64話 ソラの愚痴
「ちょっとこの辺で一服しようや、今日は朝からちょっとハード過ぎやろ」
朝から雪蹊寺行ったらタヌキ出てきて、その後、寺を解放して昼飯食おうかと思ったらサカモトさんが騒いでて、人命救助したらなんか七人岬説教する羽目になって退治しようかと思ったら、めっちゃええ奴らやって⋯空に送ることになってって濃すぎる!1日が!。今日中に種間寺まで行くと夜になっちゃう。なので今日は野宿決定……野宿だけどあまりに疲れすぎて今日の宿泊地探す移動中に見つけた茶屋でとにかく休憩。時代劇でよく見る峠の茶屋みたいな所で、赤い毛氈が敷かれた床几に座ってやっとスニーカー脱ぐ。足がダルいぞ。あ~よく見るとスニーカーも底がチビてきたなぁ。ここんとこ毎日アホみたいに歩いてるもん。
「ウミ、お前、まだ靴、大丈夫?」
「う~ん、そう言えば随分と底がすり減ってきたねぇ」
「いっそこの時代に合わせて草鞋に挑戦してみるか?」
「周りで草鞋なんて履いている人いないよ。ほとんどアデヤさんの影響で西洋化されてるからみんな靴はいてるじゃない」
「そうやなぁ……安穏寺さんも普段はサンダルやもんな」
「でもこっちの靴は重いもんなぁ。かなり丈夫そうだけどさ。俺ら、普段ナイキとかニューバランス履いてるから重さ全然違うよな」
「次のシャチョゾン……はセンス無いから天さんに適当に取り寄せてもらおうか?天さん、妙にカッコええし。社長は靴って頼んだら普通に黒の安全靴送ってきそうや」
「社長さんならホントに安全靴買いそうだね、コメリとかで」
「ほんまあのおっさんセンス無茶苦茶やからなぁ……前もさ……。前……あ~~~~~!あのクソ親父!」
「ソラうるさい!何よ!突然」
めっちゃムカついた過去の出来事を思い出した!誰かに喋りたい!
「あのさ、ちょっと俺の愚痴聞いてかいたる?ちょっとじゃないけど」
「え?長いの?ヤダ、面倒くさいもの」
ケチか。
「喋ってていいよ、サチと遊んでるから」
ウミも聞く気無いやん。
「面白そうなら聞いてもいいですけど」
サトちゃん厳しい~。誰も聞く気無いけど知らん。勝手に愚痴る!
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「あれは忘れもしない……いつだったか……」
「……ってそれ、Mrs.GREEN APPLEのネタだっけ?」
はぁ?
「お前はホンマに香川県民か!これやから最近の高校生は……嘆かわしい。市立図書館に行ったら笑いの文化人講座って本があるやろ?そこに載っとる。香川の情報誌に40年以上前に猫山先生が投稿したと言われている名フレーズや。恐るべきさぬきうどんって本にもよく使われているから香川県人ならちゃんと学習しとけ!義務教育で習うべき本や」
「そんな本読んで一生記憶するの嫌だよ」
そうやったな、ウミ。お前にしょっちゅうしょうもないギャグ言いまくられたら僕も嫌だわ。
「まぁ入社1年目で宿直一人で任される様になった時の話やな」
「ホントに話し出したね、みんな聞くって空気じゃないのに。でも葬儀社って一人で宿直するの大変じゃないの?」
聞く気無いフリして、サチを撫でながらもちゃんとリアクションしてかいたるウミは良いやつだ。
「まぁ大きな町なら最低宿直は二人以上やわな。人口も多いし。でも善通院なんて市とは言え小さい町やん。夜中に電話がかかってきても基本は、『じゃあ明日早朝に伺います』で終わるんよな。もっと都会なら病院で亡くなったら寝台車っていう特殊自動車で病院の裏口に迎えに行くんやけど」
「田舎は違うの?」
「そうよ。割と家で亡くなるお年寄りが多い。だから葬儀の受注も夜が明けてからでもOKだったりする。あとな、病院で亡くなっても家族が家に連れて帰るケースも割とある」
「え?自家用車で?」
「マジ、マジ。シート倒したりして寝かせてな。ただ気をつけないといけないのは死亡診断書を持ってなかったら、検問とかで止められたら死体遺棄と思われる」
「それ、怖いね。ご遺体にシートベルトして運んでるのを見つけると普通に事件を疑われそう。それ以外はソラ君の会社に電話があってお迎えに行くんだね」
「そう。でもまぁそんな感じやから夜中に病院に行くケースってあんまり無いのよ。寝台車は普段は駐車場でカバー掛けて停めてる。出庫したら台帳に走った距離とメーター数字を記録してから常にガソリンは満タン、洗車してカバーかけるのがルールなんよな」
「薄汚れた汚い車で病院にお迎え行けないもんね」
「そうそう。ほんでや!俺がまだピカピカの新人で宿直始めた頃の話。真冬の2月初めのクソ寒い夜中の11時半に電話が鳴ったの。電話とったら丸亀の救急病院からで、ツアーでこんぴらさんに来てた旅行者が、石段の途中で体調を崩してそのまま亡くなったと」
