69話 ラビリンス
「次は清滝寺やったかのぉ、ウミ」
「うん、そうだよ。種間寺からだったら北にちょっとだけど、こっからだと西に……そうだね、大体4時間くらいじゃないかな」
「うぅ……コーチに戻ったばっかりにまた4時間か」
「いいじゃないの、リーちゃんに中華作ってもらって食べれたし」
ユイ、お前、かなりの中華好きになったな。でも覚えとけよ、他の中華はこんなに美味しくないからな。リーちゃんパパの腕が異常に良すぎるんだよ。元の世界に戻っても王将とかバーミヤンでは絶対満足できんぞ、僕達の口。
「あ、ソラさん、でもシカちゃんにお願いしたら馬で行くより速いですよ」
「サトちゃん、それはせえへんのよ」
「え?なぜですか?せっかく足……じゃなくて、シカちゃんが来てくれるのに」
「シカ、乗せて走る、大丈夫、楽しい」
シカちゃん、楽しいんかい!
「お遍路さんってやっぱ自分で歩いてなんぼやと思うの。俺らの世界だと、馬より速くて楽なバスとかタクシーっていう機械に乗って集団で移動する人もおるけどそれはそれで有りだと思う。一つの手段やし人によって思いも違う。足の悪い人とかお年寄りならそれしか方法無いって人もおるからな。絶対に歩いて行くのはよっぽど信仰が深いか業を背負ってるかやろう。でもこっちの世界の人は歩くしかなかったしな。今は霊場も破壊されてお遍路自体無くなったけど、俺らは空海さんが開いた道をきちんと自分の足で辿るべきだと思う」
「なるほどですね……『ばす』と『たくしー』ですか」
……え?そこ?気になったの?
「冗談ですよ、きっとソラさんやウミさんは自分の足で歩かないと意味がないって言うと思ってました!」
バレとるなぁ。
「ソラはいつも文句ばっかり言うけど、先に進むときはいつも楽しそうだものね、遠い、遠いとか言いながらも。でもそこから用事があって後戻りする時にはいつもずーっと文句ばっかり言うけど。やれ、景色が同じだー、足が痛いだー、喉乾いただーって。駄々をこねる子供と一緒」
「そもそもUターンが嫌いなんじゃ。この前、呉行った帰りに迷子になった話したやろ?なんか見たことある景色でも、反対方向に向かうとよくわからん。時々、あ!あれ見た!ってなるけど、しばらく行くとこの道であってたっけ?みたいになるの!あの事件がトラウマなの」
「日本地図見なさいよ、フフフ」
ムキィーーーーーー!!
「ソラ君、僕も霊場を先に進むときは自分の足で歩くべきだと思う。シカちゃんやユイを頼ると楽だけど、楽をするための旅じゃない。ただまわればいいってもんじゃないもんね」
「ホンマはお前が一番ちゃちゃっと終わらせて、リーちゃんを迎えに行って向こうの世界に戻りたいんやろうけどな」
「ソラ君、それは違うよ。僕はこれ自体が修行だと思ってるから。これを自力でやりきらないと、僕なんてあっちに帰ったらただの休学中の高校生だよ。だから何があっても一本ブレない芯を自分で通したいんだ。その為には四国自転車で一周やりきりました、みたいな達成感と同じかもしれないけれど、僕は四国八十八か所の封印を歩いて解いてまわる事を目標にしているんだ」
「ウミ、あなたね、単に八十八か所どころか神社や祠、そこかしこの町の霊とか合わせたら4倍以上やってるわよ。まさに超人的に数をこなしてる。あっちの世界であなたほど除霊、封印の解放をした実績のある霊能者、宗教家なんて存在しないと思うわ」
「それは褒め過ぎや、ユイ。こいつはもっともっと経験して、これから人生経験をつまんとあかん。こんな日々のルーティンで天狗になっとったらただのぼんくらになるわ」
と、たいして社会経験も恋愛経験もない僕が偉そうに言うのだった。
「ありがとう、ソラ君。もちろん僕は天狗になんてならないよ。でもソラ君は向こうに帰ったら、天狗の養子になるんだよね?ふふふ」
え?何の話?そんなん誰も言ってないぞ。少なくとも僕は。
「ソラ達、もう、乗らない?シカに」
寂しそうにシカちゃんが言う。
「あ?違うよ!シカちゃんにはこれからめっちゃ助けてもらうつもり。またお城や神社の工事とか見に戻ったりするし、たまには安穏寺さんっていう筋肉ムキムキのお寺の住職に顔見せに行かなダメやし、寺はまだ無いけどさ。そんな時は遠慮なく乗せてもらうよ。ただ札所に行くときの道中は皆で一緒に歩こう。それ以外の余計な移動はシカちゃんに手伝ってもらうつもりだから」
「わかった!楽しみ」
本当に楽しかったんだなぁ。神様いなくなって百年以上だもんなぁ。早く会わせてあげたいな。
「ところでユイ、お前から見て俺ってこっち来て変わった?ウミの事を偉そうに言ったけど成長してるかな?」
