72話 先の話
神様の使いの白鹿の背に揺られながら国道319号線を北に走っている僕ら。普段、軽トラや寝台車で走ってた道だけどちょっと上に飛んでるだけで視界が全然違う。シカちゃん凄い。
「ウミ~、今、琴平の町通り過ぎたけど町割りはやっぱりあっちに似とるのぉ~。サブさんの店の場所はでっかい土産物屋やったわ」
「うん、僕、小学校の遠足の時、あそこで龍の剣の形をしたペーパーナイフ買ったよ。サブさんとこだったんだね、あの店」
「なによ、龍の剣って」
「小学生男子が絶対買うやつや、覚えとけ」
琴平を過ぎたらもうすぐに善通院だ。琴平からはまっすぐな道路が多度津の港まで続いているから快適、快適。
「ソラ君、そのままうちの実家行ってあっちに戻る?」
ウミが聞いてくる。それでもええけどなぁ。いや、やっぱりシカちゃんの買い物しておきたいし。
「今日は会館にでも泊めてもらおうかな。社長に言えばどうにかなるやろ。お前は実家でええな?」
「うん。でもユイにサトちゃんにシカちゃんって大人数で大丈夫?」
「お前、会館なめるなよ。2階の法事する部屋ぶち抜いたら大宴会場になるんやぞ」
「そうなんだね。じゃあ僕とサチは実家に行くから赤門筋で下りるよ」
なんか相乗りタクシーみたいなノリやな。
「リーちゃんも一緒やったら良かったのにのぉ、ププ」
さっきの仕返しじゃ。
「はいはい、そうだねぇ」
と大人な対応であしらわれた。悔しい。
「じゃあシカちゃん、そこで僕は下りるよ。また明日ね!」
と普通に実家に帰っていくウミ。びっくりするやろうな、ご両親。そんな部活の合宿帰りのノリでええんか。サチもウミに引っ付いて行った。お前も、お仕えするのは誰でもええんか。
「ウミさんの実家のお寺って、あの高い塔がある所ですか?うわぁ本当に凄い!」
サトちゃん、あれが総本山善通院や。そりゃ凄いわな。そこらにあるもんちゃうぞ。
「明日、迎えに行ったときに見せてもらおうか?って言うかあそこからあっちの世界に帰るからな」
「楽しみです!」
と言いつつ五重塔のスケッチしてる。シカちゃんの背中で器用なこった。
「あ!ユイ!ごめん、忘れとった。お前、箸蔵さん辺りで下してた方が良かったか?どうせ夜は天さんとこ戻るんやろ?まぁトンネルあるから一緒か」
「一度、この辺をゆっくり見たかったから丁度いいわ。この町がソラが働いていた場所ね?」
「過去形ちゃうぞ、働いている場所な。俺は現役会社員だからさ」
そう、あっちに行こうが何をしようが僕はれっきとしたサラリーマンなのだ。
「シカちゃん、ここ曲がってまっすぐ行った先が目的地だから速度はゆっくりでええで」
「かしこまりました、ソラ様」
シカちゃんは速度を緩めて進んだ。おお、久々に来たなぁ葬祭会館。着くとシカちゃんが膝を曲げてくれて僕らは順番に背中から下りた。そして会館横の従業員専用通路を開けて勝手に中に入る。エアコンがんがんに効いてるぞ。涼しぃ~人工の風久しぶりやぁ~。
「ソラさん、ソラさん。なんで夏なのにここは冷たいんですか?寒いくらいです」
サトちゃん、こっちの世界でも天さんとこは山の上だから自然の冷気しか知らんのやな。
「文明の力や」
「ソラ、説明が雑!」
とユイに叱られる。
「すごい、涼しい、不思議」
シカちゃんは可愛い。
「ただいまぁ~っと」
と言いつつ事務所のドアをバーンと開けると山羊みたいな顔の田中さんが一人で新聞を読んでいた。
「おお、ソラ。帰ったんか?」
なんやぁリアクション薄いおっさんやなぁ。もっと驚けよ!
