62話 ジャッジ
漁師に引っ付いてきた霊を整列させる。漁師風のから商人風のからバラエティに飛んだ顔ぶれだ。名前聞く気もしないからアルファベットでええか。
「よっしゃ、全員並んだの。今からお前らの供述調書取るぞ、おい。被疑者A~Gよ。どういう仲間なんや?全員知り合いか?」
A「知らん。わしはそこの男が死んだらあの世にいけるはずやった。ようやくわしの番が来たと思うちょったのに」
B「わしはさっき喋った男に船をひっくり返されて死んだ。気づいたら手下のようにこき使われて、次々と船をひっくり返したり、ほんで釣り人を海に引きずり込んだりしよったがじゃ」
C「前のそいつに、海に竿ごと引きずり込まれたがじゃ。岩の上でクロダイを釣りよったら大物がかかったと思い、水際まで行ったところを引っ張られてのぅ」
D「被害者面しちゅうそこのヤツに、わしは小舟をひっくり返されたがじゃ。泳ぎは達者じゃき陸まで泳ぎゆううちに抱きつかれて、そのままこうじゃ。ひどい話よ」
E「とか言いゆうが、わしらが乗っちょった年貢を運ぶ弁才船が遭難した時、海に投げ出された船員たちを喜々として溺れさせたががそこの4人じゃ。運悪く、わしとこの後ろの男が死ぬる羽目になったわ」
F「そうじゃ、そうじゃ。前の男よりちょっと抵抗したおかげで順番が後になってしもうたが、わしも助けが来ると思うて木にしがみついちょった所を、前の奴らに邪魔されて沈んだがじゃ」
G「I'm the victim, because……」
おい、なんで外国人混じってるんや!なんのメンツやねん。
「よくわかった!とりあえずお前ら全員殺人犯な。最後の外国のヤツは一応殺人未遂ってとこか?」
とんでもないのが釣れたな、こりゃ。
「ソラ君、妖怪大図鑑に載ってたと思うけどこの人達は七人岬って呼ばれる人達みたいだね。日本中あちこちにある伝承だけど」
「なんぞそれ」
「あ、私それ読んだことあります!海で亡くなった人の亡霊が7人集まって、8人目の被害者が出たら先頭の霊から順にあの世に行けるとかいう話だったかと」
さすがサトちゃん。よく知ってるな。
「ほな外国人のG以外は全員殺人犯……下手人って事やな」
「でもソラ君、ある意味全員被害者とも言えるよ。順番に殺された後、7番目からスタートして繰り上がっていってるなら」
うわめんどくさ。
「外国の人は殺人未遂で情状酌量の余地あるの。英語は……元留学生のユイ!任せた。あっちで慰霊しといて」
「慰霊しといてってあなた、気軽にそこでお茶しといてみたいな……」
「あと6人おんねん。そいつわけわからず太平洋で難破して死んだところをAの前のヤツが出る為にわけもわからず引っ張ってこられたんやろ?」
「まあそうでしょうね」
「あとな」
「なによ」
「俺、日本に来たのに当たり前のように自国語で自己主張するやつが嫌いなんじゃ!日本に来るならせめて片言で会話するような気概を見せろや。なんで英語話せて当然でしょ?みたいなノリやねん!だから相手するのイヤ」
「あなた、なんか外国の人に恨みでもあるの?」
「インバウンドで来る外国の人ってそういう人多いねん。俺ら外国行くときはガイドブックもって一応あっちの言葉でコミュニケーション取ろうとするやん?わからなくてもスマホで翻訳したり。だけどあっちの人はなんでいきなり自国語で話しかけるかな!」
「そんな人ばかりじゃないわよ、バカ。もっと広い視野を持ちなさいよ。おまけにこの人だって日本に来たかどうかわからないじゃない。たまたま太平洋を通りかかって難破しただけかもしれないし。話も聞かず一方的に判断するのはバカよ」
なるほどな、それも一理あるな。それはすまんかった。それこそ僕の一方的な思い込みやったな。
"My bad. Someone else will talk to you over there. Just try to relax."(わりぃ!あっちで別の人間が話聞くから、まぁリラックスしといてや)」
と素直に謝った。
「驚いた。ソラ、あなた英語喋れるの?」
あ?
「適当やけどの。古い洋画ばっかり見てたらある程度覚えるやろ?」
「ソラ君はやっぱり変だね」
お前みたいに一回聞いたら覚えたじゃないぞ。いつも何度も同じ映画ばっかり見るから英語のセリフやら覚えてるだけや。
「なら普通にソラ君が喋ったら良かったのに」
「だから言ったやん。こっちの事考えず一方的に押し付けてくるのが嫌いだって。俺の宗教観と一緒だよ。まず相手の意向を聞けよ。せめて『英語わかりますか?』くらい確認してから喋り出せっての」
「あなたまるで土佐のいごっそうね」
頑固者ってか?
