66話 種間寺
「う~ん……背中痛いぞ」
「景色がいいからってソラ君が選んだんじゃない。こんな石だらけのとこだとエアマット破れちゃうよ」
「その代わりこの景色やぞ!目の前は川、後ろは山!キャンプには最高やん。ここ四万十川?」
「全然違うよ、甲殿川っていう小さい川だよ。四万十川なんてずっとずっと西だもん」
「あ~そうやったな。くぅ~全然もっとあっちやったな。仁淀川のさらにまだ向こうやった」
「ソラ、なにかあなたかなり旅した気になってるけど、ここってまだコーチと目と鼻の先よ?歩いて3時間くらいだからなんならお昼はサイタニ屋に中華食べに行く?」
「やめて、毎日ちょっとでも進んでる気にならないとやってられないんだよう~」
「現実逃避だね」
「ちょっと私が飛んで行ってリーちゃんに頼んでケータリングする?天津飯とか」
「やめて~」
「先にローパちゃんにオーダー書いたメモ持たせて注文しておけばすぐに熱々が食べられるわよ?飛べば20分くらいかしら」
「やめて~」
「それ以上イジメるとソラ君壊れちゃうからやめてあげて、ユイ」
「フフ。現実に引き戻してあげたのよ」
「そういうユイ達女性陣は天さん所に泊ったの?」
「ベッドってすごく柔らかくて気持ちいいです!お風呂もすぐにお湯が出て」
そういや天さんあの山奥にインフラ完備してたな。凄いぞ。
「なぁユイ、ぶっちゃけ天さんって金持ちなん?」
「え?お金?どうなんだろう?私を海外留学させたり、何度も転校させたりする財力はあるわね。あちこちで田畑もやってるしスマホもしょっちゅう最新のに変えてるわ」
「そんなレベルちゃうやろ?」
「なにを疑ってるのよ?」
「ひょっとしたら山に天狗の隠し財宝とかあるんちゃうか?」
「バカね、そんなもん無いわよ」
「ほんま?」
「別に隠しても無いけどね。あなた達がチャンバラで壊したその杖、空海上人愛用の直筆サイン入り杖、そんなの鑑定できないレベルだと思うわよ」
「あ、そんな事もあったねぇ」
「ソラ君、先がささくれたからって竹刀みたいにナイフで削ってたね」
「手にとげが刺さったら痛いやん」
「そんな理由で国宝級の宝をナイフで削るってバカなの?」
「天さんとこの玄関に置いてたんやぞ、そんな価値あると思うかい!」
「そこよ。あの家に無造作に置いてる物でもパパが千年以上前から普通に使ってたりするから」
「ん?」
「前にあなた達が来たときの茶碗とかコーヒー飲んでたお湯呑とか、その後普通にスポンジでゴシゴシ洗ってたけど」
「え?なに?聞きたくない」
「昔、秀吉さんとか信長さんとかが熱心に欲しがってたみたいよ」
「怖いからやめて」
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「次行く種間寺だけど、空海様が唐から持ってきた五穀の種を撒いたっていうのが由来らしいね」
「五穀って五穀米の?麦とか粟とかキビとかの?」
「そうそう、オーガニック系の店とかで出てくるよね」
「俺、あれ食べると鳥になった気がする」
「あら?鳥になったことあるの?」
「あくまで比喩だわ!昔インコ飼ってた時の餌と同じ香りがする……」
「まあ健康志向の人には白米よりはいいってなってるからね」
「糖質は悪みたいになってるもんな。でも糖質なかったらエネルギーにならんからなぁ」
「どれも取り過ぎはよく無いって事だよ」
「とりあえず種間寺の境内とかに五穀なってたらいただいて帰ろうか?野宿の時の食料に。レトルトカレーでもかけたらそれなりに美味そう」
「ん~で、あっこめっちゃ封印されてるところがその寺跡かな?」
喋っている間に近くまで来てたようで、向こうの田んぼの真ん中に広い空き地が見えた。あれちゃうかな?
