73話 宝くじ
「社長、なにがあったん?」
「ん……ソラ、お前、パートで来よった八代さん覚えとるか?」
「覚えとるも何も、僕が入社した時に会館の掃除やらやってくれてたおばちゃん……というかおばあちゃんやん」
「あの人のぉ……亡くなったんや」
「マジで?僕が入って半年後くらいに体調悪いからって辞めたけど、亡くなりはったんか」
「ほんでよ、お前、あの人宝くじに当たってたん知ってるか?」
「え?知らん」
「だいぶ前の話やけどの、当時で数千万当たってたらしいわ。でもそれを人に言うと危ないって事で、いきなり仕事辞めたらおかしまれるって事で週に数回ここでパートをずっとしよったんや」
「カモフラージュの為の仕事やったんか。しかし金持ってるのにめっちゃケチやったよなぁ~」
「それも芝居やったんかもしれんけどの」
「芝居なわけあるかい!あのおばはん……死んだ人の事言うのアレやけど、病院から骨の入った壺を持ってきた人がおったけど、墓石屋さんにそのサイズじゃ入らんって言われて、ここでうちの定型の骨壺に入れ替えた事あったやん。ほんでその壺は割れ物のゴミ箱に廃棄で置いてたやん?」
「そんな事あったのぉ。それがどしたんや?」
「あのおばはん、割れてもない壺もったいないって言うて、黙ってそこから取り出して、あろうことか僕らが寝る宿直室の押し入れに隠しとってん」
「そんなん僕ら知らんし普通に寝泊りしとったけど、田中さんや淵さんや青井さんが宿直しとったら押し入れの扉が風もないのにガタガタ鳴ってうるさいとか言い出して、原因調べたら捨てたはずの壺があった!って怒ってたやん」
「ほんまか。聞いとらんわ。ほんでその壺どうしたんな?」
「淵君が怒って叩き割ったわ。寝れんのじゃぼけぇ!言うて」
「あいつもたいがいやの。お前はどうやったんや?」
「別にガタガタしたとて寝るときは寝るし。出てきたら腹も立ったかもやけど、音ぐらいじゃ別に気にならんかった。宿直の時に宿直室のドアをノックされた時はいちいち布団から出てドア開けて確認せなあかんかったから面倒やったけど。開けても誰もおらんしムカついて開けっ放しで寝たけどな」
「ソラさん、怖いとかは思わないんですか?」
あ、サトちゃん、放置しててごめんね。
「怖いも何も、誰もおらんのに怖ないわ。それより締め切って自分しかおらん会館に本物の人がおるほうがよっぽど怖いわ。何されるか目的もわからんもん」
「ソラが絡むと話が脱線するのよ。社長さん、それでその人がどうしたの?」
ユイがイラついているぞ。
「そうそう、ほんで体調崩したって言うて辞めたんよ。ちょっと認知症っぽくなってきてたし、施設に入ったほうがよかったんや」
そうやったんか……。
「ほんで亡くなって施設から連絡あって、身寄りがなかったからうちで市民葬あげたんやけどの」
「ふんふん」
「役所の人から口座にはほとんどお金がないので格安の市民葬でって言われたんじゃ」
「え?宝くじのお金は?」
「それが全くわからん。前に住んでたアパートを引き払う時も市のサポートの人が施設に入る手伝いしたらしいけど、現金もほとんどなかったって」
「ほなそのお金どこ行ったん?」
「知らん。宝くじに当たったって話もホンマかどうかは今となっては謎よの」
「で?なんで八代さんの話を僕にしたん?」
「それがの、田中が夜中に八代さんを見たって言いよるんじゃ。あいつ、一番ここで古いから八代さんとも付き合い長いやろが?施設に入る前に飼ってたクロって猫も、今は田中んところにおるわ」
「ああ、ここで残飯あさりに来てた野良猫連れて帰った言うとったわ。めっちゃ近隣から苦情きてたもんね」
「そうよ、あのネコどうするって話になった時に、田中がじゃあ飼うわって」
「そうなんや。ちょうど今日田中さん宿直やんな?ちょっと様子見てみるわ。向こうでやってる力がこっちで通用するかどうかはわからんけど、ユイもいるしシカちゃんもおる。なんか手はありそうな気がする」
「そうか。頼むわ。やっぱり一緒に働いた仲間が成仏できてないとしたらなんか切ないからな。必要なもんがあったら何でも使え」
「ほんじゃあ社長~、諭吉じゃなくて今は渋沢さんか……渋沢さんを2~3人分貸していただけたら。せっかくこっち来たから皆で美味しいもんでも食べに行こうかと。あと、車も借りるで」
「シカ、乗せるけど」
いやいやいや。
「シカちゃん、いきなりこっちの食堂に鹿が来たらみんなびっくりするから」
「金を貸せってか?前祝いや、とっとけ」
と社長は財布からポンと3万円出して僕にくれた。
「領収書は食事代でいい?」
「そんなもんいらん。ポケットマネーや」
カッコええ~。そういうところが好きなんだよな。
「ところで僕の給料ってもらっても、向こうで全然使えんのよね。こっちでいくら溜まっても使い道が無くて」
「ソラ、パパに両替してもらいなさいよ。こっちにお金があるならそれを下ろして」
なるほど!天さんは両方に住んでるからこっちのお金も使えるんか。
「社長、僕の口座にお金ってどんくらいあるの?借上げ社宅の費用とかひかれてるやろ?それでも100万くらいにはなってたり?」
と聞くと社長がひそひそと耳打ちしてきた。
ええええええ~~~そんなに?どんだけ出向手当ついてるのよ!シャチョゾンの費用ちゃんと引いてる?