「だからハーフやって言ってるやろ?高知と香川の」
「メリットが全く浮かばないハーフね」
うっさい!頑固でケチで悪かったな。あとうどんなら1日4食OKや。
「糖尿病に注意してね」
うっさいわ。
「お待たせ。で?お前ら結局なんなん?望んで七人岬とかになったんか?」
「七人岬と呼ばれちゅうかどうかは知らん。ただ、死んだ後は当たり前のようにこの仕組みに組み込まれちょって、人を海に引きずり込んでは、先頭が空に上がっていくがを羨ましく見よっただけじゃ。そうするのが当たり前と思うき、これまでそうしてきた」
あ、全員頷いた。
「ソラよ、どう思う?これ全員のプロフィールとか聞いて個別対応必要か?」
「ん~どうだろうね。ここの6人全員が人を殺した罪は背負っているね。先頭の人と言うか霊は理屈で行くと6人は殺してるって事でしょ?向こうの世界なら大量殺人で極刑は免れないね」
「とはいえこいつら死んでるしなぁ。極刑なんて意味ないぞ」
「だよね~」
だよなぁ。
「一番最初の人。あんたかなり前の人だな?髪型も今とは違うし。七人岬に捕われたら葬式をしても成仏できなかったのか?」
「葬式なんぞ出してもろうちょらんわ。他の連中もそうじゃろ?この広い海じゃ死体も上がらんしのぅ。行方知れずっちゅうことじゃろ」
他の連中も頷いている。
「多分、死んだとは思うちょっても、葬儀をあげる金も無いき、そのままにされちゅうがじゃろ」
あ、なんか切ないな。
「どうでもええけど、最初の人!お前ら要領悪すぎへんか?波の穏やかな瀬戸内海でも1年に何人も水死者出とるぞ。100年以上も前からならそれこそこの広い太平洋なら何百人も亡くなってないか?」
「わしらを大量殺人者みたいに言わんでくれ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「わしらは、もう助からん奴だけを楽にしちゅうがじゃ」
「助かる見込みのある奴を、同じ船乗りが見殺しにするもんかい!」
「そうじゃ、そうじゃ!」
ん?なんかおかしなこと言ってるぞ。
「聞き違いかもしれんけん、確認するぞ。お前ら、七人岬やんな?」
「呼び名は知らんち。わしら名札ぶら下げて幽霊や妖怪をしゆうわけじゃないき」
「そうじゃ、そうじゃ」
おい、ガヤがうるさいぞさっきから。
「はい、便宜上あなた方を七人岬と呼びます、いいですね?」
そう言って金剛杖をガチャガチャ上下したら大人しくなった。よろしい。
「誰かを海に引きずり込んで溺死させると先頭の人が成仏できますって認識であってる?」
「その通りじゃ」
「そうじゃそ……」
金剛杖で地面をコンコンしたら黙った。よくできました。
「でもなんや?さっき聞こえてきたのは助かる見込みのない者だけってか?」
「そうじゃ。わしら船乗りは助け合いの心が大事じゃ。助かる命を、なんでわざわざ奪う?助けるがが当たり前じゃ」
あれれれ?
「どうしても助けられん、これは苦しみを長引かせるだけ、という者だけを選んで、わしらは『介錯』をしておるがじゃ」
はぁ?
「なるほどね。ソラ君、だから先頭の人は100年以上もここから抜け出せてないんだよ。彼らは海難救助をして、どうしても無理って人だけを引っ張り込んだのかもしれないね」
「待てよ!ほんじゃ最初に聞いた話と全然違うじゃん!船をひっくり返したり、海に引きずり込んだりとかって。どうなってだよ!」
「先代、先々代、それよりずっと前から、こう言えと言われちょったんじゃ」
「なんでだよ?」
「海の男がよ、ほっといても死ぬるところを楽にしてもろうた、なんて言えんだろうが、格好悪くて。介錯されて皆、ここにおる連中みな心の中では助けられたと思うちょるわ」
「まぁ、そうじゃのぅ」
「うん、うん」
と皆頷いている。
「お前らみんな仲良しやろ?本当は」
「わしらが何年一緒におると思うちょるぞ。最後のヤツは言葉が通じんし、何が何だか分かってないき気の毒やったけどな。なんとか助けたかったが無理じゃった。でも他の連中は、みな救い上げて桂浜に並べて置いたわ。異人が何十人も来た~って、大騒ぎになっちょったのぉ」
「ありゃ、わしでも驚いたわい」
「役人が大慌てやったのぉ」
「あんたら、それ全部海に引きずり込んでたら全員成仏できたんちゃうんか?」
「そんなんして成仏して何になる!船乗りが船乗りを殺してどうするがじゃ!土佐の男の心意気をなめるな、小僧!」
調子に乗ると金剛杖が暴れ出しちゃうぞ。しかしこの海岸ってそう言えば前もそんなんおったな、懐かしい。郷士達を取り込まなかったのも七人岬の矜持みたいなもんかな。聞いてみよっと。
「今から何百年も前の話だから先頭も知らんかもやけど、昔、桂浜から太平洋に泳ぎに行っていっぱい死んだ郷士の話って聞いたことある?」
「知らんことあるか!わしらん中でずっと語り継がれちょるわ。当時の先頭の霊が必死になって手を貸して陸に戻そうとしたし、説得もしたけど、誰一人『助けてくれ』とも言わず、『泳ぎゆうだけちや』と言って力尽きて海に沈んでいった男達がおった、とな。そいつらは死体が打ち上げられんように深く沈めてくれと頼んでいったき、当時の七人が海の底深くまで遺体を運んだそうじゃ」
「あっはっは、まっこと、土佐の男達じゃ」
そうだったんか。色々縁がつながってるんだな。いや、なんかええ話で終わらそうとしてた!違う!そもそもサカモトが教えてくれなきゃ、そこで寝とる漁師溺死させられとるとこやった!危ない危ない。
「そこの男を殺そうとしたのはなんでだ?」
「は?殺そうと?違う、違う。こいつ鮫を釣って海に引きずり込まれちょったんや。それをなんとか船に戻そうとしちょった所を、空飛ぶ娘に引っ張られて……」
あ、そう。なんかゴメン。
「ソラ、ユイ、ちょっとこいつら供養しようか?」
なんかおかしな方向になって来たなぁ。
「あ、そこの異国の方もこちらへどうぞ」
気にせずこっちも日本語で喋ったる。これでおあいこやな。しかし読経で上がれるんかな?多分キリスト教徒だろうけど上に行ったらアデヤさんがいたらビビるかな?まあ知らん!いつも通りやるだけだな。
*(63話へ続く)*