「うん、地図見る限り間違いないね」
「あそこ、いつも通り寺の封印はわかるけどなんか違う感じの、人みたいなの見える?」
「違う感じのって?」
「なんか子供が空き地みたいなところの後ろに……ん、あれは神社の跡地?」
「あ、地図に種間寺の横に春日神社ってのも書いてあるよ」
「その神社のあった所に子供がおるわ」
「僕が見えないって事は、ソラ君の遠くにいる霊が見えるってやつかな?」
「霊なんかなぁ~妖怪なんかなぁ~わからんけど」
「とりあえず、今度は寺と神社のダブルヘッダーになるね」
「プラスで子供って事?トリプルにならない?」
ユイ、嫌な事いうなよ。
「なんか昨日からハード過ぎるんやけど……」
あ~でも面倒でも放置はできんしなぁ。最近チートじゃないけどなんとなくこうなるだろうなって見えてきてるんだよなぁ。絶対またコーチまで行く羽目になりそうな気がするなぁ。
「え~またコーチ?なんで尺取虫みたいに、一歩進んだらバックしてってなるのよぉ~!」と僕の心を読んだユイが叫ぶ。
「いや、なんとなくそうじゃないのかなって思っただけ。コーチじゃなくても近くに大きな町があったら」
「一体何を感じてるの?」
え?神社に子供でしょ?なんかストーリーが頭の中を走ったんだけど。前から言っている営業の勘というか、最初のインプレッションで結末を感じると言うか。
「偉そうな事考えてるけど、七人岬の時なんて最初は葬り去ろうとしてたくせに」
あれはイレギュラー!
「ヨシダさん時もだね。桂浜で郷士さん達送って終わったと思ったらそっから長かったよね」
ウミ?
「悪鬼の時も死にかけてましたもんね、ソラさん」
え~とサトちゃん?
「ワンワン、ワン」
サチ、お前の言うことはやはりわからん。
「あ、サチそうだったね。安芸の町の時もだった」
え~とウミさん?サチさん?
「あ~わかったよ!俺の勘は外れる!あてにならないよ、ケッ」
「そうでもないのよ。割といい線行くんだけど、結局その後にもっとややこしい色々が引っ付いてくるのよ。でもそれもなんとか全部クリアしてきてるのはある種あなたの才能だと思うわよ?」
「そ、そうですよ、ソラさん。活躍はノートにたくさん記録してますからね!」
「僕はソラ君が『こいつしばく』とか言い出した時は、きっとその相手を幸せにしてあげるつもりなんだって思うようにしてるよ。いつも愚痴を言ってる社長や田中さんや渕さんの事、めっちゃ好きでしょ?」
「は?そんなん当たり前やん。嫌いなやつの事を陰で文句言うたらただの悪口やんけ。そもそも嫌いなやつの事なんか気にならんし話題にもせんわ。何をしていようが言われようが知らんがな。相手にせえへんもん」
「あなた、得な性格ね。普通に腹立ったりしないの?」
「え?こいつ絶対許さへん!ってムカついてても寝たら基本忘れてるな。なんで怒ったのかも忘れてる。怒りや恨みでエネルギー使うのもったいないやん。そんなんに割くリソースは俺には無い」
「ソラ君凄いね。嫌いな人、憎い人っていないんだ?」
「もう絶対的にこいつとは合わん、一生わかりあえんって人はおるよ。だったら関わらんかったらええ話で。頑張って合わす必要ないやん。俺は逃げるぞ。勝ち負けで言うたら負けかもしれんけど、別に誰が何と言おうと評価するのは自分や。俺の人生やもん。そこで無理して自分殺したらそれこそ俺は負けやと思う。嫌なら逃げる!それが一番」
「賢いのかバカなのかわからない人ね」
「社会的にはバカだろうけど、人としては正解だと思うぞ。学校のイジメとか会社のパワハラとか嫌な思いして病むより逃げる!誰が何と言おうと逃げる。追って来ても逃げる。勇気を出して立ち向かえなんて部外者の意見やし。それで痛い目にあったら損じゃん。誰も頼れないとか言って悩むより先に、財布と通帳持って着のみ着のまま逃げまくるわ」
「それがソラ教の教えなのね?フフ」
「教えじゃないよ。俺の生き方。今後もヤバかったらすぐ逃げるから遅れず逃げるように!」
「りょうか~い」とウミ。
笑ってる女子二人と犬。犬??
「それじゃ、いつでも逃げれるように体の重心は後ろにかけつつ、種間寺で封印の解除、その後問題の神社な」
そう言って僕たちは種間寺に向かった。トリプルかぁ~トリプルなぁ。
*(67話へ続く)*




