70話 重量オーバー?
「もう参拝時間終わってるな、ウミ」
時計を見ながら暗闇でタイミングをはかっていた僕達。裂け目から出ても清滝寺のどこに出るかわからんからドキドキだ。戒壇巡りの暗闇と言えどサチがぼんやり青く光ってくれるので助かる。明るさは豆電球のLEDライトみたいなもんかな。悪鬼の邪悪な煩悩を食べたストックがいっぱい残ってるからかなり省エネだわ。
「うん、お遍路さん向けの参拝時間は17時までみたいだから大丈夫だと思うよ」
よしよし、そろそろやな。
「じゃあそこの隙間に手を突っ込んで向こうに出よう」
そう言うと一番最初にウミ、僕はシカちゃんと一緒に出た。前も経験しているので空中からボトンとしっかり足から着地。善通院のときと同じくらいの高さからだから余裕。シカちゃんは抱っこして下ろした。外に出て珍しそうにキョロキョロしてる。寺自体はアデヤ教が流行る前に見たことあるやろうけど、周囲の建物とかは向こうとは違うからなぁ。夏だから蝉の声がうるさいな。ふむふむ、これが清滝寺か。立派だなぁ。ぐるっと見回すとでっかい如来像が立ってる。なるほど、この真下が戒壇巡りの穴になってんのか。
「ねぇ、これ本当に下りて大丈夫なの?こんな切れ目みたいなとこに体が入るの?」とユイの声。
あ、足から下りるのね、狭いのにね。うんうん、案の定だね。
「キャァア~~~何よコレ!」
あらら~ドレスの裾が捲れ上がって下着丸見えですな。ふむふむ。ウミは遠慮してあっち見てる。シカちゃんは不思議そうにユイを眺めてる。あられもない姿だなぁ。
「そのまま一気に出てこい。足をつかんでやるから大丈夫」
そう言ってあらわになった太ももを両手でホールドしてやる。
「バカ、アホ、エッチ!」
補助してやってるのにそんな事言う?失敬な。
「じゃあ離す」
と言って本当に離すと足をバタバタ。そんなんしてる間にとっとと下りてこい!
「ちゃんと捕まえててよ!バカソラ!」
「はいはい、大人しくそのまま出てきてね、黒パンツさん」
わーわー文句言いながらも最後はスルッとユイが出てきた。図らずも、なんかドレスの中に頭から入ってしまいましたけど良いんですかね?まあええか、どうせしばかれるし。そのまましゃがんでユイをそっと下ろして、そっと頭をドレスの裾から抜いきつつ腕でしっかり頭をガードして衝撃に備える。慣れたもんさ、そんなんに慣れたくは無いけど……。あれ?蹴りが来ない。
「あ、ありがと」と素直なユイ。
「お、おう。こちらこそありがとう」
と理由のわからんお礼を返したのが失敗だったな、うん。
「ありがとうって何よ!バカ!」
あ、これはあかんやつや、と思った時にはガードしてない頭頂部にかかと落とし。いや、ヒールはいかんて。
「はい、二人ともじゃれるのやめてね、サトちゃん下ろすからね」
あ、ウミ、ごめん。無事サトちゃんもウミに抱っこされて下りてきた。サチは最後に出てきて青色LEDをオフにした。いや、LED違うけど。
「なんですかこれ!これが本物?お寺?本では見たことあるんですけど。うわ、日本家屋ってこんなんですか?凄い、凄い!」
サトちゃんハイテンション。
「違う、違う、これはお寺だからだわ。普通の家はこんな大きくないし、こんなでっかい如来像も無い。特別だよ、特別」
「でもこんなお寺が八十八か所もあるんですよね?凄いです!」
「あ~お寺ってこと?寺なら似たようなの入れたら全国でお寺は7万以上あるって社長に聞いたぞ」
「ええ~万単位ですか?全く想像がつきません。もしそれを私達で全部解放するとなったらどのくらいかかるんでしょうね」
嫌なこと言わんといて。怖いわ。終わらんて。
「ウミ、ちなみに聞くけどこれは間違いなく、俺らの世界の高知の霊場の清滝寺で間違いない?」
「うん、ガイドの写真と見比べても全く同じ。思いがけず戻ってきたね」
「さて、ところでさっき出ながら思ったんやけどさ」
「なに?」
「出たはええけど、元の場所にどうやって戻るんかな?リーちゃんのいる世界」
「あ……」
やっぱりか。お前も考えてなかったよな。
「元々あっちの世界に落ちた時も、帰り方がわからんからとりあえずコトヘラの町に行ったやん?そっからなんか天さんと出会って、ユイと出会ってなんやかんやで一応こっちへの帰り方はわかったけど」
