの霊場巡り。
「とりあえずきちんと終わらせよ。そしたら……?」
「そしたら! イノシシパーティ!」
袋の中のウリ坊達が震えた気がした。
そうじゃないやろ。
「うそうそ。特にお前! お前とは前から縁があるしのぉ」
え、僕?
「やっぱり?」
「やっぱり」と笑う天さん。
「でもお前らとの縁はもっと前からや! お前の名前はソラ! そしてそっちのお前はウミ! そうやな?」
うなづく僕ら二人。
「二人合わせて『空』と『海』! そう、空海! 久しぶりやのぉ! いつの間にか魂が二人に分かれとったは意外やったが」
「あ、そう?」と薄いリアクションの僕ら。
「あれ? そこもっと驚いたり感動したりするとこじゃないの? ええっ! そんなバカな! とかって」
「いや、だってそもそも僕らもなんか出会った頃からソラとウミなんてベタな名前やし、その二人が揃って別の世界に来るなんてなぁ~」
「うん、なんかもうそうやろなって思いつつ、口に出すの恥ずかしいから黙ってたけど……まぁ考えたらそうよね。いや、はずいわ」とウミ。
「なんかわし、悪い事言うたかの……」
天さんが少ししゅんとした。
「ええよええよ。気にせんといて」
僕は番茶を一口すすった。
空海。空と海。ソラとウミ。
言葉にすると確かに恥ずかしいけど——なんか、悪くないな。ずっと一緒に歩いてきた相棒と、そういう縁で繋がってたっていうのは。
口には出さんけど。
「その代わりと言ってはなんだけど」
「なんだけど?」
「天狗ってホントはぱあ~っと飛んで色んな所へ行けるんやろ?」
「そりゃ知ってるとこならまぁそれなりに迷わずいけるけど。わしちょっと偉い感じやし。主やしな、ここの」
自慢げなのをスルーして続ける。
「善通院わかるやろ? 空海が作った」
「もちろん! 昔はよく行ったぞ」
「そこ今、廃墟なんやけど、アデヤさんのせいで。で、僕らが地面に目印でプチストーンヘンジ置いてるからそこで視線を上げたら目線くらいのとこにちょうちょ結びあるのよ」
「なるほど、意味が全く分からんけど、続けてみ」
「そのちょうちょ結びの辺りにスマホ近づけたら電話できるのよ。持ってるやろ、スマホ? アップルウォッチ持ってるなら?」
「うふふ、あいふぉーん!」
と掲げる天狗さん。
「で、そっからうちの社長に電話して色々オーダーして受け取ったら時々届けてよ。いちいち補給物資取りにあそこまで行くのしんどい。高知から遠いし。もうこっから帰るのもだるい」
「え? いや、わしやったら普通に買い物行けるけど、なんならパク……」
「いやいや、そこはちゃんとせな。天さんにおごってもらうわけにいかんし、会社の経費やこれは。必要経費! 領収書で落とせる」
「いや、わし、そっちの方が面倒くさ……」
「じゃあ社長の電話番号入れとくな。それ貸してみ」
天狗さんのスマホを取り上げてポチポチ入力する。
「最初知らん人の電話やから怪しまれると思うけど、ソラの友達でシャチョゾンの発注って言えば通じるから! 合言葉はシャチョゾンな」
「シャチョゾン? なんかよくわからんうちに巻き込まれてしもうたの……」
「どうせヒマやろ? 誰も来ない山の中で。時々僕らに会いに来てよ。昔の馴染みでもあるんやろ?」
「空海さんの腐れ縁やの。まぁ長い天狗生、こういうのもたまにはええか」
「じゃあさっそくやけど」
とメモ帳に2人で欲しい物資を書き出して天さんに託す。
「ほな、また荷物受け取ったら届けてな」
そう言うと天さんはぴょんぴょんと跳ねて——今度こそ背中の羽をばさっと広げて飛び立った。
その姿を見送りながら、ウミがぼそっと言う。
「シャチョゾンって言うて大丈夫なん? そんな言われてるの社長全然知らんやろ?」
「まぁキレるやろな」
「悪い人やなぁ」
「まぁそっちの方がおもろいやん」
二人で笑いながら、山下りの用意を始めた。
これを下りたら吉野川——多分、人里があるはず!
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*(第9話へ続く)*




