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異世界怪異巡礼譚 ~異世界に仏がいてもいいじゃないか~ 社畜リーマンと見習い坊主の裏四国八十八ヶ所巡り  作者: 杏林 尚
西へ

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59話 声


後ろ髪をひかれつつコーチを出た僕たちは南にある雪蹊寺へ向かう。


「う~また見た事ある景色やん。また桂浜方面に行ってるし。この前マッチョな郷士軍団送ったとこやん。新鮮味がないんじゃぁ~。こんな近いならリーちゃんも連れて来たら良かったやん。コーチから余裕で日帰りコースじゃん」


「ダメだよ、リーちゃんは学校もサイタニ屋の仕事もあるからね。あの決意を無駄にはできないよ」


「ウミ、リーちゃんの事あれで良かったんか?無理やりにでも引っ張ってくる方がお前も楽やったちゃうか?」


「ん?大丈夫だよ。前とやる事は同じだし、徳島ではずっと二人だけだったじゃない。池田からはユイが手伝ってくれるようになって、めっちゃ助かってる」


「それもそうか、リーちゃんのヘルプが入ったのは桂浜と城だけだったか。その割には存在感大きいよな。お前とリーちゃんの読経のハーモニーは癖になると言うかなんと言うか、歌を聞いているみたいで心地よかったなぁ」


「そうね、私も祈りながら耳を傾けていたけど、ウミはリーちゃんの読経のリードに引っ張ってもらってた感はあったわね」


「そりゃ、リーちゃんは空海さんを追って日本に渡って何百年もその足跡をたどろうとしてた一族だからなぁ。ウミが陸上ばっかりやってるときにリーちゃんは隠れ仏教徒として、自分の家族と一緒に先が見えない中、毎日信仰を繋いでいこうとしてたんだから覚悟が違うわな」


「うん、僕もリーちゃんと出会ったおかげで覚悟ができたと思う。ぼんやりとした未来から、やるべき事が見えたと言うか、そんな感じ」


「ええなぁ!若者らしくて。うんうん。まっすぐ進めよ!」


「なにえらそうに達観したおじさんみたいなこと言ってるのよ。一番フラフラしてるくせに」


「あ?俺はずっと言ってるやん。社畜のサラリーマンだって。向こうに帰ったらまた葬式のプランナーとして働くぞ。それしか俺はできんしな。あのハゲの社長の所でのほほんとやるのが一番。適当な先輩達とやるのも楽しいし」


「ユイはどうするの?ソラ君こんな感じだけど?」


「え?私?私は別にソラがその気になるまで100年でも200年でも全然待つけど」


「おい、なんか俺と一緒になる事が前提になってるけど、俺は100年も生きられへんって。せいぜいあと50年~60年がええとこやぞ」


「ユイちゃん良かったね!100年待たなくていいって」


サトちゃん?なんか飛躍してるぞ。


「ま、サクサク進めて早くリーちゃんを迎えに行こう。コーチの学校もまぁ2か月くらいあればヨシダさんが引き継いでええ感じにしてくれるやろ。ほんで愛媛、香川と終わらせてあっちに戻ろう!」


「そうだね、のんびりしてられないね」


「ただ、全部終わっちゃうとサトちゃんとの別れがちょっと寂しいわね」


「大丈夫ですよ!私は本がありますし、こっちの世界でもっともっと本が一般的になるようにしたいですから」


「じゃあみんな、仕事が終わるまで死なないように気を付けて頑張ろう!気を抜かないように」


「あなたが毎回一番死にかけてるの忘れたの?」


聞こえんフリしとこ。


「あ、忘れてた!サチは俺らが帰る時どうしたい?お前、幽霊やから別にあっちに連れて行ってもええけど」


サチは考え込むような顔をして僕らの顔をかわるがわる眺めてる。こいつ確か僕にだけ忠誠を誓ってたよな。やはりあっちに連れて行くしかないよな。


「わん!」


そう言ってサトちゃんの方に走って行ってスリスリしてる。


「あ、サチはサトちゃんのそばがいいんだね。じゃあ僕らが帰った後はサトちゃんの見守りを頼むよ」


え?なんか寂しい。なんでサトちゃん。


「サトちゃんには煩悩が無いから餌がなくなるぞ~」


サチ、お前それでいいのか?食料なくなるぞ。


「ワン、ワワン」


「なんか、ヨシダさんに憑りついていた悪神たちを食べきったから、あと数百年はおなか一杯でいられそうだってさ、ソラ君」


ウミ、お前完全に犬語マスターしたな。たった二語でそんなに意思疎通できるの凄くない?