「あのの、お前がウミ君とあっちに行ったのを善通院のご住職さんが気にかけてくれて、周辺の真言の寺からもあれやこれやと仕事を回してくれるようになったんじゃ。取引無かったところからも声がかかっての。ほんで高松の方もそれでえらい儲かっとっての。新規取引先の受注をお前って事にしたらえらい事になったんや。今さらやめるわけにもいかんからのう」
不労所得でそんだけの収入になるならもう辞めていいですか?
ちょっとATMでお金下ろして天さんに両替してもらおうっと。
「ユイ、天さんも呼ぼうよ。一緒に晩御飯食べよう!久しぶりに社長も一緒にさ!」
「パパなんて声かけたらすぐ来るわよ。ソラの事大好きだから」
「サトちゃんもいるし、シカちゃんも紹介したいし、呼んじゃえ呼んじゃえ」
そうユイに言うとすぐ来たわ、あの天狗。
「呼んでくれた?ねえ?」
あ~相変わらず。
「社長!久しぶり!この前以来か?全然誘ってくれへんから寂しかったやん」
「いや、あの、恐れ多くて」
「なに言うとるんや。社長と天狗の仲ぞ」
どんな仲やねん。
「天さん、いつもめんどくさい買い物ありがとう。めっちゃ助かってる」
「シャチョゾン改めテンゾンか?天ゾンって書いたら読み方によってはアマゾンやのぉ~はっはっは~、ってか?」
テンション高いな、相変わらず。
「こんだけ人増えたら車1台じゃ無理やな。天さんとユイは隠蔽で空飛んでもらおうか」
「ええぞ、ええぞ。親子水入らずどこでも飛ぶぞ」
「パパうざい」
照れるなよ娘。……あ、睨まれた。
「まぁちゃちゃっと食べて会館戻って風呂入って寝ようか!まぁ夜はちょっとなんかあるかも知れんし」
そう言って僕らは社長の車に僕とサトちゃんとシカちゃんが乗って、ユイと天さんは飛んで行く。シカちゃん、さっきまで道路で見ていた車に乗れたので喜びマックス。
「ソラ、これ、フカフカ、中は涼しい」
うんうん。
「ソラさん、フカフカで中も涼しいです」
うんうん、シカちゃんと同レベルの感想だね、サトちゃん。
「社長、どこ行こう?サイゼでええかな?」
「お前、サイゼリアって……天さんと聖女様連れて行っていい場所ちゃうぞ」
「ええやん。この子らに珍しいもん食べさせたいから和風より洋風。ほんで安くて色々食べさせたい」
「それにしたってお前……」
「僕がミラノ風ドリア食いたいねん!久しぶりに」
はい。それが本音です。たまにエスカルゴとかドリアが夢に出てきてたんだ。回転寿司もいいけど和風だったらあっちでも食べられる。コーチの魚は美味いしさ。中華なんて逆にリーちゃんの店のを社長に食べさせてあげたいわ。なので今日はイタリアン!骨付き鳥も捨てがたいけど、あっちでも食べようと思えば食べられる。塩と胡椒があればなんとか。
「お前が食いたいんならしゃーないな、宇多津に行けばええの?」
「うん、運転させてごめん。社長の車にもし傷でもつけたらと思って」
「お前、この前、散々山の中走らせてどの口が言うとるんじゃ」
そうやった……天さんとこに送らせたんだったわ。
そうして僕たちは社長とユイ初顔合わせのめでたい席を、サイゼリアで設けてしまうという愚行を犯してしまうのだった。社長以外はもう必死で食べまくった。またしばらく食べれないのでピザもスパゲッティも詰め込むだけ詰め込み、天さんとサトちゃんはワインを飲みまくる。成人だからいいのだ。シカちゃんは何度ドリンクバーを往復した事か。「しゅわしゅわ」って炭酸を嬉しそうに飲んでた。
酔っぱらったサトちゃんは「雨上がりのカタツムリ今度いっぱい捕まえましょ~」とかエスカルゴをあてにしながら呟いてた。いや、種類が違うよ、多分。なぜかユイは僕の隣に座っていた。こいつも酔ってるな。
「ソラ……安芸の中屋さん忘れてる」
「あ、そうやった!めっちゃ世話になったもんな、ヒダル神の時。そう思えばたくさんの人に助けられたなぁ」
「バカなの?本当にバカね。それ以上にどれだけの人を助けたのよ。そういうところよ」
「そういうところか」
ふむ。なんか納得しつつ、散々飲んで食べて僕らは会館に戻った。社長は運転があるので一滴も飲めずで申し訳ない!天さんとサトちゃんは泥酔。社長の車の屋根にへばりついて天さんは会館まで戻った。
さあてと、八代のおばちゃん、ちょっと話聞こうか!
*(74話へ続く)*




