61話 七人岬
「化けタヌキ、ちゃんと上がったな?」
「無事ママの所に着いたってさ。しごきがいがありそう~って浮かれた報告があったわ」
「ま、石の上にも三年って言うけど、あいつは石の下に千年だろ?根性はあるんちゃうか。あいつが職場に馴染んだらアデヤさんの戦力になると思うぞ」
「ソラ君、確かに僕も思ってたんだけど、千年間ずっと生に執着して耐え続けた精神力って凄いよね?お遍路さんのお供え物だけを頼りにって。そんなのできる?」
「俺なら1年で諦めて絶食して死を選ぶかもな。仮に懲役千年って期限を区切られてたら目標ができるけど、終わりが見えない中じっと我慢なんて無理ぞ」
「そうだよね。空海様に封じられてって言ってたけど、どんな悪さしてそこまでのお仕置きされたんだろう」
「空海さん、あちこちで天さんと遊ぶうちにタヌキの事忘れてたんちゃうか?ほんまは数年後に戻って説教して終わらせるつもりが」
「あ、あと四国って本当にタヌキの妖が多いんだよね。香川の屋島や徳島や愛媛にも」
「タヌキばっかりやな。あ~それでごっちゃになって忘れてたか?ま、それを言っても今さらやな。とりあえずアデヤさんよろしくって事で」
「ママは喜んでるわよ。男手ができたって」
「男手?あんなじじいなのに?」
「あれも人に憐れんで欲しくて変化した姿だから」
「せこいヤツやな、でもそんぐらいしたたかじゃないとやっていけんのかのう。まぁ俺が死んだらまたあいつの様子見に行くわ」
「死んだら、ね、フフ」
なに、ユイ、その不敵な笑みは。
「さて雪蹊寺の封印も解いたし、次行くか!次の種間寺はこっから西か……コーチまで戻らなくてよさそうで一安心やな。また同じ道やったら暴動起こしそうやったわ」
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次の寺に向けて海の見える山道を杖を素振りしながら先頭で歩いていると後ろから
「あっちー……」
ん?暑い?まぁ日陰じゃないと暑いわな。蒸しってしてる感じ?
「あっちー……!!」
うん、そうだなぁ本当に暑い、暑い。
「あっちー……ちゅうぞー!」
あ?なんだ?
「ウミ、なんやブツブツと」
「え?何が?」
「みんな暑いんやからいちいち口にすんなよ。男は黙って耐えろ」
「え?僕何も言ってないよ。さっきからサチとにらめっこしながら歩いてるもん、なあ」
「ワン!」
あのなぁ、お前、犬とにらめっこして勝てるわけないやん。
「現在、ウミさんの4勝1敗です」
「え?ウミって変顔するの?そんなキャラやっけ?いや、待て、お前、犬に一敗したんか?うそやろ?」
「いえ、あれは私も我慢できませんでした。サチちゃん凄いです」
「ワウン」
なに誇らしげに。お前、無表情で僕の中で有名なウミごときに4敗しとるんやろ?
「あっちを見やぁ~~!」
ん?はっきり聞こえた。
「お前らなんか聞こえる?」
「え?なんのこと?」
ユイも聞こえてないか。声のする方にさらに集中する。
「あっちを見やぁ~~~~!人が溺れちゅうぞぉ~~~!」
!!声が聞こえる方を見ると、あ!サカモトだ!サカモトの霊が大声で沖を指さして叫んでる。あいつあれからずっと灯台みたいなポジションで仁王立ちしてるからよく見えるんか。
「どこや~!!」と大声で叫ぶ。ユイとサトちゃんはあまりの僕の声のでかさに耳を塞いでいる。
「わしの指さす方向の1里ばかり先じゃ!おまん行けるろう?」
いや、僕は飛べんよ。なんの根拠でそんな事言ってる。
「サチ!にらめっこ中止!俺の指さす方向へ……え~と1里って言うと?」
「ソラ君、大体4キロ」
「サンキューウミ。サチ!俺の指のさす方向4キロ先へ!」
「ウワン?」
「バカね、サチがキロなんて単位わかるわけないでしょ?まだ里の方がマシよ。でもさすがに犬にそこまで知恵はないでしょ?」
「ワンワン、ワワン」
え?なに喋ってるのウミ。お前動物とのコミュニケーション能力、ムツゴロウさん超えた?
「ワン!」
そう吠えるとサチは一直線にサカモトが指さした方へ飛んで行った。マジかこいつら。
「ユイ、サチが見つけたところに溺れている人がいる。悪いけど助けてあげて」
「なんかわからないけどわかったわ!あの褌半裸男が何か伝えてきたのね?」
正解!
「ユイ、頼んだ!」
「はいはい」
そう言うとあっという間にサチを追って翼を広げてユイが飛び立っていった。
「ユイさんって本当にキリシタンの本に載っていた天使様みたいですね」とサトちゃんが言う。
「サトちゃんとこって、禁書になったものも置いてるの?」
「そこはご先祖様がばっちり隠してましたので、色々読んでます」
「ま、あいつのは天使の羽じゃなくて天狗の羽やけどな」
「何が違うんですか?天狗の羽と天使の羽って」
「え……?カラスと白鳥みたいなもんちゃうの?」
「ソラ君、しばかれるよ、ユイの耳に入ったら」
そんな事を言っているとサチが留まった海面でユイが誰かを見つけたようで、ぐったりした人を抱き上げてこっちに向かって飛んでくる。飛んで……んん?何人救助したんや?