「お気の毒に。こんぴらさんの石段は若者にもきついもんね」
「で、電話してきたのが若い女性の看護師さんで亡くなったのはおばあさんだってことでな。ほんでどこまでお送りしたら?って聞いたんよ。ある程度場所を把握しときたいから。そしたら『かいた』って言うの」
「かいた?」
「そう。俺の中では聞き馴染みの無い地名で脳みそフル回転させたわ。香川県の東から西までの町名、全部頭に浮かべて出てこんから俺の知らない、町名の後ろにつく字とかでそんな地名あるんかなって。自慢じゃないけど県内の道路は大抵頭に入ってるから、ナビも地図がなくてもたいがいわかる。ま、頭の片隅にまさかこれじゃないよなって思い当たるのはあったけど」
「心当たりはあったんや?」
「ほんで看護師さんに確認したの。『かいた』とは香川の大体どの辺ですか?』ってな。まさかアレじゃないよなって祈る気持ちで」
「うん」
「ほしたら、『え?広島ですよ』って。それでも俺の心の防衛本能が働いて、広島……確か丸亀の沖にあったなぁそんな小島が。船で送って行くんか。ちょっとめんどいのぉって思ってたの。頭の片隅の最悪の可能性を振り払うために」
「広島って小島あるよね、フェリーで行けたっけ?」
「で、一応看護師さんに無いとは思いつつ、その広島とは?って念のために一応聞くと、冷静に『え?広島県の広島ですよ』って。心のなかでやっぱりそっちなんか~い!!って叫んだわ」
「深夜に一人で広島県の海田まで?」
「そ、深夜に一人で広島県の海田まで。仕方なく会社の電話を携帯に転送するようにセットして、寝台車のエンジン温めようって着替えて向かったの、駐車場に」
「いつも停めてる会館横の広い駐車場のとこね。ガレージには入れてないよね」
「ガレージには霊柩車停めてるからな。駐車場に毎日あんなんあったら近所の人感じ悪いやん。強烈に反対運動されてなんとか建てたもん。ほんで寝台車のカバーめくってエンジンかけようとしたの。でもなんか変なんよ。ドアあけてもルームランプ点かん。前に乗った人がスイッチをオフにしとるんか?と思ってカチカチしても点かん。あん?と思ってキー回してもセルがうんともすんともピクリとも……おい!バッテリー逝っとるやんけと。この時点で既に半分キレてた」
「え?なんでバッテリーが?」
「運行記録簿見たら前回は1週間前に田中さんが運転してた!ほんであのボケ、半ドアのまま駐車してカバーかけてたから一週間、誰も寝台車のルームランプ点きっぱなしって気づかずバッテリー上がりって状態。しばき倒してやろうかと思ったわ」
「深夜に?」
「そう」
「オートバックス閉まってるね?」
「イエローハット、近所のガソリンスタンドもな。でもブースターケーブルは車に積んでたから、車のフロント付近に自分の車を持ってきてケーブル繋いでなんとかエンジンかけたがな」
「真冬の深夜になにやっとるん」
「ホンマやぞ。ほんでしばらくエンジンかけたまま放置してたら病院から電話がかかってきて、ご遺体の処置が終わったので来てくださいと言われて運転して行ったがな。でも信号で停まる度にライトがうっすら暗くなるんよな。バッテリー弱っとるから。それでもなんとか病院の裏口に車つけたら看護師さんとツーリストの担当って兄ちゃんが待ってて、病室からストレッチャーが下りて来るのを待ってた」
「なんか大変だね」
「待ってる間に看護師さんが『ちょっと大きな方で』って耳打ちしてかいたて、病院のストレッチャーからうちの寝台車のストレッチャーにご遺体を移し替える時に普段はシーツの端を持って持ち上げるんだけど、もうね、目視で100キロくらいある大きな方で看護師さんと俺とツーリストの方でヒイヒイいいながら移した」
「とても一人じゃ無理だね」
おい、サチ、あくびすんな。
「ほんで、海田から急遽旦那さんも呼ばれて来てたんよな、可哀想に。寝台車運転する時はさっきも言ったけど死亡診断書持ってる人が乗ってなかったら、警察に怒られるから助手席に乗ってもらって出発したの、時刻は深夜0時半」
「きついね」
「普段ならスヤスヤタイムやんけ。でも仕方ないから運転するわな。途中まではツーリストの兄ちゃんが先導しますってことでツーリスト会社の軽四の後ろをついて行くことにしたの。若いお兄ちゃんだったけど、多分この件で旦那さん海田から乗せてこっちまで派遣されたんやろうなぁ気の毒に。ほんの半日足らずで海田と丸亀の往復やで」
「それってソラ君もでしょ?」