「ちなみに私もわかってるからね」


ユイ、お前まで。


「私もサチちゃんの言ってる事なんとなくわかりますよ。ウミさんとユイさんが近くでいる時に限りますけど」


「うう……サトちゃんも殿さんと同じような共感の能力があるのか……」


「やっぱりこっちの世界に長くいると、元の世界でいるよりは身近に霊や妖怪の類も感じるようになったよね。解放した土地の神様とかもちらちら見えるし」


「ほなら俺もちょっと言っていい?」


「なに?」


「あのさ……カミングアウトするけど、実は俺もサングラスも眼鏡も無しで色々見えている事に最近気づいたの」


「え?ウソ?」ユイが驚く。


「ソラ君、ちょっと聞くけどさ……それ妖怪も見えたりしてる?」


「ん?まぁ祠の封印とか外したときに見えてたような気がしなくも……」


「じゃあ、アデヤさん見えてるんじゃ?遠くにいるし……」


「実は数日前から視界の端にチラチラとハーマイオニーみたいな綺麗なお姉さんが……」


「え?ママ、見えてたの!なんでもっと早く言わないのよ!バカ」


「見えたら預言者とかなんとか言われるのやだもん。神が見えて声まで聞こえたら聖人とか言ってたじゃん。やだよ、俺は葬儀屋の社員だもん。聖人なんてならんぞ。アデヤ教徒違うし」


「まあご神託みたいなのが聞こえなければいいんじゃない?予言とか聞こえてたらややこしいけど」


ウミ、実は……。


「えっと~実は最近聞こえるの……。聞こえるってわかったらもっと色々言われそうで黙ってたけど」


「はぁ?なんでもっと早く言わないのよ!」


「で?アデヤさんはどんな予言を伝えてくるの?ソラ君」


「え?予言ちゃうのよ。そっと小声で『ユイの事どう思う?』って……」


「なに、そのバイト先のパートのおばさんに娘さん紹介された翌日のフォローみたいなの」


だよなぁ。経験無いけど。


「俺もそう思ったよ。『どう』じゃねえよ!なんでそんな普通のママみたいになってんだよ。天さんといいアデヤさんといい子煩悩が過ぎる!」


「ソラ君も色々心に抱えてたんだね。言って楽になった?」


「お前ら面白がってるだけやろ?俺がウミとリーちゃん見て面白がっていたみたいに。そうなるのわかってたから言わなかったの!」


「まぁどうでもいいわ。じゃあまとめるとソラもウミももうサングラス無しでも色々見えるようになったのね?ソラは遠くの霊とか見えて話し声が聞こえるようになった、でいいのね?」


「あ、うん……そんなん見えなくてもいいのに。こっちの世界限定にして欲しい」


「どんなに霊が見えてもどんどん空に上げていったらいいじゃない、ソラ君。僕らはそれが仕事だよ!それからの事はアデヤさんの仕事」


「せやな、耳元で余計な事言わんように、毎日仕事でパンパンにしてやろうか」


「パンパンはやめてあげて、もう天界はワンオペで回せないのは知ってるでしょ?ほどほどで」


「ま、この100年ちょいのツケじゃん。ひと山越えたらあとは通常業務の範囲内になるって。よっぽどの時は天さん捕まえてユイもヘルプで手伝ったらいいじゃん」


「この前のお城との時みたいなイベント時は行った方がいいかもね、ユイ」


葬送の儀式をイベント言うなソラ。


「よし!今度は天さんを説得してアデヤさんのワンオペ解消にしようや」


「ソラ、あなたね……」


「ん?まずい?」


「そういうところよ、ママやパパがあなたに目をかけちゃう原因は」


「え?」


「そうだね。普通はそこまで他所の家庭の事にはさすがに口を挟まないよね」


「そうですね、ちょっと人との距離感がおかしいような……」


え?サトちゃんまで。


「そう言うけどな、この世界の宗教の根本揺るがしてるんやぞ?神様と天狗の痴話喧嘩が下界に大きな影響を与えまくってるやん。解消するにはそこをなんとかせんと……」


「ソラ君、普通、恐れ多くて神様をどうこうしようなんて考えないよ」


う……。


「思考がもう人の考えを越えてるのよ、あなた。だからパパが神にならないかって誘ってるんじゃない!ママだって最初はあなた達をただのうるさいハエくらいにしか思ってなかったけど……オホン、まぁ私もだけど、今はかなり頼りにしてるし」


僕はハエだったのか……プランクトンよりは存在感あったんだな、まぁ。


「どっちも取るに足らないわよ」


久々に心を読んだな、ユイ。


「まあなんでもええわ。俺はこのアデヤ教の下で起こっている不具合は絶対解消する。また他の宗教が溢れる世界になるのかどうかもわからん。でもやる!以上」


みんな知ってるわ、って感じで笑ってスルーした。サチ、お前だけは……アクビしとんのかい!


そんな事を言っているともう霊場の雪蹊寺があった場所に着いた。


「ウミ、ここ俺の知っている寺だったところと雰囲気が違う気がする」


「うん、ここはいつもの真言宗じゃなくて元々臨済宗の寺だったみたいだよ」


なんでよ、空海さんが作ったんじゃないの八十八ヶ所。わけわからんな。


「お前さん、わしが見えちゅうろう?」


なんかえらく向こうの方で老人が喋ってる。ん?これ見えてるの僕だけ?みんな見えてる?これは人?霊なの?ねえ?


*(60話へ続く)*


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