「あ、凄い、本当に人がいたんだ。遠くてよく見えないけど男の人みたいだね」
ん?
「ウミ、男の人が見える?」
「うん、見えるよ。男の人をユイがぶら下げてるじゃない」
「何人?」
「何人ってどういうこと?男の人一人じゃない?見えないの?」
ああ……やっぱり僕の目はなぜか遠くの物がよく見えるんだな。ユイが掴んだ人の下にムカデ競争でもしとるんかって言うくらい人がいっぱいぶら下がってるんですけど。蜘蛛の糸のカンダタか!ドラクエのほうじゃないよ。
「あれ?この前ソラ君を抱えて飛んだ時よりユイがしんどそうだね、ふらふらしてる。どうしたんだろう」
そりゃあんなに大量に抱えてたらな。ユイが激しく口をパクパクさせてる。めっちゃ文句言ってるな、ありゃ。だんだん近づいて来ると僕には下にぶら下がっているものがぼんやりとしか見えなくなってくる。仕方ない眼鏡、眼鏡と。ホンマ老眼鏡かける中年みたいやん。
「うわ!ソラ君、ユイが抱いてる男の人にいっぱい人がぶら下がってるよ~!」
やっと見えたか。僕はずっと見えてたんだよ、それ。
「ソラ~、ソラ~なにこれ~!なんかいっぱいくっついて来て重いんだけどぉ~!勘弁してよぉ!こんなんなってるって早く言いなさいよ、バカ!アホ!」
そら重いわな。1、2、3……うわ、7人ひっついて来てるわ。大量やな。まるでサビキ釣りのアジかサバやな。
「ユイ、あとちょっとだ。頑張れ~!」
気のない応援を一応してみる。
「あなた、本心から言ってないでしょ!」
言ってるよ~本心だよ~頑張れよ~。ユイが着地に失敗するふりをして僕の頭に蹴りを入れてから地面に不格好に膝から着地した。いらん事するからや。
「アイタタタタ……膝すりむいちゃったじゃない!このバカソラ!」
僕のせいなのでしょうか?
「男の人は無事なの?ユイ」
「ちょっと海の水を飲んじゃってるみたい。近くに小さな漁船があったから漁をしているときに転覆したみたいね」
「これ、人工呼吸とか必要なやつでは……?」
「誰かできる?」
サトちゃん、ユイは首を振る。僕は……自動車学校でなんかやった気がするなぁ。やっぱり僕かなぁ。しゃあないなぁ~とか思ってたら躊躇なくウミがさっさと気を失っている漁師の気道確保をして人工呼吸を始めた。しばらく続けるとゴホゴホ咳き込んだ後、漁師は自発呼吸を始めた。ふう。
「ウミ、なんでそんなんできるんだ?」と聞くと
「あ、学校のボランティア活動でちょっとね。夏休み前に講習で習ったとこだったから覚えてたよ」
男前なくせに男前やな。ダブるで男前はずるいぞ。
とりあえず漁師はセーフと。
「ユイ、無理させたな。悪い」
と言ってリュックの応急セットから絆創膏を取り出して膝を出させる。貴重な六甲のおいしい水を取り出してユイの膝の傷口を洗う……洗う?
「おい、お前、傷ないわ!」
「え?そんなもんすぐ治るわよ。聖女はだてじゃないのよ」
なんぞそれ。心配して損したわ!タオルで膝を拭いてやると本当に何事も無かったような膝。ツルツルじゃん。凄いなぁ。木綿糸で傷口縫った僕はなんなんだ?そう思って絆創膏を片付けようとした。
「出したんでしょ、絆創膏。貼ってよ、せっかくだから」
「え?勿体ないじゃん。物資は節約しないと」
「無くなったら私のあげるわよ」
「ほな、自分の貼ったらええやん」
「それがいいの!」
へいへい。傷も無いのに無駄に消費されるバンドエイドちゃんごめんな。
「地方によって呼び方違うよな?カットバンとかサビオとか傷絆創膏とかバンドエイドとか……」
「ソラ、うるさい!」
怒られた……。
「ユイ、ソラ君の照れ隠しだからそっとしておいてあげて」
言うな!
「ほうほう」
サトちゃんメモらないで。
さて、漁師さんは特別に僕のエアマットの上に寝かせてあげてと。順番順番。次のタスクは、お礼だな。
「お~い!サカモトさんよぉ!教えてくれてありがとうな!無事助けたぞぉ~~!」
と大声で叫ぶとサカモトさんはこっちを一瞥もせず太平洋を睨んだまま小さくサムズアップ。いや、僕じゃないと遠すぎて見えないぞそれ。あの時はあんなに大慌てで叫んでた癖に、今さらクールぶってもなぁ。まあ気持ちのいい男ではある。幽霊やけど。
そして、と。
「おらぁ!お前らぁ!そこに端から順に並べ!今から話聞くからな!」
1~7人の霊が横一列に並んだ。さて説教や。
*(62話へ続く)*