「わかる?その通り!まあそれは置いといて、その兄ちゃん俺に気を遣ってるのか普通に運転下手なのかしらんけど法定速度で走りよる。道を知らんってのもあるかもやけど高速乗ってもきっちり法定速度。いや、人として正しいんやけど深夜の高速を法定速度内。余計怖いわ。めっちゃダンプやらに煽られて抜かれるし。『この車は法定速度以上では走りません』って書いてる運送会社のトラックにブチ抜かれて行ってたわ。そして深夜の瀬戸大橋に突入。強風でしょっちゅう通行止めになるので有名やんな。そこもきっちり法定速度。隣のご主人さんは突然のことでシクシク泣いてる。そりゃしゃーない。悲しいわな。一方で俺はとても眠い。めっちゃ寒いからヒーターをかけると顔とか頭が温まって余計に眠い」
「地獄だね」
「マジで無理。岡山に入ってしばらくしてツーリストの兄ちゃんがパーキング入って温かい缶コーヒーを買ってかいたたけど眠い。で、提案した。死亡診断書預かって、ご主人様はお疲れでしょうから、ツーリストの方の車に乗って先導してください。奥様は私に任せていただいて大丈夫ですからゆっくり休んでくださいって」
「お疲れでしょうからって、多分軽四より寝台車の方が絶対乗り心地いいでしょ?どんな言い訳なんよ」
「俺も相手もも頭回ってないからそれで通ったったの!ツーリストの兄ちゃんには『少しでも早く奥様をお家に帰してあげましょう。私ならぴったり後ろをついて行くので気にせずもっとスピード出してください』ってプレッシャーかけた。で、こっちはご遺体と二人きりになったからヒーター消して窓開けて外気温0度近い風をガンガンに浴びて眠気覚ましたわ。あと寝ないようにFMも大音量で付けてな」
「命がけだね」
「そうよ。ほんで落ち着いたからメーターの確認したらまたあの田中のボケ!ルールで決まっとるガソリン満タンにしてないでやんの。前回乗ってからそのまま駐車場に停めてて岡山でガソリン残量半分やで。あいつ帰ったらしばいたるって思ったわ」
「田中さんって40歳くらいの大ベテランやん」
「関係ないわ、ホンマ。背の高い男前の山羊にしか俺には見えん!で、帰りにどっか給油できるパーキング無いかなって反対車線見ながら走ったわ。まぁそっからは順調に広島に入って下道に下りてツーリストの人の車の後をついて海田の町に入り、なんか入り組んだ山道をぐにゃぐにゃ走って搬送先の家に着きましたわな」
「大変だったね。しかし男前の山羊ってすごい例えだね。」
「あっち着いたら3時過ぎやったかのぉ。ほんでストレッチャーを車からおろして……さて、ご遺体をお布団にってところでご主人が『二階にお布団敷いて用意してます』って」
「え?二階ってなんで?」
「そこ山の中腹に家があって、傾斜地に建ってるのよ家が。で、玄関は道路に面してるけど居住スペースは二階という間取り。それも昔の家で階段も狭くて急なの。とても数人がかりでご遺体を上げるとか無理!」
「どうしたの?」
「俺が背負った」
「一人で?」
「イエス」
「地獄だね。100キロくらいあったんでしょ?」
「うん、体のサイズは俺の倍くらい。めっちゃ頑張ったよ!プロやし。剣道やってて良かったわ、マジで。ほんで腰が砕けそうになりながら二階にまさによじ登ってなんとか安置して、枕飾りとかセットしてから、ご主人さんに挨拶して外に出てからツーリストの兄ちゃんと打ち合わせや。タクシーと同じシステムで走った走行メーターの距離から料金計算して◯万円ですって。そしたら請求書をツーリストまで送ってくださいって名刺渡された」
「あ~旅行中の事故だから保険とかで出すんだね」
「ほんで話はついたので車に戻ったの。ご遺体をストレッチャーでおろた時、坂道だったから手を離すとご遺体が坂の下まで行っちゃいそうだったから、エンジンかけっぱなしで行ってたのに車に戻るとエンジン切れてるの。あ、誰か切ってかいたたのか?親切だなと思ってキー回したらセル回らん。う~んバッテリー上がり」
「あ~あ」
「ほんでまた俺、挨拶したばかりの家に入っていってツーリストの兄ちゃん呼んでブースターケーブルつながせてもらったわ。めちゃカッコ悪かった~。ほんでエンジンかかったかあら来た道もどるんやけどさ。行きはツーリストの軽四の後ろついて行ったけど帰りは一人やん?一応道は覚えるつもりで走ったけど行きと帰りは方向が違うから見える景色が違う!しかも夜!そして眠い」
「確かにね」
「ソラ、その愚痴まだ続くのかしら?もうお茶飲み終わったんだけど」
「まだ半分や!」
「ホント長いわね……サトちゃん、次何食べる?」
「え?お団子も食べたし……お酒とかいっちゃいます?」
なんでも飲んどけ。ウミ以外は成人やし。
「で、話、続けていい?」
「早めに終わらせてね、興味ないから」
くぅ~辛辣……。
*(65話へ続く)*