「ああ、そうか。ここから戻れるわけじゃないよね。でも最悪の時は天さんところに行けばなんとかなるね」
「どうしてもってときは、ユイさんのどこでもトンネルっていう手もあるけど~」
チラッとユイを見る。
「でもどうせ使わないんでしょ?ソラの事だから」
わかってるな、ユイも。
「そうやな。全部天さん、ユイ頼みはチート頼みみたいでイヤかな。そもそも俺とウミが見つけたあっちの世界に行く方法あるやん?」
「え?あ!うちの家?」
「正解!ウミの家って言うのも語弊があるけどな。あ、なんかウミの家って海の家みたいやな、どうでもええけど」
「そのままだよ」
「また善通院さんの戒壇巡りで逆打ちしたら前みたいに出れるはずよ。あの後もシャチョゾンでずっとあっこから物資送ってもらってたし」
「そうだよね。ずっと繋がってるんだよね、あそこ」
「だから今回も一旦善通院に行ってみようや」
「あの?善通院ですか?うちの実家の近くですね」
「うん、そうなんやけど……こっちの世界では全然違ってるで。あっこらへんって今は高速道路とか走ってるわ」
「いえ、さっきまでいた世界の善通院の跡地って言う所から近いなって」
「ああ、そういう意味?なんか用事あるんやったら善通院から向こうに戻った時に寄ろうか?」
「できればでいいんですけど。隠していた四国霊場の本を読んだ勢いだけで家を出たので、ちょっと親に会えたらと。あと路銀も少し調達しておこうかなって」
「路銀ならウミが持ってるけど?なんか欲しいもんでもあるの?」
「あ……あの、シカちゃんに新しい服でも買ってあげたいなって」
あ、サトちゃん僕と同じこと考えてたな!娘はいないけどなんか父親になった気分になるのよなぁ。シカちゃん見てると庇護欲みたいなのが刺激されて。
「ああ、それならこっちの世界で服買おうかな。可愛らしい服いっぱいあるし。ゆめタウンとかで」
「ソラ、あなた、ゆめタウンしか知らないの?そもそもあれって西日本ローカルのショッピングモールじゃない」
「ユイ、田舎民はイオンかゆめタウンがあったら1日過ごせるんじゃ。行くことがレジャーやぞ、レジャー」
「だっさ」
「なにがやねん。コーナンもコメリもナフコもDCMもあるぞ。西村ジョイってのもあるぞ」
「ソラ君、それホームセンターばっかりじゃない」
ホームセンターは男子は1日中過ごせるんじゃ。工具みてるだけでテンション上がる。
「とりあえず、移動やな。寺の人に見つかる前に。シカちゃん、背中に四人分のスペースある?」
「すぺーす?」
いちいち可愛いなぁ。
「あのね羽の人も乗せたいの。羽の人は自分で勝手に飛んでもらうけど、座る場所だけ。シカちゃんが背中に乗せられる重量越えちゃう?」
「場所?私の背中大丈夫。皆乗せる。頑張る!」
「あ、乗せて飛ぶのは前と同じ。羽の人は自力でバタバタ飛ぶよ。ただ羽の人の隠蔽する術でシカちゃんごと隠してもらおうって魂胆」
「羽の人って言うのやめなさいよ。もうシカちゃん、ユイって名前覚えてるんだから」
「うん、ユイ、いい名前」
「ふふ、いい名前かな?ありがとう」
あれ?ユイの名前って出会ったときに僕が勝手に付けただけだけど気に入ってるんか。
「じゃあとりあえず前と同じ順番でユイは俺の後ろ。ギリギリ乗れるやろ。シカちゃんが走るのを羽ばたいてアシストしてあげて」
「私に、高知のここから香川の善通院まで飛んでいけって?本気?」
「うん、マジ。ま、休憩挟みつつ行こうや!まだ17時過ぎだし。じゃあシカちゃんお願い」
そう言うとシカちゃんはあっという間に神々しい白鹿に変身して、乗りやすいようにしゃがんでくれた。サトちゃん、ウミ、僕、ユイの順に座る。ユイはお尻半分落ちかかってるな。サチはそのままでも人には見られないので、先導役。
「ソラ、もっと前に寄ってよ。私、お尻半分しか乗ってない」
「あ?これ以上男同士でひっつくのやだよ。お前もっと前に詰めて俺にくっついたらええやん。落ちんようにしがみついとけ」
「ん……」
素直にしがみついたな。
「じゃあシカちゃんお願い。無理して高く飛ばなくていいから。道はサチが上から見て大丈夫そうな所を誘導するからついて行って。ウミはサチに高速までのルートを指示して」
「了解。久々のスマホオン!うわ~感動!Googleマップが開いたよぅ、ソラ君~」
おお、スマホのアプリが動いとる。感動。アンテナ三本立ってるやん!