気になってそんな事を聞いてみた。一番近くで僕とウミを見てるもんな。
「ソラが変わったかって?ん~全く変わってないわね。ウミはどんどん大人びていってるけどあなたは最初からずっと同じまんまだわ」
「え?マジで……?地味に傷つく」
絶賛停滞中ってか。
「ソラ君、それはね、褒められてるんだよ。ずっと芯がブレてないって。僕達が初めてこっちの世界に来た時の事思い出してごらん」
「え?善通院の戒壇巡りか?」
「そうだよ。あの時も僕が来てとか頼んでないのに、自分から助けに来てくれたじゃない。単に物資を渡してくれるだけでも良かったのに」
「そんなん放っておけるわけなかろうが。誰だってやるやろ?友達がピンチだったら」
「それができないんだよ、普通は」
え?そうなん?僕が変なのかな?
「ソラはきっと昔からそうなのよ、この前、呉にご遺体を搬送した時の話を聞いてそう思ったわ。あなたはずーっと同じ」
まてまてそれも違うぞ。
「いや、俺は元々アデヤさんは敵だと思ってた。アデヤさんを倒そうと思って始めた旅だわ。ユイも突然現れて、てっきりアデヤさんのスパイだと思ってた。そっから色々旅をするうちにアデヤ教、アデヤさん、ユイに関しても考え方が間違ってたって思ったもん。俺はすぐに考えを曲げてまうぞ。変節漢っての?節操がないと思われても仕方ない」
「あなた本当にバカね?そこよ。自分が間違ってたと思ったら認めてすぐ考えを改める。これまでの霊や妖かしとの付き合い方もずーっと同じよ。サチだって岡豊城だってそう。退治する気満々で行って、結局わかり合って仲良くなってるじゃない。あなたの芯は決してブレてない」
「うん、心から同意」
ウミもか。なんかよくわからんが人に評価されるのは苦手だな。普通にやってるだけで褒められると、こんなんでええんか?って自問自答してしまう。行き詰まったら行き当たりばったり適当にやってるだけなんだけどな。偉そうにいつも初動から結末考えてるって言ってるけど、何パターンか考えた結論のうちの一つに収まってるってだけで、結果オーライパターンが多いもんなぁ。そもそもイレギュラーが多すぎるのよ、こっちの世界は。なかなか僕の営業パターンに嵌ってくれない。葬儀の営業ならお客さんを4パターンくらいに区分して、それぞれにあった対応法を研修で習うけどねぇ。その想定のパターンの中に幽霊とか殿様とか鬼とか無いもんな。社長に言うとくか、鬼の時はどう対応しますか?って。
「とりあえず、まぁそんなわけで新しい札所までは俺らは毎回自力で歩きます!なんかの用事で戻る時はシカちゃんにお願いします!じゃぁそんな感じで清滝寺へ。そうやなぁ途中でおやつ休憩してから16時、周りが暗くなる前に現地着を目指そう」
「は~い」と皆が返事。
シカちゃん、目をキラキラさせてる。外歩くの楽しそうやな。新しい外出用の服買ってあげよう。アデヤ教になってから和装の人めっちゃ減ったしな。次の町で買ってあげよう!殿様からもらったウミの給料で。
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「ソラ君、ここが清滝寺だよ。結構派手に壊されちゃってるね」
とウミが以前社長差し入れのお遍路MAPを見ながら言う。さすがに最初の頃の手ぬぐいに印刷された八十八か所は字が掠れて見えなくなっていたのだ。狭い山道を登って来た先に見えたのはガラーンとした空き地。草がぼうぼう生えてるだけだな。
「なんかもうここに寺がありましたって言われても誰も信じへんな。基礎がちょろっと見えるくらいで、上の建物の材木とかももうどっかで再利用されてるみたいでただの空き地やん。こんだけ平らで広かったら野球できるがな」
そんな事をいいながらみんなで草の上を歩いて、封印されている場所を探そうとしていた。
「あ~、ソラ君!大変だ!」
「ん?どした?珍しくウミが大きな声を出すとはこれはただ事じゃないぞ!」
「あなたね、心の声が口に出てるわよ」
しまった。おっさんの独り言みたいなことをしてしまった。
「本当に珍しいですね、ウミさんが大声をあげるなんて。少し顔が紅潮してますよ」
「みんな、悪いけど、地面の草むらをかき分けておかしなところがないか探して。基礎に囲まれた何かがあるはず!」
「なにかってなんぞ?お宝か?」
「ソラ君、ここ、薬師如来像の下に『戒壇巡り』がある!」
「なんとかぁ~!」
「なにその変なリアクション」
ふん、香川県民に通じたらええねん。
「お前、それ逆打ちしたら……」
ゴクリ。
「うん、ひょっとしたら……」
ドキ。
「ひょっとするんちゃう?」
ワオ!