「あ、ちょっと一時的に戻って来ただけ。今日、会館ってお客さんおらん?」
「ああ、今日はヒマやぞ。受注なかったけんのぉ」
「ほな、今日僕、ここにちょっと泊るわ。社長は?もう帰った?」
「いや、霊柩車洗車しに行って、ついでにガソリン入れてくる言うとったからもう戻るやろ」
社長にやらす仕事か。新聞読んで暇してるあんたが行けよ。
「あ~田中さん、先に紹介しとくわ。出先で一緒に行動している仲間でユイ、サトちゃん、シカちゃん。以上。ほな車庫行くわ。あ、田中さん、お客さんおらんのに会館のエアコン効かせすぎやで」
「おっと、営業終わってから会館のエアコン切るの忘れ取った!ありがと。しかしソラよ、仲間って女子だけかぁ~ええのぉ~」
うるさい。そんな感じでぼーっとしてるからしょっちゅう事故るんだよ。
僕らは事務所を出て、葬祭道具やら棺桶のストックをしている倉庫の前の通路を通って車庫に向かった。お、ちょうど社長がバックで霊柩車を入れている。よくもまぁこんな狭い道からでっかい外車を器用に停めれるもんだと感心する。国産の霊柩車の前ギリギリに外車の霊柩車をピタッと停める。後ろに龍が乗ってるスペースがあるからバックミラーなんて見えないんだよ。サイドミラーだけでよくもまぁ毎回きちんと停められるなぁ。僕ならぶつける。と言うか斜めに停める。実はこっそりぶつけたこともあったような。
「社長、ただいま~」
「おお、ソラもんとったんか?」
久しぶりなのにめっちゃあっさり。まあ僕らはこれでいい。女子達は珍しそうに霊柩車を見ている。
「龍!凄い!金色」
シカちゃんなら本物の龍を見たことありそうやな。サトちゃんは霊柩車のスケッチに忙しい。そんなもん元の世界には絶対無いからな!描いても誰も理解してもらえんぞ。
「あ、社長、紹介しとくわ。この小さい子はシカちゃんって言って、高知の神社の神様の使いの白鹿。わけあって拾って今は助けてもらっとる」
「え?神様の?お前、どんだけ……しかしこんなちっちゃい子に助けてもらってるって一体何を」
と社長が言うと、シカちゃんはあっという間に白鹿の姿に変わった。
「これが本来の姿でございます。ソラ様達の移動手段として使っていただいております」
「おお、凄い!これはこれは……ソラがいつもお世話になっております」
社長も見えるんやな。お互い挨拶を終えるとシカちゃんはまた幼女に戻った。
「で、こっちはあっちの普通の女の子。表現ややこしいな。名前はサトちゃんで、あっちの世界で豊中辺りの本屋の娘やってさ。一緒に旅して俺らの事を本にしてくれるって」
「おお、それは奇特な事で。ソラがお世話になっております。豊中の本屋と言えば老舗の江戸時代から続く大きな店がありましたが、今は本屋をやめて、手広く事業展開しとるところがありますがそこですかの」
「江戸時代?」
ときょとんとしてるサトちゃん。まあわからんわな。
「で、最後の子。この子がユイ。天さんの娘さんで最初の仲間やな」
「おお、天さんのご息女か。という事は神様の?」
「そうそう、アデヤさんって女神さんの娘で、天狗とのハーフであっちでは聖女様って呼ばれとるわ」
「いや、お前、女神さんと天狗のハーフって……」
「社長さん」
と訳ありげに微笑みかけるユイ。それを見て社長も喋るのを止めた。なんかアイコンタクトしてる二人。隠しごとか?
「でさ、社長って天さんともツレになって顔見知りやろ?まだ先の話でどうなるかはわからんけど、もしそうなったら仲人頼むわ」
「え?」社長?
「え?」ユイ?
「え?」サトちゃん?
「?」シカちゃん……。
みんな、なにポカーンとしとるんや?なんかそんな感じなんちゃうの?周囲のみんなが考えてることって?僕、間違ってた?