「じゃあナビで善通院まで……やけどちょっと寄り道する。近くまで行ったら俺がナビするわ。じゃあシカちゃん、出発!」
シカちゃんは立ち上がって後ろ足で地面をぽんと蹴ると巨体が浮かび上がった。ユイが羽ばたいて手助けしてる。
「ユイ様、あまり無理をなさらずとも結構です。四人程度ならまだ余裕がございますから座っていてください。ソラさんにしっかり抱きついて落ちないようにだけしてくだされば」
「シカちゃん……シカさん、白鹿の姿になるとめっちゃ口調が丁寧になるのはなぜ?」
「そう、神様に作られておりますので」
なんかすごいギャップ。執事みたい。
「羊ではございません。鹿でございます」
ベタなギャグは昔からあったんかな?あ、鹿の姿のシカちゃんも心読めるんか、気をつけよう。この連中みんな僕の心を勝手に読むよなぁ。プライバシーどうなってるんだよ。
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シカちゃんは地上スレスレの宙を駆ける。振動もなく車よりも早く、リニアモーターカーってこんなんかなってくらいのスピード感。まあ体感だけどさ。時速200キロくらいかな。車よりはかなり速い。でも新幹線ほど速くない。ユイの隠蔽魔法で風も当たらず快適この上ない。こんなスピードなのにサトちゃんはペンで周りを見てメモしながら飛んでるし、ウミはスマホでナビ見てるし、僕はボケっと景色見てるし、ユイは僕にひっ付いてる。う~ん近いて。
自慢じゃないが生まれてこの方、女子にこんなに密着されたこと無いぞ。初な男子はすぐ勘違いするんやろうな。ま、僕は大人な紳士ですからそんなミスはしませんけど。
「なぁユイ。聞いていい?」
「なによ?」
「お前、俺のこと好きなん?」
「ブッ!」
と声を出したのは、ユイじゃなくてサトちゃん。
「何よ、急に。まぁ、べ、別に嫌いじゃないわよ!」
質問と答えが違うな。まぁええか。
「ふ~ん。天さんに言われたから?」
「ゲッ!」と今度はウミが言う。
お前ら盗み聞きとは趣味悪いな。
「何をさっきから。別に何も言われてないわよ」
「アデヤさんにも?」
「当たり前でしょ!親の言うことなんて聞かないわよ、子供じゃあるまいし」
「じゃあユイの気持ちなんだな?」
「べ、別に好きとか言ってないし!」
わかりやすいな、こいつ。
「ちょっと、ちょっとソラ君、そんなプライベートな話はもっと二人のときに。デリカシーがなさ過ぎ」
え?そうなん。ウミに言われるとは心外だ。
「そうですね、ソラ様、すこし配慮に欠けているように私も思います。お気持ちはわかりますが、然るべき場所で然るべきときに求婚なさる方が良かろうかと」
「球根?」
なんぞそれ。
「あんた、ほんとにバカね!」とユイが突然羽ばたく。
わお、シカちゃんスピードアップ。
「あわわわわ」
冷静なシカちゃんが慌ててるやん。
「まぁとりあえずこれから土佐インターチェンジで高速のりま~す!」
ウミ、ナイスアシスト。
*(71話へ続く)*