「向こうの世界に戻れるかもってこと?」
ユイ、言っちゃったね?
「そうよ!善通院と同じ様に隙間があったら戻れる可能性大!」
「嬉しそうね」
「当たり前じゃ!現代文明に触れられるんやぞ!」
「え~とソラさん?私とユイちゃん、ほとんど毎晩ユイちゃんの部屋に戻って寝てお風呂入ってますけど」
あ……。
「そうやったな。どこでもドアならぬどこでもトンネルがあったわ」
「でもここをセーブポイントみたいに使えば良くない?」
そーだ、そーだ。ウミの言う通り。高知の拠点にできるかもじゃん。
「いい、おバカなお二人さん。無事にここで戒壇が見つかりました。逆打ちしました。あっちの世界に戻れました」
「うんうん」
「で、戒壇の奥から外に出ました」
「うんうん」
「そこに何があると思うの?」
「え?21世紀の日本!」
「バカなの?ここにはそのガイドブックにあるお寺があるんでしょ?お遍路さんいっぱいいて、住職さんもいるんでしょ?セキュリティにひっかかってみんな連行されるわよ!誰も入っていない戒壇巡りの穴から、ゾロゾロと大荷物背負ったジャージとスーツの男2人に冒険服とドレスの美少女と着物の幼女に幽霊犬。誰が見ても怪しい一行じゃない。留置所に入りたいの?善通院から高知の警察まで社長に身元引受けに来てもらうの?サトちゃんの身分証明しようがないわよ?」
「一気にまくし立てるのぉ~。まぁ確かに言われたらその通りやな。元の世界でこんな山の中の寺に出てもあんまり意味ないか。そもそもユイのどこでもトンネルあれば、行ったことある所はユイの部屋経由ですぐ行けるもんな。あ、だったらそもそもUターンする時シカちゃんに頼まなくてもできるんでは?」
「イヤよ、しょっちゅう私の部屋に薄汚いあなた達を入れるのは!それに見てごらん」
あ、シカちゃんふくれっ面しとるな。ふふ。
「冗談だよ。シカちゃん」
ホッとした顔に戻るシカちゃん可愛い。
「あ!あったよ、ソラ君。ここの石の下に穴がある!」
お前、話に参加してないと思ったらずっと探してたんか。うお、薄いけどでっかい石を一人で横にズラして地下への階段を見つけとる。なんてパワー。
「行ってみようよ!」とノリノリのウミ。
「まぁダメ元で行ってみようか、意味がないのはわかったけど男のロマンやし。サチ、先頭行って薄ぼんやりに青白く光って」
照明代わりだ。そして僕らは狭い穴に入って壁を伝って反対周りに戒壇をまわった。真っ暗で狭いのは善通院と同じ。でも距離が全然違うな。かなり短くてあっという間に元の場所に戻りそう……と思った時!
「ソラ君、ここにもあった!裂け目が。見える?」
ああ薄ぼんやりに光が見えるな。ここ行けそうやな。
「試しにちょっとだけ行ってみようか?試しにな。ユイ、試しにちょっとだけ行ってみてええよな?」
「ちょっとだけ試しにって何度も言う人は絶対それをやりたい人が言うのよ。なんかあったらすぐ戻るわよ」
「ラジャ」
「じゃあウミ、行ってみよう!俺らの時代の高知へ!」
*(70話へ続く)*