「あ、あなた、何を急に……私になんの相談も無く突然……」
「え?ああ。まだわからんけどあくまで先の話って言うたやん」
「ソラ、お前、それはええけど、わし神様が参加する結婚式なんぞ出た事ないぞ」
「なに言うとるんよ!毎回、神主さんの前とか神父さんの前でやっとるやん。あの人らだって神様の代理やろ?その本人たちが来るだけやん。一緒、一緒」
「いや、神様の体のサイズ感とかもわからんし、席が小さすぎたり式場に入れんかったりするし」
「ほな聞くけど従業員の結婚式をその辺のホテルでやってええんか?僕は別にどこでもええけどさ。一応互助会入ってるから安くなるかもって思っただけ。どこでするにせよ仲人は社長で決まりやけど」
「ソ、ソラ……あなた話が飛躍しすぎよ」
「そうですよ、ソラさん。ちゃんと自分のご両親にも了解を得ないと」
サトちゃんはやはり常識的だな。バランスを取るのにこういう人は必要だ。
「ああ、でもまぁ息子の決めた事には反対しない親だから大丈夫。あ、アデヤさんにはまだ直接話してなかったなぁ」
「そもそもユイさんには話してるのですか?」
あ……。
「ユイさんに気持ちを伝えたことは?」
え……?無いけど。
「俺から話したことは無いけど、こいつはいつも俺の心勝手に読んでるし。まぁおいおいそうなった時に考える。とりあえず滅多に社長に会えんから、会ったときに言うとかな。社長も心の準備がいるやろうし」
「社長さんより私の心の準備は!」
「まぁ、それはさておき」
「置くんじゃないわよ!」
スルー、スルー。
「できるかできんかはまだわからんけど、来賓で呼びたい人が結構おってな」
「来賓ってか?さらに面倒くさい事言うなよ、ソラ」
「まずは向こうで世話になってる安穏寺さんって坊さん」
「坊さん!?」
「ほんで、学校の先生しとる吉田さん!」
「吉田さん!?」
「あと世話になってる宿屋の若旦那でサイタニじゃなくて坂本さん!」
「坂本!?」
「社長、いちいちリアクションうるさい!黙って聞いといて。あ、あとはコーチ城の殿様。ついでにダンディ家老も呼ぶか」
「!!」
「ほんでな、人間じゃないけど最初の頃からのツレでカッパの親子とその友達が合わせて八匹。あと徳島の犬神の母ちゃんやけどそいつは幽霊やけどええかな?」
「かっぱぁ~~~?犬神ぃ?幽霊やと?」
「コトヘラのサブさんも呼ぶかぁ~。最初の頃に世話になったし」
「あ?コトヘラってなんぞ?」
「琴平のあっちの呼び名。三河屋って土産物屋あるやん?あっちの世界のあそこに雑貨屋があってめっちゃ世話になってん」
「お前、それ結婚式と言うより世界びっくり博覧会みたいになるぞ」
「うん、そなったら面白いなぁ。ここにいるメンバーももちろん呼ぶし。できたらシカちゃんの仕えてる神様も呼びたいな」
「うん、一緒に来る」
おいでおいで。
「あ、ユイは友達おらんもんな?」
「失礼ね。本気出してキリスト教の天使とか勢ぞろいさせちゃう?めっちゃ歳上だけどミカエルとかガブリエルとかラファエルとか」
お面被ってるラファエルしか僕は知らん。
「ちょ、ちょっと……話が大きすぎるぞ。どんな形式にしたらええかも想像つかん。そもそも日本の神道なんか、それとも神父読んで神式なのか」
「そんなんいらんよ。人前式でええやん。あ、人だけちゃうけどな。いろんな神もおるし妖怪もおるか、想像したらおもろいな、社長」
「胃が痛いわ……でも……楽しみやの!ソラ。奥さんできたら扶養手当出るぞ」
「嫁が聖女でも出るんかな?僕より稼ぎは100倍以上あると思うけど」
「ソラ!話が飛躍しすぎだってば!」
あら、怒られた。
「あ、ごめん。イヤやった?」
「こっちに呼ぶより、あっちで式あげて社長さん達をあっちに呼んだ方が楽よ」
「なるほど!さすがユイ!」
「え?お二人が引っかかるのってそういうとこなんですか?」
とサトちゃんが頭を抱える。もうなるようになればいいさ。また心なんて変わるかもしれんけど、真っ先に社長に伝えたかったから。
「ソラ、人と神様と本当に結婚できるのかどうかはわからんけど、まぁ好きなようにせい。応援しとる」
「ありがと。ま、まだ先の話やけどなるようになると思うけど、今の状況報告やな。ユイは神様ちゃうで、ハーフやから」
「まぁ了解!向こうで相変わらず頑張っとるんやの」
「え?さっきの話であっちでの業務報告終わりですか?凄いです、社長さん」
「ははははは。今の話や皆さんの顔ぶれを見たら、こいつがあっちで何をやっているのか想像がつきます。わしの想像以上の事をやっとるみたいで安心しました」
「あ、ほんでな社長、今日、会館の2階で泊らせて。芙蓉の間でええわ。あそこ綺麗やし」
「おう、使え使え。ゲスト用の飲み物も勝手に飲んでええぞ。芙蓉は今日の昼までご遺体安置されてたけど、ええ告別式やったから怖い事も起こらんやろ」
「OK。そうそう、社長言うとかなあかんな。僕、あっちで色々やってたらウミとかユイの影響でなんか色々とややこしいのを見る力がついたのよ」
「おお、そうか。こっちでおる頃は全く見えん、見えんもんは信じん言うとったけどのぉ」
「うん、ほんでさ、赤門筋から会館を見た時に遠目やけど2階に何かおるの見えたけど心当たりは?」
「2階?おう、あるけど?」
「あるんか~い!」
*(73話へ続く)*




